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次期当主は女子高生

 嫌なモノが待ち受けている時ほど、時間の流れは速いもので、あっという間に、悠が恐れていた週末がやって来てしまった。

 

「お前も、早いとこ相手見つけちまえよ。そしたら、一々こんな面倒な見合いなんてしないで済むぜ」

「ふっ、言うのは簡単でしょうさ」

「そうよ、慎。やっぱり、この人とならって人じゃないと」

「お袋と親父みたいな?」

「あら、悠ちゃんの場合はもっと大変よ」

「まぁ、確かにな」


 家族全員で本家へ向かう車の中、ちょっとした家族会議が始まる。


「じゃあさ、とりあえずでっち上げちまえば?」

「なんで」

「そうしたら、耀当主が一ヶ月に一回催促の手紙も寄越さないだろうしさ」

「嫌だよ。結局また見つけ直さないといけないなんて、めんどい」

「これは、一族の存続にも関わるからなぁ」


 運転をしている父のかいが、娘と息子の会話を聞きながら思案顔になった。


「どうしても、それなりに高い能力を持つ相手を選ばないといけないだろう」

「ぐわぁ!!」


 悠は、耐え切れなくなったように唸り声を上げ、座席の背に思いっきり体重を掛けると、ぐしゃぐしゃと頭を掻く。 

 そんな妹を、慎は呆れた顔で見つめた。

 慎の同情的な視線を気にすることなく、悠は大きく溜息をついて見せた。


「………なんで当主になるのに相手が必要なわけ??しかも二十歳までになんて、後三年しかないじゃんか~~」


 その悲痛な叫びに答えられるものは、今の車の中に居るわけもなく。彼女の言葉は虚しく車内に響き渡るだけだった。



 そう、宮千塚家の当主は代々、その代で一番強い霊力を持つ女子がなる決まりがあり、代替わりはいつもその女性が二十歳の誕生日を迎えるのと同時に行なわれる。

 しかも厄介なのはその儀式で。

 代替わりの時、次期当主となる女子は、すでに生涯の伴侶となる男性を決めておかなければならない。儀式は二人の結婚式も兼ねているというわけである。


 つまり、次期当主になる事が決定されている悠は、二十歳の誕生日までに生涯を共にする旦那を決めておかなければならないというわけだ。


 そしてその催促のため、現当主である彼女の曾おばあ様は、毎月のようにお見合いの話を持ってくる。


 慎はその度に気落ちする妹を心配して、先ほどのような提案もしているのだが、彼女自身がまったくやる気を出さないので、打開策がまったくない。ただ、愚痴だけは零すので困ったものである。


 しかも、悠の霊力は歴代の当主よりも更に上をいくらしく、彼女の夫となるその相手も出来るだけ能力の高い者でなければいけないという。


 悠は確かに次期当主になるべき器を持っているはずなのだが、日常を死んだような魚の目でのんびり、時にぐうたらしながら過ごしているため、彼女の本当の実力を知っているのは、自身で悠の力を目の当たりにした耀当主だけなのであった。


 古くからある名家故か、宮千塚家は、それは大きな領地を所持していたし、その家系も色々入り組んでいて、親戚は把握しきれないほどいる。

 分家もあり、その人数は莫大だ。

 そのすべてを統べるのが現当主、宮千塚耀。齢八十にして、未だに朝の散歩を欠かさないという非常に元気な婆さんである。その孫に当たるのが、悠の父である櫂で、彼の父が耀当主の息子なのだ。と言う事は、悠は本家の直系の跡取と言う事になり、彼女が次期当主になると決まった時、誰も反対するものは居なかった。

 彼女意外に、直系の年頃の娘が居なかったのもその要因の一つである。父には兄と弟が一人ずつ居たが、その誰もが娘に恵まれなかった。


 悠には従兄弟しかいない。そして宮千塚家を継げるのは女子のみ。


(あーあ、なんで私だけ女に生まれてきたのかねぇ)


 それを思い出して、悠は再び溜息をつくのだった。





「只今戻りました」

「お待ちしておりました。当主様が奥の座敷にてお待ちです」


 敷地内に入り、更に門を潜って約二十分。ようやく母屋に着いたと思えば、すぐにお手伝いの女性に座敷へと通された。


 そこからさらに歩いて十分ほど。


 最終目的地である奥座敷に辿り着いた。

 まずは父が声を掛けて襖を開ける。

 大きな座敷の奥には、三人の男女が座っていた。皆、歳を重ねた者達ばかりで、部屋の中になにもなく殺風景な分、彼らの存在感が更に増しているようだった。

 その中でも、一番強く大きな存在感を持っているのは、真中に座って居る女性。―――現当主だ。


「耀当主、父上、母上、只今戻りましてございます」


(よく、舌噛まんで言えるよね)


 父のその言葉を聞いて、悠はぼんやりそんな事を考えた。

 そんな事を考えながらも、体は昔から教え込まれた仕来りに従って自然と動く。父と並ぶようにお辞儀をした悠は、家族の先頭に立って、当主とその息子夫婦達、彼女にとっては祖父母にあたる、の元に歩み寄った。


「宮千塚悠、当主様のご指示どおり、参上致しました」


 彼女は舌を噛みたくないので、あえて簡単な日本語を使った。

 耀当主はそんな悠を見て、少しだけ溜息をついた後、彼女に顔を上げるように促した。その後ろには、父と母、そして兄が並ぶように座っている。

 いくら家族といえども、悠は次期当主。どうしてもこういう場面では、彼女が格上とされるのだ。悠としては、それがあまり好きではない。あえて、逆らおうとは思わないが。


「よく来られました。………今日呼んだのは、他でもありません。あなたのお相手探しの件について、よいご縁談を見つけたのです」

「………しかし、当主様。私はまだ十七です。儀式まではまだ三年もあります。まだ時期的に早いのではないでしょうか」

「何を言いますか!」


 当主の怒声が響いた。

 もう八十になるというのに、こんなに大きな透き通った声がどこから出るというのだ。

 すっかり聞きなれてしまった悠は、少し肩を竦めて、恐る恐る当主を見つめた。彼女は無表情のまま悠を見つめ、その後溜息をついた。


「いくら、後三年あるとはいえ、あなたの相手は限定されます。いいですか、悠さん。あなたは、ここで相手を見定める時間が必要になるのですよ。しっかりと見極め、彼とならばこれからの生涯を歩めると思った方でなければ、この宮千塚家を支えられるわけもありません。………そもそもあなたは、次期当主としての自覚がないのです。昔からそうでしたが、努力が足りない。確かに実力は相当なものですが………」


 それから小一時間、悠は耀当主の懇々とした説教に耐えなければいけなかった。

 そしてそれは、その場に居た他の者達も同じ。

 

「あーあ、曾ばあさんの説教は、ほんとなげぇよな」


 結局、流されるがままに明日のお見合いの件を承諾し終わって、悠達は当主から解放された。

 本家の前にある庭園を歩きながら、慎が腕を伸び縮みなせながら不平を呟く。悠もその言葉に深く賛同しながらも、流れでお見合いの席を約束してしまった自分を怨んでいた。


(流されるんだよなぁ。昔から、曾ばあ様には弱いから)


「お前、ほんと曾ばあさんに弱いよな。だから、見合いだって承諾しちまうんだ」


 悠の考えていた事を読み取ったかのように、兄の慎がそう言った。

 図星を指されたため、彼女は言葉に詰まる。


 耀当主の能力は高い。それ故に、悠が幼い頃から、彼女の潜在能力を見抜いていた節があった。そんな彼女だからこそ、折りを見ては悠だけを傍に置き、修行をさせていたのだ。

 いつもはおっかない耀当主だが、曾孫と居る時は、ただの曾おばあ様になる。そんな彼女が悠は大好きだったので、どうしてもという時に負けてしまうのだ。

 当主の件も、耀当主直々にお願いされ、断りきれずに引き受けてしまったようなものなのだから。


「わかってるけどさぁ」

「悠は昔から押しに弱いからね」

「曾ばあちゃん限定だけど」 


 途中、二人のものではないの声が入り込み、悠と慎は同時に自分達の後ろを振り返った。

 そこに居たのは、青年と少年。


「賢兄、拓」

 慎が笑みを零しながら二人に近づく。悠もその後に続いた。

「二人も来てたんだ」

「曾ばあ様に呼ばれたから」


 賢兄と呼ばれた青年が答える。


「僕なんて、試験もほっぽり出してきたんだよ。後、倖兄も空も徹も来てるよ」


 拓と呼ばれた少年が、賢の肩に寄りかかりながら笑顔で答えた。


 彼が呼んだ名は、すべて悠と慎の従兄弟達の名だ。そして、賢も拓も彼らの従兄弟に当たる。

 賢、倖、徹の三人が、櫂の兄の息子達。上の二人はどちらも成人しているが、徹はまだ中学生だ。そして、拓と空の二人が、櫂の弟の息子達。拓は悠と同い年で、空は一つ下の十六歳。


 一番近しい血縁だけでも、こんなにたくさん居るのだから、その他を合わせたらそれこそ覚えきれない。

 拓の報告を聞いた慎は、小さく苦笑しながら彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「悠だけじゃないな。俺達みんな、曾ばあさんには弱い」

「確かに」 


 賢が軽く同意した。


「みんな~」


 少し距離置いた場所から、悠達を呼ぶ声が聞こえた。


 まだ幼い容貌をしたその少年は、最年少の徹だ。彼ら従兄弟に共通する点、それはみんなが揃いも揃って今時珍しい真っ黒な黒髪に黒い瞳を持っていると言う事だろう。

 それは、彼らが宮千塚家の血縁であることを証明する役目も持っていた。

「ご飯だって!」

 その言葉を合図に、悠達は母屋に戻るために歩き始めた。

 

 

 もう一つ、この家系だからこそ有する力、それは、皆が祈祷師の能力を持っていると言う事だろうか。個人差はあれど、皆確かに霊を払う事は出来る。


 現代社会においてその力は、滅多な事では使う機会すらあまりないものの。




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