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第四話:腐れナメクジ系和風美人

「呉服屋に来るのは久々だ」


 追従笑いが乾いてしまった。呉服て、今どき通じないんじゃないのか。

 駅ビルに入っているテナント店舗のセレクトショップだ。クレイカラーのタイルがモダンでラフな印象を云々。シャレオツな都会のセンスなど知ったことではない。

 洋服が方々に吊られていて、新品の布の匂いがする。


「なかなか可愛い店だな。詳しいのか?」

「はは、恐縮です。付け焼刃ですよ」


 昨日ググった。方位的にも問題ない。

 陳列を風水的に見たところ、ところどころ穴があって商機は逃しがちだが不運が吹きだまるわけではない。ウィンドウショッピングにオススメな店だ。

 最近のトレンドはー、などと若々しいことを言いながらご令嬢は服を手に取っては悪霊に食わせている。たぶん、体に合わせているのだと思う。

 塩を撒けないのでハラハラする。悪霊が憑いたらどうしよう。ばれないように香を焚いて(いぶ)すか。


「そ、そんなにまじまじと見ないでほしい。服の趣味には自信がない」


 ご令嬢がもぞもぞと消え入りそうな声で言う。

 正直悪霊の存在感が強すぎて見えないし、見る余裕もない。


「ご謙遜を。お似合いですよ」

「そうだといいんだが」


 見え見えのおべっかに不安げな声を落とす。ふと疑問に思って尋ねた。


「そういえば、失礼ながらご令嬢っておいくつなのですか?」

「ん? 十六だよ。黒の里長によると同い年だそうだが」

「え、ええ。同い年ですね。ではご令嬢も高校一年生?」

「まあ、そう言えるかもな」


 歯切れの悪い返事に、質問を重ねようとして。

 服を戻そうとしたご令嬢の手元でハンガーラックのパイプが折れた。

 スウェーでかわしたご令嬢はともかく、弾き飛ばされたハンガーが店頭のマネキンに向かっている。俺の動体視力は行く末を捉えた。

 マネキンを押し倒すばかりか、後頭部に突き刺さってチョンマゲのように生えてしまう!


「つぇい!」


 四方手裏剣を投げて弾いた。びぃぃいん、とハンガーごと壁に突き立った手裏剣を慌てて回収する。穴はそっと壁掛け展示のTシャツをずらして隠した。マネキンが店頭で砕け散るよりマシだ。

 振り返れば店員さんが腐肉のような悪霊に飲み込まれている。


「おっ、お客様! お怪我はございませんか!?」

「ご覧の通り、かすり傷一つありません」


 あ、腐肉の中にいるご令嬢に近寄ってるのか。

 見にくくて困るが、右目を閉じるわけにはいかない。悪霊の挙動を見逃したら、次は間に合わないかもしれないのだ。気を抜いたら負ける。


「すみません、デートの邪魔をしてしまって」

「いえいえ。お気になさらず」


 頭を下げてくる店員ににこやかに対応する。

 申し訳ないがこれはデートではない。命がけの任務だ。

 ご令嬢はおずおずと店員に声をかける。


「あの……この服買います。いいですか」

「はい! ありがとうございます!」


 店員は満面の笑顔だったが、ご令嬢の声はどちらかというと「丸く収めて立ち去りたい」といったものに聞こえる。

 店員の手に渡って初めて、ご令嬢はフリルブラウス風ワンピースを選んでいたことを知った。

 なんだ。本当に趣味はいいじゃないか。少なくとも俺の目にはおしゃれに見える。

 気落ちしたようなご令嬢の歩みが、少し心にしこりを残した。

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