三人一緒にビューン、ビューン
僕らの周りには大きな巨人がいっぱいいる。右を見ると、しかめっ面をした巨人。左を見ると、小さな四角い箱と睨めっこ。後ろを振り返ると、女の巨人の大合唱。前を向くと、傷んだ服で一人徒競走。何処もかしこも巨人でいっぱい。そんな世界に僕たち三人。僕とケンちゃんとマーくんは、いつも仲良し、いつも一緒。今日も公園で遊ぶんだ。僕たち三人だけの公園。誰もいないし、誰も来ない。だからここは、僕たち三人の公園。
「振り子に乗ろう!」
元気なケンちゃん、大きなケンちゃん、僕らのリーダーがそう言った。錆びれた振り子ぶーらぶら。三人仲良くぶーらぶら。前に後ろに、振り子大きく揺れていく。
「強くけっちゃだめ!」
真面目なマーくん、メガネなマーくん、頭のいいマーくんがそう言った。
「なんで?」
気分を壊されご機嫌斜め、ケンちゃんの顔が風船に。
「ママが言うんだ。強く揺らすと危ないって」
「そうなんだ!」
僕とケンちゃん賢くなった。でもでも、振り子から見える景色は、お気に入り。小さい僕らは遠くが見えない。背伸びをしても、ジャンプをしても、巨人の背中がお邪魔虫。だから聞いた。頭のいいマーくんに、
「どうして?」
黙ったマーくん考え中。僕とケンちゃんぶーらぶら、前に後ろにぶーらぶら。マーくん突然地面に立った。そしてマーくんこう言った。
「僕のママに聞こう」
すたすたすた。小さな足で、すたすたすた。気づけば目の前大きな牢獄。僕ら三人仲良く侵入。きれいな牢獄、埃一つ無い牢獄、おもしろくない牢獄。
「手を洗いなさい。お菓子があるわ」
来た来た巨人。女の巨人。マーくんのママ巨人。
「あら、いらっしゃい。二人もどうぞ」
「ありがとうございます」
御礼の言葉、感謝の言葉、言っても心はうれしくない。だってここのお菓子は甘くない。手を洗い、巨人の元へのっそのっそ。三つのお皿がテーブルに、三つのコップもテーブルに。お皿の上には緑の塊、コップの中には赤い水。
「お野菜で作ったケーキとトマトジュースよ。健康な体を作らなきゃね」
巨人は笑い、突きつける。僕らの天敵お野菜だ。ケーキになっても天敵だ。お水になっても天敵だ。臭いは青い。味は臭い。コンビニお菓子が食べたいよ。それでも僕らは口にした。僕らの天敵お野菜を。だって巨人は怖いから。
僕ら三人食べ終えて、巨人に大事な質問だ。
「どうして振り子は危ないの?」
「落ちたら怪我するでしょう」
「でも、おもしろい」
「骨が折れたりしたら大変よ」
そうなのか! そうだったのか! 僕らは知った。振り子危ない、お骨がポッキリ、いたいたい。
その日から僕らは振り子をやめた。次は何々、何をする? 僕らは振り子失って、お次はお次は、スカイタワー。階段登って、すったすた。踏み外さないように、ゆっくりと。天辺着いたら、お空が近く。あそこにドーナツ、向こうにお犬さん。お空は色んな物でいっぱいだ。お空を拝んだ後は、地面に向けて滑り落ちる。何度も何度も、登って滑って、登って滑って。楽しい楽しい僕らの時間。
「なんだこの危ないのは!」
僕らの公園にヨボヨボ巨人がやって来た。杖を片手に僕らに叫ぶ。
「危ないぞ! そんな所から落ちたら怪我をする」
「どうして?」
「危ないものは、危ないんだ! 無理やり下ろすぞ」
ヨボヨボ巨人はカンカンだ。急いで滑って、地面に立った。巨人は満足、そのまま何処かへ消えてった。でも待って。どうして危険? 危ないの?
僕ら三人頭の中ははてなでいっぱい。体の大きなケンちゃんも、頭のいいマーくんもわからない。どうしよう。そうだ!
「僕のママに聞いてみよう」
すたすたすた。小さな足で、すたすたすた。気づけば目の前大きな牢獄。マーくん牢獄よりも、小さな牢獄。僕ら三人仲良く侵入。何もない牢獄、誰もいない牢獄、寂しい牢獄。
「忘れてた。ママはいないんだ」
そうだった。僕のママ巨人、お仕事大好き、いつもいそいそ、パパ巨人と一緒に、お外へお出かけ。僕らの疑問は解決できない。どうしよ、どうしよ。
「そうだ! 僕の家に行こう」
ケンちゃん名案それ急げ。すたた、すたた。小さな足ですたた、すたた。気づけば目の前大きな牢獄。僕の牢獄よりも、大きな牢獄。マーくん牢獄よりも、大きな牢獄。僕ら三人仲良く侵入。金ピカの牢獄、お城のような牢獄、穢れた牢獄。一つの御部屋から声が来る。男と女の声が来る。一つは知ってる。女の巨人。ケンちゃんのママ巨人。でもでも、男は知らない。誰かな誰かな? 気になる僕らはそっと見る。裸の巨人が抱き合って、猿のように腰を振る。女巨人はアンアンと、男巨人もアンアンと。黄色の声が木霊する。
僕らはそっとお外に出た。
「何をしていたんだろう?」
僕ら三人わかんない。知らない遊び、不思議な遊び。疑問はドンドン増えていく。お次はお次は、誰に聞こう。
「あ!」
見つけたケンちゃん声上げた。黒服着たお兄さん巨人、一人ですたすた歩いてる。僕らは巨人に聞いてみた。
「どうしてスカイタワーに登っちゃダメなの?」
「落ちたら危ないじゃないか。あれは高いから子供が上る時は、誰かが着いてなきゃ」
「でも、お空が綺麗」
「落ちたら骨折者だ。それに、血が出てしまう。そこからばい菌だって入ってしまうかもしれない。だからダメなんだ」
そうなのか! そうだったのか! 僕らは知った。スカイタワー危ない、血が出て体が、いたいいたい。
「それともう一つ。ケンちゃんのママと知らない男が裸で抱き合ってた」
「変な声上げてた」
「嬉しそうな顔してた」
不思議だ不思議だ。お兄さん巨人、お顔がまっかっか。少し黙って、僕らに言った。
「セックスって言うんだよ。好きな男と女がやるんだ」
そうなんだ! でも待って、ケンちゃんママにはパパがいる。ケンちゃんママの好きな人は、パパじゃないの?だから聞く。僕らは疑問に答えてよ。
「ケンちゃんママにはパパがいる」
「ママはパパが好き。結婚してる」
「でも知らない男とセックスしてた」
お兄さん巨人少し考え、こう言った。
「不倫てやつだよ。ケンちゃんママはパパが嫌になって、他の男が好きになってセックスしてるんだ」
そうなんだ! ケンちゃんママは不倫して、知らない男とセックスを。僕らは知った。好きは季節、結婚しても移ろいでく。
その日から僕らはスカイタワーやめた。次は何々、何をする? 僕らは振り子を失って、スカイタワーも失って、お次はお次は、ゴロゴロ遊び。小さなゴロゴロ足で蹴る。ゴロゴロ、ゴロゴロ転がって、向かう先はケンちゃんに。ケンちゃん蹴って、空高く、ゴロゴロお空を高く飛ぶ。落ちる所はマーくんへ。マーくん綺麗に受けきって、ゴロゴロお空へ蹴り上げる。楽しい楽しい僕らの時間。
「ここではそれは禁止されています」
僕らの公園に、鬼の巨人がやって来た。桜の紋章携えて、鬼はドスドスやって来た。
「……食べる?」
「食べませんよ。でも、ここでは、ゴロゴロ遊びは禁止されているんです」
「どうして?」
「振り子はダメで、スカイタワーダメで」
「僕らはゴロゴロで遊ぶしかない」
「それはね、ボールが外に飛び出して、人に当たったら危ないからなんですよ」
そうなんだ! そうだったんだ! ゴロゴロ遊びは危ない、人に当たっていたいたい。楽しい楽しい公園で、僕らは遊びを失った。雁字搦めのこの世界、僕らの遊びも封じ込む。自由の国で、自由なし。だったら、お次はお次は、何をすれば?
「僕らは公園で何をすればいい?」
「もう遊ぶものがない」
「遊びたい」
鬼の巨人は優しく僕らにこう言った。
「今までここで遊んでいたんでしょう。だったら、違う場所に行って違うことをしてみたらいいと思いますよ」
そうだ! ここはつまらない、つまらなくなった。もっと拾いお外へ行って遊んでみよう。
その日から僕らは公園をやめた。次は何々、何をする? 僕らは振り子を失って、スカイタワーも失って、ゴロゴロ遊びも公園も失って、お次はお次は、お外へ散歩。すたすたすた、すたすたすた。巨人の街をすたすたすた。せっせと走る巨人がぶつかる。ケンちゃん転んで泣いちゃった。巨人は無視してせっせと走る。周りの巨人もせっせと走る。
ケンちゃん慰め、すたすたすた。冷たい街で、すたすたすた。スカート翻す巨人が投擲。お菓子の袋をポイ、たばこをポイ。たちまちそこはゴミの山。周りの巨人は見ても見ぬふり、せっせと走る。
ゴミを横切り、すたすたすた。汚い街で、すたすたすた。欲望の束を巨人が奪う。取られた巨人は叫んでも、周りの巨人はせっせと走るのみ。
同情しながら、すたすたすた。欲望の街で、すたすたすた。僕らは思う。公園とっても楽しい場所で、お外に出ると楽しくない。お空はとっても汚く見える。景色はどんよりねずみ色。欲望渦巻くこの街で、僕らは世界に絶望した。
汚く荒んだこの世界、求めるものはお空だけ。でもでも、僕らは翼がない。鳥さんの真似をしても、僕らの足は地面ある。どうしよう。僕らは考えた。そして、僕らは聞いた。人間来世があるもんさ、今がダメでも来世がある。だから僕はお空を願った。お次はお次は鳥さんに、僕らにお空を下さいな。そして僕ら三人お空へストーン。