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2023年3月16日木曜日 14時57分 エンカウンターワールド内リビングルーム

 来た時と同じようにオフィスからリビングルームへと続いていた。


「ここが私の部屋。みんな、ただいま」

「猫が5匹も……」

「猫じゃないニャン」

「あぁ、これコンシェルジュ・キャスターなんだ。可愛い」

「可愛いって言われたニャン。ルキノ様」


 ルキノはハチニャンの頭を撫でる。


「良かったな。ハチニャン」

「ニャン」

「ここは私の部屋のリビングルームをコピーしたものだから気楽にして、服装も着替えてもいいよ。ハチニャン、私はいつもの服装で……」

「いいのですニャン?」

「いいから」


 ルキノはビジネススーツ姿からTシャツとホットパンツのラフな格好になった。

 それを見て武笠ひまりもワンピースに模様替えする。


「ひまりちゃんのコンシェルジュ・キャスターはどんなの?」

「くまのピースケ」

「今出せる?」

「うん」


 クリッとした目の熊のぬいぐるみが現れた。


「おー、可愛い。ひまりちゃんの趣味なんだ」

「趣味です」

「コンシェルジュ・キャスターはPSDRのシャリオンワールドの最初の贈り物だからね。ユーザーにとっては始めてAIとして接触する被造物だから感情移入するよね」

「なんか、可愛いんです」


 ひまりはジタバタする熊のぬいぐるみをギュッとする。


「コンシェルジュ・キャスターは音声アシスタントと違って独自の個性を持っているしハッキリ反対意見も言ってくれる。なっ、ハチニャン」

「はいニャン。ルキノ様はもう少し、女らしくと言うか、全裸で家の中を歩くのはやめて下さいニャン」

「いいんだよ。自分の家だし……」

「テレビ電話の時に服を貼ったりしているんですよ。せめて、アンダーヘアくらいお手入れして下さいニャン」

「ハチニャンのエッチィ。そんなとこ見ているんだ」

「もう、知らないニャン!」


 ハチニャンは怒って姿を消した。


「どう?彼らとはやっていけそう?」

「まだ、わかりませんけど……あの4人は本当にAIなんですよね」

「そうだよ。人間にみたいに感じる?」

「はい、まるで人間みたいです」

「じゃ、ひまりちゃんは上手くやっていけるんじゃないかな」

「えっ、そうなんですか」


 ひまりは驚いた顔をした。


「AIを仲間だと思ってやっていかない人はAIから知恵を出せない。AIとは上手くやっていけない」

「それって普通じゃ……」

「普通じゃないんだ。それが出来る人が少ない。誰でもさ。自分が周りで一番偉いとか、賢いとか思ってしまうんだ。そして、AIを下に見るから上手くつきあえない。そして上手くいかなくなるんだ。この世界を作ったサイクオリア社はビジネス用に提供しているのはIQ90から120までのAIを提供してくれている。なぜ、もっとIQの高いものを提供しないか知っている?」

「えぇーと、うーん。わかりません」

「IQが高いと人間と会話がかみ合わなくなり、スピードが早いかのかというとメリット、デメリット計算でどちらを取ったらいいか判断できなくフリーズしてに処理が格段と落ちるから。AIに手伝ってもらっても最終的には人間がメリット、デメリットを考えて覚悟を持って選択する。これが最良の付き合い方なんだ」

「それ以上のものはないんですか?」

「ビジネスではIQ500の判断を持たない計算機としてなら存在するよ。値段が高いしここでは使い道がないから使わないけどね。昔ライトノベルでゲームの仮想空間に閉じ込められてしまう話が合ったけど、本当にそんな世界がこんなに早く出来るとは思わなかったよね」

「うまく言え無いけど、あのライトノベルの世界とは違いますよね」

「そうね。わかりやすく言うとゲームのコントローラーがどちらにあるかと言う事。ライトノベルではコントローラーは本人の脳味噌の中に合ったけど、DRでは本人の意識を抽出して仮想空間にコントローラーが在るということね」

「なるほど」


 1匹の猫がルキノの股ぐらにやってきて太腿に抱きつく。


「おっ、タクボク。この猫はね。子供の時に飼っていた猫で、私の記憶の中と母と写っている古い写真から創ったんだ。子供の頃だったから、本当はこんな猫だったかはわからないけど、心の中に居た猫を再現したんだ」

「あぁ、えっと、それって……」

「ラップスコンピュータのジョブ・ジョブスを蘇らせようと関わりのある人達の記憶を集めてAIとして蘇らせるあのプロジェクトと同じだよね」

「そうそう、なんかすごい時代ですね」

「死者を蘇らせる。すごい時代だよ。他の3匹、ニア、ミシュン、オットーはいま部屋で飼っている猫だよ」


ルキノの股ぐらで眠りにつく猫を撫でている。


「ええっと、あの……ケニア……」

「なに?」

「本当にケニアに行くんですか?本社の人から聞くように言われたんですけど……何でこの時期なんですか?期末だから他社に移るのでは無いかと心配していました」

「本社はそんなことを考えているんだ。歯医者だよ」

「歯医者?」

「ケニアに行く前にさ。歯のメンテナンスは全部して行こうと4ヶ月前から通い初めてね。先週終わったんだ。本人識別レベル最高の情報子を埋め込んだ歯科インプラントしたからね」

「ああ、それって全世界ビザフリーってやつですよね」

「これでどこでライオンに食べられても、私だって証明できるよ」

「あはっ」

「ケニアの方でも定期メンテナンスの歯医者を探してもらっているよ。日本のレベルの歯医者の施設は向こうにはまだ少ない無いからね。2年間ここで食うちゃ寝していたからツケが回って歯がボロボロになっちゃった。ひまりちゃんも、気をつけた方がいいよ」

「あっ、はい」

「昔では考えられない色んなモノが口から入るから歯を磨くだけではなく、定期的に見てもらえる歯医者を持つことが大事だよ」


 ひまりはミシュンを捕まえようとするが逃げられ、代わりにオットーがヒマリの処へやって来て寝転ぶ。


「この猫は?」

「実家から引き取った20歳の老猫なんだ。気に入られたみたいだね。ひまりちゃんはPSDRをいつ買ったの?」

「手に入れられたのはオリンピック閉会式直後です」

「なるほど、開会式は見たの?」

「もちろん、DRライブの再放送で見ました。すごかったですよね。感動しました」

「東京の最後の花道だったからね。私は最初の発売日にPSDRを手に入れた」

「すごいですね。あれって、前情報無しの販売に近かったじゃないですか」

「当時はVRバーチャルリアリティ(仮想現実)の亜流程度で10万円以上する。ちょっと考えるよね。でも、私はVRなら起きている時しか使えないじゃないですか。DRドリームリアリティ(夢想現実)なら意識をアップロードして寝ているときに使えるじゃないですか。つまり、当時、25歳の私は日本の女性の平均寿命88歳として考えるのならば1日8時間寝るとして、それをすべて夢想現実として生きるのならば116歳まで長生きすることと同じなんだよ」

「あー、そんなこと考えたことないです。言われればそうですね」


 ルキノは頭を掻きながら答えた。


「変なことを考える子って、よく言われるんだ。2019年7月7日がPSDRの発売日だったんだ。当時はVRゲームから移植ものしかなくて、コンシェルジュ・キャスターもいなかったけど、こんな感じの部屋が与えられて、ここではスマホやパソコンの入力が3倍早くできたんだ」

「あっ、それ当時のニュースで見たことあります。考えるだけで入力出来ちゃうから便利とか言うの」

「スマホの情報はそのまま移行できたからね。スマホのエミュレーションと仮想パソコンとアミゾンプレミアの映画が見れたからね。ゲームをしなくても退屈しなかったんだ。そして8月に入ってDRライブというサービスが始まったんだ。その1回目が隅田川の花火大会。見た?」

「見てません」

「ハチニャン、DRライブモード。隅田川花火大会」

「はいニャン」


 部屋が床以外黒くなり、光源のわからない光で床と二人と猫たちは輝いていた。

 真っ暗な中にドーンという大きな音と共に花火が頭上に舞い上がった。


「わぁ、キレイ」

「いまのカメラから考えると稚拙だけど、当時はメチャクチャ感動したよ。VRと違って立ったり座ったりしてもリアルに感じるでしょ。これを何度も見たよ。隅田川花火大会の後、DRライブは野球、サッカー、コンサートにお笑いライブとハコ物イベントが次々とDRライブ化していったよね」


 ひまりはそっとオットーを抱きかかえて夜空の花火を見ながら言った。


「私、ブダペストのクラシックコンサート、DRライブで見ました。本物は一生見に行けないと思って目に焼き付けようと思って、真剣に見たことを覚えています」

「VRやDRのライブがこの時期たくさん出て競技場や音楽会場のハコ物イベントが息を吹き返した時期だよね。相撲も全世界的に見られるようになったしね」

「ダブルチケット!」

「あぁ、映画のチケットが100円足すだけで映画館で見てVRかDRで1回見られるダブルチケットになったんだよね」

「映画館無くなっちゃうんでしょうか?」

「うーん、4DなんてDRに比べるとオモチャみたいな物だからね。映画会社もDR向けの参加出来るインタラクティブ型のDR映画増えてきたけど、しばらくはアナログな人達もいるから続くんじゃないか」

「そうですよね」

「2020年1月に東京オリンピックのDRライブのチケット販売が突然発表されて1会場10ドルで全世界一律で販売だったんだよね。これが会場チケットの4倍の売上を上げて、東京オリンピックは完全な黒字オリンピックになったんだよね。開会式見た?」

「もちろん、見ました。感動です!すごいです!」

「もう一回、見る?」

「見ます!見ます!」

「ハチニャン、東京オリンピック開会式」

「はいニャン」


 隅田川花火大会の映像が消えて、聖火を持って走る選手が表示される。

 コントローラーが表示されカメラの切り替え、解説者の変更もできる、マルチDRライブ映像が二人を取り込んだ。


『いま、聖火に火がともりました』

『新国立競技場の四方から、光の点が上空を埋めていきます』

『わんバンクと新名和工業が作った純国産ドローン、1000機が新国立競技場の外に配置された大型トラックの上部より飛び立って上空へと集まってきています。花火のように色とりどりに点滅しています』


 大型トラックの上部が開き、ドローンが一斉に飛び出してくる映像、ドローンのスペック表示がされる。


『いまドローンが集結しています。文字ですね。夜空に文字が読めます。「オカエリナサイ……」、「オカエリナサイ、オリンピック」と読めます。二度目の東京オリンピックで、「オカエリナサイ オリンピック」です。次に「アリガトウ」です』


 新国立競技場、上部からの映像に切り替わる。


『上空から大きな輝きが降りてきます。全部で10です。10の大きな光が降りてきます。アミゾンジャパンとトミタ自動車と航空宇宙研究開発機構が共同して作った高高度飛行船「アマテラス1号機」より高度1万4000メートルから大型ドローンがいま降りてきます』


「この瞬間、『ランドスケープラーニング』という全体を一度に見るという新しいAI技術でこのショーが出来ていることが報道されて『ディープラーニング』がオワコンになった瞬間だったね」

「綺麗な動きで圧倒されましたよね。花火より美しかったです」


『この圧倒的な迫力、いまVRやDRで見ている方も感動して見ているのではないでしょうか。上空でドローン達が掌位しています。大型ドローン1機に20機づつに掌位した5つの帯を繋がって100機が掌位して高度1万4000メートル上空の高高度飛行船「アマテラス1号機」まで帰って行きます。まさに夜空のダイオウイカのようでございます。「アマテラス1号機」からアドバンスドGPSにより0.5㎝単位のコントロールが出来るようになりました。東京が生まれ変わるようなことを示唆している光景です』


 解説員が興奮しているのが伝わる。


「このオリンピックは技術として日本と世界を変えるようなオリンピックになった。AIと言葉の壁のないオリンピックになった」

「私もスィッピー買ったよ」

「ヘッドセット型の簡易翻訳機はたくさん出たけど、ゴーグルのスィッピー多言語簡易同時翻訳機が一番売れたよね。なんたって4千円くらいの値段でスマホアプリとの連携だけど、40カ国の翻訳が無料で行えてブルートゥースで近くのスィッピーと連動できて本当に同時翻訳をしてくれる優れものだった」

「そう、ワイヤレスヘッドセットとしてはそのままで使えなくて……笑っちゃうよね」


 ひまりは耳に手をあててヘッドセットのマネをした。


「うん、多言語簡易同時翻訳機としては安いけど、ワイヤレスヘッドセットオプション、スマホテキスト化表示オプション、多人数識別オプション、ステレオイヤホンオプションとか、なんだかんだ足すと2万円を軽く越えちゃうよね」

「DRがあるからもう使わないけど、私は本体だけ買った」

「私は全部買っちゃったクチです。言葉の壁と言えばAIデジタルサイネージがあるか」

「入国時に国識別アプリが空港で配られてのやつ?」

「そうそう、AIと言っても近くのスマホの国識別アプリを感知してその国の言語でデジタルディスプレイを表示するものだけど、東京の街全体がそうだったから驚いている外国人は多かったよね」

「いたいた」

「そしてオリンピックのお陰でPSDRはついに1億台を突破した」

「そうですね。閉会式に間に合って私も手に入れました」


 そこでルキノは一拍置いて話し始めた。


「そして8月14日。世界がひっくり返すようなことが起きた」

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