実力?
アリスとアレンが自分達の正体…『帝』ということを明かしてから1週間。
学園の休日を利用し9人は校門に集合していた。
「さて、皆様集合いたしましたわね。」
「じゃあ今からギルドの近くに転移するから僕かアリスに掴まってくれ。」
アレンの言葉にシルバが右手を上げる。
「何だい?」
「何で本部の近くなんっすか?」
「近くじゃなくて前では駄目なのか?」
本部のことを知らない7人は同じ事を思っていたのかアリスとアレンの答えを待っている。
小さく息を吐き出すとアリスが答え始めた。
「ギルド本部付近には敵対する者達避けに転移が出来ないようになっていますの。
無理に転移致しますと四肢が引き千切られるような激痛が体に走りますのでしないことをオススメ致しますわ。」
「範囲は本部を中心に1㎞ほどあるから注意しなよ。」
2人の説明に対して皆は大きく頷いた。
「それでは行きますわよ。」
「「転移。」」
2人が同時に声を出すと9人の体が輝きだし、全員の姿が校門から一瞬で消える。
それから数十秒もしない内に「目を開けても良いよ」とアレンの声聞こえ、シン・マイ・ヨハン・カノン・ウェルチ・秋雨・秋雨は目を開く。
9人のいる場所、そこは学園の校門ではなく、木々の生い茂った森の中であった。
「ここはミッドランドギルド本部より1㎞の場所『神秘の森』ですわ。」
「何かと厄介な場所だから早く抜けるよ。」
アリスとアレンはそう言うと早々と歩き出す。
5人は頭に『?』を浮かべたが、アリスとアレンを見失う前に追いかける。
“この森厄介な子が住み着いているんだね”
“あの2人が早く抜けたい訳はそれだな“
“でも逃げ切れないかも、段々近付いて来るし…“
“…アリスとアレンがどうにかするだろう”
”そうだね”
何かの気配を感じ取ったシンとマイだが、人任せにすることでまとまり念話を切る。
そしてそれからほどなく…。
「見つかってしまいましたわね。」
「さてどうしょうか。」
立ち止まり呟くアリスとアレン。
そんな彼らの目の前に白い小さなウサギが現れた。
「かわいいですね。」
「私可愛いの大好き!」
カノンとウェルチはそう言いなが白い小さなウサギに近付いて行く。
「いけませんわ!」
「2人とも離れるんだ!」
アリスとアレンは慌てて2人の手を掴むと思いっ切り引っ張り戻した。
「何すんのよ!?」
「痛いです…。」
引っ張り戻された際に尻餅をついた2人は声を上げる。
「申し訳ありません。ですがあのウサギは…。」
「今説明している暇はないよ、皆はウサギから離れて僕たちの後ろに!」
次の瞬間、
「ぴぎしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
白い小さなウサギが悲鳴の様な声を急に上げ始め、その声は森中に響き渡り、声が収まると今度は遠くから大きな音が聞こえてきた。
『バキバキっ』と大木を倒す大きな音に加え、大きな足音。
アリスとアレンは逃げられないことを悟ると音のする方向を見つめる。
そして全員が見たのは、恐竜の様な体とウサギの様な愛くるしい顔を持っている巨大な生物であった。
「ウサノザウルス…体は巨大で他の生物に恐怖を与える…と同時に可愛い顔で気を緩ませる。」
「ですが立派な肉食獣ですから、皆さん私達の後ろにおいでなすって。」
2人が帝と知っている7人はササッと素直に従った。
それを確認したアリスとアレンは同時に言う。
「一撃で倒す(しますわ)!」
そして目に止まらぬ速さでウサノザウルスの懐に入り込むと、それぞれ槍と銃を取り出すと同時にウサノザウルスの体が傾きはじめ大きな音をたてて倒れる。
一瞬の出来事を見ていた5人は唖然としていた。
“頭部・胴部・腕部・脚部、あの一瞬の内に全部急所に当てちゃったよ”
“前面と背面で役割を分け…なかなかやるな”
マイとシンは2人の動きがしっかりと見えていたらしく、ウサノザウルスの一瞬で倒れた理由を念話で話していた。
「皆さん、またあの小さなウサギに見つかりますとウサノザウルスがやって参りますので急ぎ本部へ向かいますわよ。」
アリスの言葉にボーッとしていた面々はハッと我に帰り頷く。
「それじゃあ修行の一貫として本部までダッシュするから全員後ろにしっかりとついてきてくれよ。」
アリスとアレンはクルリと体を反転させながら言いとそのまま走り出した。
本部の位置をしらない彼らが2人に置いていかれるということは、ウサノザウルスに出会う確立が高くなる。
はぐれた状態で会うのは危険と察し、遅れをとらぬよう2人の後を慌てて追いかけるのである。
アリスとアレンは相当手加減をしていたのだが、本部につくや否や、ヨハン・カノン・ウェルチは倒れ込み、秋雨は膝に手を当て息を荒げていた。
「さっ…流石帝…ね…。」
「息…一つみだ…していない…っす。」
ウェルチとシルバは途切れ途切れに話す。
「まだまだ本気じゃないよ。」
「このくらいで参ってしまう様ですと厳しくいかなくてはなりませんわね。」
アリスとアレンは黒い笑みを浮かべながら言った。
「本気じゃないって…。」
「次元が違います。」
「……………。」
ヨハン、カノン、秋雨の3人はアリスとアレンの異質さに呆れてしまっていた。
会話をしている9人の現在地はギルド本部の目の前であり、木が鬱蒼と生い茂った森の中を抜けた場所にある。
ギルド本部自体は巨大な塔の様な建物だ。
「ってか、スッゴク高いねぇ。すぐに折れちゃいそうだよ。」
「簡単に崩れる分けないだろう。」
「シンさんの言う通りですわ。
この塔の強度はしっかりと計算に入れ設計してありますの。」
塔をジーッと眺めていたマイがいきなり口をあけ言うと直ぐにシンとアリスに訂正される。
そしてある程度皆の体力が回復したところで、本部へと足を踏み入れた。
アリスとアレンはギルド本部に入る前に帝の証拠である青と黄色のコートを着てズカズカと歩いている。
勿論顔も見えないようにしっかりと隠して。
そんな2人を見ている周囲の人達はキラキラと目を輝かしていたが、その帝が連れている者達に対しては、人が殺せるのではないかと言うくらいに鋭く睨み付けていた。
「あれま、何かすっごく睨まれちゃってるねぇ。」
「まぁ…だろうな。」
「帝ってやっぱり凄いんだな。」
「私こういう視線苦手です。」
「あーっもう!何なのよ?!」
「落ち着け。」
「落ち着いてなんていられないっす!」
マイ、シン、ヨハン、カノン、ウェルチ、秋雨、シルバは視線の事が気になるのか文句や何やら言いながら歩いていた。
縦に長い塔の中を上ではなくしたに下り、9人のやって来た場所は何個もの扉がある通路。
「ここは?」
「ここは合宿場で全員が寝泊まりする場所さ。」
「この扉の中がお部屋ですので荷物をお置き頂けましたらまた通路にお越しくださいませ。」
秋雨の問いにアレンとアリスが答えると納得したのか、自分の好きな扉の中へ入り荷物を置くと直ぐに通路に出てきた。
「皆さん揃いましたわね。」
「じゃあ早速だけど君達の今の実力を見たいから演習場に向かうよ。」
2人はそう言うと再び歩き出す。
階段を一つ降り通路を歩くとそこには先程の様に扉が沢山あり、その内の奥から2番目の扉の中、そこは土の敷いてある大きく広い場所であり目的地の演習場であった。
「広いっす、大きいっす!」
「学園の演習場も広いけどこことは比較にならないわね。」
シルバとウェルチは演習場の広さを見て素直に驚いている。
「さて、着いて早々なんだけどお手並みを拝見させてもらおうかな。」
ニヤリと笑いアレンは言う。
「順番ですがヨハンさん、カノンさん、ウェルチさん、秋雨さんとシルバさんはアレンと。
シンさん、マイさんは私とアレンでの勝負でいかがでしょうか。」
アリスは坦々というが、その言葉に納得がいかないのか面々はやはり反論してしまう。
「5対1!?帝だからって俺達をばかにし過ぎじゃねぇか?」
「納得いかないですね。」
「同じBランクなのに私達は5対1、あの2人には2対2なのね。」
「ふざけるな。」
「1対1では勝負にはならないことは分かってるっすけど…。」
自分達の力をバカにされたように感じた5人はそれぞれの意見を述べる。
しかし…
「君達は僕達に意見できるだけの力を持っていると言うのかい?
5対1でも君達は僕に触れることも出来ないだろうね。
BランクとSランクの差はそれだけあるってことさ。
あの2人は僕らでも分からない何かがある。
だから2人でやるって事にしただけ。
僕らに意見したいのであればこの5対1でぼくに一撃でも当てて見てくれよ。
そしたら今後の対応も考えてやるさ。」
アレンはそう言い放つと『フンッ』と鼻から息を出し、演習場の中心へと歩いていく。
それを見た5人も小さく頷くと歩いて行った。
「あらあら、アレンもムキになったりして。」
「でもアレンの言ってる事は間違ってないよね。」
「そうだな。」
残ったアリス、マイ、シンは演習場の外から中心を見て言っていた。
「さて、準備は良いかい?」
アレンの言葉にヨハン、カノン、ウェルチ、秋雨、シルバは静かに頷く。
「よし、じゃあ君達に先手を譲ってあげるよ。」
「こいつ……バカにしやがって!!!」
アレンの一言で頭に血が上ったヨハンは考えなしに1人で突っ込んでいってしまう。
「君って単純だね。」
「何とでも言いやがれ!一撃入れてやる!!!」
ヨハンは装着した自分の武器に魔力を込め十分に練り込むとそれをアレンに放つ。
「土の砲撃、全てをぶち壊せ……クレイバズーカ!!!」
近づいていた事と腕の振りにより威力を増した土の砲撃は通常のこの技の数倍もの威力がある。
ズガァァァァァァァン!!!!!
アレンは避けることなくヨハンの攻撃を直に受ける。
辺りは砂が巻き上がり何も見えない。
「や、やったか!うっ……くぁ……」
砂が巻き上がっており周りには状況が全く分らなかったが、砂が晴れるとその場には何も無かったかのようにアレンが立っており、アレンの足元にはヨハンが倒れていた。
「魔力の練り込み方が甘いね。さて次はどうするんだい?」
アレンは倒れたヨハンから目を離し再びニヤリと不適に笑う。
「……個人じゃやっぱり無理ですよね。」
「じゃあどうするんすか?」
「チームプレー。」
「散っていったヨハンの為にも敵討ちよ!」
「「「「オーッ!」」」」
注)ヨハンはまだ生きてます。
4人は声を出すとアレンに向き直り、そして散り散りに動き始めた。
「1人では無理だと分かった上でのチームプレーかい?まぁいい……かかってこい。」
少し間をおくとアレンはクルリと反転し何処からともなく飛んでくるナイフを叩き落とす。
「抜刀術―居合―」
アレンの背後から秋雨は武器である刀を鞘から抜く。
近距離の背後、そして障害物を弾いており手の使えない状態のアレンに避けることは不可能だろう。
普通の相手ならばだが。
「僕の意識を目の前のものへと反らし背後からの素早い攻撃。
まぁ良い攻撃法だけど、僕は帝だよ?」
アレンは今まで手で払っていた無数に飛んでくるナイフに背を向け秋雨を見ると、振り払われている刀の刀身部分を受け止め横へと流す。
そこで危険を感じた秋雨は刀を離し距離をとる。
その間アレンはナイフを全て足で弾き落としていた。
「ちっ、あんたそんな体制でよくもまぁ…。」
スッと姿を現したウェルチの手にはナイフが握られている。
「僕的にはウェルチさんのナイフが何処から出てくるのかが知りたいですね。」
「ふふん、それは企業秘密よ。じゃあ、次は私が2人になったらプランで。」
ウェルチは楽しそうに言うと、桃色掛かった翼を羽ばたかせ空へと舞い上がる。
そしてウェルチの下にもう1人のウェルチが現れた。
「シルバさんか。」
アレンが呟くとウェルチとシルバから再び無数のナイフが放たれた。
「全く、あの変装はそんなことも出来るようになるのかい?」
溜め息混じりにアレンは言うと何事もないかの様な涼しい顔でナイフを避け始めた。
「避けるだけじゃ何も変わらないわよ……風纏刀、」
「本当ね、まぁ私達的にはそれで良いけど…風纏刀」
同じ姿に同じ声、それに加え同じ技まで繰り出してくる。
「風を纏ったナイフは鋭さを増す。」
ウェルチは呟くとナイフを放つ。
「魔法は使わないつもりだったが仕方ない…雷針!!」
アレンの放った細い雷はパチンパチンと音を立てナイフを次々と落としていく。
「豪炎、全てを焼き払いて無に還せ…豪火炎放乱舞!!!!」
「黒き焔が現れる時、闇の世界が広がらん…暗黒焔翔流」
どこからか2つの声が響き渡り、アレンに向かい紅い炎と黒い焔が放たれ、その2つの炎は交わり更に威力を増大させる。
「「リフレクション!」」
自ら被害を喰わないように、そして弾くシールドをウェルチとシルバは張った。
「私皆さんに『強大な魔力が込められているシールドが張られている為周囲の事は気にせずとも宜しいですわ』と言いましたかしら?」
「初耳だ。」
「何も考えてないから周りが見えてない、何かフィールドは凄いことになっちゃってるね。」
ナイフは飛び交い雷は落ち炎が巻き上がり……天変地異が起こったかの様になっていた。
「そろそろ止めないとアレンが本気になってしまいますわ。」
「…遅かったみたいだな。」
「魔力がどんどん上がっちゃってる。」
その瞬間フィールド内に『ズドォォォン!!!!!』と大きな音と共に雷が落ちた。
「あーあ、アレン全員殺しちゃったんじゃない?」
「「…………。」」
笑いながら言うマイにシンもアリスも返事をせずにフィールド内を見つめていた。
するとそこに人影が現れる。
1…2…3…4…服が焦げたりフラフラになってはいるがなんとか全員生きていたようだ。
「ったく、力を見るだけって言ってたのになんで本気になるのよ!!」
「全くだ。」
「私…もうだめかもです。」
「俺も……無理っす…」
「悪かったよ…つい。」
ウェルチと秋雨は文句を言える分元気だが、カノンとシルバは限界の様で、そんな4人を見ながらアレンは面目無いと謝っていた。
「それにしましても皆さんご無事て何よりですわ。」
「普通なら死んでるな。」
「生きてて良かったよ。」
「本当よ…でも何で助かったんだろ?」
首を傾げながらウェルチは言う。
「神様が助けてくれたんじゃない?」
マイは隣に立っているシンを見ながらニヤニヤとしていた。
その理由は雷が落ちる瞬間、シールドを張り、皆が死なない程度でシンが守っていたから。
シンはそんなマイの視線を気にすること無くアレンの元へ行く。
「次は俺達とだが大分魔力を消費したのでは?」
「次は僕の他にもアリスがいるんだからこれくらい平気だよ」
「そうか、なら始めるぞ。」
シンはそう言うとフィールドの中へ入っていった。
「あれ?無視ですか?また無視するんですかぁぁぁぁ!!!」
マイは叫びながらシンの後を追いかけ、アリスとアレンも中に入る。
全員が中に入ったのを確認するとシンはアリスとアレンに言う。
「俺とマイ、アリスとアレンで良いんだな。」
「そうですわ。」
「遂にシン、君の力を知ることが出来るんだね。」
「フンッ。」
「じゃあとっとと始めますかね、レディーーーっゴーーー!!」
何とも適当で合っていない掛け声と共に試合が始まったのであった。
「セリスティック!!」
アリスは物凄い速さで自分の武器である槍をシンに連続で突き刺している。
しかしそれをシンは何でもないかの様に軽やかにかわす。
「セリスバレッド!!」
同様にアレンもマイに連続で二丁の銃から弾丸を放っていた。
だがその表情は不本意そう。
「…僕がシン君とやるはずだったのに…、アリスはいつもそうだよ…。」
この呟きがマイの耳に入り今まで避けていたがピタリと動きを止まったのでアレンも動きを止める。
「マイ君どうしたんだい?」
その言葉を聞いたマイから『プチッ』と何かが切れる音がしたと思えば次は禍々しい程の黒い靄が現れる。
それに気付いたアリスは警戒しつつアレンの近くに寄り、シンはため息をつきつつはマイに近づいていた。
「マイさんはどうしたのです?」
「さぁ、僕にもわからないんだ。」
アリスは先ほどまでマイと闘っていたアレンに問うが、当の本人も突然の事で何が起こっているのか分かっていない。
「アレン…大方お前が何故自分が俺じゃなくマイなんだとか呟いたんじゃないか?」
シンの問いに自分の言動を思い出しハッとする。
「やはりか…。こいつは目の前の敵が自分じゃなく他の奴を見ていたりその様な発言をするとこうなるんだよ。」
シンの忠告を受けアリスとアレンは身構える。
"超ムカつくんですけど!!"
"落ち着け、本気を出すなよ。"
"分かってるけど……でぇも……懲らしめなきゃだよね"
"……………"
マイは妖艶な笑みを浮かべ念話で伝えると、今まで出していた黒い何かを抑え、アリスとアレンに宣言する。
「私がシンより弱いと思ってるのなら終え間違い。
私ってばシンとの勝負今のところ五分五分だし。
私1人でも勝つ自信あるけど2対2であんたたちに膝を付かせてやるわ!!!」
『ビシィィィッ!』とアリスとアレンを指差しマイは言い切る。
「へぇ……僕達帝に向かって言い切ったね。」
「その言葉直ぐに後悔させてあげますわ。」
「やってみろ。」
シン・マイVSアリス・アレンの戦いが再び始まった。
「小手調べに…死黒蝶」
マイは胸の前で両手を合わせぐっと力を込めるとそのままゆっくりと手を離す。
すると手の中から無数の黒い蝶々が飛び出した。
「行ってちょうだい!」
マイの掛け声に反応した黒い蝶達はアリスとアレンを取り囲むように一斉に飛び出した。
「闇の魔法はあまり見たことがありませんの。」
「この後がどうなるか気になるね。」
2人は興味津々で黒い蝶を見ながら言う。
「単純明快、2人には避けられちゃうと思うけど……死黒蝶、大爆発!!」
その瞬間、アリスとアレンを囲っていた蝶が一斉に爆発した。
辺りは激しい爆発の余波で砂煙が上がり温度も急激に上昇している。
「インテプトカット」
シンは熱さを断ち切る防御壁を離れている場所で苦しそうにしているメンバーに掛けた。
「ふふふ……こんなのはまだ序の口だよ。」
「向こうまで巻き込むな。」
マイは『ビシィィィッ!』と再びアリスとアレンのいたであろう場所を指差し言うが、シンに途中で言葉を挟まれたため決まらない。
不貞腐れた顔をしているマイと呆れているシンの目の前に2つの影が現れる。
勿論アリスとアレンだ。
「やっぱりあれだけじゃダメかぁ。」
「マイ君、君は2属性だったのかい?」
アレンは余裕そうに服をパンパンとはたきながらマイに言う。
「2属性?笑わせないでよ。」
「2属性では無いと言うことなのですか?」
「ふふふっ、私達を楽しませてくれたら教えてあげるよ~ん。」
「いいですわ…その挑戦受けてさしあげましょう。アレン行きますわよ!」
「君達の事を更に知りたくなったよ。
君たちは強い…本気とまではいかないが魔力も解放しよう。」
アレンが言うと2人は同時に指にはめていた指輪を外す。
すると次の瞬間アリスとアレンから恐ろしい程の魔力が溢れ出てきた。
「こりゃあ肉弾戦よりも魔法戦で来るかな?」
「いや、2人を良く見てみろ。」
シンに言われマイは一度目を擦りアリスとアレンを見つめる。
そして納得したのか頷いていた。
「放出された魔力を全身に纏っての強化ねぇ。
まぁだからってやることは変わらないけど。」
「お前がする事は分かっているつもりだが一応言っておけ。」
「そりゃあ………ぶっ潰す!!」
目が本気であるマイを見てシンは大きな溜め息を吐く。
2人がそんな会話をしている間にアリスとアレンの準備は整い、再び武器を構えていた。
「お2人とも、私共の準備は整いましたので…いきますわよ!!」
アリスの掛け声と同時にその場から2人は消える。
「速いな…だが、」
シンは呟くと宙に手を出し何かを思いっきり掴む。
「チィ、この速さにもついてこれるのか!」
「ワンフラッシュ!」
アレンに気を取られていたシンに向かい物凄いスピードでアリスが槍をつきだし一閃する……が、
「こんなものか。」
もう片方の手で矛先をいとも簡単に弾きアリスの腕をも掴んだ。
「あのスピードで来る槍を片手で弾くなんて。」
「2人とも、俺は1人じゃない。驚いている場合か?」
シンの言葉にハッと我に返りアリスとアレンはシンの慌てて腕から逃れ出た。
「まぁた私の事無視しちゃってさぁ…。」
また不貞腐れているマイはぶつぶつと言いながら、シンから離れた2人に手のひらを向け動かす。
2人に向けた掌を右と左を向かい合わせにし、その間に2人を入れる。
「なんですの!?」
「体が!?」
急に体の自由が急に効かなくなったアリスとアレンは困惑しているが無理矢理にでも動かそうとする。
「集めて……」
そんな2人を気にする様子もなくマイは掌をゆっくりと近づける。
「寄せて……」
「今度は勝手に…。」
「いったい何が……」
マイの掌の中に入っていた2人の体が何かに押されるかの様にズルズルと近付き…
「では最後のしめに…叩き潰す!」
マイは近づけていた掌をパンと軽めに合わせるとアリスとアレンはそのまま勢い良くぶつかってしまった。
ぶつかってしまった2人は額を押さえうずくまっている。
「あははははっ、2人共最高!今の動きも流石双子って程に同調してたよ。」
マイは腹を抱え大笑いし、アリスとアレンは何が起こったのか分からないと言う表情を浮かべていた。
「…今一体何が起こったんだ?」
「体が勝手に何かに押されている様でもありましたわね。」
「この正体もお前たち次第で教えてやる。」
シンはアリスとアレンに向かい言う。
「何か僕達あの2人におちょくられてないかい?」
「えぇ、だんだんと腹が立ってきましたわ。」
沸々と沸き上がる苛立ちによりアリスとアレンはシンとマイを知ると言うよりも潰してやろうと考えを変え、もう1つの指輪を外しぼそりと呟くと2人の体から更に魔力が溢れ出す。
「以前あなた達は私達の魔力に触れても何も感じないと言われましたわね。」
「だから僕達は本気のこの力で君達を懲らしめてあげよう。」
アリスとアレンが話している間にも魔力はどんどんと膨れ上がってきている。
「遊び過ぎちゃったかな?」
「かな?じゃないだろうが。」
「確かに。」
膨れ上がる魔力を目の前にシンとマイはニヤリと笑っていた。
「行きますわよ!激流の極み、全てを飲み込み無に還せ……ラピッドクレント!!」
「雷の一撃、閃光のごとく全てを焼き払え……サンダーフラッシュレイ!!」
魔力を最大まで練り込んだアリスとアレンは同時に水の究極魔法と雷の究極魔法を放つ。
荒々と激しく流れる水と閃光の様に速く輝きを持つ雷は混じり合いシンとマイに襲いかかる。
「一応私達学生なのにね。どうする?」
「お前ばかりに攻撃させているから次は俺だ。」
「はいは~い、じゃあ私は後ろに隠れてますよぉ。」
マイは片手を軽く振りシンの背中に隠れた。
シンはマイが自分の後ろに来たことを確認すると詠唱を始める。
「神々の怒りを…光の力を受けよ、神光瞬霊燿激覇。」
唱え終えると同時にシンは向かい来る水と雷の合わせ技に手を向ける。
すると手からは光輝く光線が現れ、大きな音をたてとぶつかり合う。
水と雷の合わせ技と光の光線は同等の威力らしく、ぶつかった場所で微妙な動の移動くらいしかしない。
「2人分の魔法を1人で止めるなんて…。」
「ですが所詮1人、更に魔力を込めますわよ。」
アリスとアレンが更に魔力を流し込めば、ゆっくりだがシンが押され始める。
「…ここまでやるとはな。」
「手貸そっか?」
「あぁ、頼む。」
シンとマイは少しの会話をすると、シンはその状態を保ち、マイはシンの肩に触れる。
「シンいくよ?」
「あぁ。」
「「同調」」
シンとマイは同時が同時に言う。
すると何か違和感を感じたアレンがアリスに問う。
「アリス…今マイ君の魔力を感じるかい?」
「先程までは感じていましたのに…今はシンさんの魔力しか感じませんわ。」
「マイ君自体はシンの後ろにいるんだけど…どういう事だい?」
「今はそれどころではありません。シンさんの魔力はどんどんと上がってきていますわ。」
「今度は僕達が押されてきているね。」
「仕方ないですわ…アレン、魔力を最大まで上げますわよ。」
「分かった。」
冷静に状況把握をしていた2人だが、だんだんと光の光線に押されてきていると感じ、水と雷の合わせ技に魔力を流す。
そして……………
ドバァァァァァン!!!
2つの魔法は相殺し消えてしまった。
「おっ、おい、どうなってるんだ!?」
離れていた場所にいるヨハンは目を覚まし今の現状を確認する。
「今は見えないですが、アリスちゃんとアレン君の魔法をシン君が…。」
「で、ドォォン!!ってなって。」
「バサァァァッと…。」
「ウェルチに秋雨、それじゃあ伝わらないっすよ。」
結界の外で魔力や攻撃の余波(熱風は余波の魔法で)から免れたメンバーはジーッとその場所を見ながら状況を分っていないヨハンに伝えていた。
「一体どうなってんだよ、全く。」
砂煙に覆われている場所を見つめヨハンは呟く。
そして煙が晴れると先程と同じ場所に4人は立っていた。
勝負は決したのか全く動く様子もなくただお互いを見つめ合っていた。
「あいつらどうしたんだ?」
「どうしたのでしょう?」
「見つめ合っちゃって…」
「行くか。」
「そうっすね。」
全く動かない4人を見ていてどうすることも出来ず、ヨハン、カノン、ウェルチ、秋雨、シルバはお互いの顔を見て頷くとフィールドの中へ入ることにした。
「まさか…神級レベルの技が相殺するなんて。」
「お見事としか言い様がありませんわね。」
アリスとアレンは目の前に出来た大きな穴を見て呟くように言う。
「んーっ、中々楽しかったよ。」
「そうだな。」
マイとシンが言うと足音と共に声をあげる5人がその場へとやって来た。
「おい大丈夫か!?」
「物凄い音が……って穴!?」
「大きいわね…。」
「さっきのやつ。」
「あの2つの技をぶつけ合った時のっすね。」
5人は穴を見たあとシン達を見ていう。
「あなた達…以前Bランクと言ってたわよね。
今の魔法は…。」
「それを含めて今から2人に話してもらいますの。」
「十分に楽しんでもらえた様だからね。」
アレンとアリスはウェルチの問いにそう答えジッとシンとマイを見た。
「そんなに睨まないでよ、ちゃんと覚えてるから。」
「順番に答えるから聞きたい事を言ってみろ。」
シンが言うとアレンが綺麗に右手を挙げる。
「君達は何者なんだい?
闇や炎を使用したり訳のわからない魔法、それに神級レベルの技を打ち消したり。」
その言葉に見ていただけの5人は驚いた。
「2属性と言うことですか?」
「わからない?」
「帝が分からない魔法って何だよ!?」
「あの魔法は神級だったのね。」
「神級を放つって!?」
5人の驚きの声は止むどころかどんどんと大きくなる。
「話が進まん。」
「そうですわね…ウォーター。」
ため息混じりに言うシンと呆れ顔のアリス。
アリスは水の初級魔法を5人に放つ。
ビシャッと音ともに5人の頭上から水の塊が落ち、水浸しになった5人は大人しくなった。
「皆様落ち着かれまして?」
アリスの言葉に皆は何度も深く頷いた…否、頷くことしかできなかった。
だってアリスの後ろに般若が見えたから…。
「だははっ、やっぱ皆面白いね。
それじゃあまず属性について……私とシンは…実はね……」
ゴクリ…
生唾を飲み込む音が聞こえるくらいシーンと静まり返っている。
「全属性だよ~~ん。」
「そして分からないと言っていた魔法は『神の見えざる手』という無属性の上級魔法だ。」
その2つを聞いた全員は『はぁ~~~~~~っ!!!!』と大声で叫んだ。
当たり前だ。
人類は1人1属性、あるいは2属性しか持って生まれてこない。
※無属性は一応人類全般使用出来ます。
それは帝である者も同じ。
だからあり得ないのだ。
それに加え無属性の上級魔法を使える人類がいるなんて記録もない。
無属性は中級までしか人類には使用できず、精霊の上級位の者しかそれ以上は使えない極端なものだから。
シンとマイの話を聞いた直ぐから放心状態だったメンバーだが回復し再び話始めた。
「人間……いや、人類離れしてるな。」
「だって人類じゃないもん。」
「本当よね、人類でそんなこと出来るなんて今まで聞いたこともないし。」
「だ~か~ら~!」
「シン君とマイちゃんが初めてと言うことですね。」
「ねぇ~…。」
「希望の星。」
「聞いてますかぁ?」
「うわっ、それはすごいっす!!」
「僕達帝が知らない、出来なかった事をやってのけるなんてね。」
「何故今まで注目されなかったのかしら。」
マイの話をことごとく無視した7人はシンとマイが人間という枠の中で話を進めている。
「シン…私遂に皆にも無視されちゃった…。」
「はぁ…。」
マイは涙目でシンを見て、シンは溜め息を吐き出す。
「ライトニングブロウ。」
シンは光の球体を出し、手を動かし球に指示をする。
全員の頭の上まで光の球が進んだのを確認するとシンはパチンと指を鳴らした。
指が鳴ると同時に光の球は眩しい光を発しながら弾けた。
「うぎやぁぁぁ!!」
「きゃあぁっ!!」
「いやぁぁっ!!」
「っ……!!」
「うわっ!!」
「まぶっ!!」
「なんですの!!?」
ヨハン、カノン、ウェルチ、秋雨、シルバ、アレン、アリスはいきなりのことにズッコけたり身構えたりしていた。
「うぅ……前にもこんなことがあったような……。」
「それはお前が俺の話を聞かないからだ。」
「そう言われてみれば以前もそうでしたね。」
「でさぁ、私が途中で言ったこと聞いてた?」
マイが言うと皆は首を横に振る。
「ヒドイなぁ、もう一回いうからちゃんと聞いててよ。
私達は人間でも魔人でもエルフでも獣人でもないから。」
「人間でも魔人でもエルフでも獣人でもない存在?」
少し間をあけアレンが言い、その問いにシンが答える。
「お前達の側にもいるだろう。」
「はぁ?」
「ヨハンにはロック、カノンにはケイン。
先輩達は分からないけど、アリスとアレンにはウィングとウインドの他に…。」
その言葉に2人の正体に気の付いたメンバーは驚愕の表情を浮かべていた。
「…もしそうだとしても私達の世界に自分達だけの力で介入することは出来ないって聞いてたし授業では習ったわよ?」
「ウェルチさんの言う通りですわ。
無属性の上級以上を使える精霊の数も限られている…証明するものが何もないですわ。」
「じゃあさぁアリスにアレン、もう1人の精霊呼んでみたら?」
「あいつらの方がウィングとウィンドよりランクは高いし何かを知ってるかも…アリス呼んでみようか。」
「そうですわね。」
マイの言葉に流される様にアリスとアレンは精霊の名前を呼ぶ。
「水の精霊王 ウルティモ!」
「雷の精霊王 ボルト!」
2人が呼ぶと空間が輝き精霊が現れる。
1人は女の子の姿で青く長いふわふわな髪で周りに水がふよふよと浮かんでいる。
もう1人は白い虎が服を着て仁王立ちしており、体に雷をまとってる。
そんな2人がアリスとアレンの傍らに降り立ち問いかける。
「マスター何かご用でしょうか?」
「何かあったのか?」
ウルティモとボルトは真剣な眼差しでアリスとアレンをみつめていたのだが…
「…この魔力は。」
「げっ、この魔力まさか!」
2人はアリスとアレンから勢い良く視線を外し一点方向をみる。
そして…
「パパ、ママ!!」
「あっ、兄貴に姉御…。」
嬉しそうに走り出しシンとマイに飛び付くウルティモに後退りし顔を青ざめさせるボルト。
そんな2人を見つめるメンバー。
人の目を気にする様子もなく、シンとマイは会話を始める。
「まさかウルにボルだっとわな。」
「私だって休暇中のパパとママに会えるなんて。」
「ボールちゃん久し振り。」
「へっ、へい!いつもながら…って人間に変化したままですよ。」
「いゃあ……ねぇ、私達が精霊であることを2人に証明してもらおうと思ってそのままにしてたの。」
「ママ、私達じゃなかったらどうしてたの?」
「普通にばらしてたかな?」
「ウルにボル、あいつらに証明してくれないか?」
「「了解!!」」
勢い良く敬礼ポーズをとったウルティモとボルトは固まっている7人に向きなおる。
以前も説明したが、神王と魔王の姿を知る者は少ない。
属性王や側近以外に会う場合は必ず変化しているから。
そんな中ウルティモとボルトは属性王であり、2人とは仲が良い(?)為知っていたのだ。
「マスター起きてますかぁ?」
「おぉ~い…完全にいっちまってるぞ。」
ウルティモとボルトの声に誰も反応せずに固まっている。
「どうしましょ。」
「どうするかな。」
2人は悩んでいる。
技が自分の主人や主人の友人に当たってしまったらと渋っていたのだ。
「んーもう、仕方ないなぁ。
ライトは苦手だけど…プチファイア、プチウォーター、プチウィンド、プチロック、プチサンダー、プチライト、プチダーク。」
マイは掌から各属性の下級の魔法攻撃をさらに弱くした技を固まっている全員にクリーンヒットさせた。
「ねえ、ママ…」
「ウルティモ、何も言うな。」
マイに対してウルティモが何かを言おうとしたがボルトに止められる。
「…お前、無防備の相手になにやってるんだ。」
何も言わずバタリと倒れたメンバーを見てシンは言う。
シンに言われギクリと方を動かしたマイはゆっくりとシンを見て
「てへっ。」
ただただシンは可愛く笑うマイの顔を見てため息を吐いていた。
「全く……オールキュア。」
眩い光が倒れてるメンバーに降り注ぎ、光が消えるとメンバーは気が付きゆっくりと立ち上がった。
「一体なんでしたの?」
「急にバンって…。」
「攻撃された?」
「アッ・…ハハハッ……皆驚いてただけだよ。」
アリスにウェルチ、秋雨の言葉に自分は何もしていないとマイは言い切る。
そしてそれぞれが思い出したのか口々に話しだす。
「シンにマイ、あの精霊達お前達の事をパパとかママとか兄貴に姉御って言ってなかったか?」
「俺にもそう聞こえたっすね。」
「ウルティモにボルト、あいつらは本当に精霊なのかい?」
アレンはウルティモとボルトに詰め寄り問いただすかの様に言う。
「パパとママは立派な精霊ですよ。」
「兄貴と姉御がいなかったらこの世界に精霊はいなかっただろうし輪廻の理なんかもなかったかもな。」
明るくそして簡単に重要な事を言う2人ヨハン、カノン、ウェルチに秋雨、シルバは呆けていたが、アリスとアレンは冷静な口調で話し始めた。
「精霊…属性の王であるあなた達よりもシンさんとマイさんは上位の存在ということで宜しいのでしょうか?」
「そうですよマスター。」
「だけど属性の王であるウルティモやボルトより上なんてありえるのかい?」
「属性の王と言っても俺は雷を使う全種族を纏める存在にしか過ぎない。
お前達人間にも階級があるだろ?」
「私達は人間で言う中級貴族くらいなんです。」
「人間にはあまり馴染みがないと思うが死後の世界ってわかるか?」
「えぇ。確か古い書物に少し記載してありましたわ。」
「死後の世界、地上で生を失った魂は一か所に集められ審判にかけられる。」
「…俺知ってる。」
「私達獣人とエルフの住む国では良く聞く話ね。」
呆けていたウェルチと秋雨が口を挟む。
「確かこんな話でしたよね。
『生と死の狭間の世界。
白と黒の王が魂の審判を下し天・地の扉を開く。
天に召されれば再び生まれ変わり新たな生の道を歩むことができる。
白と黒の2人の王はこの世界に輪廻の輪を作り上げどこからか皆を見守っているであろう。』と。」
「まさかこんな近くで見守っているとはな。」
苦笑いでシンとマイを見ながらヨハンは言う。
「まぁね。でも私達は休暇を貰って人の世に遊びに来ただけ。」
「こいつは急にものを考え実行に移すからいつもヒヤヒヤさせられる。」
マイの言葉にシンが溜息をつくと皆は「いつもの事なんだ…」と心の中で呟いていた。
「ですがあなた方は私達と変わらぬお姿の様ですが…。」
「あぁ、それね。
私達はウル達と同じ人型なんだけど他の精霊とは違う特別な能力を持っているの。
それはね…」
マイは含み笑いをしながら皆を見る。
そしてマイが口を開こうとした時、
「変化の能力だ。」
シンが答えてしまった。
皆は口を開きポカーンとしている中、マイはシンを恨めしそうに見ている。
それに気付いたシンはマイに問う。
「なんだ?」
「なんだ?じゃないわよ!!
私が後から言って皆を驚かせようと思ってたのに…シンのバカァァァァ!!」
マイの言葉を聞きシンは大きくため息をつく。
そして
「…こいつの事は置いておいて話を進めるぞ。」
「置いておくな!!むっギャーーー!!」
「遮音。」
シンがマイに手を向け言うと、先ほどまで「キーキー」と耳に響いていた声が聞こえなくなり口だけがパクパクと動いていた。
「マイに付き合っていると話が進まんからな。」
シンの言葉に意識を取り戻した7人は小さく頷き話に耳を傾ける。
「精霊には様々な種類がおり、それに伴い能力もそれぞれ違う。
水の属性王であるウルティモは水を自在に操る力。
雷の属性王であるボルトには白雷を操る力。
その根源である俺達神王と魔王には全てを統べる力………解除。」
シンがマイに掛けた遮音の魔法を解いた。
「マイ、元に戻るぞ。」
「…分かった。」
何故か大人しくなったマイはシンに従う。
そして2人の体を白と黒の光が包み込み、光が消えたと同時に現れたのは白い翼を背中から生やし白で全身を統一している神王と黒い翼を生やし赤のドレスを着ている魔王の姿であった。
「これが俺達の本来の姿、そして…魔王。」
シンが魔王を呼ぶと、魔王は嫌そうな顔をして呟きながら7人を見る。
「…腹減りであんまし喋りたくないし力も使いたくないのに…じゃあ今から私達の変化の能力を見せてあげる。」
「大人しかったのはただの腹減りのせいかよ。」
「うるさい!」
「ご機嫌も斜めみたいね。」
ヨハンに対し文句を言うマイを見てウェルチは笑いながら言う。
そして急にマイの体が黒い光に包まれ、光が止まり出てきたマイの姿は魔王ではなく、魔王がいつも好んで変化していた黒い鳥の姿であった。
「これが他の精霊にはない変化の能力だ。」
「シルバっちの変装とは違って人間の他にも動物や草木、そして風っていう自然の物にもなりきれちゃうわけ。」
変化したマイを見ていろいろ言っていた7人だったが、その能力の事を聞き納得したのかそれぞれ話し出す。
「力に能力……本当に精霊なんだな。」
「しかも神王に魔王ですか…。」
「強いわけよね。」
「実物が目の前に。」
「本当、凄いっす!!」
「初めから感じていた違和感の正体はこれだったんだね。」
「桁外れにもほどがありますわ。」
「パパとママは本当に凄いんですよマスター。」
「俺なんて2人に会う度に…。」
最後に発言したボルトは自らの失言にハッと思い口を閉じたが時既に遅し…。
"ボルちゃ~ん後で沢山遊んであげるからね"
”楽しくな”
念思で伝える2人の表情を見ていたボルトの顔は現れた時より更に青ざめていた。
”馬鹿ね”
ウルティモはボルトに言い放つとマスターであるアリスのもとへ移動した。
「マスター、もう少しパパとママとお話したいのでこちらに留まっても宜しいでしょうか?」
「えぇ構いませんが…ウルティモはどうして2人をパパとママと呼ぶのです?」
「あっ、それ俺も気になる!」
「まさか2人は婚礼の儀を既に済ませているんじゃないのかい?」
「うそ!?」
「まじっすか!?」
アリスの質問に反応したヨハン、カノン、ウェルチ、シルバはそれぞれ言う。
「いえ、深い意味はなくて、この世で生を終えた私を今度は精霊として生まれ変わらせてくれたのでそう呼んでいるだけです。
因みに精霊に生まれ変わる前はグランドフィッシュでした。
後者の質問は分かり兼ねますが…。
私が生まれ変わる以前から今の状態と変わっていらっしゃらないようですね。」
※精霊にはこの世に生まれ生を失い精霊に生まれ変わる場合と、生まれ変わった精霊同士が夫婦となり子を成す…精霊界で生まれる2つのパターンがあります。
「ウルティモはグランドフィッシュだったのですわね。」
「絶滅してから100年以上経っている。」
「じゃああの二人はそれ以前から生きてるってか。」
「そんなぁ…。」
※グランドフィッシュ
虹色の硬い鱗を持ち、きれいな湖にしか生息できない巨大な古代魚。
と、なんだかんだで全員は2人が精霊だと信じこの話は終了した。
「まぁ、君達の底知れない力の訳が分かったのでそれはそれで良いとしよう。」
「修行の期間は明日から2週間。
短い期間ですのでみっちりと私とアレンの方で訓練いたしますわ。」
アリスとアレンは皆を見ながら言う。
「学園の方は心配しなくても炎帝に伝えておきますので大丈夫ですわ。」
「体術に魔術、それぞれにやってもらいたいことは沢山あるからね。今日はしっかりと体を休めてくれ。」
「ここには東の国に伝わる『温泉』というものがございます。後ほどご案内いたしますわね。」
『温泉』の言葉を聞き一番に反応したのは秋雨で、声や表情には出さないテンションが上がっているようだ。
「秋雨は東の国の出身だからね。久々に温泉と聞いて喜んでんのよ。」
ウェルチが言うと秋雨は少し頬を赤らめ無表情のままうつむいた。
そして皆は一度部屋に荷物を取りに戻ろうとしていた。
「シン君にマイちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」
シンとマイが部屋に戻ろうとしていたところを深刻な顔をしていたシルバに呼び止められる。
「シルバっちどうしたの?」
マイがシルバに尋ねるとシルバはどこから取り出したのか分からないが、ダチョウの卵のようなものを持っていた。
「これは…?」
シンがシルバに問うとシルバはゆっくりと話し出す。
「俺の精霊っす。呼んだ時点で卵だったんだけどそれから全然変化しないんだ…
神王と魔王である2人なら何か分かるかなと思って…。」
シルバの話を聞きシンとマイはジッと卵を見つめる。
「…まさか、こいつはあの時の卵か?」
「あのって…あぁ!
卵のままスピリチュアルセンチュリーに来て私達が持ち帰った卵。」
「そうだ。俺の執務中に急に光を放ち出て行った。」
「私もびっくりしたよ。
精霊達を人の所に送ってたらいきなり卵が飛んで来て異世界の門をくぐっちゃったんだもん。」
「魔力の少ない俺だからっすかね…。」
シルバはしゅんとしながら言う。
するとその時、卵が急に光を放ち点滅を始めた。
「これは…。」
「うんうん…そう、シルバっちこの子は君に話しかけているよ。
『自分が弱いだなんて思わないで、元気を出してよ』だってさ。」
「俺達が出会った頃は卵に命は宿っていなかったが…。」
そう言いながらシンは優しく卵に触れ何度か撫でると再び卵が点滅する。
「…ほう。」
何か納得するとシンはシルバに言う。
「お前…属性はなんだ?」
唐突に聞かれシルバは不思議に思うがすぐに答える。
「…一応風っす。」
「違うな。」
シルバの言葉を何故か否定したシン。
「何言ってるの?シルバっちは風って言ってるのに。」
マイがシンに問うとシン卵に触れるようにマイに指示する。
わけの分からないままシンに言われた通りに卵に触れたマイは「あぁ…。」と納得していた。
「シルバ、お前の属性は風ではない。」
「何言ってるんっすか?俺は風魔法しか使えない。」
「ふふふっ、シンそれじゃあ分からないって。シルバっち、君は風の魔力よりね…。」
そこでマイは一度止めシンに目配せした。
「?」
シルバは疑問に思い首を傾げる。
「卵が言っていた。自分はお前の属性に惹かれたってな。
その属性と言うのが”無”だ。」
「無属性のみの精霊なんて今まで生まれたことがないんだよ。
何もなかった卵がシルバっちの力に呼ばれ、命が誕生した。
そのシルバっちの無の力を伸ばせばこの子は必ず孵る。
それと人間にはいないから広まってはいないけど、無属性を上級まで操れる素質があれば初級だけかも知れないけど全属性が操れるんだよ。」
信じられないという様子のシルバは怪訝そうにシンとマイを見る。
「シルバっち全然信じてないね。」
「目の前に魔力を練りこみ俺に向かい『周りを隠し自分の世界で楽しまん…見えざる世界』と唱えてみろ。」
シルバは不安に感じたがシンの言う通りにする。
「魔力を込めて…周りを隠し自分の世界で楽しまん、見えざる世界!!」
シルバはシンに練りこんだ魔力を放つと、直接受けたシンは体から光が現れそのまま消えてしまった。
その様子にシルバは驚きつつも首をかしげる。
「い、今のは…それにシンは?」
横からマイはハハハッと笑いながらシルバの質問に答える。
「シルバっち、今のは無属性の上級に位置する魔法だよ。
あんなに簡単に使っちゃうなんて、人間で出来たのはシルバっちだけだよ。
見えざる世界は対象にしたものを視界から消す魔法。
ただ見えなくなるだけで実際にはシンは目の前にいるから安心して。
じゃあ解除って言ってみて。」
今度はマイに言われるとおりに『解除』と言ってみると、消えていたシンの姿が2人の目の前に現れる。
「シルバ、お前の使っていた風属性の魔法より無属性の上級魔法のほうがしっくりとこなかったか?」
その質問にシルバは小さく頷き答えた。
「確定だね。」
「あぁ。お前の修行は俺達が引き受けた。
無属性を使いこなせているのは俺たち以外にはいないだろうからな。」
「無属性の精霊にも早く会いたいしね。」
シンとマイは楽しげに言う。
「俺が無属性…本当に上級だったんっすか!?俺頑張る、明日から宜しくっす。」
シルバは2人に大きく頭を下げると笑う。
そして3人は先に行ったメンバーの後を追うようにして各部屋に戻って行った。。
その日の夜、アリスとアレンは皆を連れ人気のない通路を歩いていた。
すると急に2人はある扉の前手止まる。
「男性が右の扉で女性が左の扉ですわ。」
アリスは扉の前で男と女ここで別れるように言う。
そう、アリスとアレンが連れてきたこの場所は、先ほど話にでた『温泉』だ。
「秋雨君本当に嬉しそうだね。」
「……。」
「分かりにくそうで分かり易いんだから。」
マイとウェルチは無表情の秋雨の顔を見ながら言う。
そして男と女で別れ中へと入って行った。
「アレンしっかりと皆さんに伝えて下さいよ。」
「分かっているよ。」
言葉を交わしたアリスとアレンも皆の後を追うように中へはいって行った。
-女性風呂脱衣所-
「では皆様、まずはそれぞれ個室タイプのお部屋で水着にお着替えください。」
アリスの言葉に素早くウェルチが右手を挙げた。
「私ウェストランドの温泉に何度か入ったことあるけど水着なんて着なかったわよ。」
「えぇ、実はこちらの温泉は脱衣所の場所は違えど中は男女とも同じ場所なのです。
ですから必ず水着の着用はしていただかなくてはなりませんの。」
アリスの答えにウェルチは「なるほどね…。」と言った後、直ぐにニヤニヤと笑い始める。
「ウェルチ先輩どうかされました?」
「何!?思い出し笑い?ウェルチちゃんエ・ロ・イ」
「違う違う…いやっ…違わないわね。」
心配するカノンに茶化すマイ。
初めこそは反論していたウェルチだったが最後は一人で納得をしていた。
そして不思議そうにウェルチを見ていた3人に理由を話しだした。
「いやぁ、きっと秋雨がとんでもない事をやらかすだろうなと思って。
ウエストランドの温泉は男女別が基本でね、あいつは無類の温泉好きで温泉の事になると性格が熱くなっちゃうの。
多分アレンがそのことを説明しようとしても耳を貸さずに…。」
「そのまま出て来ちゃうとか?」
「その通り。だから皆、覚悟しておいてよ。」
「秋雨君格好良いから私的にはOKだよ。」
「マッ、マイちゃん!?」
「はしたないですわ!!」
カノンとアリスが慌てふためきながら言っているのを笑いながらマイとウェルチは見ていた。
「でっ、では皆さま、水着は何着かご用意してありますのでお好きなものに着替えられましたら温泉に行きますわよ。」
「「「はーい」」」
アリスの言葉に従い皆は水着を選ぶと、カーテンで仕切られている脱衣所で着替え、着替え終わると外にへと出てきた。
マイは赤が映えるセクシーなビキニ。
カノンはオレンジを基調としたパレオ。
ウェルチはピンク色のワンピース。
そしてアリスは白のシンプルな水着だ。
4人は水着の話をしながら温泉へと向かって行った。
‐男性風呂脱衣所‐
「じゃあここで服を脱いで水着に着替えてくれるかい?」
入ったら直ぐにカーテンで仕切られた場所があり、アレンにここで服を脱ぐように指示される。
カーテンを開け中に入るとそこには脱いだ服を入れるかごとタオル、そして何着か水着が入っていた。
「…これは?」
秋雨は水着を持ちアレンの入った場所カーテンを「バッ!」勢い良く開け物凄い剣幕でアレンに問う。
「何って…水着だけどどうかしたかい?」
「水着を着て?風呂?しかも温泉…。」
明らかに様子の可笑しい秋雨。
そしていつもじゃありえないくらいの大声で秋雨はアレンに言ったのだ。
「これは譲れない、風呂で水着などありえない。俺はこのまま行く!!」
秋雨は水着をポイっと放り投げフェイスタオルを肩にかけ扉まで歩きだす。
そんな秋雨を止めるため、アレンは慌てて個室のカーテンから飛び出し走り出した。
「秋雨さん、扉はまだ開けないでください!!」
珍しく敬語を話しているアレンの叫びを聞き、着替え終わったシンとヨハンとシルバは何事かと思い個室から出て様子を伺う。
しかし慌てて止めに入ったアレンの行動は無駄となり、ガラガラガラ…扉が開いてしまった。
「風呂に入るだけで何を騒いているんだ…あの…2人は…」
「さぁ…ってえーーーーっ!!」
「君達ど……!!」
3人は水着を着ず素っ裸の2人の男の行動を不思議に思うが秋雨が扉を開けた瞬間、シンは言葉が途切れ途切れになり、ヨハンは声を出し驚き、シルバは声も出ないほど驚いていた。
秋雨が扉を開けるとそこに人影があり、その人物達を見て3人は驚いていたのだ。
「…………。」
「だから止めたのに。」
秋雨は口を開け、そんな秋雨にアレンは声をかける。
「アレン、あなたもですわよ?」
その言葉を聞いたアレンは一瞬「何が?」と考えたが…
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
絶叫アレンは顔を真っ赤にしながらバッと体を翻し個室へと走って行った。
「秋雨、あんたもよ。」
もう一人の声に促されるまま秋雨はカーテンの向こう側ま水着をひろい走り中へ入り、秋雨とアレンはしっかりと水着を着用しカーテン出てきた。
「あははははっ!ほんとウケルわ……。
秋雨君の事はウェルチちゃんから聞いてたから良いとして、まさかアレンまでねぇ………ぷっ。」
「本当に…我が弟ながら恥ずかしいですわ。」
「あっ、あれはだね!!」
「言い訳は見苦しいですよ。」
「混浴、聞いていない。」
「そうだそうだ!…でもラッキーか?」
「……。」
「まぁ、私達の水着姿が見れるんだからね。」
「…誰も成長していない体なんて見たくもなんともねぇよ。」
かなり、誰にも聞こえないくらいの声でボソッとヨハンは悪態をついたが、その主はそれを聞き逃す人物ではない。
「…ヨーハーンー…」
「ひぃ!ウ、ウェルチ先輩…聞こえていらっしゃいましたか?」
「えぇ、もうバッチリとね。ちょっとこっちでお話なんてしましょうね。」
「ご勘弁を~~~~~!!」
この後、ヨハンがどうなったかは誰も知らない…。
「ふざけんな!!この後も俺の出番はあるからな!」
さっ、無視して進みましょうか。
「うへぇ~…大きなお風呂はやっぱり良いねぇ。」
「こちらの温泉、本日はいらっしゃっていないようですが通常は帝の皆様もお入りになられるのですわよ。」
「へぇ…俺本物の帝に会ってみたいっす。」
「目の前に2人。」
「2人のほかの帝のことよ。」
大きな温泉のお風呂に浸かっている皆は帝の話で盛り上がっていた。
「なぁ、お前ら以外の帝ってどんな人物なんだ?」
「気になりますね。」
ヨハンとカノンはアリスとアレンを見ながら言う。
「別に何の変りもない人達だよ。」
「お前らを見ていて何の変りもないという言葉は信じられんな。」
「私達にもいろいろとあるのですわ。」
シンの言葉にアリスは苦笑い気味に答える。
「てか、アリスとアレンって何で帝なの?
悪い意味じゃないんだけどさ、貴族が前線に立つってどうなわけ?」
マイは疑問に思ったことをアリスとアレンに言う。
それは他のメンバーも気になっていたことなのか2人の話を聞く体制にはいる。
このことを皆が気になることは当然なのだ。
ウエストランドの貴族達は自己保身が強く戦いになると他の者に任せ身を隠してしまっている。
貴族であるアリスとアレンの家もその様なことであるのは間違いないであろう。
だが2人は帝となり戦いやイザコザの最前線に立ち指揮を自らとっているのだから。
皆の視線を受けながらアリスは一つ大きな溜息を吐きだした後に話し始めた
「そうですわね…貴族というものは自分達の地位を誰にも与えたくない、ただ家の繁栄を願っている者達の集まりですわ。
その家に能力の高い者が生まれればその事でさえ強みにしてまた自分達の事だけを考えてしまう。
ただそれが嫌になりましただけですの。」
「生まれつき僕ら2人は魔力値が高く2属性だったからそういうことに巻き込まれやすかったんだ。
家の事をどうでも良いと思っている訳ではないけれども僕達はもっと周りを見てほしかった。」
「ですが貴族という名にとらわれている者達は強情で自己保身しか考えていませんの。
私とアレンがお父様に何度もお話ししましたがお父様の考えが変わることはありませんでしたわ。」
「貴族という者は周りの皆よりも高い地位を持っている。
だけどその分責任も重たくなるはずなんだ。
だけど何も考えずにただただ自分の身を守るだけ。
僕達はそんな貴族に飽き飽きして2人で良くギルドに通っていたんだ。
そこで炎帝に出会って今『帝』として皆の役に…とは言いすぎだろうけど、出来る限り皆が平和に暮らせる世界を作り上げていきたいんだよ。」
「勿論お父様は私とアレンがギルドに通っていることや『帝』であることは知りません。
なので初めのうちはあのような悪態をついてしまい申し訳ありませんでしたわ。」
深々と頭を下げるアリスに皆は頭を上げるようにお願いする。
「でもまぁ、あなた達の様な貴族もいたのね。」
「貴族って別世界の人だと思ってたから君達に凄く親近感がわくっす。」
「てかお前らそれってデカ過ぎる反抗期だろ。」
「でもそういうアリスちゃんとアレン君だったから仲良くこの今の状態があるんですよね。」
カノンの言葉で皆の空気がふわっと変わった。
「うふふ、さてあまり長風呂も体に良くありませんのでそろそろ上がりますわよ。」
そんなアリスにつられるかのように皆お風呂から上がり脱衣所へと向かった。
脱衣所から出て来ると9人は再び合流をする。
そしてアリスとアレンから明日からの事に関して説明がされた。
「明日は今日使用しました演習場に集合となりますので時間に遅れないようにお願いしますわね。」
「僕ら2人にも得意不得意がある。
だから時間を割いてもらって他の帝にも参加してもらうようにお願いしているから。」
アレンのその言葉に6人は固まってしまった。
「へぇ、人類最強のね…楽しみ楽しみ。」
「まぁどうでもいいがな。」
マイとシンはそれぞれの感想を述べる。
「やはり神王と魔王ともなると帝ごときでは驚きはしないですわよね。」
「驚きはしないけど楽しみではあるんだから。」
アリスの言葉にマイは笑顔で言う。
「あぁ、忘れるところだった。
明日からの修行だが、シルバは俺とマイで鍛えるが良いか?」
シンはこの場の全員を見て言うが、シルバ以外の言われた本人達は「何故?」と言いたげな顔をしている。
その思いに気が付いている2人はシルバが無属性の魔力の持ち主だということをに説明をした。
「まさか、人間で無属性の上級が放てるなんて。」
「どのような魔法かも知らずに唱えただけで成功させるとは…。」
シルバは本当に詠唱しただけで内容は分かっていなかった。
通常魔法を発動させるにはその魔法の根本を知り、魔力を上手く循環させることが出来なくてはならない。
なのにあの時シルバは1発で成功させたということはかなりの適正があるということ。
「無属性を使用できるということは全属性の初級の魔法は全部使えるんだよ。
だからシルバっちは変装とその技なんかをコピーする技術を身につけ、コピーした相手の属性を使用することのみに魔法を使用していた。
相手の力を全く同じくらいまねできるように。
シルバっち曰く強すぎる人のコピーや変装はしたことないからどうなるか分からないって言ってたけどね。」
「そのおかげで元から魔力の循環…どれだけどのように流せばいいのかが理解できていたのだろう。」
「へぇ、シルバさん面白いね。
僕らは無属性の上級は使用できないし君達に任せるよ、それでいいよねアリス。」
「構いませんわ。ですが、しっかりと教育をしてくださいませ。
私、手を抜く・抜かれるのが大嫌いですの。」
そういうアリスは何だかプリプリとしていて怒っているようだ。
「多分今日の事思い出したんだろうな。アリスは負けず嫌いだからね。」
「ふぁぁっ、何か眠くなってきちゃった…。」
「あの固まっている奴らを動かして今日はもう休もう。」
シンの言葉にプリプリとしていたアリスとアレンは小さく頷き反応のなかった5人を復活させると各部屋へと戻って行った。
今更ですが、章が長すぎる気がするので分割していくかも知れません。