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(9)「コリア・トゥルーパーズ」

 9月13日午前1時、軍事境界線を背に抗戦を続けていた朝鮮人民軍陸軍第2軍団は、組織的戦闘力を喪失。また黄海側の黄海南道から出動し、南進する未確認巨大生物へ側面攻撃を仕掛けていた朝鮮人民軍陸軍第4軍団は、猛烈な反撃によって損害を出し続けた。そして同日午前6時には、攻勢を挫折。

 巨大生物の足止めが可能な攻撃力を持つ前線部隊としては、日本海に面する江原道の朝鮮人民軍陸軍第1軍団が未だ残っていたが、西部から東部へと逃げる避難民のために思うように移動ができず、参戦がかなわなかった。


 そして巨大生物は、南侵を開始した。


 巨大生物は道すがら避難民の群れを大出力マイクロ波で虐殺し、そのまま屍山血河を踏み躙って非武装中立地帯に侵入。瞬間、敷設されている大量の地雷が炸裂するが、彼にとっては何の痛痒にもならない。縦深わずか4㎞の無人地帯を踏破し、彼は大韓民国の領域内へと足を踏み入れようとする。

 次の瞬間、非武装中立地帯全域が爆発した。


「北韓の連中は真実を話していた、ということか」

「だが我が大韓民国陸軍の敵ではない」


 鉄火の嵐が、非武装中立地帯に吹き荒れた。次々と玄武Ⅱ弾道弾が再突入し、続いて玄武Ⅲ巡航ミサイルが巨大生物目掛けて撃ち込まれる。軍関係者が退避し、完全に無人となった非武装中立地帯に対する遠慮はいらない。大韓民国陸軍史上最大の火力投射――非武装中立地帯は劫火に呑み込まれ、鋼鉄の蹂躙がその地形を変えてしまった。

 韓国軍とて決して無能ではない。彼らは巨大生物の存在など信じてはいなかったが、北朝鮮軍が暴発する有事を想定し、前線部隊の動員と展開を終えていた。朝鮮人民軍関係者に言い放った「国民を守るため、万全の態勢を整えている」との言は、決して嘘ではなかった。

 だが彼らは無能ではないが、愚かであった。

 よく人民軍関係者の話を注意して聞いていれば、弾道弾を用いた長距離攻撃は悪手だと分かっただろうに。


「目標、健在ッ!」


 焦土と化した非武装中立地帯に、彼は巨山の如く身動ぎもせず立っていた。純白の生体装甲は当然のように無傷――否、再生速度が急速に過ぎるため、無傷のように見えるだけであった。どちらにしても韓国陸軍の連続攻撃が、まったく通用していないことには変わりない。

 大地を揺るがす咆哮とともに、彼が変貌を遂げる――背部に長大な生体弾道弾を生成し、下半身の生体装甲を大地に突き立てた砲戦形態。そして破滅が高空へと解き放たれる。


 たったの5分。

 その僅かな時間で100万の韓国国民が、消滅した。

 最初に6000℃の高熱で焼却されたのは、韓国南西部の光州広域市であった。通勤ラッシュを迎えていたKORAILの光州松汀駅直上で炸裂した生体核弾頭は、旅客を灰燼に変え、周辺の市街地を超音速の爆風で吹き飛ばした。

 5秒遅れて、韓国北東部の東海市が殲滅された。観光客を魅了してやまない美しい自然と文化財の数々が蒸発し、美しい海水浴場は死の灰降り積もる永遠の冬を迎えた。

 続けて韓国中西部、20万都市の世宗特別自治市にて生体核弾頭が炸裂。約4万人が超高温の熱線を浴びて即死するか、爆風に吹き飛ばされて即死するか、多量の放射線を浴びて即死するかの憂き目に遭った。

 韓国東部では世界遺産を擁する慶州市が核攻撃を受け、秒速500メートルを超える爆風が世界遺産『仏国寺』を吹き飛ばし、この地上から消滅せしめた。ただ不幸中の幸いか、人口密集地を外れた核爆発であったため、死傷者はほとんど出なかった。だがその隣の市、安東市は人口密集地に核攻撃を被り、酸鼻極まる大被害を出した。

 さらに蔚山広域市、洪川郡、慶山市――大小都市が無差別核攻撃を受け、その度に人命が消滅していった。


 冷戦時代に危惧されていた恐怖が、現実のものとなった。

 100万単位の人間が、僅かな時間で殺戮される無慈悲なメガデス。

 韓国陸軍の無思慮な遠距離攻撃は、巨大生物による無差別な自衛攻撃を誘う結果に繋がった。仮に韓国陸軍が弾道弾による遠距離攻撃を行わず、通常の火砲による阻止砲撃に留めていれば、彼の反撃の矛先は、軍事境界線に張りつく前線部隊だけに留まったであろう。だがそうはならなかった。

 ……それどころか、米韓連合司令部は事態をさらに悪化させた。


 押し寄せる被害報告に逆上し、狂乱した韓国陸軍は玄武Ⅱ・Ⅲによる攻撃を継続した。これ以上の核攻撃は何としても阻止しなければならない、その断固たる意志で長距離攻撃を続け――そして一方の巨大生物側もそれに対する反撃を続けた。

 死者が、膨れ上がっていく。

 にもかかわらず、韓国陸軍は攻撃を止めなかった。

 巨大生物もまた、反撃を止めない。彼からすれば敵意を持った攻撃がどこからか続いている以上、それを殲滅するまで反撃を止めるわけにはいかなかった。両者にとって不幸なことに、巨大生物は弾道弾の発射場を特定する術を持っていない。そのため巨大生物の核攻撃は、闇夜に鉄砲――無差別的に広範囲を焼き払う結果に繋がった。


「なんという……なんと……」


 ……幸運にも、韓国全土が核の劫火に焼き払われる前に、韓国陸軍が発射可能な玄武Ⅱ・Ⅲの残弾がなくなった。このとき韓国国民の死亡者数は、200万をゆうに超えている。

 韓国陸軍の長距離攻撃が絶えると同時に、怪物は砲戦形態から陸戦形態へと再変態し、南侵を再開した。

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