なんなんすかこれ
ここ数日の行動が嘘の様に、明花は顔を赤くしていた。容貌も動きも、喋り方さえも始めの頃――一通目が出された時に戻っていた。
「ゆ、夕姉、聞いてたのか……?」
「ご明察。盗み聞きは忍びないが、こうした方がテンポいいかなーって。メイちゃんに怒んなよ、ウチが無理矢理引っ張ってきてやったんだから」
「どっから……」
「メイちゃん関係の話は多分ぜーんぶ逃さず聞いた。二人揃ってね」
良介の顔が炎上し、明花も続いた。緊張の面持ちで遊人が二人を眺め、夕菜は舌を出し笑う。
「さて、懸案だった『理由』はもう知れちゃったわけだ」
てきぱき話す夕菜に、二人は対応できない。
「じゃあウチはこれで消えるんで、頑張れお二人ー」
「えっ、おまちょ」
止める間もなく教室を出てしまった。身勝手で、気ままで、でも行動的で――どんな風にも場を変えてしまう。いつか明花から聞いた彼女の評を、遊人は思い出していた。
「あー……」
「……その……」
かと言って、こんな展開をぶん投げられてすぐ対応できるほど二人は強くなかった。
「会話、本当に聞いてた……?」
「うん」
念のため確認しても事実は揺らがない。
「……ごめん」
一言。観念したように、謝った。
「……私も、自信なんて無かった。度胸だって」
明花は返答せず話し出す。左右の握り拳に力が入った。
「けど、何というか、いざやってみたら色んなことがあって、予想外なことばっかりで……」
途中で止まって、次の句を探す。
「それが楽しかったから……勇気を出せて、良かったって、そう思ってます」
言い切った時の明花は、泣きそうになりながら笑っていた。
「……篠部さん」
「はい」
「今になってこんなこと言うのは変かも知れないけど……手紙、読んでいいかな」
びくり、と何かが震えた。
「ご、ご自由に」
緊張の余り、言葉がおかしくなる。
「……と言っても、沢山あるけど」
良介は一瞬悩んだ顔を見せる――が、
「やっぱり、これを読むべきなんだろうな」
大量に詰まったバッグの中ではなく、明花の横の机に置いてあった一つを手に取る。
それは、長方形、薄ピンク、ハート型のシール――一番最初に下駄箱に入れられた、全ての発端である一通。良介から明花に返された、あの一通だった。明花がお守りの様に持っていた二つは、夕菜の乱入によって慌てていた時、机の上に放り出されていたのだ。
しかし。
「えっそれは……」
「あ、ちょ、それは……」
明花が、そして何故か遊人が急に慌てふためく。しかし良介は勢いのまま封を切ろうとする。
「何を慌ててるのか知らないけど……これ一番最初のだろ?」
あっさりと、シールが剥がれる。
「僕は本当は、これに応えるべきだったんだ」
そして、中から覗いた小さな紙を――何かが刻まれた手紙を、良介はそっと手に取る。
『☆★☆ドッキリ大成功!☆★☆』
「………………ハア?」
完全固定。
「…………これ……は、ね……」
同じく明花も固定。もはや会話もままならない。
「……ここで、かよ……」
完全にやっちまった、そう言わんばかりに遊人が項垂れた。
「……私たちの出番のようだな……」
「お前どっか行ったんじゃなかったの!?」
「すぐそこで隠れてたに決まってんじゃん!」
突如として再登場した夕菜が遊人の後頭部を鷲掴みにする。そして――
「すいやせんでしたぁっ!」
全力で、床を抉るような勢いで、頭を下げたのである。
「………………ハア?」
良介の蘇生には失敗した。