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神王と魔王  作者: りあす
7/8

それぞれの休日、そして・・・

SIDE シン


体育祭の翌日、シンはベッドから起き上がると、窓にかかっているカーテンを明け朝の光を部屋に取り込んむ。


「今日は休日か…。たまには図書館にでも行くか。」


シンはボソリと呟くと、服を着替え部屋の扉を開け部屋から出る。

そして階段を降りると朝食を作ろうとしているカノンに声をかけられた。


「おはようございます。シン君は朝食をどうしますか?」


「いや、今から図書館に行くから食事は学食で摂る。

マイの分は作ってやってくれ。」


「分かりました。いってらっしゃい。」


「あぁ、行ってくる。」


シンはカノンと短い会話を交わし学園へ向かう。

因みに学園が休みでも図書館や練習場は使用出来、それは学食も同じである。


シンは学食でAメニューのロールパン、野菜スープ、目玉焼き、トマトのサラダを食べ再び図書館に向かった。


「2ヶ月はいるが初めて入るな。」


そう言いながらシンは扉を開けると、休みというのにもかかわらず図書館には多くの生徒が訪れており、シンは少し感心しながらも本が多く並ぶ棚の内『歴史書』の棚へ行き『ヴァセッタの歴史』と言う本を取り出し、そのまま席まで持ち読み始めた。


『ヴァセッタ(世界)の歴史

世界と生物


世界は1つの大きな大陸と海で形成されていた。


魔力の力で溢れていた為大地は豊かで生物達も生き生きと暮らしており弱肉強食の世界、それでも平和に暮らしていたのだ。


だが「人類」と言う存在が誕生してから、今まであった強さの順位が変わってしまった。


今までは巨大魔物、巨大動物、魔物、動物だったがその上に「人類」が立つ。


「人類」は他の生物を超越した知能を持ち、それに加え魔力を操る事が出来る。


また「人類」にも種別があり、人間・魔人・獣人・エルフと分類された。


初めは仲の良かった「人類」も時が過ぎるに連れ、人間は高い知能で考え、自分達の3分の1の数しかいない他人種の上に立つ為行動を起こしたのだ。


この事件は「人種戦争」と呼ばれ、人間は他種族を滅ぼしにかかった。』



「ほぉ…俺達が来る前に人類は大きな争いを起こしていたのか。」


シンは呟きながら次のページをめくった。


『その後争いは終了したが人間は他人種を下位と見下していた。


再び小さな争いから大きな争いに変わり、遂に存在する神が怒り1つの大陸を分断し5つの大陸に割ってしまったのだ。


人間は西と南の国に住み、魔人・獣人・エルフは北と東の国へ。


それぞれの国は独自の文化を生み出し人類は平和に暮らし始めた。


幾年の時が流れ、人々は争いの事を忘れ再び共に暮らし始めることになる。


中央に学園都市を建設し平和の象徴とした。


学園都市の歴史に続く…』


ここでシンは大きく息を吐き出した。


「俺達がこの世界に来たのはこの後、創造主が消えてからだな。」


シンは続きを読もうと次のページをめくろうとしたのだが、「バチっ!!」と周囲に聞こえるくらいの音がし、手に電気が走る。


シンが何事もなかったかのように振る舞ってたので、一瞬注目を集めたものの周りにいる人は直ぐに自分の世界に戻っていた。


そんな中シンは自分の手と本を交互に見比べ呟く。


「高度のプロテクトか…。」


先程の電気のせいで未だに手が痺れているようでプルプルと震えている。


「こういうことはあいつの得意分野だが仕方あるまい。」


痺れていない方の手を痺れている手のにのせ、痺れをとるため「リカバー」の魔法を使用する。

痺れが取れた時点でシンは次に本に触れるか触れないかのギリギリのところに手をかざす。


「プロテクト…ブレイク」


シンが小さく呟くと、本から何らかの紋様が浮かび上がり『パリーンっ!!』と弾け消えてしまった。


それを確認したシンはプロテクトの掛かっていたページを読み始める。


そのページは世界と生物と学園都市の歴史の間のページに当たる部分。


『我は星を預かり受け世界を創造した。


この星には元々不思議な力が宿っており我はその力を「魔力」と呼ぶ。


魔力は大地に力を与えるのか星の空気は清み、水は綺麗で木々も豊かに育っていた。


我は世界の状況を見てまた預かり受けた種を世界にバラ撒いた。


種は成長し様々な種類の生物を誕生させる。


ある程度まで星が成長するとそこには知能を持つ「人類」が誕生した。


ひとくくりで「人類」と言うがその中でも様々な種族がいるのだ。


種族によって見た目や得意なことも違う。


「人類」は生きるために知恵を働かせ魔物や動物を殺し、手を取り合い生きてきた。


このまま日々が続いていけば良いと我は願う。


だが我の願いは叶わない。


「人類」の中でも高い知能と繁殖力を持つ人間は自分達を上位の存在、他を下位の存在と見下し争いを起こす。


人間の数に他種族は敗北をきっし、世界は人間の手に落ちた。


それでも人間は世界を我が物にせんと破壊と横暴を繰り返した。


人間とは何と傲慢なのであろうか。


我はもう我慢出来なかった…だから世界を切り離した。


切り離したことで人間は他種族に手が出せんようになり平和になった。』


シンは小さく感嘆の声を出した。


『時は経ち人類の過去の蟠り(わだかまり)が解け、中央の国に学園都市を造った。


学園都市は全ての人種に未来を託すための育成施設。


今度こそ平和になったであろう世界を我は静かに見守ろうと思う。


このまま平和な日々が続くように。


だが忘れるな、我は創造主なり。


平和ではなく再び争いが起ころうならば、我は世界の全てを壊そう。


人類は平和よりも自分達の意思を先に考え生きる者。

平和の日々は暇であったのだろうか?


星を日に日に覆い隠そうとする人々の「負」の感情に反応するかのように我も我でなくなっている気がする。


我は我でいたい……我は我で…』


ここでページは切れていた。


「我は我でいたい…か。

平和主義な創造主はもう自我を失っている可能性が高いな。」


シンは本を閉じ考え込む。


「おい。」


「あら。」


シンは近くでそのような声が聞こえたので振り向くと、そこにはアリスとアレンが立ってい

た。


「お前らか。」


「何してるんだい?」


「何って…ここは図書館だぞ?」


「歴史書なんて読んで、お勉強かしら?」


言葉をシンが返さない為、この場がシーンと静かになる。

それに耐え切れなかったのか、アリスが口をひらいた。


「…実は私達この図書館でとても濃い魔力を感じましてこちらにきたのですが…あなたは何も感じなくて?」


シンは先ほどプロテクトを破壊した際の魔力が漏れたのだろうと考えたが「知らない」と答えた。


「室内で魔法を使用する馬鹿は僕たちに敵意を持っている奴等しかいないからね。」


「そうですわね。」


2人は納得したのかそう言い、シンの座っている席の目の前に腰かけた。


「君しかいないんじゃないかい?そんな分厚い歴史書を読むのは。」


「もっと分かりやすくて薄い本も有りますのに。」


2人の言うことはもっともであろう。

シンの読んでいた歴史書の暑さは30㎝あり、内容のほとんどは学生では理解に苦しむことが記してあるものだったから。


それを聞いたシンはフッと笑い話した。


「全て読んだわけではない。

理解できる所だけ読んでいるから大したことではないだろう。」


その場から立ち上がり本を戻したシンは2人に言う。


「必要最低限理解できた、俺はそろそろ帰る。」


アリスとアレンに背を向けシンは図書館を出て行った。


「あの目は疑ってたな。破壊系の魔法は魔王の得意分野だからな仕方ないか…。

2人の実力ならば微量だが濃度の濃い魔力を感じることが出来るだろうし。」


シンは呟くと同時に溜め息をついた。


「しかし…創造主の残したメッセージ、あれは…この世界で何かが起こる前兆かあるいはすでに…

消えた創造主、この世界の住人の負の感情が高まり星をおおっているのだろうな。」


シンはぶつぶつと呟きながら寮へ帰っていった。




SIDE マイ



「ふぁ~っ…。」


大きな欠伸をし、マイは体を伸ばす。

そしてカーテンを思いっきり開けると朝…いや、昼の日差しがマイに突き刺さった。


「いやぁ~~~!!!!」


自業自得なのだが、寝起きの悪いマイの目に突き刺さり床を転がり回っている。

そして落ち着くと何事もなかったかのようにゆっくりと床から立ち上がった。


「…お腹すいたしご飯あるかなぁ?」


マイは服を着替え一階に降りるのだが、誰もおらず机の上に1枚の紙が置いてあるだけ。

マイはその紙に書いてある内容を読み目を輝かせ電子レンジを開けると、電子レンジの中にはオムライスが入っていた。


「シーン!カノーン!ありがとーーー!!!!」


1人玄関を見てひとしきり叫んだマイは電子レンジでオムライスを温め食べ始めた。


「んぐっ…よしっ、充電完了!今日は天気も良いし空中散歩をしようかな。」


そう言いマイは2階の自室に戻ると部屋にある窓を開け、周囲に誰もいないことを確認したマイは窓の縁に手をかけそのまま飛び出した。

すると体はみるみる内に小さくなり、小さな黒い鳥にへと変化し、そしてマイは学園内の空中散策を始めたのであった。


「あっ、ヨハンにカノン…それにウェルチちゃんに秋雨君?

何か真剣な顔して話してる…ここ裏門だよ?

う~ん…まぁ良いっか、邪魔しない、これぞ良心。」


何か違う気もするが、真面目な話をしていそうな4人に声をかることはせず、マイは別の場所へと移動した。


『パリーン!』


近くで何かが割れたわけではないがマイにはしっかりと何かが割れた音が聞こえた。


「ん?相変わらずへたくそだなぁ…破壊系の魔法。

まっ、私も復活系苦手だけどさ、こんなに濃い魔力誰かに絶対………ほらね。」


マイは下を見てニヤリと笑う。


「今…小さいですが魔力を感じましたわ。」


「確かに小さいけど凄く濃厚な魔力だ…。」


空中にいるマイはバタバタと走り魔力の発生した場所に向かうアリスとアレンが見えていた。


「一般学生じゃ気が付かないと思うけど、あの2人や学園の先生レベルになると…シン、頑張っ!

じゃあ次に行きましょー!」


マイは再び移動を始める。そして今度は演習場で羽を休めた。


「あそこにいるのって…。」


ジーッと一点を見るマイの目の前にいるのはシルバだ。

何着かの服を前に悩んでいる様子で、気になったマイは誰も周りにいないことを確認してから変化を解く。

そしてシルバに近づき声をかけた。


「シルバっち、何してるの?」


いきなり声を掛けられたせいか、シルバは驚きのあまり後ろにひっくり返ってしまう。


「いちちち…いきなりの登場っすね。」


「ごめんね、何してるのか気になっちゃったから。」


一応謝るが悪びれた様子のないマイはそのまま続け、シルバも気にすることなく質問に答えた。


「いゃあ、新しい変装を考えようと思ったんだけど中々決まらなくて…。」


「シルバっちは何で変装するの?」


「痛いところをついてくるっすね…まぁ良いか。

実は俺昔は魔力の量が少なくてよくいじめられてたっす。


それはこの学園に入学しても変わらなかった。

『何で俺ばっかり、俺何もしてないのに』ってずっと思ってたっす。


口に出さずずっと1人で悩んでた時に当時学園で1位・2位の実力を持つと言われていた2人がふと言ったんだ。」


『魔力量が少ないからって…小さい人が多いこと。あんたも言われっぱなしで悔しくないの?』


『見返せ』


「そう言ったのはウェルチちゃんに秋雨君だね?」


「正解っす。

あの2人と出会って俺は変わることが出来たんだ。」


笑みを浮かべシルバは空を見上げた。


「2人との出会いが今のシルバっちの起源なんだ。それからずっと2人と一緒に?」


「あぁ。自分探しを手伝ってくれって頼んだら快く受けてくれてさ。

それで変装の技術を身に付けたわけ。


でも俺はただそれだけ。なのに2人はどんどん上に……。」


空から地に目を落としシルバは肩をすぼめる。


そんなシルバにマイは彼の目の前に立ち脳天チョップを食らわせた。


「ぐうぇっ!!」


下を向いていた時にチョップをくらった為、シルバは声をあげ頭を抑えながらマイを見る。

マイは何を言う訳でもなく、ジーッとシルバを見ていた。


「ま、マイちゃん?」


見られているだけのシルバは困惑しながらもマイに問いかける。

すると表情の無かったマイの顔にはいつもの笑みが戻り話し始めた。


「シルバっちはさ自分の力が2人より劣ってると思ってるんだ…。

そんなこと思ってたらウェルチちゃんと秋雨君が可哀想だよ。


だってシルバっちが手伝ってって頼まなければ2人とも手伝わなかったかも知れないじゃん。

2人はシルバっちの為に一生懸命になってくれたんだから。


まぁ、確かに魔力量は到底かなわないけど、シルバっちにはシルバっちにしかない強みもあるんだよ?

だから自信持って、2人に追い付くんじゃなくて追い抜く勢いで!


シルバっちの変装技術は並大抵の努力で手に入るもんじゃないんだからさ。」


マイは熱弁し、力の入った拳を途中で突き上げるとポンッと拳でシルバをこずく。


「シルバっちなら出来るよ。」


再び言うとマイは包み込む優しい笑顔をシルバに向けた。


「(…か、かわいいっす…)…うっす!

俺やってみる…あの2人に追い付く、いや追い抜く勢いで!


そして…」


気合いを入れマイに何かを言おうとしたのだが、そこにマイの姿はなかった。


その頃上空では


「あんなところで諦めたら困るんだから。人生楽しくが私のモットー!!

あの事件が起こってから少し経つけど……そろそろ何か起こる予感。」


黒い鳥の姿に戻っていたマイは1人これから起こるかもしれない事が楽しみなのか、語尾に音符が付きそうな明るいしゃべり方だ。


「時間も時間だしそろそろ戻ろ。」


マイはそう言い寮に戻っていった。





SIDE ヨハン&カノン


「今日は良い天気ですね。朝御飯は何にしましょうか。」


カノンは明るく言うと、冷蔵庫の扉を開けて食材の確認をする。


「何故卵だけこんなにも沢山…うん、オムライスで良いですね。」


何故卵だけが大量に冷蔵庫の中にあるのが不思議でたまらないが、カノンは自分に言い聞かせるようにオムライスを作り始めた。


するとそこに支度を済ませたシンがやって来た。


「おはようございます。シン君も朝御飯は一緒に摂りますか?」


「いや、今から図書館にいくから食事は学食でとる。

マイの分は作っておいてくれ。」


「分かりました、いってらっしゃい。」


「あぁ。」


そう言いってシンは出ていった。


「と言うことは3人分作れば良いんですね。」


カノンは再び作業をしオムライスを作り始めた。


カノンがオムライスを作っている頃ヨハンは…



「んがぁー…もぉ食えねぇ…むにゃ。」



まだ夢の世界の中にいた。


夢の中でも食事をしている彼なのだがどこからか『プルルル』と言う音が部屋の中に響き渡る。

その音に気がついた彼=ヨハンは重たい体をゆっくりと起こし、少し離れた机の上にある電話に出た。


補足:機械と言う物が余り存在しない世界だが、必要最低限の物はある。


因みに原動力は開発時に込められた魔力だ。


「ただいま留守です、ご用の方はピィーっと言う音の後にメッセージを「何ぬかしとんじゃー!!」ギャーッ!耳がぁ…耳がぁ!!」


電話越しで叫ばれ、ヨハンはベッドから転がり落ち床をのたうち回る。


「あんたが馬鹿なことを言うからよ。正午裏門に、カノンにも宜しく。」


電話の相手は言うだけ言い、おもいっきり電話を切った。


「ったくあの人は…昔は優しかったのにどこで間違えたんだか…。」


呟くようにヨハンは言いながら電話を置き、そして着替えをしてから自分の部屋を出ていった。


「あっ、おはようございます。」


「おはようさん…。」


「珍しいですね、ヨハンが1人で起きて来るなんて。」


カノンは1人で起きたきた驚き、ヨハンはため息を付いた。


「俺だって起きたくて起きた訳じゃねぇよ。あの人から電話が掛かってきて仕方なく。

おっと、それで正午に裏門集合だとよ。」


「あら…何かあったんですかね?」


「まっ、行けば分かるだろうよ。それより飯くれぇ…。」


「はいはい、今朝はオムライスですよ。」


カノンは軽くヨハンをあしらいながらオムライスを2人分用意した。


「マイちゃんの分はラップにくるんで電子レンジの中に入れて置きましょう。」


手際良くラップに包みオムライスを冷蔵庫に入れ、ヨハンとカノンはオムライスを食べ始め、11時40分頃2人は寮を後にした。


そして裏門付近。


「遅いわね。」


「まだ58分」


裏門の近くに立っている獣人の女とエルフの男は誰かを待っているようだ。

しかも女はとてもイライラしているのき厳しい口調で同じことを30秒おきに言っている。


「ギリギリセーフ!!」


「遅いんじゃボケぇ!!!!」


走ってきた獣人の男に今まで溜まったストレスのせいか、女は渾身の右ストレートをプレゼントした。


「グギェギャラブッ!!!!」


女の右ストレートは見事に鳩尾にクリーンヒットし、男は声をあげ倒れ込んだ。

皆さんお分かりと思いますが、倒れた男はヨハンで右ストレートを放ったのはウェルチです。


そんな2人の行動をみていたカノンは苦笑いで、秋雨はため息をついていた。


「いつもながら激しいですね。」


「遅刻するのが悪いのよ。」


「59分、遅刻じゃない。」


「秋雨、私は常日頃から5分前行動って言ってるわよね?

女の子のカノンならまだしも、ヨハンがそれを守れないなんてあり得ない!」


ウェルチは「フンッ」と鼻を鳴らし倒れているヨハンを蹴り起こした。


「痛ってぇ…てめぇ、何すんだよ!?」


「私の言ったことを守らないからよ。」


「んだと!?」


今にもバトルが勃発しようとしたため、慌ててカノンが間にはいる。


「う、ウェルチ先輩、今日私達を呼び出したと言うことは何か新しい指示が入ったのでは?」


カノンの問いにクルッと反転し先ほどとは違い笑顔でウェルチは答えた。


「いつもの呼び方で呼んで良いから「じゃあ俺もウェ」あんたは『先輩』をつけなさい。」


ヨハンがウェルチの話の間に入るが直ぐに返されてしまう。


「秋雨さん…ウェルチ…先輩は何で俺だけにあんなにも冷たいのでしょうか。」


「さぁ。」


へこんだヨハンに何の思いも込もっていない声で秋雨は返答した。


「で、話の続きだけど今日母さんから連絡が入ったの。

内容は今まで通り学園での生活を楽しみなさいというものと、もうそろそろ動き出す頃だから相手の言葉に便乗し、内部の情報を収集して頂戴と。」


ウェルチの言葉に3人は真剣な顔つきになる。


「実際誰があの組織の人間かっていうのはまだはっきりしてないらしいけど学園長は組織と何らかの繋がりがあると思って良いはず。」


「国最大の学園トップが繋がっていないはずない。」


「そうだな…ってか、秋雨さんって俺達の前だと結構長く話しますね。」


いつもは単語を繋ぎ合わせて話す秋雨だが、今はしっかりと文章を話している。


「俺は人見知りなんだ。」


はっきりと言い切る秋雨にヨハンは苦笑いになる。


「とにかく、学園長はしっかりとマークしておくこと。

あと強そうな人間もね。」


その言葉に3人はコクりと頷いた。


「生徒で言うと…アリスちゃんにアレン君、そしてシン君にマイちゃん。

あとはシルバ先輩あたりでしょうか。」


「そうね。アリスとアレンには何かある気がするし、シンとマイちゃんは謎。

魔力量は少なく害はないと思うけどシルバの変装術にも注意ね。」


「なんか俺達の周りに要注意人物が多いな。」


「それはそれで良い。怪しまれずに近づくことが出来る。」


そう言う話をした後、解散となり4人は寮に戻っていった。

一体4人は何をするつもりなのだろうか。


それを知るのはもう少し先の話。





SIDE アリス&アレン


二人しか住んでいない寮のリビングには朝早くから朝食の良い香りが漂っていた。


「今日あの8人に伝えるんだよね。」


「えぇ、ですがその前に学園長…いえ、炎帝に通達いたしましょう。」


アリスとアレンは朝食を食べながら話をし、朝食をとり終えるとアリスの水魔法で食器類を洗い、アレンの風魔法で乾かし片付けをした。


魔法……なんて便利なんだろう。


…呟きはともかく、2人は寮を後にし学園長室に向うのであった。


「最近は本当に慌ただしいな。

帝や一般ギルド隊員の出動回数も増えているし、魔物の集団発生に加え獣人・魔人・エルフも少数だが反乱を起こしているみたいだし。」


「もう大昔の事になりますけれど、人間と他種族は大きな争いを起こしましたわ。

その事をまだ根に持っている方々もいらっしゃるようですわね。」


2人は歩きながら会話をし、気付けば『学園長室』と書かれた扉を3回ノックし、声がする前に扉を開け中に入っていった。


「君達、まだ僕は何も言っていないよ?」


学園長は「プゥ」っと頬を膨らませ、扉の前にいるアリスとアレンを見ながら言う。


「学園長、年齢を考えて行動していただけません?

気持ちが悪いですわ。」


「30越えたおっさんが。」


2人は学園長にはっきりと物申したのだが、学園長は頬を膨らせたまま話し始める。


「全く、君達は目上の人に対しての礼儀がなってませんね。

まぁそれは良いとして今日はどうしました?」


「今日は以前炎帝からお願いされていた学園の中から成長しそうで使えそうな人物を見つけましてその報告にと。」


「その者達に伝える前に炎帝にと思いまして。」


その言葉を聞いた学園長はおちゃらけモードから威厳のある炎帝へと表情が一変した。


「その人物達とは?」


「はい、同じクラスに在籍しているシン・ライト、マイ・ダークス、ヨハン・グラバス、カノン・ルストン。

そして3年のウェルチ・ラインバルド、友那秋雨、シルバ・ウィンバードの計7名です。」


「あいつらか。確かに他とは目を見張るものが多くある。

では今夜、通達の際は私も同行しよう。」


「そうですわね、炎帝もこられた方が宜しいですわね。」


「おちゃらけ学園長が実は炎帝何て知ったらどう思うか。」


「ギルドの評価は下がりそうですわ。」


「2人ともひどいなぁ…僕は悲しいよ。」


いつの間にか炎帝から学園長に戻っている人物を見て、2人は『はぁ』と大きく溜め息をつく。

そして場所と時間を打合せし学園長室から出たのだが、途中2人は同時に足を止める。


「今…君も何か感じたかい?」


「えぇ、小さいですが凄く濃厚な魔力を。」


「学園でこんな魔力を放つなんて。」


「とにかく発生源に急ぎますわよ。」


アリスの言葉に頷き2人は走り出す。


そしてたどり着いた場所、そこは図書館であった


「図書館…何故こんな場所から?」


「中に入って確認いたしましょう。」


アリスに従いアレンは共に図書館の中へ入って行く。

この学園の図書室は室と言うよりも館と呼ぶのが相応しいほどの広さで尚且つ本の多さ。

そんな図書館には多くの生徒が休日にも関わらず訪れるのだ。


「これだけの人数の中からあの魔力を持つ人物を見つけるのは大変だよな。」


「あのような魔力を持つ人物は滅多にいませんわ。

この中なら……あれは。」


アリスの視点が一点を見つめ止まる。


「どうしたんだい?」


アレンが止まっているアリスに問いかけると声を出さずにアリスはある場所を指差す。

そこにいたのは分厚い本を真剣な顔で読んでいるシンの姿であった。


「彼がこの中では一番可能性がありますわ。」


「そうだね、よし行ってみよう。」


2人はシンに近づき声をかける。


「おい。」


「あら。」


偶然現れたかの様に装い、2人がシンに声をかけると、シンはアリスとアレンを見て「お前らか」と返事をした。


「何をしてるんだい?」


「何って……ここは図書館だぞ?」


「歴史書なんて読んでお勉強かしら。」


これ以上話が続かず場がシーンとした時耐えきれなくなったアリスが話始めた。


「実は私達この図書館でとても濃い魔力を感じましてこちらに来たのですが…あなたは何も感じなくて?」


アリスはジーッとシンの顔を見ながら話すが、眉ひとつ動かさないまま「分からん。」と一言だけ言った。


「室内で魔法を使用する馬鹿は僕達に敵意を持っている奴等しか居ないからね。」


「そうですわね。」


納得した様に言うアリスとアレンだが、内心は全く納得していない。


何故ならば周囲の魔力をシンと会話をしながら探っていたが、質の良い魔力を持っているものがおらずシンしかいないと確信しているから。

しかし思いは表に出さないよう、アリスとアレンはシンの目の前に腰かける。


「君しかいないんじゃないかい?そんな分厚い歴史書を読むのは。」


「もっと分かりやすく薄い本もありますのに。」


2人はシンの読む30㎝はあるだろう歴史書を見ながら言い、それを聞いたシンはフッと笑みを浮かべ2人を見ながら言う。


「全て読んだわけではない。

理解できる所だけを読んでいるから大したことではないだろう。」


シンは立ち上がり本棚へ歴史書を戻すと席に戻りアリスとアレンに言う。


「必要最低限理解できた、俺はそろそろ帰る。」


シンはアリスとアレンに背を向け図書館から出ていった。

そんなシンの背中を見送りながら2人は話す。


「逃げたね。」


「逃げましたわね。」


「だけど…魔力をあれだけ小さく、更に濃ゆく出せる学生がいるなんて。」


「もしかしますとシン、彼は要注意人物に入れた方が良いのかもしれませんわね。」


2人は目を合わせ小さく頷く。

そして寮に戻り7人に風魔法にメッセージを乗せ、午後8時に皆が来るのを寮で待っていた。


そして午後8時、アリスとアレンの生活している寮に、シン・マイ・ヨハン・カノン・ウェルチ秋雨・シルバとあと1人、学園長が集まっていた。


ただ話があるとメッセージで伝えられていただけなので、何を言われるのか不安な表情をしている面々。

そこを秋雨がぶった切るかの様に言った。


「用は。」


その言葉に少々話すのを躊躇うようにしていたアリスとアレンを差し置いてもう1人の人物である学園長が話し出す。


「えーっとね、今日君達に集まってもらったのは重大な発表があるからなんだ。」


『重大な発表』という言葉に全員が首を傾げた。


「重大な発表ってなんだろう?ちょっとワクワクしちゃうよね。」


「多分お前だけだ。」


楽しげに言うマイにシンは本当に不安そうな顔をしているまわりを見て言う。


「そんなに心配しなくても良いのに。ほら、本題は君達から。」


学園長は言葉のバトンをアリスとアレンに渡した。


「皆さん驚かずにお聞き下さい。」


アリスが言うとその場にいる全員がごくりと口の中の水分を飲み込む。


「実は僕はギルドランクSの雷帝で」


「私は水帝ですの。」


いきなりの発言を聞いた全員が凍り付くかの様に固まってしまった。

だが…


「帝って世界最強なんでしょ?

学生がいるって聞いたことはあるけどにわかに信じられないなぁ。」


いつもと同じニコニコとした笑みを浮かべたマイがアリスとアレンを見ながら言い放つ。


「マイさんは私達の力が見たいと仰っていますの?」


「そうだよ?」


「力を見なければ本当なのかどうかと言うのも分からないからな。」


マイに続きシンも本来の2人の力を感じてみたいのか便乗する


「分かったよ。学園長、結界を張ってください。」


アレンの言葉に学園長はOKサインをだし結界をを張った。


そして2人は目を閉じ何かを呟くと次の瞬間、結界をの中を暴風が襲う。


「これがアリスとアレンのSランク級の魔力なのか?」


目を細目ヨハンはボソリと呟いた。

だがこの魔力はほんの序の口。


次にアリスとアレンは指にはめていた2つの指輪を外す。

すると2人の体から更に魔力が放出された。


「くっ…魔力だけで人が殺せそうね。」


「本当…私はもう限界です。」


「俺っちもっす…。」


「…」


アリスとアレンは2人は皆の様子を確認し魔力の放出をやめる。


「信じていただけました?」


「あぁ信じよう。」


「凄い魔力のだったよ。

でも人類最強と言われる人が近くにいたなんてね。」


シンとマイは納得したかの普段どうりに言う。

そんな2人に対してアリスとアレンは目を見開いて驚いていた。


「君達……気分が悪いとかないのかい?」


「元気ぴんぴん!!」


「私達の魔力に触れても体に影響が出ないなんて…。」


「まぁ、それはどうでも良いだろう。で、その雷帝と水帝が俺達に何のようだ?」


シンはは話を自分達からそらそうとアリスとアレンの目的を聞く。


「そうよ……そんなあなた達が私達に。」


顔が青ざめたままウェルチも尋ねる。

ウェルチと秋雨にシンとマイは強気にアリスとアレンを見るが、ヨハンとカノン、それにシルバは落ち着かない様子で辺りをキョロキョロ見ていた。


仕方ないだろうな。

何せ目の前にいるのは人類最強の『帝』なのだから。

3人の態度が普通なのだ。

その理由が分かったのかアリスとアレンは皆に分るくらい方をすぼめた。


だが話はしないといけない、そう判断し2人が気持ちを切り替えようとした時ヨハンが口を開いた。


「あのさ、今まで通りで良いんだよな…?」


ヨハンによる思いがけない一言を聞き、アリスとアレンは目を見開く。


「あの…?」


カノンが心配そうに2人を見てそれに気の付いたアリスとアレンは嬉しそうに言った。


「当たり前だよ!」


「当たり前ですわ!」


「私は先輩だからね。」


「フッ。」


「学園じゃ地位なんて関係ないっすからね。」


話に便乗した3人もアリスとアレンに言うと、その言葉を聞いた2人が更に明るくなる。


「良かったね2人とも。」


「だな。」


シンとマイの声が聞こえていたかさだかでは無いが、本当に嬉しそうなアリスとアレンは再び話し出す。


「皆さんありがとうございます。」


「あの反応だったから拒絶されたのかと思ったよ。」


「確かに…かなり驚いたのは確かだな。」


「びっくりしましたよ。」


「2人の学生帝ってあなた達の事だったのね。」


「結構噂。」


「でも何で俺達に正体を明かしたんすか?」


疑問を感じたシルバはアリスとアレンに問う。

すると2人の表情が真剣なそのものとなり詳細を話し始めた。


「あぁ、それなんだけど「それは僕から話すよ。」…学園長。」


話の途中で学園長が割り込み結局は学園長が続きを話始める。


「アリス君とアレン君が君達に正体を明かしたのは僕があるお願いをしたからなんだ。」


一度言葉を切り、皆が聞いているかを確認した後再び話し出す。


「そのお願いはね『学生の中から有能な生徒を探して欲しい』って事。

そして2人が集めたのが君達。

最近ギルドも大忙しで小回りの利く小さな部隊を造ろうと思ったんだよ。

どうかな?因みに水帝と雷帝の直属になるんだけど。」


その内容に再び固まる面々。

集められて帝の直属にならないかと言うお誘いが来ているのだから仕方はないが…。

そこでまた空気の読めない人物が声を出した。


「楽しそうだから私1番!」


ピョンと軽く跳びはねマイは学園長に言う。


楽しそうって…おい、と周りが思うなかまた1人手を挙げる。

もちろんシンだ。


「こいつを1人にしたら絶対に何かやらかすからな。」


「うわっ、シンは私を信用してないんだ。」


「信用させてみろ。」


シンの言葉に「うぅ゛…」と唸ったあとマイは静かになった。

勝ち誇ったかの様にしているシンと肩を落としているマイを見ながら学園長は言う。


「これで2人は決まりだね。君たちはどうするんだい?」


「学園長、俺はこの中の誰よりも弱いです。それでも入隊を望んでも良いんすか?」


真剣な眼差しをし聞いてくるシルバに学園長は優しい声色で語りかける。


「君はアリス君とアレン君に選ばれたんだよ。

自分の力に自信がない?

大丈夫、天賦の才は無くとも君には努力で培われた技術がある。

だから自信を持って良いんだよ。」


その言葉で決心したのか、シルバは手をあげ、大きな声で宣言する。


「俺はこの部隊に入隊するっす!!!」


「これで残りはあなた達ですわね。」


「どうするんだい?」


4人は悩んでいたが、ついに心を決めた。


「シルバが入ったら私達も入らないわけないはいかないわよね。」


「あぁ。」


「俺もやってやるぜ!!」


「私もです。」


ウェルチ、秋雨、ヨハン、カノンの4人は言う。

こうしてギルドに新しく水帝と雷帝直属の部隊が結成されたのだ。


「良かった良かった。それじゃあ僕はここで…。」


「おい、待て。」


帰ろうとしていた学園長をシンが呼び止める。


「何かな?」


「お前は何者だ?

只の学園長なら帝に部隊を作れなど簡単には頼めないはずだが。」


シンの言葉ににこやかな表情のまま振りかえる。


「おっと忘れてたよ。

僕はねっと…確か……ここに…あった。」


ポケットを漁り取り出したのは1枚のカード。

そのカードには何やら文字が書いてあるようだ。


『ギルド本部 帝長 炎帝Sランク ガイナン・ラドリウス 』


…と。


このカードを見たヨハン・カノン・ウェルチ・シルバは驚きで叫び声をあげ、マイはそれを面白がり便乗し声をあげて、シンと秋雨は無反応であった。


「と言うわけだから宜しくね、チャオっ!」


そう言い残し学園長は玄関から出て行った。

声をあげた者達は放心状態で、マイは隣でゲラゲラと笑っている。


「これからどうするんだ?」


シンの問い掛けにアリスとアレンは言う。


「君みたいな冷静な人がいて良かったよ。

まぁ、今日は解散するけど僕達はこの目で君達の…特に君の力を見てみたい。」


「ですから来週炎帝に頼みまして修行の名目でギルド本部の演習場に行きますわよ。」


それを聞いたメンバーは目を輝かせた。

ギルド本部、そこは高ランク者の中から選ばれたエリート中のエリートしか入れない場所。


※地方に転々支部があり、普段は支部で依頼を受ける。


そんな場所に入れるなんて学生にとって夢のようなのだ。

皆喜んでいるのだが例外もいた。


「修行嫌い…。」


マイはがっくりと肩を落とす。

何だかんだで予定も立て、夜も遅くなり9人は解散したのであった…。

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