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第1話 俺はゴーレム

 意識はあった。

 意識はあったのだが、なんかすごく寂しい。

 寒い。…暗い、冷たい。


 目を開けている感覚がない。

 しかしなんだろう、閉じているような感覚もなかった。

 手足は動かない。

 もちろん、首も腰も、口も動かない。

 うん、全部動かない。

 これはあれだろうか。

 俗に言う植物人間という奴だろうか。

 いや待て待て、実際そうなんじゃないか?

 俺は確か、夜中の銀行で強盗に撃たれたんだ。

 それも、その日の昼まで俺を説教していたクソ上司、坂本。

 会社の上司のくせに、夜中に完全防備で強盗に成りすましやがった。

 屈辱だ、あんな奴に負けるとは。

 それに、俺のせいで、部下と同僚が撃たれた。

 部下の方はまだ息があったように思えたが、同僚の方はたぶん…。

 いいやつだったのになぁ。


<常備スキル:視覚付与を習得しました>


 突然、脳裏に変な声が聞こえた。

 その直後、俺の目に世界の光景が映し出された。

 おぉっ!さっきまで何も見えていなかったのに、急に…!

 しかし、そこには見覚えはなかった。

 巨大な空間…洞窟のようだ。

 鍾乳洞?のようなものがいくつも連なり、やや明るい。

 たぶん、地面から生えている結晶のようなものからの光の影響だろう。

 天井は高くて、暗くなっていて、高さが分からない。

 しかし、相当広い。

 

 とりあえず歩こう。

 しかし、変わらず手足に力は入らない。

 目が見えるようになっただけか?

 頭も動かないから、自分が今どうなっているのかを目視できない。

 体の感覚もない。

 空気に触れているようなそんな感覚も感じられなかった。


<常備スキル:聴覚付与を習得しました>


 再び変な声が脳裏に響いた。

 瞬間、洞窟内の物音が、俺の耳に入ってくる。

 突然のことに驚いたが、別に体は反応しない。

 空洞音のようなものが聞こえる。

 コウモリのようなチュンチュンという鳴き声も聞こえる。

 川も流れていそうだ。


 そして、今さっき俺の脳裏に響いた声。

 スマホでいう、Siri?みたいな感じの機械音だ。

 しかし妙に感情移入されているような、不思議な声色。

 さらに、スキルの習得。

 確かに、”声”はそう言った。

 最初はシカク付与。

 直後に目が見えるようになったから、シカクは視覚のことだろう。

 次にチョウカク付与。

 視覚との関連性や、直後に音が聞こえるようになったことから、チョウカクは聴覚のことで間違いないだろう。

 しかしそうなると、俺の脳裏に響くこの声は、耳で聞こえているわけではないのだろうか。

 文字通り、”脳裏”に響いているっぽい。


<常備スキル:体内時計を習得しました>


 また声が響いた。

 しかし、直後に何かが訪れるわけではない。

 体内時計…?

 俺の認識からすれば、体内時計はあれだ。

 ある種の直観というか、人間の本能の一種だろう。

 それが、習得された?


 というか、今何時だ?

 そのとき、俺の脳裏に数字が表示された。

 見た感じその数字の羅列は、時を刻んでいた。

 一秒ごとに、数字が増えていく。

 ん?これが体内時計か?

 現在の数字の羅列は、00:09:19。

 たぶんだけど、俺がこの状態になってから、9分19秒が経ったってことだろう。

 すごい、なんだこの能力…。






 俺がこんなわけのわからない状態になってから、12時間が経過した。

 体内時計は今、12:02:49をさしている。

 どうも、時間の感覚は普段のときと同じらしい。

 1秒は紛れもなく、秒針が一目盛り進む速度で、1分は60秒、1時間は60分だ。

 そんなこんなで、軽く半日が過ぎたという計算になる。

 退屈すぎて死にそうだ。

 だが、不思議なことに、腹も減らなければ眠くもならない。

 まあ、感覚がないからかもしれないが、いつまでこんな状態が続くのだろうか。


 そのとき、暗い洞窟の天井から、何かが姿を現した。

 それは、見たこともないほど巨大な蜘蛛だった。

 口元から唾液のようなものが滴り落ちる。

 そのたび、唾液の落ちた岩場が溶けている。

 胃液?

 巨大蜘蛛は俺に気付いているようで、糸をたどって近寄ってくる。

 離れていても目に見える程の太い糸だ。

 だが丈夫そうだ。

 それにしてもなんだこのデカさは…。

 ここは日本じゃないのか?アマゾンの洞窟か?

 巨大蜘蛛は俺の所へと到着…。

 やばい、これ死ぬんじゃないか?

 巨大蜘蛛は俺の体に張り付き、歩き回る。

 感覚がないから不思議な感じだが、最高に気味が悪い。

 悪い夢でも見ているようだ。

 それに、首が動かないから、蜘蛛がどの辺にいるのかも分からない。

 ただその、不気味な足音と声だけが聞こえる。


<常備スキル:触覚付与を習得しました>


 その声の直後、俺の体に何かが徘徊するような感覚が襲った。

 うぎゃああああああ!!なんだこれ!気持ち悪ッ!

 触覚が復活したからか!!

 巨大蜘蛛が歩くたびに、嫌な感覚が体を襲う。

 ソワソワ、ヒリヒリ、チクチク…。

 やばい、すごい嫌だ。


<常備スキル:運動能力を習得しました>


 その声の直後、俺の体が自由になったのが、一瞬で分かった。

 う、動く…!

 俺はすぐさま、背中に張り付いている蜘蛛を手でつかみ、吹き飛ばした。

 蜘蛛は軽々と持ち上がり、軽々と吹き飛んでいった。

 え?ハンマー投げか何か?

 そう思うほど、俺は今怪力だった。


 足が動く!手が動く!首もうごっ――――――

 え…?

 混乱…というか、唖然とした。

 首を動かせるようになったもんだから、試しに自分の体を見てみたが…。

 なんだこれ、岩?

 手を見る。

 指は5本あるが、どれもゴツゴツとしていて、茶色い。

 足も、胸も腹も、腰も同様だ。

 すべて岩で作られたような…そんな体躯。

 あれかな?アイボ的なあれかな?

 不思議だが、触覚はあるため、自分の肌の感覚が分かった。

 やはり岩のようにゴツゴツとしているが、スベスベとしている。

 磨かれた石で作られた体…そんな感じだ。

 顔を触ってみる。

 大きく、若干四角いような気もする。

 髪の毛がない…。

 股間に手を当てる。

 もちろん、俺の息子も付いていない。

 この見た目…感触…もしかしてあれじゃないか?

 ゲームとかでおなじみ…遺跡の守護とかをしている…。

 いや、まだ決めつけるのは早い!

 どこかに川が流れているのは確かだ、音がする。

 水面に映った自分の顔を確認してから、確信しよう。


 とりあえず、何不自由なく歩けるのは助かった。

 てっきり岩だから、関節もないのかと思っていたが、そうではない。

 関節も足首、膝、腰と、しっかりしている。

 内部は骨で出来ているのだろうか?

 手も同様に、手首、肘、肩と、しっかりと関節がある。


<スキル:事物鑑定を習得しました>


 再びあの声がした。

 事物鑑定…?なんだそれ。

 体内時計よりも意味が分からない。

 それに、今度は”常備スキル”ではなく、只の”スキル”だ。

 これにはどんな意味が…


<常備スキルとは、ON/OFFの切り替えを必要としない普段から備わっている基本的能力のことです。スキルとは、ON/OFFの切り替えを必要とし、必要な時にのみ使用するのことのできる能力のことです>


 おーおーおーおーおー!

 長々と説明が脳裏に響く…。

 というかいま、俺の疑問に答えてくれたのか?

 そうなのか?そうなんだろ?


<その通りです>


 おぉー!!

 なんだこれ、なんか感動する…。

 12時間も身動きとれぬまま孤独でいたせいか、ものすごく感動する。

 そもそも、君は誰なんだい!?


<私は、あなたのネイチャースキル”説示者(ガイド)”です>


 ネイチャースキル?ガイド?


<ネイチャースキルとは、個人に生まれつき備わっている唯一無二の特殊な能力のことです。

 また、私の能力は、あなたの疑問の解決です。解決できる範囲には限りが存在します>


 おぉ…、なんて分かりやすい説明だ。

 是非ともウチの会社に…って、俺はもう死んでるんだった。

 …ん?俺って死んだのか?

 結局のところ、俺はなんなんだ?


<あなたはゴーレム。前世で人間だったあなたは死に、ゴーレムとして転生されました>


 あー、なるほどね。

 俺は死んでゴーレムに転生したわけか。

 って信じられるか!誰が信じんだよ!

 誰がゴーレムだ!


<あなたがゴーレムです>


 やめろ…やめてくれ…。

 待ってくれ、俺が何かしたか?俺はなぜゴーレムに…。


<私には分かりません>


 いや分かんないのかい!

 なんでも知っているわけじゃないんですね、それはそうですよね。

 全知全能であるはずがないもんね…。


 予想は出来ていたが、まさか本当に…。

 人間だった頃、俺が予想したことは大体外れていたのだ。

 だから今回も…と思ったのだが…。

 というか、自分で”人間だった頃”とか思っちゃうあたり…。

 だあぁぁぁぁ!あのクソ上司!!


 俺は怒りに任せて、拳を握りしめ、近くの岩山を叩く。

 すると、岩山はすさまじい音を立て、砕け散った。

 工事現場でダイナマイトを爆破させた後のような喪失感が、よぎる。

 

 え?何このパワー…。

 さっきの巨大蜘蛛投げ(未来のオリンピック新競技)といい、今のダイナマイト級の破壊力といい…。

 やっぱり俺って、ゴーレムなの?


<その通りです>


 うっ、なんか腹が立つ。





 しばらく歩いていると、川を見つけた。

 穏やかな流れだ。

 川の中には、洞窟中にあるものと同じ青い結晶があり、川を明るく照らしていた。

 ゆっくりと、水面に顔を近づける。

 そこには、なんかすごい顔。

 四角形に近いゴツゴツした頭。

 目の所は、闇のように暗くなっていて、目はまん丸くて赤い。

 口と耳は見た感じ、無い。

 鼻は…鼻のような形をしているだけか?

 強面ゴーレムというより、優しい面のゴーレムといった感じだ。

 これであの破壊力…やっぱり俺はゴーレムだ。


 すると、再び何やらカサカサと音がした。

 振り向くと、そこにはさっきと同じ巨大蜘蛛。

 さっきのやつかどうかは知らないが、同じ種類だ。

 あ!そうだ、こんな時にあれを使おう…。

 とりあえず、心の中で念じてみる。


<事物鑑定を使用します>


 おっ!うまくいった!


<アナグラグモ。体内に微量の毒を持つクモ。暗い所に生息している>


 なんだろう。まるでゲームのようだ。

 攻略本を読んでいるような気分になる。

 肝心の攻略法は分からないのだが…。

 とりあえず、こいつ、倒してみるか。

 俺は、カサカサと地を這ってくるアナグラグモを、容赦なく拳で叩き潰した。

 鈍い音がした。

 アナグラグモは動かなくなった。


<常備スキル:毒耐性(極弱)を習得しました。

 常備スキル:暗闇耐性(極弱)を習得しました>


 何やらいっぱいスキルを習得したようだ。

 毒耐性と…暗闇耐性…。

 効果はたぶん文字通りだろうけど、まだ極弱か。


 こんな感じで、俺のゴーレム人生は幕を開けるのであった。


  

次回も洞窟探検ですたぶん

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