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城の地下にて



「いってきます、お父様」



リアは暗がりの中、別れの言葉を言う。

もう先ほどまで降りていた階段は存在していない。もぅそこには何の変哲もない石で出来た壁になっている。


リアは手の先に火を灯し玲二に優しく声を掛け、先に行くことを促した。

少し進むと異様な臭いが鼻を刺激した。

下水道に繋がっているようだ。



「………なるほど下水道ね、これなら外へ出られるわ」



リアは指先に火を宿し視界が周りを明るく照らす。

外へ通じてるであろう道はどこまで続くのか、余りの暗さで分からなかった。


そして、暗い中でもハッキリとわかるこの下水道に住む魔物たち。



「……地味に厄介ね。玲二、私の変わりに周りを明るくできる?」



玲二の魔力は火を灯す程度なら回復していた。

覇気の無い顔でただ頷き、手のひらに火を出して周りを明るくした。

ダーティラットと呼ばれた小型のネズミや半透明のジェル状の魔物、スライムがあちらこちらで蠢いている。



「ハァッ! ! !」「ヤァッ! !」



リアは精練された剣技で、数匹で襲ってくるダーティラットを凪ぎ払い。スライムの体の中に隠れた核を捉え、両断する。

そんなリアを助けることも出来ない玲二はこの状況を未だに受け入れることができなかった。

そんな玲二にリアは気にすること無く接する。



「レージ、今は魔力の回復だけ集中して。これぐらいの魔物なら私一人でやれるから。」



ジメジメとした空間の中、汚水という養分で育ったスライムは実に汚い色をしているが、リアはそんな事もお構い無しかの様に襲い来るスライムを剣で切り裂いていく。


リアは魔法を使わなかった。万が一にもこの脱出経路が分かってしまえば兵士との戦闘は避けられないのである。

玲二の事を思い気丈に振る舞う彼女だが、そんな事を想像してしまうせいか、気持ちにゆとりが持てなくなっていた。


それでも、リアは玲二の為に剣となり盾となった。




もう間もなく外へ出られる位まで歩いただろう。

もう夜も明けた筈だが外の明かりが感じられず、まだ暗い状態であった。




少しして、先は無く行き止まりであることに気付く。



「…………そんな、ここまで来て行き止まりなんて……」



リアは失意の表情で壁を見つめた。

そんな最中玲二はあることに気が付いた。

壁が在るにも関わらず、汚水の川は流れているのだ。

さらにその壁が汚い、まるで汚水を流し込んだ色をしているのがわかった。そして僅かに動いていた。



ジャイアントスライムーー


たっぷりの栄養で大きく育ったそのスライムは壁となり、玲二達の前に立ち塞がった! !





リアは怯まず剣で切り裂く! ……が、ブヨンッという音を立てて何事も無く切った所が塞がっていく。



「………仕方ない、なら魔法で! !」



続けざまにリアは火の矢(ファイヤーアロー)を放つ。

しかし、またしてもボヨンッという音と共に火の矢を包み込んで消してしまった。



「……ダメ! ……どうすれば……」



じわじわと此方に向かっていくジャイアントスライム。

これなら! とリアは火の矢を求めて10本、今出せる最大本数の矢をジャイアントスライムに向けて放つ! !


ジャイアントスライムの体のジェルが炎となって燃える。



「……やった! ! ?」



ジャイアントスライムの核が見えた。

がやはり、無駄であった。燃えて無くなったジェルの部分はゴボボボと水の勢いの様な音を立て素早く治ってしまった。


ジャイアントスライムの治る身体の勢いで汚水が跳ねて玲二達の服に掛かる。

こんなに汚い状態になるのはリアにとって初めての経験であろう、涙目に成りながらも大丈夫だからと毅然とした態度で玲二を守っていた。


沈んだ気持ちのままだった玲二もリアの姿に心が揺さぶられたようだ。後ろで縮こまっていた玲二がリアに問いかけた。



「リア……何で、そこまでして…………俺……悪い人なのかも知れないのに……何故」



「レージは悪い人なんかじゃない、それは絶対分かるわ」



リアはジャイアントスライムを気にしながら答える。



「私を助けてくれた。ラドさんの村も。その魔法で」



ジェルが伸びてリアを攻撃する、剣を用いて必死にその攻撃を受け流す。



「ワガママで、自分勝手な私を。だからレージは優しい人だって、一緒にいて、思ったの」



ジェルの波打つ津波の様な攻撃も魔法で焼き払い、次の攻撃に備えながらこう言った。



「私、レージを守りたい。悲しい顔をしてるレージが、笑って居られる様な場所に私はなりたい」



ジャイアントスライムの攻撃がリアを襲う。

ステップで攻撃を避けようと左足に体重を掛ける。

しかし、その床はスライムのジェルでベチャベチャになっており、力が入らずその場に尻餅をつく。



「しまっ! ?」



ジャイアントスライムの攻撃はこなかった。

ジュウゥ……という焼けた音と共にリアの前には玲二が立っていた。



「……女に守られる男なんて情けないよな。だから俺もリアを守る」



玲二は直ぐ様、魔法袋からMPポーションを取り出し一気に飲み干す。戻ってきたMPと共に酔いの様な酷い頭痛がする。


そして玲二は時を止めた。


止まった世界の中。玲二は火の矢(ファイヤーアロー)を同じ位置に何度も放つ。

その位置は核が見えた場所だ。


魔法を解除する。時は動き出す。

同じ位置に打った魔法の力が発動し、ジャイアントスライムの体が一気に燃え削れ、核にヒビが入る。



「……まだか!!」



時を止め、核の周りにジェルが被さるのを防ぎ、その核に向けて短剣を刺しまくり時間を解除する。


バキィッ


一度に何回もの短剣の斬撃を食らった核は粉々に砕け。



シュオォ………という音を立ててジャイアントスライムは溶けて無くなった。


溶けた穴から外への明かりが漏れ出てくる。

玲二は尻餅しているリアの手を引いた。

そしてリアの言葉に答える様にこう告げる。



「……俺もリアが笑って過ごせる場所になるよ」



朝焼けの光が明るく玲二達を照らしていた。


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