第39話〜グラウンドの決戦!
…沈黙が流れるグラウンドの中心、そこには二つの人影
影の主は両者とも互いの僅かな動きも逃さないようにジッと相手を見張っている
…この状態がしばらく続いていたが、ようやくこの沈黙を断ち切る者が現れた
「間違いねぇな…探したぜ、黒城!」
二人から少し離れた所、そこから徐々に近づいてくる影…
その後ろをコソコソとついてくるもう一つの影
赤樹と佐村である
「バカサムライ、お前の竹刀をよこせ」
「なっ…!誰がお主なんかに……」
「…聞こえなかったのか?」
「……!」
佐村は無言で赤樹に己の武器を手渡した
いつもの赤樹とは明らかに違う殺気…
本当に人を殺してしまうような恐怖を感じとったからだ…
そして佐村はその場から先へは進まなかった
これ以上近寄ってしまっては巻き込まれてしまう可能性が出てくる
…かと言って逃げるわけにもいかない
生徒にナメられ、その上逃げ出しては彼のプライドが砕けてしまう
佐村はこの位置から動向を見守る事にした…
「…どうやら俺に客みたいだな」
「…?確か彼は違う人をターゲットにしていたハズだったのに…」
二人とも自分たちに近づいてくる者の影を視界の端に捉えつつも、少しの油断もしない
「仕方ないわね…一度中断した方が…」
「知るか 続行だ」
「…アナタの客じゃないの?」
「俺はアイツを知らん 何でそんなヤツと話をしなくちゃいけないんだ?」
「ふふ…あなたらしいわね?いいわ、続行しましょう♪」
「…黒城、一応聞いておくが俺の事を覚えているか?」
二人の射程距離内に入った赤樹が黒城を睨みつけながら聞いた
当然返事は分かりきっている
「知らないな」
「やっぱりか…」
予期していた答えだけになんの感情も湧き上がってこない
ただ、赤樹の中には先程から黒城に対する憎しみと怨みが渦巻いていた
「お前が俺の事を覚えてなくても……俺はお前への憎しみは決して忘れなかった!」
「………」
「お前を倒す…ただそれだけの為に生きてきた!強くなる為ならどんな辛い修行もやり遂げた!そして強いヤツと戦い、実戦経験も積んだ!」
「………」
「…少しは話をしてあげたら?今なら私も攻撃しないからさ?」
「する必要は無い 勝手にコイツが俺を恨んでるってだけの話だろ?そんなどうでもいい話なんか……」
『バッ!』
瞬間、三人の立ち位置は変わっていた
先程まで黒城が立っていた位置には竹刀を構えた赤樹が…
その2〜3m先には黒城が…
加賀は先程の位置から2、3歩分右に移動している
「…よけたか」
「いきなり攻撃してくるとはな…怒鳴りだすと思ったんだが…」
「ちゃっかり逃げながらチョークを投げてくるなんて…油断もスキも無いわね…」
例え自分が攻撃されても、あくまで赤樹には目もくれない黒城…
その事に憤りを感じつつも、赤樹は冷静に物事を考えていた
黒城の戦法は遠距離からの狙撃…
ならば、こちらから一気に距離を詰めればこっちが優位になる
だが、そう簡単にそれが出来ない理由がある
加賀の存在だ
加賀が黒城のスキをついて爆薬を放ったなら、赤樹にそれを防ぐ手段はない
邪魔するなと言ったってどうせ無駄だろう
この女が大人しく人の話を聞くようには全く思えない
それなら一体どうしたらいいのか……
「イヤ〜〜!!誰か助けて〜!!」
「「「!?」」」
緊迫した空気に、明らかに場違いな声が入り込んできた
その声の主は何かに追いかけられながら、この場に近づいてきた
「…何だアレ?」
「…くだらねぇ」
「未確認飛行物体!?」
その状況に興味をひかれたのは加賀だけ
それも追いかけられている少女ではなく、追いかけている方に
でも、少女と未確認飛行物体は確実にこっちへと向かってきている
「……どうする二人とも?」
「知るか」
「邪魔するなら容赦はしねぇ」
「それじゃ無視の方向で♪」
三人の中で意見は一致したようだ
「そこの人〜!助けてくださ〜い!」
「知るか」
少女が自分の近くに来ても、黒城は全く気にしていなかった
…それがいけなかった
「!?」
「…あ」
先程まで少女を追いかけていた未確認飛行物体は急に方向を変え、黒城へと向かっていった
「…ちっ!」
『ガキンッ!』
即座にチョークを当てて撃ち落とそうとするが、相手は金属でできているモノ
当然多少動かされるくらいで撃ち落とされはしなかった
…本当はプロペラを狙ったはずなのだが、焦りのせいで狙いがずれてしまったのだ
油断…
ただそれだけの理由…
「…くそ……」
『ガシッ!』
「「…なっ!」」
「…あれ?もしかして…成功…ですか?」
黒城の頭にはもうハチマキは無く、機械の方も電池切れかもしくは黒城の与えた衝撃のせいか…プロペラの動きを止め、地面へと落下した
そのアームにはハチマキが引っかかっている
「…脱落か……仕方ないな じゃ、後は勝手に頑張ってくれ」
「ふざけんな…!」
黒城はアッサリと脱落を認め去ろうとしたが、当然これに納得できない男がいた
長年探し続けた男が、自分と戦うどころかマトモに話すらしてないのに去ろうとしているのだ
「ルールはルールだ 今日は諦めろ」
「知るか!俺はお前を倒す為に…!」
「…お前が俺を倒せると思ってるのか?」
「………!」
赤樹は黙ってしまった
先程の佐村のように
黒城から発せられる殺気に、本能が逃げろと告げている
冷や汗が流れる…
黒城の目を見る事も出来なくなり、赤樹の視線は黒城の胸の辺りへと移ってしまった
「…俺とマトモに目を合わせる事が出来たら戦ってやる それまで鍛えておくんだな」
「…くっ!」
黒城は去っていった
赤樹はその場から動く事もなく、ただ黒城が歩いていく様子を眺めているだけだった
「…黒城先生って怖いんですね…あんなの近くにいたら私泣いちゃいますよ…」
直接自分に向けられなかった殺気でもかなりの恐怖を感じた…
そんなに怖い人がいたなんて…
少女…ヒカリは、先程まで三人がいた場所とは少し離れた場所…佐村がいる場所にいた
「…さすがは『最恐』と呼ばれるだけはあるな…拙者もあれは…」
「…そういうふうに言われてるんですか?」
「うむ」
「私は『最凶』って呼ばれてるわよ?」
ヒカリと佐村が話している中に加賀が入り込んできた
「…正直ダサいと思わない?」
「…はい…」
「ま、どうでもいいんだけどね…」
とりあえず、誰がそんな名前を付けたのかとか文字にしないと違いがわからないんじゃないかとか、いろいろツッコミたい所があるがヒカリはそれをガマンして相手の動向を見ていた
もともと加賀は黒城と戦っていたはず
その黒城をヒカリが失格にしてしまった事によって、怒りがこっちに向けられる可能性があるからだ
…本来ならここで赤樹と加賀も失格にしておきたいのだが、そんな事できるはずがない
…だが、発明品を使うとなればまだチャンスはある
普通の人に使うのは危険だと思うが、多分この相手なら大丈夫だろう…
必要なのは自分が逃げるための時間…
それも相当な時間が…
「さて、黒城もいなくなっちゃったし…あなた達私と戦ってみる?」
「「!!」」
ヒカリにとっては最悪な事態になってしまった
向こうが戦闘態勢になってしまっては自分が逃げるだけの時間を造れるはずがない
佐村も恐らく時間稼ぎにはならないだろう…
このままじゃ負けてしまう…
それなら…
使うしかない!!
「…スイッチON」
ヒカリはポケットからリモコンのようなモノを出してボタンを押した
押してしまった以上後にはひけない
確実に自分も巻き込まれてしまうが、仕方ないことだ
「…?今押したのは何のボタン?」
「すぐにわかりますよ……」
「…何だ?」
最初に異変に気づいたのは赤樹だった
自分の近くから妙な物音が聞こえてくるのだ
だんだん大きくなっていく音…
その音の主は先程黒城からハチマキを取った機械だった
「…なっ!?」
その機械はさっきまで完全に停止していたはずだったのに、アームを限界まで広げてまた浮かんでいた
赤樹は身構えた
黒城と同じように取られてしまっては笑い事じゃすまされない
自分に向かって飛んできたならすぐに対処できるようにしっかりと竹刀を握って…
だが、機械は赤樹の予想とは異なる動きをし始めた
「!?」
機械は空高く飛び上がったかと思うと、今度は急に落下
そのままグラウンドにアームを深く突き刺してしまった
ただの故障か…?
赤樹がそう考えた時、機械はプロペラを先程より速く回し始めた
しかし、アームが地面に突き刺さってる為、飛ぶ事はできない
それでもプロペラはだんだん速く回転していく
…くだらねぇ……
意図が全くわからない
単なる故障と判断した赤樹は、その場から立ち去ろうとした
「赤樹!早くそこから離れなさい!」
珍しく取り乱した様子の加賀が叫んだ
「テメェに指図される筋合いは……」
赤樹の声はそこで止まった
赤樹も周りの異変に気づいたようだ
再び砂埃が舞い上がり風も強くなってきている
「…まさか!」
振り返って先程の機械を見てみると、激しく回転しているプロペラが小規模の竜巻を起こしていたのだ
「こんなの…アリなのかよ!」
「赤樹!せめてハチマキだけでも守りなさい!私たちが失格になったら…どこのクラスが優勝するかわからなくなっちゃうわよ!」
この強風ではいずれハチマキは風に飛ばされてしまうだろう
だが、ルールではハチマキを手で押さえるのは禁止されている
「これが私の…いや、私とカゲリちゃんの切り札です!」
「拙者も巻き添え!?」
4人は強風によって巻き起こった砂埃の中に消えてしまった…
宙に舞っているのは複数のハチマキ…
それはグラウンドにいた人数と同じ数だった…
【状況整理】
恭也&悠希&大地⇒作戦会議中
千秋⇒赤樹の捜索
カゲリ&黒城⇒失格
ヒカリ&赤樹&加賀&佐村⇒失格?
そして……
「やぁ、君が澪っていう子?」
「……誰…?」
「ボクかい?ボクは………」
澪⇒???と遭遇
???⇒澪と遭遇
【残り人数】
グラウンドの視界不良の為、正確な人数は不明