Let's ネタばらし
「話を聞こう」
椅子に腰かける良介、正座する二人組、横から見る明花。これはこれで異様な光景だった。
「そもそもの始まりは、お前のドッキリ企画だったと……?」
良介は遊人の姿を見る。塩を浴びたナメクジより縮んでいる。
「良介君があまりにもクールクールしてたんで、ドッキリとかそういうものをやって反応を見たいと考えました」
ふざけた言い方で、しかし粛々とした声で供述する。
「やるに当たって、良介君のことをよく知っているこちらのアレな先輩に協力を仰ぎました」
「アレって一体どの辺がアレなんだキミ」
ヘッドロックをされながら供述は続いた。
「協議の末、恋愛経験とか無さそうということで、そっち系で攻めることにしました」
「友人相手とはいえ大分失礼だぞお前」
「ごめんなリョー君、最初にそれ言い出したのウチ」
良介が恨みがましい目つきで二人をねめつける。遊人は一層縮んだが、夕菜は余裕綽々。
「そんで、下手人としてメイちゃんに目を付けたと。最初は名前だけ借りるつもりだったんよ、いやマジで」
夕菜が話を引き継ぐと同時に、明花が下を向いた。
良介はもう一度これまでの明花の行動を思い返すが、しかし腑に落ちない。実際渡された手紙の内容はアレだった。だがあの時の行動、表情その他が、演技だったとは到底信じられない。
「そこが我々の誤算だったのさ。まさかメイちゃんが、本当にリョー君好いてるなんてな」
少し落ち着きかけた明花が再び紅潮する。
「ドッキリ☆ラブレター計画を実施するもあっさりと失敗して、更にメイちゃんが暴走してもーたと。そっからはもうドッキリなんぞ止めて、メイちゃん支援に当たってたわけですよ」
「……なんちゅう……」
良介は呆れたように、疲れたようにそう漏らした。
「このドッキリな文面が書かれてるのは最初のやつだけだよ。あとは全部本物だ」
遊人が再び話を受け継いで、そう補足した。依然ヘッドロックが続行している。
「俺が事情を知ったのはあの言い争いの後だな。ナントカ先輩はその前に知ってたみたいだが」
「……最初聞いたとき、戸惑ったけど、チャンスかもしれないって思ったんです」
二人の格闘技をよそに、しばし動かなかった明花が話し出す。
「一回そういうことをしたら、イメージは良くないだろうけど……仲良くはなれるかもしれないし、実際に告白するとき、いくらかリラックスできるかもって」
だからお二人の案に乗ったんです――そう告げた。
「……ごめんなさい!」
そして、思い切り、先刻遊人と夕菜がしたように頭を下げた。その背後では執拗なまでのヘッドロックに遊人がタップしていた。
それを前にして、しばし声を失っていた良介は、
「……なん……てっ」
「えっ」
息を詰まらせてから――笑い出した。突然だった。驚くほど軽快な笑い声が飛び出した。
「な、何で僕笑ってんだろ……こんな時に」
「い、いや私には分からないよ!?」
「……緊張が解れたからか?」
「いやあそうかもしれんけど、てっきりあの時のメイちゃんみたく怒るもんかと思ってたわぁ」
笑った良介と、口を挟む二人。見ていた明花もまた、つられてクスクスと笑い出す。
「ああ……本当予想外な事ばっかだった。あの計画も、この二人のことも」
「いや、何がどうなるか分かったもんじゃないね」
遊人と夕菜はその様を見て語り合う。
「……奥崎君」
笑いが収まってきたところで、明花は一旦彼に向き直る。もう目を逸らすことも、睨み付けることも無い。純真に、真っ直ぐに、堂々と良介を見ていた。
「色々あって、もうよく分かんないことになっちゃったけど……今しかないと思うし」
良介も同様に、見つめ返す。
「受け入れてくれても、くれなくても良いから、言わせてください」
息を吸う。
「好きです」
はっきりした声だった。
良介は動揺しない。明花も動かずに彼を見続けていた。ギャラリーは息を呑んで見守っていた。
風は止む。一秒とも、一時間ともとれるような時間だった。真空の空間がそこにあった。
「……僕は」
良介の口が、静かに動いた。そして――
「う、わ、うわわわ!?」
とんでもない異音が、全部ぶち壊した。
「蕗田ああああああ! 何をしてるこの愚か者!」
「だ、だってよく聞こえなくて……」
「……あ、これは……マズい空気ですね……わかります、はい、逃げます」
夕菜が入ってきたのと逆の方で、三人の生徒が倒れていた。蕗田。板谷。浮嶋。何度か明花に協力した三人組である。それ故――明花が朝早くに行動していることも、よく知っていた。
「……すまない」
盗み聞き。さっき夕菜と明花がやっていた行為。しかしこれはまた別問題である。
「……え……お前ら……どっから聞いて……」
「な、なんか笑い出した辺りから、です……」
蕗田がたどたどしく答えると同時に、三度明花が林檎と化した。
「う……うわ、ちょっと……ごめんなさい!」
「あああ、メイちゃあああん! カムバアアアック!」
恥ずかしさのあまり逃亡する明花と、それを追いかける夕菜。その背後で――
「……おう良介、もう俺は何も言わんから」
得体の知れないオーラを放つ良介の姿があった。
「これは……死を覚悟すべきか」
「もう爆発しろとか言いません勘弁してください何でもしますから!」
気圧される野次馬二人。浮嶋はすでに逃走済みである。
「今のタイミングで邪魔する奴があるかああああああああ!!」
そして捕まったら死亡確定、朝の逃走劇がスタートしたのである。