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第一話:黒の里の霊能忍者陰陽師

 現代の忍者は方々に散っていて一概に語ることは難しいが、少なくとも我々の里は奥多摩にある。都心までニ時間ちょいくらいかかるが東京都だ。大宮の方が都心に近いとか言ってはいけない。

 山の森に肩身狭そうにして武家屋敷風の忍者屋敷は佇んでいる。


「お呼びですか、長」


 シュタと庭の木に降り立って、頭巾と面頬で顔を隠す里長のいる縁側に参上する。

 かくいう俺も典型的な黒の忍び装束姿だ。里入りするときの制服だと言われている。着替えも持参済み。まあ高校生だからね、積極的に世相から外れるつもりはない。

 里長は大儀そうに俺を見上げ、


「あ、枝に乗らないでくれる? 地主さんに怒られちゃうから」


 開口一番、ご機嫌取りをした。


「……里の敷地くらい、間借りやめられませんか」


 きちんと降りてから抗議する。


「いやーさすがに山は所有できないよ我々。さすがにね、法律的なアレはちょっとね」

「だから法曹を排出すべきだと申し上げているのです」

「そんなお金どこから出すのさ。言っとくけどね、きみ、国立以外は許さないからね」

「さもしい話ですね」


 まだ高校一年生なのだが、受験のことを考えなければならないらしい。老けてるとはよく言われる。


「そんなことより任務だ。例によって例のごとく、きみにしかできない。霊だけに」


 顔を歪める。心なしか右目が疼いた。

 俺の右目は白い。白というか象牙色か。いわゆるオッドアイだ。普段からカラコンを入れているが、俺から見える世界は左右で色合いが違う。単に右目だけやたら日光に弱い、というだけではない。

 視えるのだ。霊が。


「今も里長の右肩に手を載せてる女性とか」

「えっ、嘘マジ? 悪いやつ?」

「はて。美人に見えますな。髪は長く着物姿で胸も大きい」

「おほっ」

「全身ずぶ濡れで、目は落ち窪み、血の涙を流しています」

「祓ってー! 今すぐ祓ってェー!!」


 まったく情けない。今どき悪霊の一匹や二匹にガタガタ抜かしていたら、電車通学なんてできるはずがない。朱墨で御札を里長の額に貼りつける。


「これ大丈夫? キョンシーみたいになってるけど」

「ええ。覿面てきめんです」


 悪霊はもともと里長に恨みも関心もないので、興味を失ってどっかに行ってしまった。野良猫みたいなもんだ。

 里長は大きく安堵に胸を撫で下ろして、俺の肩を叩く。


「ありがとう。さすがは現代唯一の霊能忍者陰陽師! その腕を見込んで……里の命運をきみに託す!」

「ヤダなぁ……」

「里の命運ンンンン!! そのド本音のつぶやきは里では隠してくれないかな!?」


 つい本音が漏れてしまったが、実際、気は進まない。

 陰陽道で凶事と悪霊を避けるすべを身に着けたのは、生まれ持った霊感が祟ってのこと。忍者一門として生まれた己のためではないのだ。護身用の域を出ないので、陰陽師としての腕も二流。重宝されればされるだけ困る。


「きみの悩みはわかっているつもりだ。それでも、忍者一門であり、陰陽道の心得のあるきみにしか頼めない。そして里の命運がかかっている。これはマジだ」

「マジなんですか」なんて迷惑な。

「……そろそろ本題に入っていいだろうか」


 凛然とした声。矢の風切り音にも似た、冷やっとするような鋭い声色だ。

 振り返って、

 腐れ果てて破裂寸前になったぶよぶよの怪物が、うじゅるじゅると粘つく汁をこぼしながら体を引きずっていた。あちこちに埋まっている目玉は虚ろで何処ともない場所を見て、半開きの口からよだれを垂らし、赤ん坊のように膨らんだ手がぶらぶらと脱力しきっている。


「キモい!!」

「おわぁああああバカ野郎! ご令嬢になんて無礼なことを! ほんとマジすいません!」


 足払いされて体投げで空中を横に三回転くらいして、俺は地面に叩き伏せられた。

 怪物の足元に伸びる影を見て、気づく。

 右目を隠して、黒い左目だけで見た。


「い、いや……面食らいはしたが。ふむ、どうやら黒の里殿の言は本当のようだ。こやつは私の悪霊が見えるらしい」


 言語に絶する美少女が立っていた。

 濡羽色の長髪をポニテに束ね、柳眉は意志の強さを凝縮したように細く、垂れ目がちの眼差しは妖艶。氷を削り出したかのような美しさは、刃物にも似た恐ろしさと神秘的な儚さを芸術的に同居させている。

 右目を隠した手を外す。

 うじゅるじゅると化け物がいる。

 なるほど。

 ……めっちゃ憑かれてる。

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