第70話〜あの子の名前
《ザー……》
…雨か……
雨の日ってやだな…
薄暗いし、ジメジメしてるし、服が濡れたら気持ち悪いし……
「恭也、今日も私の部活休みだからそっちの部に遊びに行くから。」
…悠希が来るし……
最近休み多くない?
そんなんで大会とか大丈夫なの?
…ま、悠希なら大丈夫だろ。
かわいそうなのは他の部員だな。
…俺には関係ないけどな。
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【放課後:部室】
「さて、今日もいつも通りに部活をしましょうか。」
その声で俺たちは勝手に行動を始める。
緋乃姉妹はわけのわからない機械を造り、澪は読書(小説)、俺はマンガを読んでいる。
「…相変わらず自由な部活ね。」
「残念ながら、ここにいても面白いことは無いぞ?」
「いいわよ。KYO-YAで遊ぶから。」
『遊ぶな!』
…よかったな。
最近出番増えてきたじゃん。
「…ところで、今日は大地さんはいないんですか?」
「あれ…そういえばいないな?」
「……休んでないはずだけど…」
「大地なら保健室に送ったわよ?」
お前の仕業!?
何やってんの!?
「…悠希さん?また子どもになりたいんですか?」
「ち、違うわよ!大地が女の子に話しかけてたから…」
「あ、それならいいです。」
いいの!?
え!?
つまり大地は女子に話しかけた時点で保健室に送られるってこと!?
…まぁ、同情はしないけど。
《…コンコン》
「…ん?誰かノックしてないか?」
珍しいな…
部活時間に誰か来るなんて…
「入ってもいい?」
「はい、どうぞ。」
待てヒカリ!
今の声は…!
《ガラッ》
「お邪魔しまーす。」
やっぱりスイレンか…
「お前、部活は?」
「まぁまぁ、細かい事は気にしない♪」
…細かい事か?
そもそも、お前は何部なの?
「それより…ボクは大事な話があるから来たんだよ。」
「…大事な話?」
「悠希!澪!キミたちのせいでボクは大変な目に会ってるんだよ!」
「……私たち…?」
「何の話よ?心当たりないんだけど?」
悠希と澪…?
この2人がスイレンにやったこと…?
「ボクが人に情報を売ってるのは知ってるでしょ?」
「……うん…」
「私は常連だしね。」
「最近、『《?ちゃん》の本名は何ですか?』とか『《?ちゃん》は何組の人ですか?』とか、《?ちゃん》に関する質問が多いんだよ!どうしてくれんのさ!?」
…あぁ、《?ちゃん》ね。
まだ人気あるんだ?
「別にいいんじゃない?」
「……望壮高校のアイドル…」
「うるさい!ボクはもう忘れたいの!」
お前が忘れたくても、周りが忘れさせてくれないだろ。
忘れたかったら、ファンクラブを潰さなきゃ。
「…そういえば、いつまで《?ちゃん》って名前なの?」
「カゲリの言うとおりね。そろそろ名前つけてもいいんじゃない?」
「二度と登場しないのに名前つけてどうするの!?ボクはもう絶対にあんな事しないよ!?」
「……名前をつけることによって、ファンクラブは一層活発化…また出番あるかも…?」
「だからボクはヤダって!…あれ?キミって再登場に反対してなかったっけ?」
「……また見たくなった…」
「なんて自分勝手な理由!?」
…文句言いに来て、逆に悪化したな。
黙ってればこんなことにはならなかったのに…
「じゃあ、みんなで《?ちゃん》の名前考えようよ♪」
「いいわね。」
「……賛成…」
「反対!ヒカリも反対だよね!?」
「私はどちらでもいいですよ。」
「じゃヒカリも賛成ってことで。」
「わかりました。」
「ちょっと!?」
残念だったな。
ここまで来たら多数決でもどうにもならないだろ。
「…恭也、キミはボクの味方だよね?」
「俺は人数の多い方に行くタイプだから。」
「自分の意思を持ってよ!?1人にしないで!?」
仮に2人になってもどうしようもないって。
諦めろ。
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「え〜、それでは、《?ちゃん》の新たな名前をつける会議を始めたいと思います。」
「本人の了承なしにやらないでよ!」
そんな事言ってたら話が進まないだろ。
人生にはイヤな事だってあるんだからガマンしないと。
「…ところで、何でボクはイスに縛りつけられてるの?」
「騒がしいからじゃないか?」
「当たり前でしょ!?イヤな事を黙って見過ごすわけ…」
「うるさいと口もふさぐわよ?」
「えぇぇ!?そんなぁ…!」
さて、静かになったし、さっさと始めるか。
「まずはKYO-YAからね。」
『俺!?』
…今回はもう出番ないと思ってたのに。
『ようやく俺も仲間と認めて……』
「いや、こういうのって一番最初の意見って却下されやすいじゃない?だからよ。」
『…そうかよ。』
…利用価値があってよかったな。
『…って言っても、俺は何の話かよくわからないんだけど?』
「あ、そっか。アンタ《?ちゃん》知らないもんね。じゃ今回のアンタの出番はもう無しね。」
『え!?マジで!?』
…利用価値がなくなったな。
また次の機会を楽しみにしてろ。
「ヒカリ、何かいいのある?」
「え!?ん〜…」
…一番最初の意見って却下されやすいんじゃなかった?
いいの?
「そうですね…スイレンさんの名字って《枕谷》でしたよね?」
「ん?そうだけど?」
「なら、《マクラちゃん》ってのはどうでしょうか?」
「正体バレるって!?」
…あれ?
「そういえば、何人かにはバレてるんじゃないのか?ほら、席とかでわかるだろ?」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。なんとかごまかしたから。」
「…どうごまかしたか気になるんだけど?」
「それはヒミツって事で♪」
ごまかしきれるものなのかなぁ…?
「カゲリは?いい意見ある?」
「えっとね…《スイちゃん》ってのは?」
「だからボクの名前から取らないでってば!」
「いっそのこと、《スイレンちゃん》でもいいんじゃないかしら…?」
「それ思いっきりボクじゃん!?ダメに決まってるでしょ!?」
だんだん手抜きになってるような…
「恭也は?」
「俺?そうだな…」
名前から取っちゃダメなら…
…外見か?
あの時はメイド姿だったから…
「メイドから取って、《メイちゃん》ってのはどうだ?」
「普通すぎ。却下。」
…………。
「キ、キミ!落ち込まないでよ!?今までの中で一番マシな名前だったから!」
「…どうせ面白くもない名前しか考えつかないからな…」
「ボクはその方が助かるんだけど…?」
でもそういうのは却下されるけどな…
「じゃ、最後は澪ね。何がいい?」
「あれ?悠希は言わないのか?」
「もう言ったじゃない。《スイレンちゃん》って。」
「だからそれはダメだって!!」
仮にそれに決まったら、正体バレるよな…
でも、誰も同一人物だとは思わないんじゃ…
キャラ違いすぎるからな…
「……実はずっと前から考えてたんだけど…」
「ずっとって…そんなの考えなくていいよ!」
でも、時間をかけて考えたならいい名前が…
…いや、変な名前つけそう。
「……《カレンちゃん》がいいと思う…」
…あれ?
意外だな…
「…案外普通ね。」
「レイなら意外なの言ってくるかと思った…」
「てかなんで《カレンちゃん》なの?」
「あの時のアンタが可憐だったからじゃないの?」
「うるさい!」
「澪さん、名前の由来はなんですか?」
…適当につけたとか言わないよな?
いや、それはないか。
「……悠希さんの言ったのも理由の一つだけど…」
あ、やっぱり?
「……スイレンさんの《スイ》って漢字にしたら《水》にもなるから…《水》に対して《火》ってことで…」
なるほどね…
考えたな…
…俺にはムダな時間にしか思えないが…
「なかなか深いわね…これならアンタも文句ないでしょ?」
「いや、でも《レン》が一緒なんじゃ…」
「名前の後ろの方なんか誰も気にしないから大丈夫よ。」
「いやいやいや!気づく人は気づくって!」
「気づいても『名前が似てるね』って言われるだけだと思うよ?」
「……カゲリさんの言うとおり…正体まではバレない…」
「いや…でも…」
「それとも他の名前がいいわけ?」
「だから名前なんか…!」
「いいから早く決めなさいよ!」
「うぅ…!」
「恭也〜…悠希がイジメる〜…」
「…お前はそんなキャラじゃないだろ。」
「冷たっ!?慰めてくれてもいいじゃん!?」
あいにく、この状況でお前を慰めると俺にも被害が来そうだからな。
そんなのはゴメンだ。
「…とりあえず、名前は《カレンちゃん》に決定でいいわね?」
「だから…」
「はい決定〜♪」
「結局無視じゃん!!」
スイレン、こういう時は諦めるしかないんだ…
「安心しなさい。ファンからの熱い要望が来るまでは出番ないから。」
「安心できないよ!一生出番なしでいい!」
いや、名前を付けたからには最低でも一回は出ると思う。
出たくなかったら、悠希や澪に弱みを握られないようにな。
「…とりあえずさぁ、もう話し合いも終わったんだからこの縄ほどいてよ。」
「恭也!日頃の恨みを晴らすチャンスよ!」
「ちょっとちょっと!?何言ってんの!?」
いや、確かにチャンスだが…
…俺としてはお前にも恨みを晴らしたいんだけど?
「恭也…キミはそんな事するような人じゃないよね?」
「スイレン…」
「…そんな目をしても意味ないから。」
「…ダメ?」
「ダメ。」
「効かないか…」
大地なら効果ありかもな。
…実際俺もちょっと…
いや、何でもない!
「……スイレンさん、今のウルウルした瞳の上目遣いを撮らせてくれたら助けてあげる…」
「…いや、それは遠慮しとくよ。」
…澪にも効いたな。
「…まぁ、俺もそこまでヒドい男じゃないからな。今回は見逃してやるよ。」
「キミ…」
「…この後『べ、別にお前の為なんて思ってないからな!』とか言わないよね?」
「…デコピンくらいならいいかな?いや、ゲンコツでも…」
「ゴメンゴメン!許して〜!」
「……男のツンデレ…アリかな…?」
澪!?
「…で、結局ボクはいつまで縛られてるの?」
「あぁ、もう一つの会議が終わったら解放してあげるわよ。」
「もう一つの会議…?何それ?まだあるの?」
あるみたいだな…
何の話し合いをするつもりなんだ?
「…さて、次はどんなコスプレさせる?」
「……次は…」
「ストーップ!そんな会議やらなくていいから!」
…災難だな。
男のツンデレって存在するんでしょうか? ちょっと見てみたい気がしますね。 …ゴツい男だったら見たくありませんが。 それでは、短いですが今回はこの辺で。 感想・評価・質問・要望・助言などお待ちしています!