2023年3月16日木曜日 14時36分 千葉県我孫子市
SFという言葉に子供の頃はワクワクして読んだ。
それが年を経て現実がSFに限りなく近づいたときに、現実がそれを越えてSFが霞んでしまった。
だから、今できていないことを、ほんの少しだけ未来の時間軸がずれた世界をSFとして書いて見ようと思った。
失敗した。
千葉県我孫子市、天王台駅より歩いて15分のところにある畑の近くのある一軒家が私の職場で住処だ。
駅前で直ぐにスマホで無人タクシーを呼び出して素直に乗れば良かった。
痒くなってきたし、くしゃみも鼻水も止まらない。
健康のために歩こうと油断したのがいけなかった。
完全防備で出かけたはずなのに花粉症の症状が出ている。
やっと、家が見えてきた。
この家は玄関にせり出して風除室を設けている。
風除室の扉の前に来るとスマホがスマートキー代わりになってカチリと鳴り扉が開いた。
逃げ込むように中に入る。
この風除室の扉はスマホの他にIDカードで開くようになっている。
ここまでは宅配の配達員やお巡りさんは入ってこれる。
そして玄関の扉は顔認識で開くようになっている。
仕方が無いので帽子を脱いで花粉保護めがねを外して、マスクを外し、ノーズマスクも鼻から取り出して外して認識用のカメラに向かう。
すぐに玄関の扉が開く。
中に入ると靴箱の上に置いてあったイオンスプレーを顔に掛けて、身体全身に掛ける。
着ている服を脱ぎ出すと壁に付いている30㎝ほどの穴へと放り込んでいく。
帽子も花粉保護めがねもブラウスもスパッツもブラも穴にすべて放り込むとエアシューターが吸い上げる音を立てて入れたモノはスーパーランドロイドに集められて振り分けられていく。
「ルキノ様、お帰りニャン。東京の会議はどうでしたニャン」
「ただいま、ハチニャン。会議はメチャクチャ、クソだったよ。あのやる気無し連中は変わらないねぇ」
塚田ルキノはショーツを脱ぐと穴に放り込んで全裸のままリビングルームの中に入った。
「さぁ、帰って来たよ。ハイハイ食事の時間だよ」
ルキノは手を叩いて呼びかけた。
「おおっ、来た来た」
ダイニングルームの奥から3匹の猫が出てきた。
ルキノは1匹を捕まえると赤ちゃん抱きをする。
「元気にしていたかミシュン。おおっ、可愛い……くしゅん」
「にゃにゃにゃ」
他の猫も抗議する。
「にゃにゃにゃ」
「ごめん、ごめ……んはぁ……くしゅん……くしゅん……」
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ」
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ」
「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ」
3匹の猫がくしゃみに反応する。
「いつまでも裸でいるからですニャン」
ダイニングテーブル型ディスプレイと壁の100インチディスプレイに映っているコンシェルジュ・キャスターのハチ割れ猫のキャラクターのハチニャンが窘める。
「みんな、ごめん、ごめん。髪にまだ花粉が付いていたようだ」
「シャワーの準備をするニャン」
「みんなに食事をあげてからシャワーにするよ。それと15時から会議室で会議だ」
「了解ニャン。あと21分ですよ」
「私を誰だと思っている?」
「ハイハイ、ニャン」
パウチの猫エサの封を切るとそれぞれの皿に入れて上げる。
「さぁ、機嫌を直してニア、ミシュン。オットーもこっちへ来て、仲良く食べるんだぞ」
ルキノは裸のまま、廊下に出てバスルームに向かう。
脱衣所に入ると花のいい香りがした。
真っ直ぐバスルームに入ると熱めのシャワーを頭から掛ける。
暖かくなったところで冷水に変えて身体をシャキッとさせて3分でバスルームを出てくる。
ふんわりと暖かくなったバスタオルが置かれている。
タオルを取ると身体を拭いた香りの元はこのタオルのようだ。
指定すれば熱風で温めたタオルも、冷風で冷たくなったタオルも用意することが出来る。
この家は2022年の3つ最新技術で作られて入る。
1つはスーパーランドロイドと言って、衣服を取り込んで、洗濯物の仕分け、洗濯、乾燥、折りたたんで、必要箇所にエアシューターで配送してクローゼットに仕舞ったり、その日のTPOに合わせてコーディネートして出したりする。
AIで動いている衣料品のクリーニング&コーディネーターである。
2つ目はキッチンの料理を司り料理や食材の注文をするAIのキッチンオートマトン。
当家では電子レンジ以外、あまり使われることがない。
3つ目はネット通販のアミゾンと契約して建物の屋上に配送用ドローンのメンテナンスハブステーションの契約を行っている。
通常の家庭で提供しているハブステーション契約はモーターの加熱を下げるための休憩やバッテリーの充電を行える場所を提供して月々の契約料をもらうのだが、ここは積載重量5㎏の小型ドローンから積載重量50㎏の中型ドローンまでプロペラ、モーター、バッテリーまで自動換装出来る設備を備えていて屋上全部がドローンのメンテナンス施設となっている。
千葉県がドローン特区だから出来ることである。
関東は特に遅れている北海道、奥州、九州、伊予二名州はすでに全域がドローンの航空領域なのに東京はほぼ全滅である。
千葉県では全域ではないがアミゾンと契約すれば蕎麦屋だってドローンで出前が出来るのだ。
兎に角、オリンピック以降の東京の老化はひどいのである。
交通網は停滞をきたしているし、上空のドローンは全面禁止で配送がかなり難しくなってきている。
地上で無人自動車出しているがそれも一部地域で、空が飛ばせなければ地下で飛ばせばいいと地下鉄網を使ったドローン計画もあるらしいがその後のニュースではあまり聞かない。
タオルで拭きながら脱衣所を出ようとするとハチニャンが呼び止めた。
「ルキノ様、髪を乾かすニャン」
「あぁ、スマン、ハチニャン」
棚からドライヤーを取ると髪にあてた。
熱風がセミロングの髪を乾かす、オリンピック前に買ったモノだがまだキチンと動く。
ルキノは首にタオルを掛けたまんまで裸のまま脱衣所を出た。
「あと8分ですニャン」
「わかった、わかった」
廊下でタオルを運ぶお掃除ロボットとすれ違う。
丸い円盤の形はあまり変わらないが掃き掃除、拭き掃除が出来て上にモノを乗せて室内でモノを配送できる。
オリンピック前のものと決定的に違うのは本体にもセンサーは付いているが各部屋の天井に付いたセンサーやカメラによってAIが掃除の場所を上から指示をするところだ。
裸のまま階段を駆け昇り2階の仕事部屋に向かった。
仕事部屋にはランニングマシンと大きなカプセル状のSFホラー映画に出てくるコールドスリープの機械のようなモノがドカッと置かれている。
この機械がDR、夢想現実を可能にするサイクオリア社のDRボックス-103Bだ。
壁のモニターディスプレイにコンシェルジュ・キャスターのハチニャンが表示される。
「服着てくださいニャン。ルキノ様、羞恥心を少しは持ってくださいニャン」
「おおっ、その前にトイレ、トイレ、大事なことだよ」
棚に折りたたまれたTシャツだけを取って着ながら仕事部屋の中にあるトイレに駆け込んだ。
トイレから出てくると塚田ルキノは大きく伸びをした。
「さて、仕事をしますか」
棚からスマートウォッチと成人女性用に作られたオムツ、レディースオムツを掴むとさっさと履いてカプセルの中へ入る。
カプセルの中でスマートウォッチを腕に付ける。
『体調良好、尿意0%、便意10%、空腹感25%。スマートフォンをDRモードに切り替えます。意識の吸い出しとマージを行います。首をゆっくりリードクッションと降ろしてください。強制スリープモードに入ります』
「はいはい」
マシンはアナウンスをしながらカプセルのフタがゆっくりと降りてくる。
フタが閉じると一瞬で睡眠に入り、光の流れがイメージとして入ってくる。
塚田ルキノの意識は仮想空間、いわゆる夢想現実空間にダイブした。