第56話〜お泊まり会(5)
「うぅ〜…ヒドい目にあった…」
「……自業自得…」
「そうよ!だいたいアンタねぇ……!」
…朝っぱらから元気なヤツら。
俺はまだ眠てぇよ…
あんな起こされ方されたしな…
ちなみにあの後、カゲリも3人に仕返しのイタズラをされた。
3人がそれぞれ自分がやられた事をやり返してたから相当ヒドい状況になっていた。
…さすがに俺は参加しなかったけど。
ってか俺はカゲリじゃなくて悠希と澪にやられたからな。
…未だに腹が痛ぇ……
「ん?キミさっきからお腹おさえてるけど…もしかしてトイレ?」
「…違う。さっき殴られた場所が痛いんだ。」
「お腹の痛みにはこの薬をどうぞ♪」
「…………。」
……胃薬?
つっこめと…?
……………。
「…さて、ところで朝食どうする?」
「あえてスルー!?」
朝からそんなテンションについていけねぇよ…
「どうするって…普通にトーストとか目玉焼きとか作ればいいんじゃないの?」
「カゲリ…残念ながらこの家にはそういうモノ…っていうか食材は何もないんだ。」
「はぁ!?」
「それどころか調理器具すら無い。」
「何それ!?どんな生活してるの!?」
それは本人に聞いてください。
かなり不規則な生活してると思うから。
「何もないとは失礼な!食材ならあるよ!はい、昨日恭也が買ってきたピーマン。」
「それを食えと!?ってかそれってキョーヤの嫌がらせでしょ!」
…まだあったの?
確かに捨てるのはもったいないが……
…帰りにもらっていくか。
「ってか別に朝食くらい食べなくてもいいんじゃない?私いつも食べてないよ?」
「ボクも普段は食べてないなぁ。」
お前は食うモノが無いんだろ?
「……私はいつも食べてる…食べないと親がうるさいから…」
「私もだなぁ。私の場合はヒカリがうるさいんだけど。」
…食べたくて食べてるんじゃなくて強制的に食べさせられてるのか?
ちなみに俺は毎日ちゃんと食べている。
…そうでもしないと、コイツらについていく体力がなくなるから…
「この際さぁ、面倒だから朝食なしでいいんじゃない?キミたちは食べたい?」
「……なしでも大丈夫…」
「私も〜。」
「…俺も。」
まさか一人だけ食べたいなんて言えないし…
「それじゃ朝食はナシね?さぁ、何して遊ぼっか?」
「私は鬼ごっこがいい♪」
「それ家の中でできる遊び!?ボクの家を荒らさないでよ!」
…………。
「さて、ハイテンション組にはついていけないからもう少し寝てくるかな…」
「……同感…」
『寝たらイタズラするよ?』×3
「「…………。」」
…選択肢の一つを潰しやがった…
ならば…!
「あまり長くこの家にいても迷惑だろうし、俺そろそろ帰るよ。」
『ダメに決まってるでしょ?』×3
「ってかボクはそんなに迷惑してないしね。」
…やっぱりコイツらの遊びに付き合わされるわけか…
あぁ、何でこんな事になったんだ………
…あれ?
原因って悠希が子供になったからじゃ…?
そして元に戻す薬は…
「カゲリ!そういえば薬はどうした!?」
「何の?」
「悠希を元に戻す薬だよ!」
そうだよ!
それがあれば俺は解放されるんだよ!
「家に忘れてきちゃった♪」
「忘れるなよ!今すぐ取ってこい!」
「……別にこのままでもいいんじゃない…?」
「キミねぇ…他人事だと思って…」
このままでいられたら俺が過労死するわ!
…学校は少し平和になるけど。
でも本人はきっと……
「私も早く戻りたいわよ!」
…え?
「あれ?意外だなぁ…キミなら戻りたくないとか言うかと思ったんだけど…」
…俺もそう思ってた…
「だって…このままだったら…その……恋愛…とか…ね?」
「……照れてるのも可愛い…動画取らせてもらってもいい…?」
「ダメに決まってるでしょ!?ちょっ…!?誰か澪からケータイ取り上げて!」
恋愛…ねぇ。
コイツもそんなの考えてたんだ?
女の子らしいところもあるんじゃん。
「…ほほぅ、つまり薬を渡さなければユーキの恋の邪魔ができるってこと?」
「なっ…!?」
「……それもそうだね…」
「あれ!?澪ってそういう事するタイプだったっけ!?」
「ボクはさすがにそれはやりすぎだと思うなぁ。」
個人の一生に関わる問題だぞ!?
スイレンの言う通り、これはイタズラじゃすまないぞ!?
…子供にしたのも十分やりすぎだけど。
「よし!今すぐ家に帰って薬を捨ててこようっと♪」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「悠希!落ち着け!今のお前の体じゃカゲリを追いかける事なんかできないって!」
「じゃどうしろって言うのよ!」
そんな事言われても…
「無理だよ。悠希がダメなら誰もカゲリには追いつけないから。」
「……諦めたら…?…そのままでも十分可愛いんだから…」
「そういう問題じゃない!!」
でもカゲリはもう行っちゃったしな…
追いかけようにも、アイツらの家知らないし…
「でも、カゲリに追いつくことはできなくても薬を手に入れる方法はあるよ?」
「…どんな方法よ?」
「……スイレンさんの話を聞く前にちょっと問題出してもいい…?」
いや、そんなヒマないって!
「……何で私はここに残ったでしょう…?」
「!?」
ま、まさか…!
「……正解は単純にカゲリさんに追いつけないからでした…」
「そのまんまかよ!?俺たちの妨害するためじゃないんだ!?」
「……私にそんな力はないもん…」
あ、落ち込んだ。
…無視しとこうか。
「……どうせ私なんか何の役にも…」
暗い!!
部屋中に暗いオーラが広がっている!
妨害成功してるじゃねぇか!
「どうせ薬はヒカリが持ってるんだから、ヒカリに電話して持ってきてもらえばいいんだよ。」
「その手があったか!さっそくヒカリに電話を……」
コイツらこの空気を無視しやがった!?
すげぇ!!
「……ダメか…」
「あ、落ち込んだふりだったの?」
「……あ…バレちゃった…」
ふりでもあそこまで暗いオーラ出せるってすげぇな。
…ってか俺の周りってすごいヤツ多くない?
「…恭也〜!」
「どうした悠希?ヒカリに電話したんじゃ…」
「着信拒否されてる〜!」
…相当怒らせたみたいだな。
まさか着信拒否までされるとは…
「恭也もヒカリの番号知ってるでしょ?恭也がお願いしてくれない?」
「…まぁ、別にいいけど。」
……悠希の味方ってことで俺まで逆恨みされないならな。
…プルルル…プルルル
『…もしもし?』
お!出た!
「あ、ヒカリ?ちょっとお願いが……」
『悠希さんの薬ならまだ渡しませんよ?』
即答!?
まだって言われても…
「いつになったら渡してくれる?」
『とりあえず悠希さんが反省したらですね。』
…コイツが反省すると思う?
そんなこと言ってたら悠希は一生子供のままだぞ?
「じゃあ、まだ渡してくれなくてもいいから薬を守っていてくれ!」
『…?どういう事ですか?』
「カゲリが悠希を元に戻すのを阻止しようとしてるんだ!」
『…………。』
『…別にいいんじゃないですか?』
よくねぇよ!
お前まだ怒ってるの!?
いい加減悠希を許してやれよ!
…それとも寝起き不機嫌?
「恭也、ちょっと電話貸して!」
そうだな。
悠希から直接謝罪の言葉があればきっと……
「もしもし?ヒカ…」
『プツッ!』
……………。
「………切られた…」
「お前の反応見ればわかる。」
相当嫌われたな。
これってまた友達になれるのか?
カゲリみたいにアッサリしたタイプだったらすぐに仲直りできるだろうけど…
「……私ギクシャクした関係って嫌い…」
…好きなヤツはそうそういないぞ?
「……仕方ない…協力してあげる…」
…へ?
「……ちょっと待ってて…」
…そう言って澪は別の部屋に行った。
…何をする気だ?
「……終わった…」
「早っ!?」
え!?
もう終わったの!?
「……その内悠希さんに電話かかってくると思う…」
「まさかぁ、着信拒否されたくらいだよ?キミがどんな説得をしたか知らないけど、そう簡単に……」
「あ、本当にかかってきた。」
「うそぉ!?」
あの短時間で説得したの!?
一分も経ってないのに……
「ここまで薬持ってきてくれるって♪ちゃんと仲直りもできたよ♪」
「…澪?お前どんな説得したの?」
「……ヒミツ…」
すげぇ気になる!
「スイレン、ヒカリにこの家の場所教えてあげて。」
「ほーい。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…お邪魔します。」
「お邪魔されま〜す。さ、上がって。」
本当に来たよ…
恐るべし澪…!
「あ、お構いなく。薬を渡したらすぐに帰るので。」
「…本当に戻れるんでしょうね?」
「大丈夫ですよ。…カゲリちゃんが失敗してなければ。」
「超不安!」
…ただでさえ失敗作多いんだからあまりビビらすなよ。
「えぇい!どうせずっとこのままでいるわけにもいかないんだから!」
「……例え死ぬ可能性があっても…?」
「………え?…ねぇ、ヒカリ?もしダメだったとしても死ぬことはないよね?」
「…た、多分大丈夫ですよ。」
「多分って何!?」
やめろって!
「このままじゃらちがあかないなぁ。ボクが悠希を押さえてるからさっさと薬を飲ませちゃってよ。」
「こらぁ!離せ!まだ覚悟が…!」
「飲ませるんじゃなくて注射するタイプなんですけどね。」
「えぇ!?注射いやぁ〜!!」
…予防接種を嫌がる子供?
今の状況はまさにそんな感じだ。
「……ケータイの充電切れちゃったから恭也君のケータイで写メ撮ってもいい…?」
「…ご自由に。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ〜!!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…気絶しちゃいましたが、あと数分で元に戻るはずですよ。」
「気絶するくらい注射が嫌いなんて…」
「悠希の名誉のために、薬の効果で気絶しちゃったって事にしとこうよ?」
「……動かぬ証拠は恭也君のケータイの中に保存されてるけどね…次から嫌な事されたらそれで脅したら…?」
さすがにそこまではしないよ……
…念のため保存しておくけど。
「…あまり人を脅すのはやめた方がいいですよ?」
「……やむを得ない状況の時にしか脅さないから大丈夫…」
…もしかしてヒカリは説得されたんじゃなくて、澪に脅されたのか?
ってかそれしか考えられないよな…
…澪には弱みを握られないようにしないと!
「それじゃ私はそろそろ…」
「もう帰るの?ゆっくりしていけばいいのに……」
「いえ、カゲリちゃんを置いてきてしまったので。」
…置いてきた?
ってことは途中で会ったのか?
「悠希さんに薬を渡すって言ったら襲ってきたので、返り討ちにして人目につかない所に放置してきたんですよ。」
返り討ち!?
あれ!?
ヒカリってカゲリより強いの!?
全然そんなイメージないけど…
…あ、発明品使ったのか?
「…それだったら早く行ってあげないとね。また今度遊びにおいでよ。大抵ボク暇だから。」
「はい。それではまた今度。」
ヒカリは軽く頭を下げると、足早に帰っていった。
…カゲリが心配なのか、まだ悠希に対して怒っているのかはわからないが……
「…ヒカリってカゲリを返り討ちにするような事する人なの?」
「…今日は機嫌がわるかったんじゃないか?」
今度会う時にはいつものヒカリに戻っていてほしい…
「ところで…これで悠希の世話は終わりだよな?」
「世話って…まぁ、元に戻るんだからもういいんじゃない?」
「じゃ俺帰るわ。」
「え!?もう!?」
だってもうここにいる意味ないし、悠希が目を覚ましたらまた面倒な事に巻き込まれそうな気がするし。
「……目を覚まして恭也君がいないことを知ったら怒るんじゃ…?」
「今までの事は夢ってことにしとけ。」
「無理やりだなぁ…」
「それじゃ。」
「え!?本当に帰……」
《ガチャ!》
《バタン!》
…脱出成功!
あのままいたら絶対悠希が起きるまで引き止められる!
もしアイツが子供の体の時と同じ感覚で暴れたら骨何本折られるかわからん…!
次に会う時が怖いけど……
アイツらうまく説得してくれるかな…?
…………。
…考えても仕方ない。
せめてこの束の間の休息を楽しむとしよう。
今日くらいはゆっくりさせてもらわないとな…
あ、ピーマンもらうの忘れてた。