第92話〜黒城の罰
【廊下】
《…コツコツコツ…》
「…………。」
「…………。」
授業中のため、人がいなくて静かな廊下を無言で歩く俺と黒城…
…俺はこれからどこに連れて行かれるんだ?
そして一体どんな罰を受けなきゃいけないんだ…?
「…黒城先生?俺は一体どこに…?」
「黙って歩け。」
「…はい…」
質問もダメかよ…
ケチ……
それくらい教えてくれたっていいじゃん…
もうしばらくは無言で歩かなくちゃいけないのか…
…気が重い…
「…着いたぞ。」
…って早っ!?
すぐそこかよ!?
だったら別に教えてくれても良かっ……!?
………え?
「ここ…ですか?」
「あぁ、ここだ。」
…何で?
てっきり職員室に連れて行かれるかと思ったのに……
…何で『図書室』?
「えっと…俺はここで罰を受けるんですか?」
「そうだ。」
………?
さっぱり意味がわからん。
処刑ならどこでもできるのに…
何でわざわざこんな所で…?
「ここでお前は俺の借金を払うために働いてもらう。」
ちょっと待てコラ!!?
何だそれ!?
ふざけんな!!
「借金!?どういう事ですか!?」
「…図書室を管理してるヤツに借金してるんだよ。本の整理を手伝ったら払わなくてもいいって言われたんだが…そんな面倒なことやるわけないだろ。」
だからって生徒にやらせるな!!
てか借金したくなかったらチョーク投げるのヤメロ!!
それだけで結構節約になるぞ!?
「知ってると思うが、この学校の図書室はかなり広い。一人でやるのはキツいだろうな。そこで、助っ人としてもう一人呼んでおいた。ありがたく思え。」
…お前が一人でやってくれたらありがたく思うよ。
「そいつは多分すでに中にいると思う。それじゃ、後は任せたぞ。」
「…はい。」
…逆らったら処刑だろうな。
まぁ、処刑よりは本の整理の方がマシだろ。
助っ人もいるみたいだし……
これなら今日はもう辛い目にあうことは無いだろう。
…よし!
こんな仕事、さっさと終わらせていつもの日常に戻ろう!!
《…ガチャッ》
「……Zzz…」
「…………。」
……………。
…アイツが助っ人?
あの先生、助っ人の意味知ってんのかな…?
とりあえず帰っていいかな…?
…ダメだよな。
「…おい、起きろ!」
「…くぅ〜♪」
「…………。」
《ビシッ!!》
「…っ!?いったぁ〜…!!」
どうやら今回の眠りは浅かったみたいだな。
デコピン一発で起こせるとは思わなかった…
「もう!いきなり何すんのさ!」
「寝てる方が悪い。…それより、もしかしてお前も黒城に呼び出されたのか?」
「…ん?ああ、そういえば…もしかしてキミも?」
やっぱりかよ…
まさかスイレンが助っ人とは…
これだけで罰じゃん…
「…まさかお前も黒城の授業サボったのか?」
「ボクがサボるわけないじゃん!ちゃんと睡眠学習してたもん!」
…お前、何でチョーク食らってないの?
黒城のヤツ、差別してないか?
「そういうキミは…っと。それは後で調べればいいか。」
「調べなくていい!てか、調べるな!」
「とりあえずボクたちは何でここにいるの?」
知らねぇのかよ!?
そっちを調べろ!
「…本の整理をしろってさ。」
「あ、ボク無理♪高い所届かないもん♪」
……………。
《…ギュッ!》
《グニ〜……》
「台を使うとか、いろいろ方法があるだろうが!!」
「いひゃい!!いひゃいって!!」
全く…
時々監視しないとサボりそうだな…
「…今日のキミ、何だか怖いなぁ…」
「…そう思うならマジメに仕事しろよ?」
「ボクとしては、のんびり楽しくやりたいんだけどなぁ〜♪」
「…お前しばらく俺の家出入り禁止な。」
「さ、さて!頑張って早く終わらそうか!」
…単純なやつ。
飯が食えなくなるのがそんなに嫌なのか?
「もし早く終わったら今日もキミの家に遊びに行っていい?」
「…わかったよ。」
「やった♪これは頑張らないと!!」
…扱いやすいという面では助っ人にピッタリかもな。
これだけやる気があるならすぐに終わるかも…
「…で、整理しなくちゃいけない本は……」
「そういえば、あっちの方に本の山があったよ?」
「なら、多分それを本棚に戻せって事だな。」
「…え゛?」
「…?どうした?」
「あの本の山を…?全部…?」
…………。
…なるほど、確かにこれは『罰』だな。
スイレンの視線の先にある本の山……
…山は山でも富士山レベルだな。
まさかこれだけの量があるとは……
…てかこの図書室にこんなに本あるの?
「…適当に本棚に入れるのってダメ?」
「…ダメだろうな…」
「…帰っていい?」
「当然ダメだ。」
「そんなぁ〜!」
文句言うな!!
授業中に寝てたからこんな事になるんだよ!!
俺なんか加賀のせいだぞ!?
「こんなの無理だって!今日中に終わるわけないよ!」
…俺もそう思う。
しかし、やらなければならないんだ!
「スイレン……」
「……なに?」
「もし今日中に全部終わったら、今日の夕飯はお前の好きなメニューにしてやる!」
「本当!?じゃあ、ハンバーグ♪」
「わかった!ただし、今日中に終わらないとダメだからな!」
「よ〜し!頑張るぞー!!」
…本当に単純なヤツ…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【一時間後…】
「…疲れた〜!」
「俺も…一度休憩しよう。」
「賛成!」
あれだけ頑張ったのに本の山が全然減ってないような…
まさかこんなに大変なんて…
黒城のヤツ、一体いくらの借金したんだよ…!?
「一時間ずっと作業してるのに、何で全然減らないんだよ…」
「う〜ん…面白い本がたくさんあるのが原因じゃない?」
…は?
「いや〜、この図書室には昼寝の時にしか来ないけど、面白い本たくさんあるんだね〜♪ほら、この本とか…♪」
…………。
《…グニ〜!》
「…スイレン?そんなんだからいつまでたっても終わらないんだぞ?わかってるか?」
「いひゃい!いひゃい!!ごめんなひゃい!!」
全く…このバカは…
ハンバーグのために頑張るんじゃなかったのかよ…
「いひゃいよ〜…!はなひてよ〜…!」
「じゃさっさと作業しろ。」
「いたたた…全く!いくらボクのほっぺがやわらかくて気持ちいいからって何度もつねらないでよ!」
いや、別にそういう理由でほっぺをつねってるわけじゃないぞ?
…ぷにぷにしてて気持ちいいのは認めるけど。
「だいたい、ボクが本気を出せばすぐに終わるんだから!」
「だったらさっさと本気出せよ!!」
「ヤダ!」
「何でだよ!?」
「そんなの決まってるじゃん?」
「できるだけ長くキミと2人っきりでいたいから♪」
「……なっ!?」
「あれ〜?顔が赤いよ〜?やっぱりこういう事言われるとドキドキしちゃう?」
「バ、バカか!いいからさっさと作業しろ!」
「は〜い♪…でもさぁ、別に赤くなる事じゃないじゃん♪いつもキミの家で2人っきりなんだからさ♪」
「いや、まぁ…それはそうだが……っていいから早く作業しろって!!」
「ちゃんと作業しながら話してるもん♪どうだ!文句言えまい!」
「…ぐっ!?」
この野郎…!
やっぱり口じゃ勝てないか…!
こんな時、味方に澪がいてくれたら……
…余計に作業が遅れちゃうか?
…さて、そろそろ俺も作業を再開するか。
もう十分休んだし、何とか今日中に終わらせたいしな……
……………。
…スイレンがマジメにやってくれたらもっと早く終わるのに…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【数十分後…】
「…ねぇねぇ。」
「…ん?どうした?」
くだらない話なら却下だぞ?
「この本さぁ、一番上なんだけど…届かないんだよね。」
「だからそういう時は台を使えって…」
「取りに行くのめんどくさいなぁ〜…」
…確かに、台が置いてある場所から少し離れてるからな。
「…仕方ない、今取ってきて………」
「おんぶしてよ♪」
…はぁ!?
また変な事を……
「あのなぁ…台を持ってきた方が後々使えるし……」
「おんぶがいい♪」
人の話を聞けよ!!
「お前…そんなに台が嫌いなのか?」
「そんなわけないよ。台よりキミの方が好きだけどね♪」
…そりゃそうだろ。
もし台以下だったら泣くぞ?
「ほら、早く早く♪」
「…はぁ、全く……」
…とか言ってやっちゃうからダメなんだろうなぁ…
でも逆らったら何をされるかわからないし…
作業が遅れるかもしれないし…
…これが俺の運命って事で諦めるしかないか…
「…ほら、これでいいか?」
「わぁ♪高い高い♪」
…お前は子供か?
「いいから早く片づけろよ。」
「うん♪でもその前に…♪」
…?
何だよ…?
「…ぎゅ〜♪」
「〜っ!?な、なな…何を…!?」
さっき以上にスイレンの体が密着してくる…
背中越しにスイレンの体温を感じる…
俺の左肩からシャンプーのいい匂いがする…
……………。
…いやいやいや!?
何この状況!?
落ち着け俺!!
まずはツッコもう!
何やってんのコイツ!?
「ス、ス…スイレン!?い…い、いきなり何を…!?」
「……………。」
「…ス、スイレン?」
「……………。」
「………すぅ♪」
「……………。」
……………。
…せ〜の!
《パッ!》
《…ドスン!!》
「きゃん!?」
このやろう!!
人の背中で寝てるんじゃねぇよ!!
「いった〜!?急に手を離すなんてヒドいよ!」
「急に寝る方が悪いわ!!マジメに作業しろ!」
「だってキミの背中があまりにも寝心地がよかったから…」
…これはほめ言葉なのか?
どっちにしろ、もうおんぶはしない方がいいな……
「もうおんぶは禁止だからな!」
「え〜!…じゃあ、肩車♪」
そういう問題じゃねぇから!!
「俺を使おうとするな!届かない本があったら台を使え!」
「ボクにとっての台はキミだよ♪」
結局俺は台と同レベルって事じゃねぇか!!
「…一応聞いておくけど、お前やる気ある?」
「…!?え!?あ…うん!バッチリ!!」
…なぜ焦る?
本当はやる気ないんだろ?
ハンバーグでやる気出たかと思ったのに…
どうにかコイツのやる気を引き出さないと…!
「…よし!スイレン!こうなったら勝負だ!」
「え!?いきなり何!?」
「今から多くの本を片付けた方の勝ち!!負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くこと!!」
「あ、面白そう♪」
「…どうだ?この勝負、やるか?」
「やるやる♪そしてキミに言うことを聞かせてやる!」
…よし!作戦成功!
これで作業スピードは格段に早くなる!
…まぁ、その分リスクはあるけど…
だが、これだけの量があったらスイレンの性格上途中で飽きるだろう!
そして作業スピードが落ち、結果的に俺が勝つはず!
完璧だ!!
「…一応言っておくが、適当に本棚に入れたり数をごまかしたりするなよ?」
「そんな事しないよ!勝負事は正々堂々やらないと面白くないしね♪」
…よし!
これで俺の勝ちは確定だ!!
…理由?
さっき言ったように、スイレンは途中で飽きたり疲れたりして作業スピードが落ちるだろ?
それにスイレンって高い所は届かないんだろ?
俺は台を使わなくてもなんとか届くからな。
台を使わなくちゃいけないスイレンよりは有利なはず!!
…卑怯とか言っちゃダメだよ?
ここまでしないと勝てそうにないもん。
「…さて、まずは残りの本の数を数えて勝敗をわかりやすくしておくか。」
「そう言うと思ってすでに数えておいたよ♪」
「おお、サンキュー…って早っ!?いつの間に数えた!?」
「キミが勝負しようって言った時♪」
いやいやいや!?
いくら何でも早すぎるだろ!?
…もしかして俺、スイレンを甘く見すぎてた!?
「ふふん♪情報屋なんだから調査スピードが早いのは当たり前だよ♪」
「いや、それにしても早すぎるだろ!?」
「だってボクは一流だもん♪」
「そういう問題!?」
「そういう問題♪…さぁ、さっそく勝負を始めようか♪」
…勝てる気がしないんだけど…?
…やっぱりやめとけばよかったかな……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【数十分後…】
「圧勝〜♪」
「…完敗…」
…うん、最初からわかってたさ。
どうせ俺なんかが勝てるわけなんか無いって…
でもさぁ……
…倍以上の差をつけられて負けるって悲しくない?
てか、そんなに早いなら最初から本気出してくれよ…
そしたらこんな勝負なんかしなくても早く終わったのに…
「…さて、約束覚えてるよね?」
「…えぇい!男に二言は無い!煮るなり焼くなり好きにしろ!!」
…あ、でもあまりヒドい事じゃない方がありがたいなぁ…
「それじゃあ…♪」
…ゴクッ!
「今日の夕飯、ボクのハンバーグ大きめに作ってね♪」
…はい?
「…え?そ、そんなのでいいのか?」
「うん♪何でも言うこと聞いてくれるって言っても、キミが嫌がる事はあまりしたくないしね。それに、キミは普段からボクのわがまま聞いてくれるもん♪」
まぁ、確かにわがままは聞いてるけど…
「…本当にそれでいいのか?」
「うん♪」
…お前にも優しい所あるんだな…
普段は容赦なくヒドい事してくるくせに……
「…よし、そうと決まったら買い物に行かなくちゃな。もう終わったんだから帰ってもいいよな?」
「もうすぐ授業終わる時間だからいいんじゃない?」
もうそんな時間か…
今日はあまり授業受けてないような……
まぁ、どうせ授業なんか半分は理解できないから出なくてもいいんだけどな。
…よいこは真面目に勉強しなくちゃダメだぞ?
「それじゃ帰るか。」
「うん♪」
…加賀や黒城のせいで、今日も大変な1日だった……
でも、今日はいつもよりマシな方だよな…
今日は動けなくなるようなダメージは受けてないし。
明日もこんな感じで…いや、今日より平和に過ごせたらいいのになぁ…
「…お前ら、どこに行く気だ?」
「「………!?」」
こ、黒城!!?
一体いつの間に!?
「とりあえず図書室の本整理、ご苦労。…さぁ、次に行くぞ。」
「「………え?」」
…『次』?
え?
何それ?
どういうこと?
「次って…もしかしてまだ何かやらされるんですか…?」
「当たり前だろ?これくらいじゃ罰にならないからな。」
いや、十分罰って言えるレベルだぞ!?
自分でやってみろ!
そうしたら俺たちの苦労がわかるから!
…てか、もしかして次もお前の借金の返済のためか!?
いったい何人から借金してるんだよ!?
「ほら、さっさと行くぞ。」
「え…あ………はい……」
…どうせ断ったら処刑だろ?
素直に諦めるしかないか……
………………。
…俺っていつになったら幸せになれるんだろう…?