体育祭
神王と魔王が人間に変化しヴァセッタのミッドランドで生活を始め早2ヵ月が過ぎていた。
そして、本日は魔法学校体育祭当日でもある。
何時ものただだだっ広い校庭にはテントや旗などが置かれておりゴチャゴチャして騒がしく、そんな中やたらテンションの高さに差のある6人が現れた。
「…帰りたい。」
「僕も流石にこれは…。」
「でもあの3人はノリノリですよ…。」
シンとアレンにカノンはあの3人を見て大きなため息を吐いた。
「ヒーヤッホウ!!!今日の体育祭は俺ら1ー2の優勝だ、おいっ!」
「当たり前ですわ。何と言いましても、この私が応援をするのですから。」
「そのテンションバッチリOK!さぁ、走って・飛んで・邪魔して邪魔しまくろう!!」
「おぅ!」
「えぇ!」
声高らかにマイ・ヨハン・アリスは天に拳を突き上げ叫ぶ。
そんな6人の服装は物凄く派手で、それぞれの属性を色で表しており、シンは白・マイは黒・ヨハンが茶・カノンは赤・アリスは青でアレンは黄という感じだ。
6人は応援団兼お邪魔係りで、お邪魔係の説明は後に置いておいて。
「何でアガーテ姉弟が…。」
「体育祭でも私達の事を馬鹿にする気なのね…。」
「でも何か変わったよね。」
「今はそれどころじゃない!クラスが団結しないといけないんだから今話をすることじゃないよ。」
「そうね、考えてみればこのクラスにはAランクとBランクがいるんだから、私達が頑張れば優勝できるわよ!」
「「「「「オーッ!!!!」」」」」
クラスメイト達は何だかんだで団結し声を上げた。
この2ヵ月でアリスとアレンの評価も少しづつだが変わってきている。
以前であれば誰も話を逸らそうせず、2人にこそこそと文句を言っていたに違いない。
何事にもその小さな変化の積み重ねが大切だ。
「アリスとアレンも変わったけど皆も変わってきてるみたい。」
「生物は成長する。」
マイとシンは少し離れた場所にいたクラスメイト達の会話を聞きいているといつの間にか時間が経ち、生徒達は広いグラウンドに整列し始めじめる。
応援団が一番前に並び、一般生徒はその後ろ。
そして直ぐに学校長が用意されていた壇上に上がり開会宣言を行う。
「これより第1600回体育祭を開催致します。」
すると『パッパラー』と開幕のファンファーレと花火が打ち上げられ、学校長がそのままルールの説明を始めた。
「まずルールだけど、各学年応援団=お邪魔係りはちゃんと揃ってるね?
お邪魔係は自分の魔法を使い3秒だけ相手の進行を止めて良い役の事。
1レース1回のみだから使用する場面を考え魔法を使ってね。
それと同時に相手のお邪魔をカバーするのも1レース1回のみ。
お邪魔係のお邪魔とカバーのタイミングが鍵と言ってもいいくらい重要だから頑張ってね。
因みに今回の優勝商品はサウスランドかイーストランドへの3泊4日の旅行券、準優勝は賞金1人2万円だよ。
みんな、優勝目指してがんばろう!」
学校長が舞台から降りると同時に歓声が上がりる
また優勝商品が出るのもこの学園の特徴で、生徒達は皆興奮したままクラスのテントへと入って行った。
「1-2ーーーーー、ファイト!!」
『おーっ!!』
テントに戻りマイが声掛けをすると全員が声を張り上げ気合い十分のようだ。
「最初の競技は150m徒競走ですね。」
「出場する奴らは身体強化を忘れんなよ。強化と付加、自分に使用する魔法なら選手でもOKだからな。」
クラスメイト達は「分かってるよ」と言いながら立ち上がり笑いながらテントから出て行った。
「徒競走のお邪魔はどなたがしますの?」
アリスの問いに話し合いの結果ヨハンとカノンがお邪魔をする事になった。
「私は火属性で余りお邪魔の役目を果たせないかも知れないけど頑張ります。」
「俺に関しては土のある所のお邪魔に関しては俺は無敵だ!」
全く逆の事を言う2人はグランドのフィールド内に入り、競技の始まるのを待っていると、教師が壇上に上がり銃口を高らかと掲げ「パァァァァァァン!!!」と空砲を鳴らしそれと同時に第1グループが走り出した。
「じゃあ早速、クレイメイク(小)。」
ヨハンが魔力を練り上げ魔法名を言うと、1ー2以外の生徒達の足元に土が盛り上がり小さな山が出来るのだが、その小山が急に出て来た為、生徒達は避けることも出来ずに次々と倒れていった。
「今の内だ、A突っ走れ!」
ヨハンの声に反応したAは片腕を上げ返事をしスピードを上げる。
そのAの進行をどうにか止めようと他のクラスのお邪魔係りもAに向かい一斉に魔法を仕掛けた。
「風よ、蔦となりてかの者の進行を防げ!」
「大きな物は小さくなり、雷は静電気へ!」
「水の中で苦しんで頂戴な。」
「まじか!?うわぁ~、やめてくれ!!」
他のお邪魔係り達が自分に向かい魔法を放とうと詠唱を始めている声が聞こえ、Aは焦り、さらにスピードを上げた。
「大丈夫です!私に任せて下さい。力の炎、聖なる炎、全ての力を飲み込み反撃を許すな。セイントブレス!!」
カノンは杖を持ち魔法の威力を上げ、白い炎をAに向かって放つ。
「A止まるな、走れ!」
「大丈夫ですから!」
ヨハンとカノンの声に対して不安そうな顔をしたが素直に聞き入れ走り続け、白の炎はAの頭上に到達するとAを包み込む様に広がる。
そしてAを狙った魔法が白い炎とぶつかった時、白い炎は全ての魔法を覆うように飲み込んでしまう。
勿論魔法守られていたAには被害はなく、そのまま1位でゴールした。
「あの2人中々やるじゃん。」
「まだ雑ではあるがな。」
「あら、凄い上から目線ですわね。」
「Bランクならあれくらい出来て当然だろうけど。」
トラックの外から見ていたシン、マイ、アリス、アレンは2人の様子を観察していた。
「上から目線だったっけ?」
「俺はな。」
「シンは一度ヨハンに勝ってたからか。」
「そういえばそうでしたわね。」
徒競走の最終的な結果は、体の作りと体力のせいか、後少しという差で上級生に届かず4位となった。
『全体ランキング』
1位 3ー2……100P
2位 3ー3…… 80P
3位 2ー1…… 60P
4位 1ー2…… 50P
5位 2ー3…… 40P
6位 3ー1…… 30P
7位 2ー2…… 20P
8位 1ー3…… 10P
8位 1ー1…… 10P
「次は私達2人で行きますわ。」
「競技は障害物競争か。」
アリスとアレンはヨハンとカノンと入れ替わるようにして入って行った。
「位置についてヨーイ…」
パァァァァァン!!!
空砲の音と共にクラス代表は一斉に走り出し、隊列はほぼ一列のまま第一ポイントへと辿り着くのだが、そこには沢山の可愛い猫や犬が生徒達を誘惑してくる。
「かっ、可愛いぃ…。」
「いや~っ、我慢できない!」
犬や猫の円らな瞳にやられる生徒達が続出し始めるのだが、アリスとアレンは違和感を感じていた。
「アリス…あの犬と猫って…。」
「えぇ、普通の犬や猫ではなくて魔物と動物の間に位置づけされている『モドキ』ですわね。」
「攻撃されてもあのサイズならただ痛いだけだから大丈夫だと思うけど…あの学園長も中々やるね…。」
2人は苦笑いし再び生徒達を見るとグラウンドはてんやわんやしていた。
「ぎゃあー!!」
「痛いって、噛まないでよ!!」
「髪の毛引っ張らないで!!」
叫び声がこだまするグラウンドで、第2関門に差し掛かった生徒はコース上にある水深100mの水槽の底に沈んでいる板を1枚取り、板に書いてあるミッションをこなしていた。
クラスの代表達は走ってきた勢いのまま水槽の中に飛び込むのだが、100mは潜水は強化だけでは困難で、皆苦戦しているようだ。
「使い道はここですわね。水のベールよ、風と共生せよ。エアー!」
すると水の中に入っていた1ー2代表の体に膜が張られる。
「さぁ、水の中でも息が出来るようになりましたわ。早く板を取りなさい。」
アリスの声が聞こえていたのかは分からないが、1ー2の代表は魔法を理解し板を取りミッションをクリアすべく水から上がって板に書いてある内容を確認した。
その板を見た瞬間、生徒は凍り付いたかのように動かなくなった。
不思議に思ったアレンはは生徒に手招きをし呼び寄せる。
「どうしたんだ?」
近くまでやって来た生徒にアレンは尋ねる。
生徒は青い顔をしたままゆっくりと口を動かす。
「ミッションの内容なんだけど…。」
ミッション⑯
全校生徒にあなたの好きな人を告白せよ。
全員に声が聞こえなければその場で退場。
聞こえていたかどうかは学園長の秘密ルートで2秒後に判断できます。
チャンスは1回、それではどうぞ。
「…趣味が悪いですわ…。」
「俺土属性だから拡声とかできないし……ってか言いたくないよ!!」
「だがお前が男を見せなければ1ー2の優勝、旅行だって無くなるんだ。」
「その好きな女性と一緒に旅行に行きたくはありませんの?」
アリスとアレンは誘導尋問にまんまと乗せられた生徒は決意した。
「よし、声は普通の大きさで、僕の魔法で皆に届けるから。
風よ、言葉を乗せ吹き抜けよ…ウインドデリバリー!」
風の魔法は生徒の言葉を乗せグラウンド中に吹き渡った。
『1年2組 生徒Cです。ミッションで好きな人を全員に告白します。』
この言葉が届いたのか、テント内にいる生徒や競技に出ている生徒までもCを見る。
『同じクラスの子で、いつも明るく皆を引っ張っている黒い長い髪の素敵なあなた………マイ・ダークスさん、僕は貴女のことが大好きです!』
その答えにテントや校庭から「おぉっ……」と声が聞こえてきた。
「「マイ(さん)だったの(です)か……。」」
アリスとアレンは生徒Cに哀れみ、クラスのテントを見るとはどよどよと何かが溢れ出ていた。
「C頑張れ…。」
「死なないことを祈っていますわ。」
2人は小さな呟きはCに聞こえることはなかったが、学園長の判断はOKだったらしく、再び走り出した。
その頃どよどよとした雰囲気のクラステントでは……
「Cか…その名前良く覚えておこう。」
「マイちゃんは同級生に人気がありますからね。」
「シンもだけどな」
「ぷぷっ…シン、そんな殺気出してちゃ皆怯えちゃってるよ?」
「うるさい。帰ってきたらどうしてやろうか…。」
黒い笑みを浮かべ言うシンを見て、クラスメイト達はこれからシンの気分を害す事は止めようと密かに誓ったのであった。
Cはそのままゴールをし、障害物競走が終わった時点ではまだ4位である。
「学園長も本当に趣味が悪いですわ。」
「最初の奴だけじゃなかったな。」
「出なくて正解だったよ。」
「なにを考えてあんなにミッッションを……。」
「そのせいで無駄な労力を使った。」
「楽しかったし良いじゃん。それより次は応援団員リレーだよ。
お邪魔と援護は私とシンね、それじゃあlet's go!!」
そう言いマイは早々とグラウンドへ走って行ってしまった。
「シン、あいつは何を考えているんだい?」
「目の前の事を何でも楽しむ奴だ。」
アレンの問いに答るとシンもグラウンドへ向かう。
「楽しみ過ぎだろ。」
「あれではシンさんも大変ですわね。」
「でも彼は彼でそう言う彼女が好きなんだろうね。」
「皆さん、私達も行きましょう。」
ヨハン、アリス、アレン、カノンの4人はマイとシンを見て言うとグラウンドに足を向けた。
応援団員リレー…
それは体育祭の中でも目玉と言っても良い競技で応援団員はクラスでもランクが高い者達の中から選ばれるのでどのクラスのテントもかなり盛り上がっていて雄叫びなども聞こえてくる。
「何か先輩達のオーラが…。」
「やばっ……緊張してきた…。」
1年生達は2・3年の何ともいえないオーラに押されている。
「1年何か目じゃないぜ。」
「去年はあの子達と同じ事を言ってたよね?」
「今年こそ優勝だ!」
2年生は1年を見て鼻で笑らわれてしまう。
「カッチーン…シン、最初っから飛ばしてくからね。」
「このレースに限っては1人につき邪魔1回、カバー1回だからな。」
「分かってるって…さぁてと皆行くよっ!」
((((何するんだろ…。))))
4人は少し心配になりながらも声を上げた。
1ー2の順番は①カノン②アレン③ヨハン④アリス⑤マイ⑥シンの順で、まずは第一走者目のカノンはスタート位置に並ぶ。
「位置についてヨーイ…」
パァァァァァン!!
空砲が鳴が鳴り響くと、生徒達は強化と付加をし、一斉に走り出した。
「強化、ブースター付加…行きます。」
カノンも強化と足元に炎を付加して走り出す。
そのスピードといったら、体にエンジンをつけているかのような速さで一気に他のクラスを抜き去りバトンをアレンに渡した。
「カノン速すぎ!邪魔にする間もなかったよ。」
「ごめんなさい、でもまだ始まったばかりですよ。」
「そうだな。」
軽く落ち込んでいたマイの背中をポンと叩きシンはレースに再度目を向けた。
第二走者のアレンは雷の付加により、通常よりも速いスピードで走っている。
「マイ、そろそろくるぞ。」
そのシンの言葉にパァっと明るい顔をしたマイ。
最初でほぼ1周差付けられてしまったため、他のクラスはアレンを止めようと魔法を放つ。
「おいおい…僕を殺す気なのかい?」
アレンに向けられたのはそれぞれ違う属性の火・風・雷の魔法で、火は風で煽られ威力が増し、それに加え雷でコーティングされている。
まともに喰らえば死にはしないものの大けがを負うだろう。
だがそれから守るためのカバーなのだ。
「さてさて、飛んでくる魔法をたらふく食べちゃいな、暴食!!」
するとアレンの頭上に黒い穴が現れそこから頭の上にボタッと何かが落ちてきた。
ぬめぇ…という感触と周囲の反応から自分の頭の上にある物が良いものではないことを理解したアレンは頭上の物体をみることなく走り続ける。
「可愛いのにねぇ。まぁ暴食ちゃん、それ食べちゃって!」
マイの声に反応した暴食は飛んでくる魔法を見据え口を大きく開けると、魔法は全てその大きな口の中へ吸い込まれてしまう。
そして何事もなかったかの様にアレンはヨハンにバトンを渡すのであった。
「おい、一体こいつは何だよ!早く消してくれ!!」
ゴールしたアレンは自らの頭で蠢いている黒いゲル状の何かを指差しながら舞いに言う。
「暴食ちゃんはれっきとした私の魔法の1つでね、とってもアレンの頭をこ気に入ったみたい。」
「良いから早く…。」
「はいはい。」
不満そうにマイは返事をし地面に手を当てると、先度と同じような黒い穴が空間に開き、アレンの頭の上にいた暴食を鷲掴みにし穴へと放り投げた。
「以上、これでお終い。」
「荒い…。」
「荒いですわ。」
「荒いですね。」
「……。」
このことを気にしては無駄だと考えた4人は再びレースへと視線を戻した。
「俺の場合は肉体強化しかないから……まぁ、1周差も着いていたから余裕か。」
ヨハンは獣人という長所である運動能力を活かせることと、これだけひらいた差に余裕を見せていたのだが、彼はとあることを忘れている。
それは………
「ウインドウィップ!」
「エレクトロスタティックネット!!」
お邪魔をしていないクラスがまだあったということだ。
風の鞭に電気の網がヨハンを狙い飛んでくる。
「シーン!助けてくれぇ!!」
「油断しすぎだ、リフレクト。」
シンはヨハンにダメ出しをすると宙に手を広げ魔法を放つ。
魔法と魔法が触れあったときパシュッという音をたて、他のクラスの魔法からヨハンを守る事だけではなく、跳ね返った魔法は放った本人達にぶつかり動けなくしてしまっい、なんなくヨハンはアリスにバトンを渡した。
「シン、あれ反則じゃねぇの?」
「そんなルールは聞いていない。」
「確かに。」
「そうですね。」
ヨハンの問いにシンは平然と答え、アレンとカノンは納得していた。
そして第4走者目のアリス。
3人はアリスの走り方を見て違和感を感じていた。
「何も言わないでくれないか……。」
アレンは小さな声で4人に言う。
「アリスは生粋のお嬢様で大の運動音痴なんだよ。」
皆の感じた違和感はそれだった。
一生懸命腕を振り走っているのは伝わってくる。
だが腕を縦ではなく横に大きく振り、内股でちょこちょこと走っていた。
「でもさぁ、模擬戦の時は普通だったよね?」
「戦いと運動は別らしい。」
「そんな事ありなんですか?」
「まぁ、あいつならあり得そうだけどよ。」
マイとアレンにカノンとヨハンが話しをしているうちに、1週差あった距離が一気に縮まり数mの差になっていた。
「よし、シン。私がスタートする前にお邪魔をかけるから後は宜しく。」
シンはマイの言葉に対し小さく頷くと、それを確認したマイは「よしっ!」と気合を入れスタートラインに立つ。
そしてバトンをもらう直前でマイのお邪魔魔法が発動した。
「ブラックホールっ!」
マイが楽しげに走っている生徒達を見て魔法を放った。
これは精霊界で魔王が使用したものと同じもので、放たれた魔法はアリス以外の生徒を闇に捕らえ、生徒ごとその場に誰もいなかったかのように消えてしまった。
生徒達は勿論、先生達も驚き慌てている。
そんな中冷静な人物が2人。
1人はシンで、もう1人は学園長であった。
「マイ・ダークスさん…多分アリスさんとアレン君が言っていた人物の内の1人。
そしてもう1人があそこで落ち着いているシン・ライト君だね。
しかし…詠唱無しに僕すら認知していない魔法を使うなんて…。
ま、生徒達は3秒したら帰ってくるでしょう。」
「うっわぁー、皆驚いてるよ。だけど気にしない、強化&闇の付加・解放。」
するとマイの足元が少しづつ黒く染まってゆく。
「それじゃあ行きますか。」
そう言ってマイは軽く蹴り上げると体がふわりと宙を舞い、一気に数十m進んだ。
その光景に全員はポカ~んと口を開き見ていたのだが、マイがスタートした後、シンは数を数えていた。
「3……2……1……ホワイトホール」
マイがスタートしてから3秒、シンの放った魔法により消えていた生徒達が姿を現す。
何が起こったのか理解できていない生徒達はボケェ~っとしたり、辺りを見回したりしていたが、目の前でピョンピョンと跳ねて行くマイを見つけると再び走り出した。
しかし時はすでに遅く、半周差を付けマイはシンにバトンを渡した。
「…強化、光の付加解放。」
シンがぼそりと呟き一歩踏み出せば、その瞬間は忽然と姿を消した。
キョロキョロとシンの姿を探している生徒達をよそにマイはゴールテープ係に声をかける。
「早くテープの用意をしないと……遅かったみたい。」
ゴールテープ係の2人はマイの言葉に首を傾げるのだが直ぐ言われたことの意味を理解する事となった。
「他の競技にはテープがあったのに俺には無いのか?」
テープ係の目の前に先程スタートしたばかりのシンが不機嫌そうに顔をしかめていた。
「テープ切りたかったんだね。」
「うるさい。」
シンはそのままテープを切る事なくゴールをし1ー2は団体リレーを制した。
だが中には魔法を使用したのではないかと疑う者も出た為、スローVTRで審議されることになったのだが、スローVTRに映っていたもの……それはスローでも捉えにくい速さでグラウンドを1周しているシンの姿であった。
「審議の結果、マイクとVTRに肉体強化と属性付加のみを確認出来ました。
またグラウンドをしっかりと走っている為、この試合を有効として1ー2の勝利とします。」
その言葉を聞いた1ー2の生徒達は勝利と同じくらいにマイとシンの力に興奮していた。
「2人ともすげぇな!!」
「あの魔法私見たことないですし、強化や付加だけであんな事が出来るんですね!!」
ヨハンとカノンは興奮しながら2人に話しかけていた。
「そんな事無いよ。あの魔法って昔私とシンが遊び半分でやってたら出来るようになったんだよねーっ。」
「あぁ。」
「そして2人は属性付加の第2解放をしてたからあんなことも出来たんだ。」
「第2解放はただ属性を付加するのではなく、その属性の利用できる部分だけを引き出し利用出来る強化ですの。」
ヨハンとカノンはアリスとアレンの言葉を真剣に聞いていた。
「お前達も使えるようだな。」
「そうだよ。」
「そうですわ。」
「2人が使ってたら勝負どころじゃないよね。風とアレンの場合は雷もだから。」
「勝負とかじゃなくて俺達が一点集中で邪魔受けることになりそうだな。」
「ブースターを使ってしまったので私にはそれを言う資格はありません。」
ヨハンとカノンはちらりと4人をみた後、お互い目を合わせ溜め息をついた。
その後の競技でも1-2は得点を着々と重ね、他の1年を圧倒し3位まで上げ、遂に最後の競技『応援合戦』が始まろうとしている。
応援合戦と言っても自分達の使用出来る力を最大限に利用し、審査員にアピールすると言うものだ。
「お前達は何をするんだ?」
テントの中にいたクラスメイトが6人に聞き、他のクラスメイトも聞きたいようで目を輝かせていた。
「それがですね…。」
「俺らはぶっつけ本番で自分達がやりたいことをするんだ。」
その言葉を聞き、クラスメイト達は目を丸くして驚く。
「ぶっつけ本番って大丈夫なの!?」
「息とかそう簡単に合うものじゃ…。」
色々と心配しているクラスメイトにマイは明るく笑い答える。
「大丈夫だよ。全員で一緒にするんじゃなくて、息の合う……まぁ、ヨハンとカノンは幼馴染みだから何となくでもお互いの事分かるし、私とシンも同じ様なもの。そしてアリスとアレンは双子だからその辺はバッチリでしょ!」
「……でも。」
「あいつらはどうか知らないが俺達ならやれる。」
不安気なクラスメイトにシンは自信気に言う。
『俺達は』と言うところにヨハンは引っ掛かったのかシンに何か文句を言っていたが、クラスメイト達はシンのその自信と強気な発言に持っていた不安が軽くなったように感じた。
それと同時にシンとマイの絆(?)の様なものが垣間見えた気がした。
「安心して見ていて下さって。」
「僕達が優勝出来ない理由なんてないさ。」
アリスとアレンは胸を張り言う。
「そうだな……そうだよな。」
「Bが4人にAが2人いるんだよな。」
「負けるはずがない!よし、サウスランド行きのチケットを貰おう!」
『おーっ!』
クラスが一丸となり声を上げる。
以前のアリスとアレンならばもっときつい言い方をしただろうし、クラスも纏まらなかったはずだ。
だが世界の生き物の中でも人という生き物達は心の変化が著しい。
"何度も言ってるかもしれないけどこの世界の人って面白いよね。
あんだけ嫌ってた割にはちょっとした事で見方が変わってこんな風になるんだもん。"
今のクラスの空気を感じながらマイはシンに念話で話し掛ける。
"弱点にもなるが強みにもなる。その力を持つのが人、そうなる様に創られた存在。"
"その力を生かすも殺すも人次第。"
"創造主は何を考えてたんだろうか…。"
2人が念思を切ると同時に放送が流れる。
『それでは最後の競技"応援合戦"参加者の皆さんは北口に集まって下さい。』
「おっと呼び出しだ。」
「それでは行きますわよ!」
ヨハンとアリスは足早に北口へ向かう。
「似てるんだよねあの2人。」
「そうですね。何だかんだ言いながら直ぐに体が動きますし。」
アレンとカノンは2人の後を見て笑い後を追いかけ、シンもそのあとを追い、マイはクラスメイトに『絶対優勝するよ!』と片腕をあげ召集場へと急いだ。
そして召集場に集められた各クラスの応援団員達は全員で最終ルール確認をしていた。
「皆知ってると思うけど最後にもう一度説明するよ。」
そう言うのは3年生……だと思われるが身長がかなり低く、背中に薄い桃色の翼を生やした女子生徒。
「ルールは魔法か精霊のどちらか1つを選び、その選んだものの力で審査員の学園長や先生達にアピールするだけ。小道具の使用もOKよ。
選んだジャンルは既に審査員に送ってるからずるしようなんて思わない様に。
もしずるなんてしたら……」
小さな体で妖艶に笑う彼女を見た他学年の生徒達は恐ろしくなり「ゴクリ」と息を飲込み、ヨハンとカノン以外の1年達は首をかしげていた。
「まっ、それは後からのお楽しみよね。ルール違反はお勧めしないけどさ。」
先程とは違い、今度は無邪気な笑顔を向け言う。
「ウェルチ…時間……。」
すっとウェルチと呼ばれた鳥人の隣に現れた耳の尖ったエルフであろう男子生徒は単語を繋ぎ合わせ言葉を発した。
「えっ、もうそんな時間!?それじゃあ説明はおしまい、皆頑張ってね。
私達のクラスには敵わないと思うけど…秋雨行くよ。」
ウェルチはエルフの男子生徒……秋雨を連れ自分のクラスの団へと戻って行く。
この応援合戦は1位のクラスからの演技となるので1-2は3番目に演技を始めることになる。
1位のクラスである3-2の生徒達が校庭に入っていくのが見え、よく見てみるとその中には先ほどルール説明をしていたウェルチと秋雨もいた。
「ウェルチ先輩は自信たっぷりでしたが何をされるのでしょうか?」
「負ける気はないけど楽しみだね。」
「私が負けるなどありませんわ。」
「始まるようだね。」
「変わった陣形だな。」
「………………」
興味心身で6人が見つめるグラウンドでは、3人の生徒が円になる様に広がり、その中ではウェルチが片膝をつき胸の辺りで手を組んで祈るように目を閉じていた。
「3年2組の皆さん、準備が整い次第始めてください。」
拡声魔法を使い学校長が呼びかけると直ぐに演技が始まった。
辺り静まり返り、水の魔法を発達させた魔法だろうか。
グラウンドにはしんしんと雪が降り始める。
羽をたたみ祈る少女、これだけでも見ている人を幻想世界へと引きずり込むのだが、少女が祈りを捧げているさなか少女の目の前に炎が現れ、その中から1人の男性が現れた。
言葉は何も交わさない。
けれども少女の表情を見れば状況はなんとなく理解できる。
目に涙を浮かべ嬉しそうだったのだが、男性の背中に生えていた漆黒の翼を見た瞬間、その表情がこわばった。。
「漆黒の翼は裏切りの証…。」
「そうだ…俺は世界を憎み、世界から憎まれ、純白の翼を捨てこの漆黒の翼を手に入れた裏切り者。」
「何故!?どうして!?ねぇ、答えてよ…秋雨。」
ウェルチが目に涙を浮かべながら秋雨に問うと、秋雨は重い口を開きながら小さな声で呟く。
「会いたかった。」
「えっ…。」
会場は未だにしんしんと降り続く白い雪と2人の演技に引き込まれ、シーンと静まり返っている。
その沈黙を破るかのように秋雨は再び話し出す。
「俺は君に会いたかった…。しかし会うにはこうするしかなかった。
それがどういう意味なのかを知りながらも…。悪いが天の巫女よ、お前には消えてもらう!」
秋雨は叫び剣をウェルチに向けるとその剣には黒い魔力が渦巻いていた。
「裏切りの翼を持つ者の使命は天に祈りを捧げ、天の声を聞くことの出来る巫女の抹殺……。私は、秋雨…貴方とは戦いたくない。
けれど私は皆の為にまだ死ねない!!」
ウェルチも武器であるレイピアを構え、翼を広げ空中へと舞い上がるとそれを追うように秋雨も空に飛び上がった。
※秋雨の翼は幻影で空を飛んでいるのは他の生徒の風魔法のお陰。
2人は剣や魔法を激しくぶつけ合う。
「ホーリーショット!!」
「ダークネスボール!!」
ウェルチと秋雨はお互いに距離を取り、光と闇の同系統である魔法を放つと白の玉と黒の玉がぶつかり、グラウンドの上は煙で覆われてしまう。
煙が晴れ全員が見たのは、折れた剣を持つ秋雨と秋雨の喉元にレイピアを当てているウェルチの姿であった。
「勝負あり…だな。」
「えぇ…。」
勝負に負けた秋雨の方が勝ったウェルチよりも清々しい表情をしている。
「さぁ、裏切り者の俺の喉元をそのレイピアで突き刺せ!!」
早く殺せと言わんばかりに秋雨は叫び、それに答えるかのようにウェルチは手に力を込めレイピアで秋雨を狙うのだが、
「私には…出来ない…」
そう言いレイピアを手放しウェルチは秋雨を抱き締めた。
「私は秋雨がずっと前から好きだったの……漆黒の翼になってまで戻ってきたのには驚いたけど、それでも私の中であなたは何も変わっていない。」
ウェルチは腕の力を緩めニコッと笑い秋雨を見る。
「ありがとう……。それなら尚更俺は消えた方が良い。」
小さく呟き秋雨はドンッとウェルチを突き放し、手に黒い炎を纏わせウェルチを見た。
「何を!?」
ウェルチは声を張り上げ秋雨に問う。
「漆黒の翼は天の巫女を命尽きるまで追い続ける。俺はお前に会いたかっただけで殺したくない。
このままお前が俺を生かすのならば俺の意思とは関係無く体が勝手にお前を手にかけるだろう。
それだけは嫌なんだ…だから俺は…。」
秋雨は言い終えると黒い炎を纏った右手を一度振り上げ、勢い良く自分の腹部へと押し当てた。
ジリジリと肉の焼ける臭いが辺りに広まり、秋雨の体は黒炎に包まれ、炎が消えた時には秋雨の体は灰となっていた。
「…そんな……秋雨…ねぇ、秋雨ってばぁ……。」
ウェルチは秋雨であった灰をすくい上げ、大きな瞳から涙を流し声を出して泣き始めた。
「……はあ…男……いか?」
途切れと切れだがどこからかウェルチの耳に男性の声が聞こえてくる。
「お主はもう一度あの男に会いたいか?」
今度ははっきりと聞こえ、ウェルチは迷いもせずに直ぐに答える。
「えぇ…会いたい!!」
ウェルチは声の主にはっきりと伝え、その答えに満足したのか「フォッフォッフォツ」と笑う声の主。
そして次の瞬間青い空が金色に輝き、空に白い服を纏い白い長い髪に白い長い髭を生やした老人が現れた。
「もしやあなた様は…。」
「うぬ、ワシは天神じゃ。お主の祈り、わしにいつも届いておったぞ。
今日はその礼とは言わんが…お主の願いを1つ叶えてやろう。」
天神はと呼ばれた存在は、地に足を着けるとウェルチに優しく微笑んだ。
「聞くまでもないが、お主の願いを申してみよ。」
その言葉を聞いたウェルチはギュッと手に力を込め叫ぶように願いを言う。
「秋雨を…秋雨を生き返らせて!!」
「あい分かった、暫し待たれよ。」
天神は秋雨のいた場所を見つめ手を合わせ、長々と何かの唱え終わると同時にその場が明るい虹色に輝き出した。
「うぬ、成功じゃな。確率は半分じゃったがお主の意志が強かったのであろう。」
天神は「仲良くな。」とウェルチ言い残し消えてしまった。
一方のウェルチはと言うと、未だ虹色に輝いている場所をジッと見つめている。
そして光が弱まり消えたのを確認すると再び大粒の涙をポロポロと流し出した。
今ウェルチの目の前に先ほど灰に変わってしまった秋雨がいるから。
ただ生き返っただけではなく、秋雨の背中に生えていた漆黒の翼が……
「白い翼に…」
ウェルチは小さな声で呟いた。
秋雨は何が起こったのか理解出来ていない様で、ボーッと手を見ながら閉じたり開いたりを繰り返している。
「秋雨!」
ウェルチは勢い良くは駆け出し、そのまま秋雨にしがみついた。
その勢いに押されたものの、秋雨はウェルチをを庇いながら地面に倒れ込んだ。
「俺は生きてるのか…?」
「うん…それに翼が…。」
生き返っただけではなく、漆黒の翼が白い翼に変わっていたから秋雨はただただ驚くしかない。
「…どうなってるんだ?」
「天神様が助けてくれたのよ。」
「天神様が…?」
「えぇ。天神様は生を司る神。
天の巫女である私の祈りを聞いて下さっていた。
その祈りの力を使い秋雨を救ってくれたの。」
「そうだったのか。天神様には感謝してもし足りない…返してもらった命に翼は愛する者為に大事にしていこう。」
『2人は空を見上げ固い絆を天神に誓った。
今後どの様な困難が起こってもこの2人であれば切り抜けて行けるだろう…。』
ナレーションが終わると魔法の花火が打ち上がり、その際に出た煙が移動して、最後に『END』の文字を作り3-2の応援は終了した。
「感動しましたよ。でも一番驚いたのはあの友那君が文を話してた事だよね。」
学校の言葉に先生達も頷いていた。
そして2組目の3-3は魔法を使用したダンスである。
光輝く魔法で華やかに演出し、これも先生の満足いくものとなった。
そして遂に1-2の順番となる。
「それじゃあ1-2応援団行くぞーっ!!」
「「「「おぉっ!!」」」」
「……………。」
ヨハンの掛け声に、気合十分のマイ・カノン・アリス・アレンは大きな声を出し、シンはそんな5人を見つめていたが、それぞれグラウンドへと走り出す。
グラウンドへ到着すると、ヨハンとカノン以外はその場にしゃがみ込み、立っている2人は審査員席に一礼すると精霊の名前を呼んだ。
「ロック、出て来い!!」
「ケイン出てきて下さい。」
2人が精霊の名前を呼ぶと、地面からドラゴンが現れ、空中には炎が集まり中から猫が現れた。
「よっ、ロック。」
「何だ?今度は以前よりも人が多いな。」
「ケイン呼び出したりしてごめんなさいね。」
「別に暇だったから良いよ。でっ、何のよ………うだぁ~~~~~~!!!」
ケインはある場所を見て叫び声をあげた。
その場所とは…
「能無しデカ竜が何でこんなところに!?」
ケインが見たて声を上げた理由はヨハンの精霊であるロックであった。
「ここで会ったが100年目…ファイアーキャット一族の名においてアースドラゴン!お前を灰にしてやる!!」
荒々しい声を上げ、ケインはロックに向かい炎を吹き出した。
「あぁ…!?こりゃあチビドラ猫じゃねぇかよ。」
それを見たロックはは鼻で笑い自らの固い鱗のある翼で炎を受け止める。
「どうしたんでしょうか?」
「わかんねぇけど勝手に見世物始めたからそれで良いんじゃね?」
「そうですね、とりあえず成り行きを見守りましょうか。」
ヨハンとカノンは目を合わせた瞬間、喧嘩を始めた2匹の精霊をとりあえず見守ることにした。
「いやぁ~見事な争い振りだね。」
学校長や教師たちはこれが演出だと思っているらしい。
「おぉやってるね。」
「だな。」
「あの2つの種族は昔から仲が悪いよね。えーっと…何でだっけ?」
「昔やっていた精霊最強王者決定戦で、ファイアーキャットの中でも一番強いと言われていた奴をアースドラゴンに変化したお前がボコボコにしたからだろう。」
「そういゃあ、かなりボロボロにしたっけか?」
「俺に聞くな。」
シンは溜め息をつき再び2人を見始める。
「完全にアースドラゴン…まぁいっか。」
途中でどうでもよくなったのか、マイは言葉を途中で切り目の前の争いに目を向ける。
「チビドラ猫、てめぇらしつけぇぞ!」
「うるさい!」
「先祖の恨みは僕達の恨みだ!ファイアーテイル!」
宙を蹴りあげ、ケインはロックの顔下に入り込み、炎を纏った尻尾でロックの顔面を殴った。
「アッタッ!!…てめぇ…やりやがったな!」
「べーっだ、ファイアーブレス!」
今度はロックの顔面に炎を吹き付け、0距離攻撃だったためロックには避けることが出来ない。
素早いケインの動きに翻弄されっぱなしのロックが遂に攻撃に出ようとした時、
「ストップ、時間だ。」
「2人共おしまいです。」
ヨハンとカノンは自分達の持ち時間が近づいてきたため仲裁にはいるのだが、ケインは気分良さげに精霊界に戻り、ロックは不満げに戻って行った。
「さて次は僕達の番だ。」
「アレン学園で召喚した精霊を呼びますわよ。」
アリスの言葉にアレンは頷くと、精霊の名前を呼んだ。
「ウィング!」
「ウィンド!」
すると宙に風が集まりそれが弾けると手を繋いでいる仲良さげな2人の精霊が現れた。
2人の内1人は緑を基調とした服に青色のカールのかかった髪が特徴の女の子で、もう1人は同じ緑を基調とした服に短髪の男の子の精霊。
「風の妖精…AAランクだね。」
「学園で召喚した奴だな。」
マイとシンは召喚された精霊を見ながら呟いていた。
「お兄ちゃん、あたし達いつの間にか呼び出されてるよ。」
「本当だ、いつの間に~?」
ウィングとウィンドは不思議そうに首を傾げながら言っていたが、アリスとアレンを見るなり『ピューン!』という効果音が合う感じで飛んできた。
「アリスお姉ちゃ~ん!」
「アレン兄ちゃ~ん!」
ウィング(女)はアリスへ、ウィンド(男)はアレンへと飛び付いた。
「「今日はどうしたの?」」
「今日はあなた達に頼みたい事がありまして。」
「今から僕達が指示するから燐粉を振り撒きながら飛んでくれないか?」
「良いよ~。」
「大丈夫だよ~。」
2人はそう言い透明な羽を手で擦り飛び出すと、羽根から金色のキラキラとした粉が宙から降り注ぎ、アリスとアレンの指示に従って、ウィングとウィンドは燐粉を出しながら審査員席にや生徒のいる場所をくるくると飛び回っている。
「う~ん、綺麗だね。でもあの2人ならこれだけじゃ終わらないよね。」
学校長は2人を見ながら呟いていた。
そしてある程度グラウンド中に燐粉が広がったのを確認するとアリスとアレンは目を合わせ、同時に手を2回叩いた。
「合図だよ。」
「合図だね。」
ウィングとウィンドは叩かれた手の音を聞くと、2手に別れて動き出す。
くるくると自由に回転しながら面白可笑しく動き回ウイングとウィンドは愛らしく、見た人達を笑顔にするほど。
『パンっ』
アリスとアレンが1回手を叩くと、音を聞いたウィングとウィンドはその場で停止し手を広げる。
「「ウインドフリー!!」」
2人の精霊は風を自由に操れる魔法を放つと風は金色の粉を中心に丸く集める。
すると急に円が崩れだし別の形を作り出しその形は金色の大きなバラの花て美しさは見るものを全て魅了するモノであった。
「ラストですわよ。」
「ウィンド、エアドライブだ。」
「ウィング、エアフライトですわ。」
最後はアリスとアレンの声が重なり指示となる。
ウィンドは金のバラの中へ入り、ウィングは上に位置をとり、そして中と外で光の粉の周りを回転させる様に飛び回った。
バラが燐粉が輪になるとウィングとウィンドは光の輪から離れ、手を繋ぎ目を閉じる。
そして同時に声を出した。
「「ブロウズ・ザ・スピリット!」」
この双子妖精は手を合わせることでお互いの魔力を共有することができ、それを活かし最大限まで練り上げた魔力で魔法の風の聖霊王を呼び出した。
女性の姿をした聖霊の頭上に金色の輪。
『女神だ…。』
誰もがそう呟いたとき、風の聖霊王は消え、同時に光の輪も綺麗に弾けグラウンドを再び輝かせた。
「時間オーバーしてしまいましたわね。」
「あいつらなら短くても何かしらしてくれるよ。」
双子はそう言い地面に座った
残り時間は少ないけど…黒狐出てきて!」
「銀、来い。」
マイとシンはそれぞれ黒狐と銀を呼び出した。
「早速だけどグラウンド全体を暗黒の世界にしちゃいなYo。」
「了解いたしました…暗黒全眼。」
目を閉じた黒狐が目を開くとグラウンドは闇の世界となり、グラウンドどころか隣の人でさえ見えなくなった。
「レディース&ジェントルメン、暗闇の世界へいらっしゃい。
真っ暗で何も見えないだろうけど暫く我慢してね。
炎や光で照らそうとしても無駄だから。それじゃあ始めましょうか。」
マイが言い終わると全員の目に暗闇の中でも銀の体は輝き、この暗闇で唯一認識できるものでもある。
「皆さーん、私は見えなくても光る狼は見えるよね?」
『見える!』
沢山の声が暗闇の中、様々な場所から聞こえてきた。
「よろしい、では今から皆さんを夢と幻想の世界…いや、宇宙へと招待します。」
宇宙と言う聞き慣れない単語を聞いた人々は何が起こるか不安になりざわつき始める。
"この世界の創造主は何も教えてないんだね。"
"この世界で宇宙の存在を知っているのは俺達だけらしい。銀、頼む。"
2人は念思いで話し、シンは銀に指示を出すと指示を受け、銀はタッと走ったり、ぴょんぴょん跳ねたりを繰り返えす。
そして銀の軌跡から出来たのは夜の星空であった。
「この世界は皆さんが見ている夜の空に輝く1つの星でしかありません。
別の星から見ればこの世界も只の1つの星の様に見えます。」
マイが言い終わると光の点はスーッと消え、今度は光の大きな球体が何個か現れた。
「この世界の外は暗黒の世界で空気も何も無いので息が出来ない…それが星に人々が留まっている理由。」
「ですがこのように星は1つではありません。
宇宙と呼ばれる暗黒の世界には幾つもの世界があるのです。
もしかしたらそれぞれの星にも姿形は違えど、生物が存在するのかも知れません。
何故星に閉じ込めなければならなかったのか理由はわかりませんが。
また数ある星の中には消滅してしまう事だってあります。
星と星とがぶつかるとか。」
その瞬間、光で描かれた1つの星に大きな星がぶつかり大爆発を起こす。
「外からよりも内から……例えば環境破壊や戦争で星を殺してしまう可能性は高いですね。中途半端な知識からでしたが、皆さんの星が平和であらんことを。」
最後に銀が再びタッと走り美しい世界の絵を描き終了した。
すると闇は消え、元のグラウンドに戻っていた。
「手早く終了!」
「戻るぞ。」
シンはボーッとしていた4人に声をかけ、グラウンドから出て行った。
「宇宙と言うのは本当に存在するのでしょうか?」
「それは僕としても気になるね。」
裏に戻るとアリスとアレンはシンとマイに問いかける。
「う~ん…どうだろ?」
「古い文献で見ただけで実際は分からん。」
そう答えると2人にアリスとアレンは「そっか……」残念そうに肩を落としていた。
するとそこにある人物達が現れる。
「私達も気になって聞きに来たんだけど、君達も分からないのかぁ。」
「星。」
「すっげぇキレイだったっす!」
現れたのは、肩までの髪に翼のあるロリ先輩に濃い青色の髪と切れ長の目でエルフの先輩とあと1人…。
「ウェルチ先輩に秋雨先輩…それに……誰でしょう。」
「あ、俺応援合戦で『天神』役をしてたシルバ・ウィルバードっす!特技は返送なんで宜しくっす。」
人懐っこい笑みを浮かべ挨拶をするするのだが、それはヨハンの声に掻き消された。
「てかロリ体型なのにロリ語じゃない。」
「私のコンプレックスを!」
「うっぎゃあーーっ!ごめんなさーい!!」
「無視。」
秋雨の一言と他全員の意志は一致し、ウェルチとヨハンのことは無視することになった。
「…でも君達本当にやるっすね。」
「当然ですわ。私達BランクとAランクなのですから。」
「同じ。」
「秋雨君もAかBなの?」
「私達は3人ともBよ。」
戻ってきたウェルチはマイの言葉に続けて言った。
「先輩方もBランクなんですね。」
「これは掘り出し物だな。」
アレンは小さな声でボソッと呟く。
「ところで、さっきの説明してたの貴女よね。」
ウェルチはマイに問い、軽く「そうだよ。」と満面の笑みを浮かべ答えた。
「きゃーーっ!!あなた美人で声もキレイだし気に入っちゃった。
演劇なんか興味ない?」
「ウェルチ、何勧誘してるっすか!?全く良い人材見るといつもそれっす…。」
「仕方ない。」
このウェルチの勧誘行為はいつものことらしく、シルバと秋雨は呆れていた。
「ウェルチ、うちのクラスの馬鹿はどこだ?」
「先輩をつける!敬語で話す!これだから最近の若い子は…。
あっ、マイちゃんはそのままで良いからね。あの馬鹿ならあっちで腐ってるわよ。」
シンの言葉遣いを指摘し、ウェルチはクラスのテントのある場所を指差した。
「クラステントか…そろそろ戻るぞ。」
「はーい。じゃあねウェルチちゃん。」
「えーっ、もういっちゃうの?」
「ほーら、俺達も戻るっすよ!」
「結果。」
そう言い交わし5人と3人は別れた。
閉会式
開会式と同じ様に各クラス、各学年で並び、式もスラスラスラ~と進んで、学校長が壇上がり結果発表を始める。。
「皆さんお疲れ様でした。
今日の体育祭は今まで以上に楽しむ事が出来たよ。
じゃあ早速順位を発表しよう。
下から1-1・198pt、1-3・201pt、2-1・202pt、3-1・204pt、2-3・206pt、2-2・206pt
そして第三位は3-3・217pt
第二位は1-2・227pt
第一位は3-2・230ptだ。
流石最終学年の皆さんでした。
一位から三位までの応援団代表は前まで来てください。」
そう言われ、代表であったアリスが前に出る。
一位ではなかったが嬉しいのか、1-2の生徒はワイワイしており、アリスの隣には3-3の代表と3-2代表のウェルチが立っていた。
「第三位 3年3組。よく頑張りました。
賞金や旅行券は無いけどこの盾を贈呈します。」
3-3代表は盾を受け取ると大きな声で礼を言い、クラスに盾を見せよ喜びを表した。
「第二位 2年2組君達には盾と賞金だ。
応援合戦の個々の力には目に見栄えるものはあったんだけど、先生方から協調性が欲しいと言われてね。」
「会って2ヶ月、話すようになってからも余り期間は経っていない私達に協調性を求めないで下さるかしら。」
アリスは学校長の言葉につんと返し賞金と盾を受け取った。
「第一位 3年2組
競技面・応援面共に団結力もあり素晴らしかったです。
応援では流石演劇部部長の実力を改めて感心したよ。
はい、これはトロフィーと優勝商品の旅行券だ。」
「最後に優勝できて良かった。良い思い出です。」
ウェルチはトロフィーと旅行券を受け取るとクラスの列へと戻っていった。
「皆さん本当にお疲れ様でした。
今日は疲れたと思いますのでしっかりと体を休めてください。
明日は休みですので明後日会いましょう。
ではこれにて第1600回体育祭を終了致します。」
パパーン!!
花火と共にファンファーレが鳴り響き、今年の体育祭の終わりを告げた。
「終ったな。」
「終わりましたね。」
ヨハンとカノンは撤収されるテントや看板を見て感慨に更けていた。
「お2人とも、私達はまだ1年。まだ2回も体育祭はありますことよ。」
「これで最後みたいに言うな。」
アリスとアレンの言葉に2人は一瞬固まったが直ぐに元に戻る。
「そうだな。来年こそは優勝して次の年も優勝だぜ!!」
「クラス替えもないですし、今度は必ず優勝しましょう。」
「私達が手を組んだら絶対負けないんだから!!」
「帰って早く寝たいんだが。」
「そうだね。今日はもう休んだ方が良いだろうね。」
その意見に納得した6人はそれぞれの家、部屋に戻って行った。
アリス&アレン
「シンとマイにヨハンとカノン、それに3人の先輩でどうかな?」
「良いと思いますわ。
シンさんとマイさんからは何かを感じますし、ヨハンさんとカノンさんは今から鍛えれば十分な戦力になります。
ウェルチさんと秋雨さんは2属性の持ち主で、シルバさんの変装の技術はプロ並みらしいですし。」
「皆が皆良い返事をしてくれるかはわからないけど、了承してくれればギルドも心強いよな。」
「そうですわね。最近の人員不足はかなり痛手でしたから。
しかし皆さんは私達の正体を知っても尚今まで通りに接して下さるかしら。」
アリスの言葉にアレンも黙り混んでしまうが、直ぐに話し出す。
「皆分ってくれる。」
アレンの強気の発言にアリスはにこりと笑うと。
「そうですわね。
ヨハンさんとカノンさんはいやいや感を最初こそは出しておりましたが、今は全くありません。
シンさんとマイさんにいたっては全く気にしそうにありませんから大丈夫ですわね。」
「そうだよ。それじゃあ明日に備えて寝るよ、お休み。」
「おやすみさい。」
そうして2人の夜は更けていった。