3.説明させて頂きます
中年男性は、すっと真顔に表情を戻した。
「私の名は、サイラスと申します。………今、皆さまがおられるこの場所は、シャリハール王国。私は国の宰相補佐の1人でございます」
トンと、サイラスが杖をついて音を鳴らすと、部屋の隅に控えていた従者らしき男二人が、大きな布を巻き付けた長い二本の棒をの端と端をもって、彼の後ろに立った。
二人の間に棒を立て、一本ずつもって左右に大きく引くと布が開き、現れたのはどうやら地図。
見慣れぬ世界地図と、見慣れぬ言語。だが、言語は何故か、意味がわかる。
「言語チート…?」
誰かが呟いたので、そういうことかも知れない。
「シャリハール王国はここ」
サイラスが、地図の中央に描かれた大きな大陸の、更に中央の国を杖で指す。
「大陸全土の中ではそれほど大きい国ではありません。周りには、大国がございます」
杖は、中央から東、南、西、にある3つの国を指す。シャリハールの周りには大小色々な国があるが、その3つが大きい。
北は小さな国ばかりだか、その先に海があって、3つの国くらい大きな島がある。
サイラスは最後にその島を指した。
「こちらは島全土が国です。つまり、シャリハールは、四方、大きな国に囲まれている、とも言えますね」
サイラスは杖を下ろして、俺たちの方を向いた。
「この四つの国は、それぞれ国としての勢いも、王の野心も強く、一度その力を振るえば他国への影響は甚大であることは間違いございません。シャリハールは、そのような事態にならぬよう、永久中立国として和平協定を結んだ地となりました」
なんで、協定を結ぶ地がシャリハールなんだろう。
その疑問には、すぐ答えてくれた。
「まあ、何故、シャリハールがその役割を担う国となったのかは、簡単に申せば、四つの国より歴史がある国だったからという点が一つ。そして、四つの国にとっても必要な役割を担っているからということもあります」
シャリハールの歴史の詳細は、また後程お話させて頂きますが、とサイラスはコホンと話を一旦切った。
「とにかく、和平協定は成されました。現在は、互いに牽制しあってはおりますが、平穏は保たれている状況なのです。…………ところで、皆さま。皆さまの世界では、魔法や魔物などの存在はありましょうか」
会場がざわざわっとする。
やっぱり!とか、キター!とかいう台詞も聞こえる。
もしかして、もしかしてなんだろうか。
サイラスに近い誰かが伝えたらしい。サイラスはうんうん頷いている。
「そうなのですか。皆さまの世界にはないが、知識ではそういった世界があることはご存知でらっしゃると。…それはなんと博識でいらっしゃる」
サイラスはにっこり笑うが、再び真顔に戻る。
「この世界には魔法も魔物もございます。そしてそれらは良くも悪くも、源をたどれば神の生み出したもの、とされています。魔法や魔物だけでなく、神の生み出したものは様々な形としてあるのですが、実はこの国にはその一つ……神樹がございます」
サイラスがトンと杖をつくと、ブンと杖の先の大きな宝石が光って、男達が掲げていた地図の布に光がスポットライトのように当てられる。
光が当たっている丸い部分に、大きな白い木の映像が浮かびあがった。
俺からは少し角度がわるくて、よくわからないんだけど、おお……って声が少しあがった。
「神樹は、大陸全土に広がる神力を生み出す、大変尊い神物でございます。これを害すれば、大陸の自然に大きな影響を与えるのです。ですから、どの国も神樹を尊び守っているのです」
なるほど。
これが、シャリハールが永久中立国でいられる理由か。
「ですが、神樹は常の見た目は変わらぬのですが、不変ではございませんでした。大体80年ほどで、神力を生み出す力が一旦衰え、まるでサナギから孵るように新たな樹として生まれ変わる時期がくるのです」
サイラスは、トンと杖をついて映像を消した。
「衰えている時期は、自然が少しずつ荒れていきます。それだけでなく、魔物が増え活発化し、進化するものまで出現するのです。そして、その時期が今…」
サイラスがぐっと杖を握り、ぐるっと会場にいる俺達は皆に視線を投げた。
「皆さまには、大陸全土に増えた魔物の討伐。後に出現する魔王を倒すのに、ご協力頂きたいのです!」
ナ、ナンダッテー!