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第0話 銀行強盗

 上司の声が職場に大きく響いた。

 落ち着いてくれ…二日酔いで頭が痛いんだ。

 まあ、その二日酔いが原因で今怒られてるわけだけど…。

 今日までに仕上げなければならなかった資料を、案の定やり忘れていた。

 というか存在を忘れていた。 

 昨日は流れで同僚と飲みに行ってしまったからな。

 いやあ、酒は進むわ、愚痴はこぼれるわ…。

 

「お前の!その!無責任な態度が!我が社の名を汚すことに―――――」


 出た、うちの上司の常套句。

 『我が社の名を汚すことになる』

 社訓じゃねえんだから、そんなに多用されても別にこっちは焦らない。

 だいたいこいつは、頭ごなしに怒鳴っているだけだ。

 こいつがまともに仕事をこなしている姿を、俺は見たことがない。

 こいつの良い所を敢えて上げるとするなら、コーヒーの趣味が俺と合うことくらいだ。

 それだけ。


 こんなんだけど、仕事は結構楽しいし、好きだ。

 同僚も面白いやつらばかりだし、上司も部下も、みんなして訳が分からない奴らばかりではない。

 気が合う者だっている。

 むしろそっちの方が多いくらいだ。

 だからこんな、意味の分からない上司の説教の一つや二つはヘでもない。



 

 俺の名前は土屋哲也。

 肌の色が黒そうな名前(偏見)だが、俺は結構色白だ。

 子供の頃から、野球部であったくせに色が白かったくらいだ。

 焼けるんだけど、焼けてもすぐ元に戻るんだよね。

 今は、銀行員として働いている。

 銀行員といっても、地方の小さな支店が職場だ。

 給料だってそこまで高くないし、家だってまだアパートだ。


 今年で30になるが、彼女はいない。

 高校生の時に付き合ってた彼女が交通事故で死んだっきりだ。

 悪いが、彼女いない歴=年齢ではない。

 

 会社の同僚からは、タギョーと呼ばれている。

 なぜ、あだ名がタギョーなのか、お分かりだろうか?

 俺の名前を見ればすぐにわかるはずだ。

 俺の名前は土屋哲也。

 土屋哲也……つちやてつや……。

 そう、俺の名前にはタ行が多いのだ。

 だからまあ、タ行→タギョーだ。

 そんな話はどうでもいい。


 俺は今の生活に、特に大きな不満など無い。

 近くのコンビニに好きなお菓子が売ってないとか、近くの床屋が高いとか、そういう不満はある。

 だが、人生に絶望し、今すぐにでも死んでしまいたいくらいの不満は一切ない。

 俺は今の生活に満足しているんだ。


 だからまさか、これから起こることなんて、予想もしていなかった。


 仕事終わり。

 今日は酒なんぞ飲まずに、残業をして帰る。

 

「オラァ!金を出せ!!」


 銀行強盗だった。

 全身黒の服に身を包み、サングラスとマスクとニット帽。

 肌の露出が殆どない。

 よほど、身元がばれるのが怖いらしいな。


「そこのお前ェ、この袋にありったけの金を詰めろ!」


 俺は指をさされた。

 寄りによって…。

 俺意外にも同僚が一人、部下が一人いたが、なぜか俺が呼ばれた。

 見た目で決めたのか?

 だが、それが大きな間違いだ。


 俺はゆっくり近づき、カウンター越しで袋を手に取る。

 銀行強盗の右手には、拳銃。

 銃口をこちらに向けている。

 まったく、どこで手に入れたんだか…。


 俺は札束を袋に一つずつ入れていく。

 これはあくまで時間稼ぎ、だが、スピードはやや速めだ。

 あまり遅すぎると、強盗を怒らせることになるからな。


 そして俺には、この状況を乗り切れる自信がある。

 実は、俺は昔警察にあこがれていたのだ。

 そのため、中学の頃から中国の何とか拳法を独学で学んでいた。

 今もやっているが、どうしても拳法の名前は出てこない。

 その拳法には、銃を構えられた時の対処用のものもあった。

 それを習得しているから、こんな奴はカウンター越しだろうとなんだろうと、余裕なのだ。



 袋の半分くらいまで金を満たした。

 そろそろか。


「…おい、あんた」


 俺は銀行強盗に声をかける。

 大丈夫…何とかなる…。

 もちろん実践で拳法を使うのは初めてだから、緊張はする。


「こんなことやっても…いずれ捕まる…ぜっ!!!」


 俺は男の右手に手を伸ばし、拳銃を吹き飛ばす。

 拳銃は激しく回転しながら、どこかへと吹き飛んでいく。

 そしてカウンター越しに、男の胸のあたりを蹴り飛ばす。

 男は吹き飛び、胸のあたりを抑える。


 パァン!

 

 銃声とともに、俺の背後でうめき声が聞こえた。

 振り向くと、職場に残っていた俺の部下が、胸を押さえていた。

 抑えている胸からは、大量の血が流れ出ている。


「なっ…!」


 見ると、銀行強盗は胸から拳銃を取り出した。

 どうやら、拳銃を二つ持参していたようだ。

 これは…やばい…。


「手を上げろ」


 男は銃を構えたまま、立ち上がる。

 くそっ…俺のせいで部下が撃たれた…。

 早く病院に連れて行かないと、ヤバイ。


 パァン!


 今度は同僚が撃たれた。

 同僚は声を上げることもなく、その場に倒れた。

 デスクに血が飛ぶ。


「てめぇ!!」


 俺は怒りに任せて、男につかみかかる。

 だが吹き飛ばされ、左肩を撃ち抜かれる。


 痛い…熱い…。

 左肩がドクドクと脈打っているのが分かる。

 血が止まらなかった。


「本当は殺したくなかったけど…残念だよ」


 銀行強盗はサングラスを外しながら、そう言う。


 サングラスの下のその姿は…俺のよく知っている顔…。

 

 俺が今日、怒られた上司だった。


「坂本…さん…?」

「まさか、君との最後のやり取りが説教とは…本当に残念だ」


 



 俺は、額を撃ち抜かれた。




 

 そして、ゴーレムの製造が開始される。



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