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無実の罪と逃亡


「儂の可愛い村の子に何をしておる?」


ラドの顔は微笑んでいた。がその顔に優しい面影は微塵も感じられない。

ただ『怒り』とい表情が全身から発せられている。


「あの小僧め………テオの息子だから多目に見ておったが……こんなことをしおって」


右手に携えた炎は段々と激しくなっていく。


「そこの兵士達(ひよっこども)、儂に勝てると思うかの?勝つつもりなら隊長クラスでないとマトモに相手にならんのぅ。それでもレージ君を連れていていくんかの?」


ラドの瞳はギロリと兵士達を見据え、ゆっくりと近づいていく。


兵士達は自分達に確実に向けられた殺気に恐怖し動けなくなり、ある者は腰を抜かし、ある者は悲鳴をあげ、一人また一人と剣から手を離していく。

玲二達に近付いたラドは玲二に告げる。


「レージ君、この国はもう終わりじゃ。能力を使って国から出るんじゃ」


その言葉に玲二は何も言わず時間を止め、関係のないリアまで連れて消える。

一瞬で消えた玲二とリアに動揺する兵士達、その中にはまた探しだし捕まえようと動きだそうとする者がいた。


「そうか、それが答えかの。では兵士達(ひよっこども)はここで退場じゃ」


空に舞う、風を纏ったラドの放った魔法。大きな火の玉が兵士達を焼き付くしていった。







逃げた玲二とリアは魔法庁にいた、理由はただ一つ、MP切れである。

今日はリアを助けるために既に一回時を止めていた為、いくら魔法が上達していても止められる時間はあまり変わりがなかった。

MPが枯渇した時、慌てて魔法庁に逃げ隠れていた。ただいま絶賛大ピンチ中である。


アーヴィンは急に現れた玲二とリアに驚きもせず、状況を察したのか直ぐに中に入れてくれた。いつもと違いアーヴィンは少しも笑ってはいなかった。


ここは城の近く、いつ捕まってもおかしくはない。


リアはレージ!どーすんのよ!ラドさんの言う通り国出ようにも出れないじゃない!!とギャーギャー言いながらレージの肩を揺さぶっている。

玲二はリアの行動に気にも止めず、只黙ってうつ向き揺さぶられていた。


アーヴィンはリアの行動を静止し、問いかける。


「リア、レージを守れるか?レージを連れて国を出るんだ、俺は役割があるから国から出られないが、リアはまだ子供だ。勝手に旅に出ても問題はない」



「お父様…何故ですか?」


その言葉に気に触ったのか、ガンを飛ばしながらリアに問いかける。


「…レージのあの姿を見てもリアはそう言えるのか?」


リアはアーヴィンの向けた目線の先、玲二の姿を捉えた。


玲二の顔は真っ青でその目線は虚空を見つめ、ぼそぼそと何かを呟いている。




(…………俺じゃない………俺…のせい……じゃない…………)




異世界に来て手に入れた何気無い日々。それを理不尽にも壊された謂れのない罪と、異世界に来る前の文句も言わずに働いた辛い会社での記憶が混ざり、ドロドロとした深い闇が玲二の心を垣見だした。



まるで抜け殻の様な空っぽで疲れきった玲二の姿は余りにも気の毒で、傷一つ付いてない身体は何故かボロボロに見えて。

微動だにせず涙を流す玲二にリアはそっと包むように抱き締めた。


「……私…レージと共に旅に出ます」


ポンと優しく玲二の頭を撫でて、ここで少し待っててと自室に向かうリア。

撫でられたことに反応したかの様に玲二はより踞り、下を向く。


アーヴィンは黙ったまま、自分のソファーを退かした。

そしてソファーの置いてある床に手を当てて何やら呪文を唱えると。


フオン………


という音を立てて丁度ソファーのあった分の床が無くなった。

床が無くなりそこには階段が現れ、先は暗く奥まで続いているようだった。


フッと小さな微笑みを見せたアーヴィンは腕を組み、借りてきた猫の様な玲二に物申す。


「いつまでもウジウジしてんじゃねぇぞ。お前、ラドに助けられたんだろ?なら俺もレージ、お前を助ける。お前は助かる、国さえ出ちまえばな。そんでもってリアは強い、お前に貸そう。だがリアは女だ。分かるよな?…男が守らなきゃ誰が守る?………そう言うことだ、俺の娘を頼んだぞ」


玲二は少し顔をアーヴィンの方に上げたが答えない。シン……と静まった空気を変えるかのタイミングで荷物を持ったリアが帰ってくる。

リアは玲二を雛鳥を触るかの様に優しく手を触れて、お待たせと微笑んだ。

玲二はリアの手を握り、ゆっくりと立ち上がった。


アーヴィンはそんな玲二とリアの背中をバンッと押して急かす。


「早く行け、ここにも兵士は来るだろう」


玲二はこくりと首を縦に振り、開けられた穴の前に行く。

真っ暗で奥まで続く階段を玲二が先に入っていき、その後リアが続く。

リアが降り、姿がアーヴィンから離れる前にアーヴィンはリアの頭をポンポンした。



「元気でやれよ、リア」



と一言だけ告げて穴を閉じる。革製のソファーの元の穴があった位置に戻しながらアーヴィンはぼやく。


「王が死んじまったか……こりゃ不味いことになったな」





…のち、セルディア王国では情報を求める大規模な御布令を世界中に求めた。


現国王であった、テオドール=セルディアスの暗殺。その事件の犯人と思わしき人物の逃亡。

セルディア王国の歴史上、類も見ない大事件となった。


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