次の国まで(4)
早朝、次の国であるティエラに向けて出発する。
次の国に行くため街道を通るのが一番の近道であり魔物にも会いづらく安全なのだが、国境を越えるまでは魔物よりも国の兵士を用心しなければならない為、川沿いの平原を突っ切ることにする。
平原を進みながらカカの実を朝食代わりに食べる。
赤く熟れた果実が喉と腹を満たしていく。毎回これを食べているが中々飽きない。
リアもこれは自国の味なのか好んで食べている。
ふと横を見ると、遥か向こうに黒い牛のような魔物(?)の群れに出会う。
モソモソと平原の草を食べている様だ。
目を凝らしてジーと見る、見れば見るほど俺らのいた牛に角以外大差ない、そもそも魔物なのだろうか。
少し気になるのでリアがあの魔物をどんな生物なのか聞いてみた。
「リア、あの生物って何だかわかるか?」
「ん? ……あれって! へぇ珍しい、こんな所にも出るのね!」
「え? 珍しい生物なのか? 」
「あれは確かレッドバッファローって言ってね、いろんな草を求めて放浪する魔物よ!本に書いてあった事だけど普通なら魔族領周辺地域でしか見かけないはずの魔物よ」
「へぇ! ん? でも何で『レッド』なんだ?黒いのに」
「んーと……旅人に戒める為に付けた名前だったはず! ……えっと何だったかな……」
ん?レッドバッファローと目があった、てか皆こっちをじっと見てくる、なんだ? めっちゃ怖い。
「あっ! そうだ。レッドと付けたのは『赤いもの』に物凄く反応して興奮して襲ってくるから気を付ける為だって!……………あ」
あ、これ目、血走ってるわ。ヤバいわ。
「リア」
リアも気が付いたのか顔は真っ青に青ざめている。
「うん」
「逃げるぞ!!」
レッドバッファローの群れは此方に向かって走り出す!!
慌てて俺達も逆方向に逃げる!!!
何とか魔法で逃げようとした所で、うん!何も思いつかない!!
どうしようもない!! 今時間を10秒程度止めて逃げてもこんなだだっ広い場所で10秒程度の距離離れてもすぐ見つかるだけだ!全然使えない!!!
そして、レッドバッファローが興奮した理由。
「うわ~~ん!!」
隣で泣きながら全力疾走しているリアはそう!
髪も! 装備も! 赤がメインの!!
レッドバッファローが好きな赤一色の分かりやすい標的なのだ!!!
……なんとかこの状況を打破しないと!
「はぁっ! ……レージ!…… もー限界!…… 何か無いの! 気を引ける餌とか!」
えっと、餌!……!そうか!!
「くらえっ!」
振り返りながらレッドバッファローの群れに大量のカカの実を魔法袋から吐き出した!赤いカカの実なら餌になるし興味持つはず!!!
ボトボトボト……!!!
大量に召喚したカカの実に興味も持たず、寧ろ吐き出されたカカの実が頭に当たり、よりレッドバッファローは興奮する!!
あぁ……終わった……
素早く魔法袋から吐き出すのを止め逃げることにする!!
「やべぇええー!!」「何してくれてんのよぉ~!!」
止まることなく走り続ける俺とリア!
痺れを切らしたリアはいきなり攻撃を仕掛ける!!
「もー!意地でもぶっ倒す!! 火の矢よ放て!!」
数本の火の矢がレッドバッファローに炸裂する!!
ダメージはあったようだが、より激怒したのか興奮したのか荒々しい鼻息と唸るような鳴き声でよりレッドバッファローは走る速度を上げた。
……あぁ、分かってました、赤に反応する魔物に火の矢はアウトですよね………て言ってる場合じゃねぇーーーー!!!
「うわーーーー!!!」「あぁーーーー!!!」
完全に万事休すの状態。ひたすらに汗水垂らしながら全力疾走!!
………ヤバい!! ほんとヤバい!!!!
変わらない状態の中、リアは何かに気が付き叫ぶ!!
「あれ! あそこの岩場!! 人が入れるくらいの割れ目がある!
あれに逃げ込めれば!」
ほんとだ! 一見只の岩場にしか見えないが人が入れそうな穴が存在した! あそこなら確かにレッドバッファローは入れなさそうだ!
「ナイスだ!リア!! いくぞ!!!」
岩場の割れ目に俺とリアは滑り込んだ!!
間一髪!!! 岩場に激突してモーモー!!と怒り狂った鳴き声が狭い岩場の穴の中に飽和する。
隙間から見えるレッドバッファローの血走った目。
……怖い、ほんと怖い。
岩場の周りにはどう考えてもレッドバッファローが群がっている。暫く、いや、外に出るのは当分無理だろう。
とりあえず今生きている事に感謝する。
「いや~!ヤバかった。リア、ありがとう。ほんと助かった」
リアは外を見ないように岩場の空間の奥の方を見ていた。
「いいのよ、私も警戒が足り無かったから。まさかレッドバッファローがこの地域に出るなんて。……それよりも。ねぇ、これを見て」
そう言われてこれと呼ばれた場所を見ると……
岩場の割れ目はただの空洞では無かった、道幅は狭いが着実に下へと続く洞窟の様になっていた。
「洞窟か?」
「こんな所に洞窟なんて、魔法庁でも知らない情報よ。火山の活動による大地の変動のせいか。それとも元から気付かれなかったのか……どちらにしてももしこれが洞窟だとしたら別の出口があるかもしれない」
「調べてみる価値があるってことか?」
「……そうね。どちらにしても入り口からは出られなさそうだし」
「……確かにな」
唸る鳴き声はまだ収まりそうも無かった。
選択肢は一つしか無いようなものだ、俺は迷わず洞窟の奥に向かうことにした。




