白い空間と夢
時間という概念が存在しない、何も無い白い空間で『地球』という世界を覗き見る、良くできた世界である。
スイーツなる甘味物なり、遊園地、カラオケ、ゲームセンター等々の人が喜ぶ施設。
この『地球』を担当出来たらどんなに良い事か。
私の管轄の世界ではその様なものは存在しない、ほぼほぼ広大な緑ばかり、私の世界は退屈である。
私の世界は『地球』という丸い惑星とは違い、平面の大地の世界である。
そしてその世界の全てはマナで出来ていた。
空も、大地も、空とぶ鳥も、あらゆる物質、あらゆる生命がマナで出来ている。
そんな世界を創造主様は造られた。
私はその世界を導き、マナを管理するのが仕事であった。
最初はこの世界の貢献に努力していた。
……が、今は部下にやらせている。故に、より『地球』を観察することが多くなった。
そして私はとうとう『地球』に干渉する事を決意した。
私達、神が干渉する事は世界に影響がなければ良しとされている。
人がいないであろう山里に降り立つ事を決めた。
……それが間違いだった、私は過ちを冒した。
一人の肉体を消滅させてしまった。
その者の人生を狂わし、終わらせてしまった。
私はその魂を引き取り、私のマナと混ぜ合わせ、私の世界へ導いた。
……しかし、狂わされた魂はそれだけでは無かった。
狂わせた者の親同然の親族が、責任を感じてか人体を弱らせて本来よりも早く亡くなってしまったのだ。
私は嘆き、すぐさまその魂を拾い上げた。
「あぁ、何ていうことでしょう! 貴方までもその身を狂わせてしまうなんて! 我が子を思う汚れなき魂よ!!」
「……ここはいったい……」
年老いた男性は困惑の表情を浮かべる。私は神のそれらしく振る舞い、年老いた男性に元気付けた。
「安心しなさい、人の子よ。貴方が失った子は私の世界に存在し、生きています。ですが、私の世界は死と隣り合わせの危険な世界。生きていける様にしましたが私はそれ以上の加護をあげることはできません」
「孫は! 生きているのですか?!」
「ええ、ですから貴方にお願いがあるのです。私の世界に貴方も転生しませんか? 貴方が望む能力を授けます」
「孫に会えるのならばもちろんお受けします! 私の望む能力は決まっています、今度こそは必ず孫を守りたい。それだけです」
「分かりました。貴方にはその能力を授けましょう」
年老いた男性の魂に私のマナを溶かし込む。溶かしきった後、私の世界へ落とす。お気をつけてとその世界に落ちて、小さくなる姿を見送って一人ポツリと呟いた。
「これで大丈夫かしら?」
私の脳裏には一抹の不安が残った。
ーーーーーーーー
『時実、お前よくこんな仕事で給料がもらえるな? 仕事を舐めているのか?』
……これは
『あー、時実のやつまた呼び出されてやんの。部長も物好きだよなー、こんな奴叱った所で時間の無駄なのによ』
『……ばか、聞こえるだろ~? 確かに時が実るって名字の癖に無駄にしてるけどな』
『ははっ、お前上手いな』
…止めろ!
『おいっ!時実、この資料は何だ!お前の担当だろう!』
「……それは○○さんに部長が」
『何を言っている!? これはお前の担当だろうが! 私に口答えするというのか?』
……俺はやってない、違う!
『やー、時実様々だねー。部長の相手をしてくれるから仕事が捗るわ』
……うるさい
『この前もさぁ……アイツ』
うるさい!!
『おい! 時実!!! お前……』
うるさい!!!!
……ーじ
誰だ?
れーじ!
ん?
「レージ!! どうしたの!? 大分うなされてたけど…」
気付けば、リアが俺の顔を覗いていた。前の世界の出来事とはいえ、夢見は最悪だった。
「……あぁ、夢か。そうだよな。リア、ありがとう」
「いいわよ。それより、ほんと大丈夫? 汗で凄いことになってるわよ」
確かに俺の顔は脳天から爪先まで汗をかいた様で、服がびしょ濡れになっていた。
「……あぁ、本当だ。変な夢見ただけだから気にしなくていいよ、リア」
「それならいいんだけど、身体が休めたら出発しましょ」
「ああ、わかった。けど汗吹きたいから少し待ってくれ」
そういって魔法袋から拭くものを取り出しながら、ムカムカした心を落ち着かせる。
色々ありすぎてやはりストレスが溜まっていたから夢を見てしまったんだろう。
大丈夫だ、ここはもう違う世界なんだ。それにこの世界にはリアがいる。
リアを見れば汗を拭くと言った手前、配慮してか後ろを向いている。
サラサラとした赤い髪、細いフォルムの身体。
そんな後ろ姿を見たら弱々しく、儚い印象を感じる。
そう、リアは女性なのだ、本来は弱く男性が守る存在であろう。
そんな彼女に俺は守って貰っている、その分は彼女を守ってやりたい。だが今の俺に彼女を守りきれるだろうか……
「レージ! まだー?」
「ごめん! もうちょっと待ってくれ!」
いかん、いかん。用意しないとな! ここから出て次の国を目指さないと!
急いで汗を拭き、身支度をした。




