こいのぼり
性表現などはありませんがBLです。 苦手な方は回れ右。 ざくざく書いたので細かい説明がなくてすいません
GWももう終盤。
部屋の窓から見える、隣家の屋根の上を泳ぐ鯉が、僕を見下ろす
はやく、はやく来てよ。
鯉の目は、一人で「彼」を待つ僕には怖くて。
「遅れてごめんね、いっくん!」
靴を鳴らして彼は叫んだ
この2階からでも分かるほど肩が上下している
「鍵開いてるから」
いらっしゃい、とも、部屋に来てとも言えないけれど
彼は微笑んで「分かった」と言って窓の景色から消えた
…急いで来てくれたんだ。
それだけで嬉しくなる自分はおかしいのだろうか。
嬉しいのに満たされない自分は。
はやく、僕の隣に来て欲しい。
来て、僕だけに笑いかけて欲しい。
ふと、思い出したのはラプンツェル。
僕が長く、不思議な力を持つ髪を持っていたら彼はさらってくれただろうか
女性の象徴、長い髪を。
「ほんとにごめんね。委員会の仕事が長引いちゃって」
僕の部屋のドアを開けたと同時に彼は謝る
違う高校に進んだ為2人で会える時間はほんの少しになった
謝らないで。
僕はただ笑って欲しいのに。
「ん。良いよ。」
ぎゅっと彼の背中に抱き着くと、彼もかえしてくれる。
「どうしたの? 甘えたい気分??」
「…そうだったら、何かしてくれんの?」
「いっくんの為なら何でもするよ、親友だもの!」
親友
彼が軽々しくそう言わない事を知ってる
だからこそ、つらい。
彼の手繰る髪は僕の短い黒髪なんかじゃないって
分かってる
理解していたはずなのに
苦しみで死んでしまいそうだった。
「…いっくん、気分悪い?」
僕を気遣うその声も
いつかは他の誰かのものになるんだ
それならもういっそ
「なぁ」
「何?」
「おまえのこときらい」
僕の体温が残る背中を、とんっ、と押す
「はやくでてって」
何かを言っている彼の声を聞かないようにしながら
うつむいた
はやく
やがて足音が遠ざかった部屋
僕はまた一人ぽっち
僕の恋は次々と溢れる水泡に融けた
染みを作るそれは醜い僕を映す
空にはためく鱗は瞬いて
消えた
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