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恋文物量作戦  作者: 昆布
10/10

最終的に

「いやまあ、結局あの三人は無事だったんですけどね?」


 二十三時間後。早朝の四橋高校で、明花は大量のプリントを抱えて校舎内を歩いていた。


「リョー君優しいねえ……とっ捕まえても説教で済ますとは」


 横で同様に書類を持って歩いているのは夕菜である。


「でもそれ以降、会話できなくて……返事は聞けてないんです」

「んー、本当に酷いタイミングだったねあのトリオは。ウチもビックリだぜ」


 やれやれ、と空いた左手でポーズを作る。

 そうこうしている内に、二人は例の教室――明花のクラスを横切った。


「……んあっ!?」

「お、奥崎君!?」


 二人は危うく荷物を取り落しそうになる。教室の中に、丁度話題にしていた相手の姿があった。普段なら良介が教室に来るのはもう少し後だ。それだけでも驚くが、


「あそこ、メイちゃんの机だよな!?」


 日頃は自分の席に着いている良介が、明花の机の辺りで何かをしていた。


「そこの不審な少年、止まりなさい!」

「ちょ、夕菜先輩!」


 夕菜は気付くや否や、教室に入って良介の所へ迫っていく。


「うわ、何でこの時間にいるんだ!?」

「たまたま仕事途中で通りがかったのだ、何をしていたか白状なされ――」


 言いかけて、夕菜は視界に入ったある物に注目した。小さな、白い紙が――質素だが何か書かれた紙が、明花の机の中からはみ出している。


「ま……まさか、お主……」

「ああもう、また夕姉にやられた……!」


 良介の声を気に留めず、夕菜は書類を机に放って素早くその紙を取り出した。そして、


「……これメイちゃんに渡していい? つーかウチも読んでいい?」


 傍に明花が来ているのを知った上で、そう訊いた。


「……勝手にしてくれ!」


 良介は自棄になったようにそう言って、二人に背を向けた。



「散々手紙渡されたからリョー君も手紙で返すとは……ふっふっふ」

「……奥崎君」


 マイペースな夕菜と対照的に、明花はぎくしゃくと動く。

 夕菜は一度唾を呑んで、手に取った紙を広げた。三行、書いてあった。


『昨夜、他の手紙を読みました』

『今まで、ごめんなさい』



『これから、よろしくお願いします』



「……書きかけだったんだよ!」


 紙を広げてから数秒後、良介はそう大声で言った。しかし二人とも、返事をしない。

 顔を見合わせて、もう一度読んで、そして――


「奥崎君……!」

「うわ、ちょっと!」


 満面の笑顔で、明花が良介に飛び込んだ。腰部にタックルを喰らい、良介は倒れそうになる。

 夕菜はそれを見て、ひたすらニヤける。携帯を取り出して、カメラ機能を立ち上げた。


「いや待て夕姉、それは……」

「何を言う、こんな時に! ほらもっとくっつけ!」


 *


「こ、こんなことになってるとは……もっと早く来りゃ良かった」


 飛びつく明花とかわす良介、撮影に興じる夕菜を見ながら、遊人は教室の外で立ち尽くす。


「本当、始めから見たかった。そしてぶち壊したかった」

「懲りろよ蕗田……私はもう説教は御免だ」

「素晴らしい空気です」

「お前らは何でまた来てるんだよ……」


 何故か来てしまったトリオ、というより蕗田を抑えながら、遊人は見物を続けていた。


「ま、これでまた色々と起こるんだろうな」


 独り言は廊下に響く。


「もういっちょ、休みの内に何か仕掛けてやるかな」

 



 陽射しは強かった。それでもたまに吹く風が、空気の熱を和らげていく。

 虫の鳴き声が風に乗って届き、夏の色を濃くした。

 日々が、始まろうとしていた。


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