第65話〜夕方の訪問者
《ピンポーン!》
「…?」
学校も終わり、家でゆっくり1日の疲れを癒している時に不意にチャイムが鳴りだした。
…夕飯時だというのに、一体どこの誰だよ?
「…どちらさんですか?」
「ツルです。」
………は?
「アナタに助けてもらったツルです。恩返しに来ました。家に入れてください。」
…………。
「時代と場所を間違ってますよ?」
「あ、そっちにツッコむの?ボクはてっきり『そんなわけねぇだろ!』とか言うと思ってた。」
人のツッコミを予想するな!
「お前スイレンだろ?何の用で来た?」
「あ、ボクだってわかった?」
『ボク』って言うのはお前だけだ。
すぐにわかる。
「とりあえず中に入れてくれない?」
「何をしだすかわからないヤツを家に入れれるか!」
「信用ないなぁ…キミとボクとの仲じゃん♪」
「どんな仲だよ…」
「どんなって…一緒に寝た……」
「ストーップ!ご近所に誤解を与えるような事を言うなよ!?」
「あ、開いた。」
しまった…!
つい開けてしまった!
「それじゃお邪魔しま〜す。…あ、それと誤解されたくないなら大きい声出さない方がいいよ?目立つから。」
「うるせぇ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…で、何の用だ?」
「へぇ、意外とキレイな部屋だね。」
「人の話を聞け!」
自分の部屋をジロジロ見られると落ち着かないよな…
「それにしてもキミって単純だよね。ボクが『一緒に寝た』って言えば思ったように動いてくれるし。」
「…お前の記憶を消してやろうか?」
「ゴメン!」
だいたい、あんなのいつまでも脅しに使ってんじゃねぇよ!
忘れたくても忘れられないじゃねぇか!
「…で、話を戻すが何の用で来た?」
「約束忘れた?」
…約束?
「ほら、ボクの家に泊まりに来た時にご飯食べさせてくれるって言ってたじゃん。」
「…あ。」
忘れてた…
そういえばそんな事言った気が…
「というわけで今日の夕食は何?ボクはカレーがいいな♪」
…図々しいな…
「そんな事いきなり言われても食材が…」
「大丈夫。ボクが持ってきたから。」
どこに持ってた!?
「さすがにタダで食べさせてもらうのは悪いからね。」
こういう所はいいヤツだよな…
嫌がらせさえなければなぁ…
「仕方ない、作ってやるよ。ちなみに手伝いは…」
「キッチンが爆発してもいいなら手伝うよ?」
何をしたら爆発する!?
「…じゃ作ってる間勝手にくつろいでいてくれ。」
「言われなくてもくつろいでるから安心してよ。」
…確かにコイツにはそんな気遣いは無用だったな。
勝手にゲームやりだしたし…
「ねぇ、ここってどうやるの?」
「自分で考えろ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…ふぅ、とりあえず完成したな。
後はテーブルに運んで食べるだけ。
「お〜い、できたぞ。運ぶの手伝え。」
「………。」
「…?」
返事がない…
手伝う気ないのか?
「おい、運ぶのくらいはできるだろ?少しは手伝わないと飯抜きに…あれ?」
さっきまでゲームをやっていたはずの場所にスイレンはいなかった。
そういえば途中から静かになったような…
とりあえずゲームをやめたなら電源くらい切っといてくれよ。
…いつの間にか俺のより進んでるし…
いや、もしかして俺のデータを勝手に…ってそんなことはどうでもいいや。
アイツ、一体どこに…
「………すぅ…」
「…いた。」
人のベッドで寝てやがる…
本当に遠慮ねぇな。
「おい、起きろ!夕飯の時間だぞ!」
「……う〜ん…あと三時間…」
長っ!?
何分じゃなくて何時間単位かよ!?
「カレーが冷めちゃうぞ?」
「………すぅ…」
「…だめだ。全然起きない。」
何しに来たのコイツ?
飯食いに来たんじゃなくて、寝るために来たのか?
…どうしよう?
1:無視する
2:優しく起こす
3:無理やり起こす
無視してもいいが…後で文句言われるよな。
だとしたら起こすしかないのか…?
…………。
…4:顔に落書きしてから起こす
いやいやいや!
それは無視するより悪いだろ!
とりあえず3だ!
無理やり起こすしかない!
【作戦その1】
〜大声で起こす〜
まぁ、とりあえずはコレだよな。
…深呼吸して……
「起きろぉぉぉぉ!!」
「………すぅ…」
…無反応?
耳元でやってんのに?
これ以上大きい声は近所迷惑だし…
仕方ない、別な方法でいこう。
【作戦その2】
〜布団を奪う〜
…よくある方法だけど、これって効果あるのかな?
寒い時なら効果ありそうだけど…
とりあえずやってみるか…
…ん?
床に何か落ちて…
…………。
…女子の制服?
そういえばコイツ制服で来てたよな…
…………。
え!?
下着姿で寝るタイプ!?
人の家で本格的に寝る気だったのか!?
とりあえずこの作戦は却下!!
次だ!次!
…ってかこれは下手に起こさない方がいいんじゃないか?
もし急に起き上がったら…
…からかわれるネタが増えるな…
…………よし!
起きそうになったらすぐに逃げよう!
それが一番いい!
…で、どうやって起こそうか?
…………。
…叩き起こすか。
【作戦その3】
〜叩き起こす〜
まずは痛くないモノ…
…ハリセンかな?
なんでそんなモノがあるかは気にしないで。
「起きんかい!」
《スパァーン!!》
「………すぅ…」
…効果なし。
いい音するんだけどなぁ…
あ、音は関係ないか。
次は…クッションでもぶつけてみるか?
「ていっ!」
《ボスッ!》
「……うぅ〜ん…」
お!?
起きるか?
「………すぅ…」
…まだ起きない。
しかも今のクッション布団の中に入れちゃったよ。
抱き枕にする気か…?
逆効果か…ならば次は…!
鈍器…はダメだから…
…思い浮かばねぇ。
仕方ない、本当に叩き起こすしかないな。
「おーい、起きろー。飯だぞー。」
《ペシペシ》
「………うぅん…」
…起きそうで起きないな。
《ペシペシ》じゃなくて《バチーン!》くらいやんないとダメかな?
…あとで倍返しされそうだけど。
「起きろー。」
《グニッ》
「………ん…」
…ほっぺをつねっても起きない…
「…………。」
《グニグニ》
「………う…ん…」
…面白いかも。
おぉ、意外と伸びる。
「……うぅ…」
あっ、この顔面白い!
写メ撮っておくか。
「…ぅ…ん?…いひゃい(痛い)…?」
「…あ。」
起きた…?
「…………。」
「…………。」
「…ひみ、ふぁにやってんの?(キミ、何やってんの?)」
「いや、飯ができたから起こそうかな…と。」
不機嫌…?
あ、つねったままだからか!
「悪い悪い、こうでもしないと起きないからさ。」
「…キミさぁ、せっかくいい夢見てたのにそれを邪魔したんだよ?しかもほっぺをつねるなんて痛い方法で。」
超不機嫌!!
でも夢って関係ないよね!?
起こさないと夕飯抜きになっちゃうし!
「倍返しだぁ!!!!」
「バカ…!急に起きあがるな!お前、自分の格好…!…いてぇ!!」
なぜつねりに対して殴り!?
「ん?格好?…あぁ、こんなの恥ずかしがる必要ないじゃん。裸じゃないんだから。」
「お前はもう少し恥じらいを持て!!」
「何で床見て話してんの?人と話す時は目を見ようよ。」
「見れるか!」
「それより…まだ仕返しは終わってないよ!」
「まだ!?もう十分…いたたたた!!」
ちょっ…本気…!
関節技は無し……ギャァァァァァ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【数分後】
「いただきま〜す♪」
「いただきます…」
体中が痛い…
せっかく飯作ってやったのに、何でこんな目に……
「おいしい♪キミ料理うまいんだね!やっぱりここに来て正解だったよ!」
「そりゃどうも…」
「…暗いなぁ。」
誰のせいだ!
「また下着姿になったら元気になるかな?」
「やめろ!」
「ハハハ、冗談だって♪」
コイツ、マジで恥じらいないな…
仮にも俺は男だぞ?
少しは気にしてもらわないと、俺が困る!
「…ところでさぁ、こうして一緒にご飯を食べてるとカップルみたいだと思わない?」
「…は?何を突然…」
「思わない?」
…また意味わかんない事を……
「…別に。一緒に飯食うくらい普通だろ。」
「…面白くないなぁ。キミってボクの事キライなの?」
「いや、別にキライってわけじゃないが…」
「…ふぅん…♪」
…なんだ?その目は?
何か企んでいるような…そんな感じの目だぞ?
またとんでもない事を言うつもりじゃないだろうな?
…この俺の予想は見事に的中した。
しかし、スイレンの口から出た言葉は予想以上にとんでもない言葉だった…
「じゃあさ、ボクたち付き合っちゃおっか♪」
「……………は?」
…今コイツは何を言った?
…聞き間違いだよな?
そうだ!
そうに違いない!
もう一度確認してみよう!
「あ〜…悪いけど上手く聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか?」
「だからさ、ボクたち付き合っちゃおっかって♪」
…今度は聞き間違いじゃないよな?
え?何コレ?夢?
俺いつの間に寝たんだろ?
「…あれ?キミ、ボクの事キライじゃないんでしょ?」
「ま、まぁ…」
「だったら問題ないじゃん♪」
だからと言っていきなり付き合うなんて…
「…本気で言ってんのか?」
「ボクは本気だよ。」
「…本気でキミをからかってんだよ♪」
「てめぇぇぇ!!!!!!」
「わっ!?ストップストップ!せめて食べ終わってから…!」
「うるせぇ!!!!」
冗談が悪質なんだよ!!
対応にメチャクチャ困っただろうが!
「なに?もしかして本当に付き合ってほしかった?」
「少し黙ってろ!!」
「………。」
「マジで黙んじゃねぇ!!」
「わがままだなぁ。一体ボクにどうしろと?」
「おとなしく、マジメに説教を受けろ!!」
「あ、ボク説教キライだから。」
「ふざけんなぁ!!だいたい、お前は………!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…この後はしばらく説教しているので省略します。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【数分〜数十分後】
「…はぁ…はぁ…いいか?これに懲りたらもう二度とこんな事は…」
「………すぅ…」
「…………。」
…えっと…俺は今説教してたよな?
なんでコイツは寝てんの?
俺の説教聞いてなかったの?
…いつの間にかカレーは完食してるし…
「起きろコラァ!!」
《スパァーン!!》
「…ん?…もう朝?」
「んなわけあるか!」
今回はハリセンを使うとすんなり起きた。
いつもこんなだったら楽なのに…
「お前、説教中に寝るなんて…!」
「言ったじゃん。説教キライだって。」
「だからって寝るな!説教されんのが好きなヤツなんていねぇんだから!」
「…また説教?寝ていい?」
「お前、自由すぎるぞ!?」
…結局、俺は説教を諦めて冷めたカレーを食い、その間スイレンはベッドの上でマンガを読んでいた。
「…あぁ、もしまた寝たら今度は外に放置しておくからな?」
「え!?そんなヒドい事するの!?」
「する。お前には容赦なんてモノはいらない事がわかった。」
「あちゃあ…やりすぎちゃったなぁ。」
「ちなみに洗い物は……」
「食器全部割ってもいいの?」
「…俺がやる。」
「悪いね♪」
いいさ。
最初から期待してなかったから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…で、お前はいつまでここにいるんだ?」
洗い物も終わり、もう特にする事もないんだが……
一向に帰る気配がないよな…
「ん?あ、そういえばここってキミの家だっけ。」
…くつろぎすぎて自分の家じゃないって事を忘れてたか?
「…ねぇ?」
「ん?」
「いきなりだけどさぁ…泊まっていってもいい?」
「はぁ!?」
飯だけでなく寝る場所も提供しろと!?
どこまで人に甘える気だ!?
「…さっきキミのベッドで寝た時に思ったんだけど…何て言うか…いつもより寝心地がよかったんだよね。」
「…俺のベッドが?」
俺はお前の所のベッドの方がフカフカしてて寝心地いいと思うぞ?
「ボクのベッドに比べたら何の変哲もない安物のベッドなのに…」
失礼だぞ!
思っていても口に出して言うものじゃない!
「なんでなんだろう…?」
「いや、俺に聞かれても…」
…ん?
もしかしてさっきなかなか起きなかったのはそれが原因?
寝心地よかったからなかなか起きなかったってこと?
……………。
「今日は泊まるの禁止!」
「え!?なんで!?」
「お前、明日の朝絶対に起きないだろ!明日も学校あるんだぞ!?」
「…あ。」
…てか普段コイツはどうやって起きてるんだ?
目覚ましなんかで起きるようには見えないし…
「そうか…仕方ない、このベッドもらっていっていい?」
「いいわけないだろうが!」
だいたいどうやって持って行く気だよ!?
「じゃあ…代わりにコレは?」
そう言ってスイレンが抱きしめたのは、ヒツジのぬいぐるみだった。
「それは絶対にダメだ!」
「なんで?ボクを寝かせない気?」
お前は俺の家のモノを持って行かないと寝れないのか!?
とりあえず、そのぬいぐるみは絶対にダメだ!
「…それは以前、澪が俺にプレゼントしてくれたぬいぐるみだ。」
「え!?澪が!?」
以前、一緒に買い物に行った時にもらったぬいぐるみ…
当然、人に渡すなんてことはできない。
「へぇ〜…意外だね。彼女がプレゼントなんかするなんて。」
「まぁ、確かに意外だけど…」
「そうか。それならコレはダメだね。なら…」
「…何か持って行かないとダメなのか?」
「一度あんなにいい気持ちで寝ちゃったら普通の眠りじゃ物足りなくてね。しばらくはそれに近い状態にしないとぐっすり眠れないんだよ。」
…なんだそれ?
てかさっき説教中に寝てなかった?
深い眠りにはつけないってことか?
…変なヤツ…
「…それならそのクッションを持って行けよ。抱き枕にしてたくらいだからいいだろ?」
「いいの!?やった♪」
そうでもしないといつまでも帰らない気がするからな…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「いやぁ、夕飯のついでにクッションまでもらっちゃって悪いね♪」
「悪いと思うならもう二度と来ないでくれ。」
「ヤダね♪また明日夕飯食べに来るよ♪」
明日も!?
まさか毎日来る気か!?
「それじゃあね♪」
「…ああ。また来週な。」
「来週じゃないでしょ!『また明日』だよ!!」
「…はいはい。」
「それじゃバイバーイ♪」
「バイバイ。」
スイレンの姿が見えなくなるまで見送った後、俺は部屋に戻って大きく溜め息をついた。
…俺の休息時間が無くなっていく…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【翌日】
「ねぇ恭也、今日スイレン休みなんだって。珍しいと思わない?」
…絶対寝てるな。
当初の予定では、今回の話は恋愛風に書こうと思っていました。 でも、スイレンってそういうキャラじゃないという事に気づいてこんな話になりました。 …そもそも私はそういう話を書くのは苦手なので… とりあえず今回はこの辺で。 感想・評価・質問・アドバイス・リクエスト等お待ちしています。