次の国まで(2)
水浴びが終わった後、俺とリアは腹ごしらえに魔法袋の中に大量に入っているカカの実を噛りながら休憩をとる。
俺のこの手はまだあの滑らかな肌の感触を捕らえて離さなかった。リアがやけに気になり不自然な距離をとる。
清めた身体とは裏腹になんて穢れた心なのか、有らぬ妄想をしてしまう。
思えば、下水道では、リアの言葉に釣られてなんて恥ずかしい言葉を口走ってしまったのか。
『俺もリアが笑って過ごせる場所になるよ』
……なんて恥ずかしいんだ、思い出すだけで穴があったら入りたい。
……いや、そもそも原因はリアなのだ。
『私、レージを守りたい。悲しい顔をしてるレージが、笑って居られる様な場所に私はなりたい』
その言葉はまるで、母が子を想う母性の様な、剣士として盾としての決意の様な、そして告白の様な台詞だった。
もしこれが告白なら……いや、勘違いだろう。そもそも犯罪者にされるような情けない俺を好きになるわけ無いのだ。
2週間一緒いた期間のおかげで情が移ったに違いない。
『友』でいてくれたから彼女は今俺の力になってくれているのだ。
リアに目線を向けるとカカの実を頬張っているリアは俺の目線に気がついて恥ずかしいやら困った様な顔で小首を傾げる。
思わず頬が緩む。
本当にリアは美しいと思った、姿じゃなくて心も。
剣士といえど、この旅は女性には辛い旅になるだろう、それでもついてきてくれたのだ、感謝しなきゃいけない。
だからこそよりリアを強く守ろうと決めた。
そう思った俺は今の宜しくない現状を思い出した。
今の俺は王を殺した重罪人だ、この世界は捕まれば即死刑であろう。
この領地からは何としても脱出しなければならない。
その為はまずは進む方角を決めなければ、地図でもあればいいんだけど。
「リア、地図持ってない?国がどこら辺に有るのか大体書いてある物でいいんだけど」
「持ってないわ、ギルドに行けば売ってるとは思うけど」
「そうか、今何処にいるのか確認したかったんだけど」
「それなら大丈夫よ、私がわかるから。とりあえずはカカの村に向かいましょ」
「カカの村ってラドさんとこの?」
「そうよ、カカの村を越えた先の道を辿っていけば地の国ティエラがあるわ。そこにいけば一応ギルドもあるし、地図も売ってるでしょ」
「良かった。リアが居なかったら正直困ってたよ、ありがとう」
「……それくらい別に良いわよ。それより身体はもう平気?かなり魔力に無理させてたと思うんだけど……」
「大丈夫だよ、リアももう朝だし眠たいだろう? 大丈夫か?」
「私も大丈夫よ。大丈夫そうならさっさと日が沈む前にカカの村まで行きたいわね」
そうだねと俺は魔法袋にリアの荷物をしまう。
リアは自分の旅の荷物は自分で持つと言っていたが、スライムみたいな敵でまた汚れるのも困るだろうからと話しをしたら確かにと納得していた。
ーーーーーーーー
人目を避けて平原を進むことどれくらいたっただろうか太陽は少し傾き始めた昼過ぎ。
カカの村に到着した。
カカの村の人達は我関せずといったところで皆各々の仕事をしているようだ。
そんな中、俺の名前を呼ぶ声がした、ラウルさんだ。
「レージ君、少し話しがある。すまないが中で話さないか」
「どうしたんですか?ラウルさん」
「その話は中で。? 君は魔法庁のリアさんだね。君もどうぞ中へ」
「わかりました」
部屋の中に入り椅子に腰を掛ける。前、村で世話になった部屋の同じ椅子だ。リアは隣に座る。
椅子に座るとラウルさんが俺達に飲み物を用意して早々に話始める。
「レージ君、これを見てくれ」
目の前には誰かの似顔絵。そして魔法証No.5076 レージ 発行場所セルディア王国。使用魔法、時空、火との追記。 更に報酬金 金貨20枚
「これは……」
「レージ君、わかるだろうが指名手配された。捕まえた報酬金はたった金20枚。王を殺した犯罪者に掛けるには安すぎる」
「? どういうことでしょうか?」
「今の王。第一王子は捕まえる事はどちらでもいいのだろうな。だから大した金額を掛けなかった」
「あのクソ王子。王様を殺ったのはアイツよ!」
「まぁ、そういうな。証拠が無いからな。それに今の王は第一王子なんだ。誰も咎める事は出来ないだろうな」
沈黙。その沈黙を止めるために気になる事を質問する。
「……あの、ラウルさん。指名手配されたのはわかったのですが、これを見せた理由は?」
「指名手配に身分証のNo.が記入されているだろう。つまり公の場で身分証を出せなくなった。更に魔法の追記もされている」
「下手に魔法を使えば……」
「そうだ。使用した魔法で気が付いた者がレージ君を捕らえるかもしれないな」
「……困った事になったわね、少し無理があるだろうけど剣士とかのフリをするしかないわね。身分証は発行したら他で発行なんて出来ないし、身分証が使えないんじゃ、他の魔法庁での属性魔法登録も無理って事だし、それに魔法覚えようにも魔道書のある図書館ももう行けないわね」
長い沈黙、それはそうだ。逃亡に成功してももう俺は魔法使いとしての道はほぼ断たれた様なものだった。
不意にゴトンッという音を立てる。
リアを見ると寝息を立てて寝てしまっていた。
なんだ、リアがテーブルにぶつけた音か………疲れてたもんな。
…………何だか……俺も……眠く…! ……これは、眠気と……違う! ?
治れ、治れ!………なお………
寝る瞬間を見たラウルが一言。
「すまない。これも村を守る者の責務なんだ」
と言った気がした。




