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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Merciless

作者: 東雲あきら

赤。

赤い。

目の前が、赤かった。


殴る。

殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

顔がない。

目がつぶれ、あふれるゼリー状のものが赤と交じり合い、鼻がひしゃげ、歯が辺りに飛び散っている。

脳が頭があった部分から流れ出している。

綺麗だ。

綺麗綺麗綺麗綺麗きれいきれいきれいきれいきれいきれいキレイキレイキレイキレイキレイキレイ。

なんて 、きれい なん、 だろう。


その遺体は金色の長い髪と、華奢な小柄な身体と可愛らしい白のワンピースから十代の少女だということがわかった。

男は頭が潰れた死体に乗っかって嬉しそうに笑っていた。とても嬉しそうに。自分の手についた血を空の月の方へ掲げながら。




目が覚めると、そこはどこかの廃墟の中だった。

酷い頭痛と眩暈で思わず頭を抱えて目をつむる。そしてそれがおさまるとゆっくりと目を開けた。

まず、目に入ったのは椅子に座った少女の姿だった。歳は十代前半くらいだろうか。可愛らしい白のワンピースを着ており、金色の長い髪のツインテールにして括っている。身体を縄でしばられており目をガムテープで塞がれているようだった。

とりあえず、起き上がり少女の身体を揺さぶって声をかけてみる。

「おい、大丈夫か?」

「だ、誰? い、や……こ、殺さないで……」

少女は過敏に反応し、今にも泣き出しそうな声で言った。

「落ち着け。まずその縄とガムテープをとってやるから、暴れるな」

まず、目を塞いでいたガムテープをはぎとり、少女の身体と足を縛っていた縄を持っていたナイフで切った。

「あ、ありがとうございます。あの、ここはどこなんでしょうか?」

「わからない。俺も目が覚めたらここに倒れてたんだ。なんだってこんなことに…」

「あ、あの。私レティシアっていいます。助けてくださってありがとうございます」

律儀に頭を下げるレティシアは蒼い色の瞳をした整った顔立ちをしており、動かなければ人形と見違えるほどの美少女だった。

だが、何故だろう。何故か彼女に見覚えがある。どこかで会っているのだろうか。

「まあ、まだ無事にここから出られたわけじゃないから助けたって言っていいかわからないけどな。俺は…」

自分の名を名乗ろうとして、絶句した。

「……どうか、されたんですか?」

「俺は……俺は、誰だ? わからない…自分の、名前が、わからない…」

「え?」

「わからない、わからない…」

わからないという単語を繰り返しながら、頭を抱える。慌てて持っているものを探すが、財布はおろか身分を証明するものも見当たらなかった。自分がどこで、何をしてどうやって生きているのかどうしても思い出せない。

「落ち着いてください。一時的な記憶喪失なのかもしれません。早くここを出て病院へ行きましょう」

「あ、ああ…」


思いのほか、俺が目を覚ました部屋には鍵がかかっておらず簡単に部屋から出ることができた。

どうやら地下だったらしく、部屋から出てすぐに階段があり、上がっていくとつくりから察するにもう誰も住んでいない洋館の中のようだった。

「玄関はどっちでしょうか?」

「わからない。とりあえず、先に進んでみよう」

「はい」

レティシアと名乗る少女は、毅然とした態度で歩き出す。まだ子供なのに怖くないのかと思い尋ねてみた。

「そ、そりゃ、私だって怖いです。でも、こんなところで怖がっても、ど、どうしようもないじゃないですか」

見ると、彼女の手が震えている。俺は思わず彼女の手を取った。

「大丈夫だ。一緒にここから出よう」

彼女を安心させるように優しい声で言うと、彼女は「はい」と笑顔で頷いた。

「何か、攫われたときのことなんかは覚えてないのか?」

「私、看護士になりたくて看護学校に通っているんです。ただ、学校の用事で帰る時間が遅くなってしまって、帰っている途中に急に後ろから口を塞がれて……気付いたら」

「身体をしばられてあの場所にいたってわけか」

「はい。ところで、自分の名前が思い出せないって仰ってましたが、他に思い出せそうなことはありますか?」

「……」

しばらく考え、首を横に振った。

「日常的な会話や一般的な単語を知っていらっしゃるので一時的な記憶喪失だと思います。頭は痛くありませんか?」

「そういえば、目が覚めたときに激しい頭痛がしたな。あと眩暈も」

「もしかしたら、誰かに殴られたときの衝撃で脳にダメージを負ったのかもしれません。はやめに病院に行った方がいいですね。私、いい先生知ってますから紹介しますよ」

「ああ。ありがとう」

そんな話をしながら長い廊下を歩いていくと突き当たりに出た。

人気はまったくないが、ところどころ不自然に灯っている蝋燭の火のおかげで真っ暗な中を進むということにはならなかった。

ただ、行けども行けども窓らしきものがない。だから窓を開けて外に出るということもできない。

「この建物、広いですね。どこまで続いているんでしょうか」

不安げにレティシアが俺の手をギュッと掴む。

「君は、初対面のしかも男に対する警戒心というものがないな。俺のことは怖くないのか? もしかしたら俺が君を攫って拉致したのかもしれないんだぞ」

「大丈夫です。私、人を見る目はあるつもりですから。おにいさん、とっても優しそうな顔してますし、そんなことをするような人には見えませんよ」

「だったらいいんだけどな」

自分に関する記憶がない以上、俺でさえ自分のことが信じられない。だが、それでも俺は自分を信じてくれるこの少女を連れてここから出ようと心に決めた。

しばらく歩くと、玄関と思われるホールに出た。

二階まで吹き抜けになっており、天井の中央にはシャンデリアが飾ってある。二階へ続く階段もあり、壁には大きな扉があった。

「ここが玄関でしょうか?」

「だといいんだが」

俺は壁にある唯一の大きな扉を押す。だが、いくら押しても引いてもぴくりとも動かない。

「駄目だ。鍵がかかってるのか……全然開かない」

「困りましたね……窓も見当たりませんし、どうしましょう?」

「とりあえず、この建物全部見てまわってどこか裏口とか外に出られる場所がないか探すしかないだろうな」

「他に、誰かいないんでしょうか? 少なくとも、私たちをここにつれてきた誰かがいるはずなんですが」

「案外、どこかに隠しカメラがあって俺たちが右往左往してるのを見て笑ってるのかもしれないな」

「何のために……」

「そりゃ、それこそ、その誰かに聞くしかないだろう」

「そうですよね.……」

肩を落としてため息をつくレティシアに俺は肩を軽く叩いた。

「とりあえず、やれることからやって行こう」

「はい。頑張りましょう」


それから俺たちは、洋館にある部屋を調べてまわった。居間と思われる部屋にあった燭台に火を灯してそれを持って歩く。

もう何年もこの建物は使われていないらしく、所々に埃がたまっていた。

一階の部屋をそれぞれ探してまわったが特に役立ちそうなものなどを見つけることはできなかった。

「何か、こういうシチュエーションってよく漫画とか映画とかにもありますよね。何て名前でしたっけ。全く共通点のなさそうな人たちが数人突然拉致されて、一つの場所に監禁されて結局誰も抜け出せずに全員死ぬっていう……」

急にレティシアが話し出したと思ったらとんでもない話題を振ってきた。

「おいおい、不吉な話しないでくれよ」

「ごめんなさい。何か話してないと怖くて怖くて……」

「だからってその話題のチョイスはどうかと思うぞ」

「ええと、じゃあ……」

ふと、俺はあるものを見つけて足を止めた。後ろを歩いていたレティシアが俺の背中にぶつかる。

「いだっ。急にどうしたんですか?」

「……」

目の前には二階へ続く階段。今まで話していたから気付かなかったが、ぴちゃん、ぴちゃんと何かが落ちる音がする。

それは赤い何かが階段をつたって下まで流れ落ちる音だった。それを辿って階段の踊り場に目を向けると、そこには

「う、うわああああああああっ!!!」

「きゃっ!」

突然悲鳴を上げた俺に、レティシアもつられて悲鳴を上げて後退する。

「ど、どうしたんですか? いきなり」

「あ、あ、あ、ああああああ、あれ、あれ!」

震える指でそれを指す。レティシアも階段の踊り場を見る。

「あそこに何かあるんですか?」

レティシアにはそれが見えていないのか平然とした顔で階段の踊り場を見ている。

「み、見えないのか……?」

「だから、何が見えるんですか?」

首を傾げるレティシアに、俺はもう一度階段の踊り場を見た。

踊り場の壁には、縦に裂かれた人間の死体が張り付けにされていた。切れ目からは夥しい量の血が流れ出しており、それはまるで俺を凝視しているようにも見える。

だが、流れているのは血液ばかりで内臓などはいっさいはみ出していない。

それが、レティシアには見えていないのだという。

「……」

黙り込む俺に、レティシアは訝しげな顔をしつつも「早く二階に行きましょう」と言って平然とその死体の前を素通りして階段を上がっていく。

俺も意を決して、ゆっくりと階段を上がっていく。そして踊り場のそれの前に来たとき、頭の中にある映像が再生された。


夜。路地を歩く女性の姿があった。

辺りは薄暗く、猫の子一匹すらいない。比較的派手な服を着ていることから水商売風の女性と見受けられた。

そしてその女性の後ろには斧を持った男が一人。

足音を殺し、ゆっくりと近づき、斧を振り上げ女性の脳天目指して振り下ろす。

断末魔さえ残さず女性は息絶える。


ハッと我にかえると、再び死体が目に入った。

同じだった。

今浮かんだ映像の女性と目の前にある死体は同じものだった。

何故、何故こんな……。

「おにいさん、何してるんですか? 早く行きましょうよ」

なかなか上にあがってこない俺に、レティシアが声をかける。

「あ、ああ……」

軽く頭を振り払うと、駆け足で二階まで階段を上がる。

「顔色悪いみたいですけど、どうかしたんですか?」

心配そうに言うレティシアに、俺は無理に笑顔を作ろうとするが笑えなかった。

「ちょっと休憩しますか?」

「いや、早くここから出よう」



階段がまだ上に続いていることから、まだ上があるようだった。

とりあえず二階を探索しようという話になり、それぞれの部屋を探してみるが一階と同じで何ら役に立ちそうなものがない。

「鍵とかかかってないのが救いですね」

「かかってなくても何もなきゃ意味がないんだがな」

「確かに。でも、このお屋敷まだ使えそうな調度品とかたくさんありますよね。もったいないなぁ」

「君はもっと危機感を持つべきだと思うけど」

「おにいさんと一緒だから大丈夫ですよ。一人だったら恐怖に耐え切れなくてその場で自殺するかもしれないですけど、誰かと一緒だから平気です」

「あのなぁ……」

「あはは。冗談ですよ。明るく行きましょう。明るく明るく」

そんな軽口を叩いている彼女だが、やはり内心怖いらしく少し歩き方や表情がぎこちない。無理をして平静を装っているらしかった。

さっきの死体をなるべく思い出さないようにして、なるべく明るい話をしながら二階の部屋を見て回る。

「でも、ここまで来ても私たちを攫った人って何もコンタクトを取ってきませんね。本当に何が狙いなんでしょうか?」

「さぁな」

「てっきり、即死のトラップとか仕掛けられてるんじゃないかとびくびくしてたんですけど、今のところそんなものもなかったですしね」

「君、言霊って言葉知ってるか?」

「フラグを立てるなってことですか?」

「そういうことだ」

「わかりました。今後は思ってても言わないようにします。ここが二階の最後の部屋みたいですね。何かあればいいんですけど」

普通に扉を開けて入っていくレティシア。

俺もその後ろに続いて中に入るが、中の異質さに気付いて絶句する。

「な、なんだ……これは……」

「ん? どうかしましたか?」

彼女は振り返って首を傾げる。真っ赤に染められた部屋の真ん中に立って至って普通の表情で。

そして部屋には人間の肉片が散乱していた。

机の上には目をくりぬかれた人間の頭部。衣装棚からは人間の足がはみ出ており、ベッドの上にはご丁寧に腸や内臓などが並べられている。そして本棚には本があるかわりに目や耳などが飾られていた。

何人分の人間の死体がここにあるというのだろうか。

「う、うえええええっ!!」

堪えきれず、俺はその場で胃に入っているものを全て吐き出した。

「お、おにいさん!? どうしたんですか?」

慌ててレティシアが俺の背中をさする。

「げえええっ……はぁ、はぁ、はぁ」

出すものを全て出し終えると、気分が少し楽になった。

「やっぱりちょっと休みましょう。さっきから変ですよ」

「……き、君は、ほ、本当に、あ、あれが、見えて、いないのか?」

俺が部屋の中を指差す。

「あれって、ただの普通の部屋じゃないですか。一体何があるっていうんですか?」

レティシアはわけがわからないという風に問いただす。

「……いや、何も見えないなら、いい。なんでもない」

「何でもないって、そんなわけないじゃないですか」

「何でもないって言っているだろう!!」

「ひっ!」

俺の剣幕に驚いたのか、レティシアは少し悲鳴を上げる。

「……すまない。怒鳴ったりして。でも、いいんだ。本当に、なんでもないから」

「……わかりました。何かあったら、遠慮なく言ってくださいね」

「ああ。ありがとう」

そして俺の脳裏にはまた映像が勝手に流れはじめる。


そこはここの洋館ではない別の場所。

床には多くの死体が積み上げられ、病院によくある診察台に向かって男が一心不乱にナイフで人間の臓器や目などのパーツを取り出している。

「なんて綺麗なんだろう」

そう言いながら、手際よく、素早く、次々と。

あれは誰なのだろう。

顔ははっきり見えるのに、全く見知った顔ではない。

誰だ。あの男は誰なんだ。


この映像は、あの部屋の死体が分解されたときの映像なのだろうか。

さっきの踊り場の死体といい、俺には殺されたときのことがわかる能力でもあるのだろうか。なんといったか。よく超能力でいうサイコメトリーというやつなのだろうか。

だが、さっきの死体も部屋にある惨状もレティシアには見えていない。どういうことだ。

俺が狂っているのか。彼女が狂っているのか。

もしかしたら、映像の中の男が俺たちを攫った人物で、俺たちも殺されてこの館に飾られるのではないか。

そうだとしたら、早く、一刻も早くこの館から逃げ出さなければならない。

だが、どうやって。

俺が考え込んでいるとレティシアがおずおずと声をかけてきた。

「あ、あの、おにいさん……」

「どうした?」

「ごめんなさい。私、トイレに行きたいんですけど……」

「我慢できそうにないのか?」

「……ごめんなさい」

俺はため息をしたい気持ちを抑えながら答えた。

「早くしてくれよ」

幸い、トイレは近くにあるようで水が流れるか心配していたがどうやら水は通っているようだった。

しばらくして、トイレからレティシアが出てきた。

「お待たせしました。ごめんなさい」

「いや。じゃあ、上に行こうか」

「はい」

俺たちは階段へ戻り、上の階段を上っているところでしきりにレティシアが自分の髪を気にしていることに気付いた。

「なにしてるんだ?」

「私の髪、変になってません? さっきのトイレ、鏡がなくて自分の姿が見れなかったんですよ。そういえば、この屋敷って鏡って全然置いてないですよね」

「君、こんなときによくそんなこと気にできるな」

「だって気になるんですもん」

「……」

俺は心底彼女に呆れたが、危機意識に差があるのは仕方ない。それに、わざわざ彼女を怖がらせる必要もないだろうと思い、俺は何も言わなかった。

本当に、俺の考えが杞憂であればいいのだが。



三階に着くと、階段がそこで終わっておりどうやら最上階のようだった。

「ここで何もなければお手上げですね」

三階は一階、二階と違って大部屋がひとつあるだけだった。家具も調度品もないとても広い部屋だった。

ただ、部屋の中央にぽつんと何かが置いてある。

「誰もいませんね」

ただ、他の部屋と違うのはその部屋はとても綺麗だということだった。天井の中央にあるシャンデリアは玄関にあるものとは違い、とても大きく、とても綺麗なものだった。

俺は部屋の中央に置いてあるものが気になって部屋の中に入る。

それは細長い円の形をしていた。長さは大人の男の身長ほどある。

そして、それに死角になっていて見えなかったが、床には頭部を砕かれた死体が転がっていた。一瞬息を呑むが慣れたのか驚きはしなかった。

だが。

その死体が着ている服と辺りに散っている髪を見て振り返る。

すると後ろではレティシアがにっこりと笑っている。

その死体は金色の長い髪で、レティシアが来ている服と同じ服を着ていた。背格好から同年代の子供の死体だった。

「な、何が……どうなって……」

レティシアは何も言わずにそっと中央に置いてあった円形のものを指差した。

それにつられて見ると、それは鏡だった。

そして鏡に映った自分の姿を見て絶句する。

それは自分の頭に流れていた映像に映っていた男そのものだったからだ。

「嘘だ……」

そしてその瞬間、膨大な記憶が頭の中に直接叩き込まれる。

これまで多くの人を惨殺し、綺麗な部分を切り取ってコレクションしてきた自分の趣味すら思いだす。

そして、レティシアと同じ格好をした子を襲い、撲殺した事実さえも。

「嘘だ……うそだ、うそだうそだ。俺じゃない……俺はそんなことしない……俺は、違う……」


くす、くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす。


突然後ろにいたレティシアが笑い出した。

振り返ると、普通の少女が浮かべられるようなものではない醜悪な笑みを浮かべている。

俺はそれを見て背筋が凍りついた。


くすくすくすくすくすくすくす、ひ、ひひ、ひひ、ひひひひひひひひひひひひひ、あ、あは、はははははははははははははははは!!


少女の笑いはやがて哄笑へと変わっていく。

「な、何なんだ……お前は、お前は一体何なんだ!?」

途端に、レティシアの哄笑がぴたりとやんだ。そして優雅に微笑むとワンピースの裾を掴んでお辞儀をする。

「私はレティシア。レティシア=フローレンス。あなたが以前撲殺してくれたそこに転がっているアリシア=フローレンスの双子の妹になります」

「双子の妹だと?」

「ええ。今回の余興はいかがでしたでしょうか? 少しでもお気に召していただければ嬉しいのですが」

「余興? お前の目的は何だ? 確かに、俺がこの子を撲殺した記憶はある……だが、俺が人を殺したなんて……信じられない!」

「おや、これを見ても信じられないと仰いますか?」

レティシアがパチンと指を鳴らすと同時に天上から何体もの死体が降ってきた。それらはまるでマリオネットのように天上から紐で吊るされている。

「……!」

その死体のどの顔も見覚えがあった。全部、俺が殺した人間たちの顔だ。だが。

「おかしい……ありえない……俺の記憶じゃ、こいつら全員分解して不要な部分は廃棄したはず……」

「苦労しましたよ。あなたが殺した人のそっくりさんを見つけ出すのは」

「まさか……」

「ええ。そのまさかです」

「何故だ! 何故ここまでする必要がある! 復讐か? お前の姉を殺した復讐なのか?」

「復讐?」

レティシアは心外だという顔をした。

「ただのゲームですよ。興味があったんです。あなたほどの殺人鬼が記憶を失い、徐々に記憶を取り戻し、完全に記憶を取り戻したときどういう反応をするのかね。でも、まだ完全に思い出せていないようですね。かつてのあなたを」

確かに、自分が殺したという記憶はあるがそれはまるで他人の記憶を見ているかのような感覚で自分がやったという実感が無い。

「もう一押しのようですね。ならばこうしましょう。私を持っているナイフで殺しなさい。殺すことができればここから出してあげましょう」

「できなければ?」

「決まっているでしょう。彼等と同じようにこの館に八つ裂きにして飾ってあげますよ」

俺は目の前の少女に恐怖した。

階段の踊り場。赤く染まった部屋。あの場所でこの少女は顔色ひとつ変えることなく平然としていたのだ。

化け物かと俺は思った。

この少女を殺さなければ自分が殺される。

俺はナイフを握った。

「安心してください。私は動きませんから」

レティシアが笑みを浮かべて言う。

俺は迷っていたが、意を決して持っていたナイフを振り上げる。少女の口端が上がった。

そして。


「ぐ……は……っ!」


膝をついたのは俺の方だった。

口から大量の血があふれ出す。

レティシアは腕を組んで俺を見下していた。


くすくすくすくすくすくす。


再び笑い出す。

俺は後ろから何本もの剣で背中から腹を貫かれていた。

貫いたのは天上から吊るされた死体だった。死体がそれぞれ剣を持ち、俺の背中を貫いている。

「どうです? 自分が殺した人間と同じ顔の人間に殺される気持ちは?」

レティシアの哄笑だけががんがんと響く。

「な……で……」

何でと言いたかったが言葉にならなかった。

「言ったでしょう。私は動きませんと。私が殺すはずだったアリシアをあなたが殺した。私の楽しみを奪ったあなたにはお似合いの末路だと思いますよ。それではごきげんよう」

その言葉を最後に、俺の意識は闇に落ちた。


ホラーを書きたくて即興で書いたんですが、何か黒歴史になりました。しかも前作に似てしまった気もします。なので、最後まで読んでくださった方にほんとに感謝です。感想やダメ出しなど宜しくお願いします。

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