ある者の日記
本編の間のおまけのストーリーみたいなものです。
読まなくてもいいです。
○月×日
今日は忙しい日だった。
良いことと悪いことが同時に起きた日だ。
まず良いことだが娘が産まれたのだ!
丸々と健康に産まれていた我が子は、私の指を強く握った。
その力強さといったら、なんと言えばいいか。
大事にせねばと思ったのだ、私一人で育てられる自信は無いが努力をしようと思う。
それから、悪いことだがイリーナが死んだ。
娘を、リアを宜しくとそれだけだった。
今でも繋いだ手の冷たさだけが残っている。
仲間が総出で弔ってくれた。
俺はイリーナの代わりに我が子の成長を書き記すことにする。
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○月×日 0歳
我が子だ、俺の娘だ。生えてきた髪は赤い髪をしていた。
だがイリーナの子だ。驚いたが目はイリーナと同じ色をしていた。
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○月×日
ハイハイを覚えたと思ったら、それからが大変だった。
赤子の割に力が強い、動き回る、早い。
大変だ、イリーナ助けてくれ。
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○月×日
娘がとうとう立った。
棚を掴んでスクワットみたいな動きをして見せる。
俺に似てきたな、運動することは良いことだ。
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○月×日 1歳
流石俺の娘だ、嬉しいが悲しいぞ。
初めての言葉がなんだ、ふぁいやあろーって。
おかげでぼや騒ぎが起きた。1歳でもう魔法を使うとは…連呼していたが一回出ただけだったからよかったものの。
魔法庁では娘がいるときは皆魔法禁止だな。覚えて使われてはたまったもんじゃない。
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○月×日 2歳
気付いたら娘が筋トレや剣術に勤しむようになっていた。
正確には俺の真似事をしているだけなのだがそれでも充分赤子らしくない。
いかんいかん、娘なのだぞ?男らしくなってしまう。
極力魔法庁の女性人に協力を得て品のあるように子育てを手伝ってもらっては要るが、娘自身がやりたいのか、剣の稽古だけは毎日している、そんなに楽しいのだろうか。
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○月×日 3歳
ワガママな子になってしまった。
ワガママな娘ならまだしも性格がやんちゃで男っぽいのだ。
俺と喧嘩をするぐらいだ。こっちは手加減するまでもないが、娘は本気で突っかかってくる。
剣と魔法で攻撃を仕掛けてくる。最終的には娘の体力と魔力が尽きて終わるのだが、困ったものだ。
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○月×日 4歳
最近は少し大人しくなったと思う。
女らしくなったと言うべきか、稽古の時は一緒にいるがそれ以外は一緒にいることが少なくなった様な気がする。
少し寂しいものだ。
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○月×日 5歳
異例であるが魔法庁の者として充分に魔法を使える者であることを認め、娘に火属性のバッジを渡した。
娘は凄く喜んでいた、我が子ながら天才だと思う。
事実今までここまで早く魔法を使える子供はいなかった。
基本は成長期を迎える頃に魔法を覚えると聞く。
幼い故に過った使用をせぬよう切に願う。
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○月×日 6歳
読み書きがある程度出来るようになった。
剣術も形になってきたと思う。
近いうち魔物との戦闘をさせよう、成せばなる。
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○月×日 7歳
気が付いたら娘が女らしくなっていた。
魔物を狩りに行くぞと誘っても可愛い服を着てるからと断られる。何故だ。
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○月×日 8歳
スライムを倒すのは余裕になってきたようだ。
そろそろ、たまに出るゴブリンでも狩らせるか。
成せばなる。
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○月×日 9歳
大分ゴブリンも倒せるようになった。
自主練習はするが、俺との稽古をしなくなった。
それとなく理由を聞くと手加減しないからだそうだ。
手加減してるのだが、何を言っているんだろうか。
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○月×日 10歳
剣術と魔法で入れ替え立ち回ることで攻撃の隙が無くなってきてもう一端に戦えるぐらいにはなっただろう。
魔法庁の仕事の補佐でも其れほど危険性がなければさせるようにする。
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○月×日 11歳
出ている給料はどうやらオシャレに使っている様で、すっかり女性らしくなっていた。
だが、料理や裁縫など女性らしいことは相変わらずさっぱりだ。
魔法庁の娘として嫁に出すならば裕福な家に嫁がせるつもりだから問題は無いがそういうことも教えるべきことだろう。
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○月×日 12歳
お腹を抱えてしゃがみこみ血を流している娘を見つけた。
俺が慌てていると魔法庁の女性の者が気付き、身体が大人になると月に一度この様な時期が訪れるらしい、魔法庁に女性がいて良かった。
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○月×日 13歳
料理と裁縫を家の者に教える様に言ったのだがどうやらダメらしい。
そもそも、大分前から教えてはいたようだがイリーナに似なかった様で今ではもう禁止しているそうだ。
禁止って何だ、やらせるように言っても禁止ですと家の者は断固として断ってきた。そんなに出来ないのか。
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○月×日 14歳
嫁がせるか、魔法庁に残すべきか悩んでいる。
魔法庁として火属性を納める者としては娘が一番良いのだ。
今後任務を行っていけば成果も出るであろうと思っている。
だが歳もそろそろ決めてもいい頃合いだ、どうしたものだろうか。
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○月×日 15歳
娘に気になる男が出来た様だ。
そうとしか思えない、帰ってくると剣術の話ばかりの娘がその男の話ばかりになった。
確かにそいつのことは俺も一応力を認めた男ではある。
ラドの村を守ったお気に入りで、目覚めた魔法は全属性だとか。
あいつの技術を高めれば王宮魔法師としても立派に活躍するだろう。是非とも俺が鍛えてやりたいのだが娘が嫌がるので今度こっそり鍛えてやろう。
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○月×日 15歳
娘が旅に出た。
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続きを書こうとしていた手を止めて本を閉じる。
「………明らかに城の様子がおかしいな……早急に手を打たねぇと」
娘はここにもういないのだ、書く必要は無かった。
それよりもやるべき事があった。
革製のソファーから腰を上げ、仕事に取り掛かった。
それも全ては娘の為であった。
いつか帰ってくるであろう故郷を守り、正す事が魔法庁の者であり、父であるアーヴィンの仕事であった。




