第61話〜スイレンの罰ゲーム
世の中には嫌な事がたくさんある
それは決して避けられないこと
…避けられないなら、どうしたらいいのだろうか?
どうしたら被害を最小限に抑えることができるのか……
『…いつも被害にあってるキミなら少しはわかるでしょ?教えてくれない?』
「…それは夜中に電話で聞くほどのことか?」
明日コイツは悠希、澪、千秋の3人から罰ゲームを受けることになっている。
だからそれの対策を俺に聞こうとしているのだろう。
…でもそれは俺には関係のないことだ。
「お前なぁ、そんなのがわかってたら俺がこんなに被害を受けると思うか?」
『それもそうだね。』
ハッキリと肯定するなよ!
諦めさせるために言ったけど、少しショックを受けちゃったじゃん!
『でもさぁ、どんな事を言ってくるかわかってたら多少は覚悟できるじゃん。キミ、悠希や澪とは仲いいんだからあの二人が何を言ってくるかわかんない?』
…それを言うなら情報をたくさん持ってるお前の方が詳しいんじゃないのか?
「そうだなぁ、悠希はその時の気分によって変わるからわかんないけど、澪なら大抵精神的にダメージを受けるような事をやらせると思う。」
『…それってさぁ、覚悟して挑めば何とか大丈夫なレベル?』
「…………。」
『ちょっと!?沈黙やめてくんない!?すごく不安になるんだけど!』
だって、あの二人に罰ゲームを考えさせたらヤバい事になるもん。
悠希はそういうのを考える時は頭の回転いいし、澪も精神的な責めは相当なものだ。
…俺からスイレンに言える事は一つだけだな。
「…スイレン!明日さえ乗り切ればまた平和な毎日が待ってる!だから希望を捨てずにガンバレ!」
『何それ!?そこまでヤバいレベルなの!?本当に明日休もうかな!?』
…そんな事したらマジで何されるかわかんないぞ?
もしかしたら罰ゲームの域を越えるかも…?
「とりあえず俺が思う最善の策は『普通に学校に通って後は耐えきる』ことだと思うぞ?」
『それって策じゃないんじゃないの!?』
簡単に言えば諦めろって言ってるようなものだからな。
0点になったお前が悪い。
『いいもん!恭也なんかに頼らなくてもボクはボクなりに策を考えるから!』
じゃ聞くなよ!
最初から自分で考えてろ!
『じゃあね。』
《プツッ》
…うわぁ、一方的。
自分勝手なヤツだな。
ま、後は自分で何とかするって言ってたから放っといても大丈夫だろ。
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【数分後】
《〜♪〜♪》
…ん?
メールか…
一体誰から…?
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From:小織 澪
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……スイレンさんから『罰ゲームは恭也が代わりに受けるから♪』ってメールが来たんだけど、本当なの…?
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あの野郎!!
俺を生贄にするつもりか!
ふざけやがって!
ってか策考えるの早いな!?
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To:小織 澪
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教えてくれてありがとう。
それはスイレンの嘘だよ。
最低の行為をしたんだから思いっきりキツい罰ゲームにしていいから。
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From:小織 澪
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……わかった…
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自業自得だ!
余計な事をするから罰ゲームがキツくなるんだよ!
おっと、悠希にも連絡しとかないと…
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To:天野 悠希
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スイレンからのメールは無視してくれ。
罰ゲームはアイツが受けるから。
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From:天野 悠希
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え〜?
恭也じゃないの?
せっかく面白い罰ゲーム考えたのに…
とりあえず了解♪
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危ねぇ!
悠希はスイレンの言う事信じちゃってたよ!
連絡しておいてよかった!
…後は千秋か…
でもアイツのアドレス知らないんだよなぁ…
ま、明日言っても大丈夫だろ?
悠希みたいに『せっかく考えてきたんだからついでにやりなさいよ!』みたいな事は言わないだろ。
ってかこんなの悠希以外は言わないか。
…さて、スイレンは明日を乗り切る事ができるのかな?
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【翌日】
「ウソ!?キミにバレちゃってたの!?」
「親切なヤツがいてな…俺に確認のメールを送ってくれたよ。」
学校に着いてすぐにA組に行くと、幸せそうな顔で寝ているスイレンがいた。
叩き起こして昨日のメールの話をしたのが、今の会話だ。
親切にも顔を蒼白にしてくれたので心情もわかりやすい。
「…もしかしてボク状況が悪化する選択肢選んじゃった?」
「思いっきりな。」
どのみちあんなウソじゃ罰ゲームは免れないだろ。
俺が否定したらちゃんとお前に罰ゲームさせるんだから。
…悠希はついでに俺もさせるだろうけど。
「後であの2人が罰ゲームをさせるために来るから。」
「え!?朝から!?」
当たり前だろ。
普通なら昼休みや放課後にやらせるんだが、お前は最低な行為をしたからな。
ダメージを受けた状態での授業は相当にキツいと思うが、自業自得だから同情はしない。
「ボク頭が痛くなってきたから帰る!」
「逃げたら余計に罰ゲームのレベルがあがるぞ?」
「逃げれない!?」
おとなしく諦めろ。
「いいもん!いつもみたいに寝てればどんな罰ゲームを受けようが乗り切れるもん!」
…確かに一日中寝ていたら恥ずかしい格好をされても気にならないけど……
「それは澪からの罰ゲーム対策であって、他の2人のは防げないんじゃないか?」
「これが被害を最小限に抑える唯一の方法なの!それにボクは寝ないと落ち着かないし!」
どんな状態だそれ!?
寝ないとダメなのか!?
…まぁ、でもいい策であることは確かだな。
だけど…そんな事を大きな声で言ってもいいのか?
「…ほう、いいことを聞いたッスね。」
「…!!」
この教室には千秋がいたことを忘れてたな?
「じゃ千秋からの罰ゲームは『今日1日絶対に寝ないこと』ッスね。」
「ちょっと待った!それはボクにとっては一番キツいよ!」
キツいから罰ゲームなんだろうが。
でも、頑張ればなんとかなるレベルだろ?
大したことない罰ゲームでよかったじゃん。
「ムリムリムリ!絶対にムリだから!」
…軽くパニック?
コイツにとっては睡眠を取られると致命的ってこと?
…いいこと聞いた♪
「恭也〜!?どうしよう〜!?」
「頑張れ。」
「それだけ!?」
他に何と言えと?
「…ちなみに、もし寝ちゃった場合は?」
「そうッスねぇ…」
「次の日に緋乃姉妹の発明品を使って再挑戦ってのは?アイツらなら眠らせないためのモノだって造れるだろ。」
「あ、じゃそれでいいんじゃないッスか?」
「えぇ!?ちょっと!余計な事言わないでよ!」
俺を生け贄にしようとするからだ。
ささやかな復讐ってことで。
「じゃ澪と悠希呼んでくるか。」
「ボクにトドメをさす気!?」
どうせやらなきゃいけないんだから一気にいっちゃえよ。
それくらいしなきゃ俺の気持ちなんかわからないだろ?
「減刑希望!」
「それは俺じゃなくて本人に言え。」
「キミが言っといて!あの2人、キミの言う事なら聞くと思うから!」
そんなわけないだろ。
それだったら俺は普段ヒドい目にあわねぇよ。
…ま、とりあえず情けをかけてやるか。
「わかったよ。『厳刑希望』だな?ちゃんと伝えとくよ。」
「…あれ?字が違うんじゃない?……ねぇ!ちょっと!無視して行かないでよ!」
もう時間がないんだからお前なんかに構ってられないんだよ。
【B組教室】
「…ってなわけだから、お前らは早く罰ゲームをさせに行った方がいいぞ?」
「そうだね。スイレンだったらトイレに逃げたりして時間稼ぎする可能性もあるしね。」
「……スイレンさんが冷静になってそんなことを考える前にやった方がいいよね…」
教室に戻ってすぐに2人に報告すると、2人はすぐに行動にでた。
…コイツらに罰ゲームの執行を任せるのは怖いな……
前もって相手をパニックになるように仕組んで、その状態の時にトドメをさす…
罰ゲームなのにそこまでするなんて…!
もちろん俺は2人に頼まれてスイレンをパニックにさせるためにA組に行かされた。
…あそこまで上手くいくとは思わなかったが…
もしかしたら千秋も協力を依頼されていたかもしれないな。
…さて、スイレンは大丈夫なんだろうか?
俺もあの2人がスイレンにどんな罰ゲームをするかは知らない。
ただ、澪が紙袋を持っていたからなぁ…
何となく察しがつくかも…
「キョーヤ?スイレンがレイたちにどこかに連れて行かれてるよ?」
「あぁ、多分着替えだろう。」
予想通りだな。
「スイレン、顔が真っ青…キョーヤじゃなくてよかったね♪」
…冷静に考えると危なかったもんな。
もしスイレンが中途半端な点数で負けたら、俺とヒカリも巻き添えだったからな…
ある意味スイレンには感謝かも。
「ユーキはスイレンにどんな罰ゲームをするんだろう?」
「さぁ?」
とりあえずキツい事だとは思うけど…
「…ちなみにもしカゲリがスイレンに罰ゲームをさせるとしたらどんな事する?」
「え?そうだなぁ…私だったらレイの着替えさせた服装に合うような喋り方にさせるかな?」
…それもキツいな。
でも悠希もやらせる可能性が高いな…
「…とりあえずアイツらが戻ってくるまでのお楽しみだな。」
「思いっきり笑ってやろう♪」
かわいそう…
でも俺も笑ってやろ♪
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【数分後】
「お待たせ〜♪」
やっと来たか!
「お前らなぁ、もうすぐ1限目始まっちゃうじゃねぇか。」
「いやぁ、予想以上の事になっちゃって♪」
「……ビックリすると思う…」
…どんな事したの?
教室の外が騒がしいのはそのせい?
「それじゃスイレン!登場〜!」
悠希の声から少し遅れて教室のドアが開く。
そこから現れたのは…
「…あ、えっと…お、おはようございます!ご、ご…ご主人様!」
『うおおおぉぉぉ!その声をもう一度聞かせてくれぇぇぇぇぇ!!』
一人のメイド姿の少女と大量の男子達だった。
「ちょっとアンタ達!関係ない人は出てってよ!」
「……キモイ人は嫌われるよ…」
悠希と澪が男子を追い払ってる中(大地が混じってたのは気のせいか?)、俺とカゲリは答えに辿り着けずに立ち尽くしていた。
(…ね、ねぇキョーヤ!?あの人誰!?)
(さ、さぁ?話の流れ的にスイレンだとは思うが……)
何て言うか…その…
……スイレンってあんなにかわいかったっけ?
「あ、あの…無反応はちょっと…」
「いや、悪いけど…誰?」
「ボクだって!……じゃなかった!わ、私ですよ!」
…………。
間違いじゃないみたいだな。
一瞬だけどいつもの喋り方に戻ってた。
「おい!悠希、澪!コイツに一体どんな罰ゲームをさせた!?」
「……私はメイド服を着させただけ…」
「私は話し方を変えさせただけよ。」
話し方…?
「話す時は上目遣いでメイドの話し方、ついでにかわいい声で喋らせるようにしたの♪」
それだけでここまで印象変わるの!?
完全に別キャラじゃねぇか!?
罰ゲームの内容は予想通りだったけど、結果は全然予想外だったな…
「……照れながら話してるのがかわいい…」
「こ、この喋り方にまだ慣れてない…んですよ!」
「そういえばスイレンって普段あまり女の子っぽい話し方しないもんね。だからこんなに違うんだ?」
「……カゲリさんもこの話し方やってみたら…?」
「わ、私はヒカリとキャラが被っちゃうからいいよ!」
…やる側は恥ずかしいだろうしな。
「……感想は…?」
感想!?
言わなきゃダメ!?
「恭…じゃなくて…ご主人様?私…似合ってますか…?」
「あ、あぁ…似合ってるよ。」
「…ありがとうございます。…あまり嬉しくありませんけど。」
半分元に戻ってるぞ!?
声のトーンが違いすぎる!
「ご主人様ってこういうのに弱いんですか?そ、それとも…この喋り方…ですか?」
もしかしてもう慣れたのか!?
明らかに俺をからかってるだろ!
「気に入ったならずっとこのままにしとこっか?こっちの方がかわいいからいいじゃん?」
「……悠希さんの意見に賛成…」
「は、反対…です!」
いや、別にこのままでもいいんじゃない?
男子からめちゃくちゃ人気あったじゃん。
「本当は私、『今日1日私の言うことを聞く』って罰ゲームにしようと思ってたんだけど…今からでも変更ってありかなぁ?」
「す、すいませんでした!今後からかうような事はしませんから!」
…今日だけじゃなくてずっとだったら嬉しい。
《キーンコーンカーンコーン…》
あ、もう時間か…
「そ、それじゃ私はこの辺で…」
「言っとくけど、今日1日ずっとその状態だからね?」
「う…!わ、わかってます…」
休み時間の度にからかいに行ってやろうかな?
「し、失礼します!」
「私も自分のクラスに帰らなくちゃ!」
スイレンとカゲリがいなくなったからこれで教室の中は俺と悠希と澪と……
…あれ?
女子しかいなくね?
「あ!男子がみんなA組を覗いてる!」
…………。
「…黒城か加賀が掃除してくれるから放っとけ。」
「……同感…」
「そうだよね。」
今日の授業はいつもより静かかもな。