第38話〜双子VS剣士(小)
【ヒカリ視点】
「…うぅ…ん…。」
「あ、起きた?」
私が目を覚ますと、すぐ近くに鏡があった。
…違った。
カゲリちゃんだった。
「そうか、私気を失って…ここは?」
「校舎裏だよ。キョーヤたちが連れてきてくれたの。」
恭也さん達が?
敵同士なはずなのに…
優しいのはいいんですけど、時には冷酷にならなきゃいけない時もあるんですけどね…
とりあえず今回は感謝しておかないといけませんね。
「ちなみに気を失ってたヒカリを運んだのはダイチだよ。」
「……えっ!?」
一気に顔が真っ赤になった私をカゲリちゃんがジロジロ見てきた。
「…?嫌がるかと思ったら…意外な反応だね?それとも怒りで顔が赤くなってるの?」
「え!?…あ、うん!そうなの!」
「ふ〜ん…」
そうか…カゲリちゃんはまだ知らないんだ。
知ってるのは澪さんだけでしたね。
…もしかしたら他にも知ってる人がいるかもしれませんけどね。
「とりあえずヒカリも起きた事だし、早く『皆殺し計画』を始めようよ♪」
「ちょっと、カゲリちゃん!皆殺しなんて物騒な事言っちゃダメ!せめて『殲滅作戦』って言わなくちゃ!」
「…センメツってどういう意味?」
「殲滅って言うのはね………」
「………ツッコミがいないと、とんでもない事になるんスね?」
「「!!?」」
私達が話をしている、ちょうどその後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「…このっ!」
カゲリちゃんが振り向きざまに右拳を振るう。
…でも、その拳が当たる事はなかった。
そこには誰もいなかったからだ。
…違う。
正確に言うと、いなくなったんだ。
私達が振り向いた時には、確かにそこに人がいた。
でも、カゲリちゃんの拳が当たる直前…その人は消えてしまった。
「危ないじゃないッスか!?いきなり殴りかかるなんて…普通は話し合いから始まるんじゃないんスか?」
今度もまた後ろから声が聞こえてきた。
…それも私のすぐ後ろで…
このままじゃハチマキを取られちゃう…!
「イヤーッ!!これでも喰らってください!」
「なんスか、その悲鳴は!?思いっきり攻撃する気マンマンじゃないッスか!?」
私はポケットから丸い形のモノを取り出した。
そしてそれをその人に向かって投げつけた。
「カゲリちゃん!」
「わかってる!」
私たちは腕を顔の前でクロスさせ、瞳を強く閉じた。
私が投げたモノ、それは閃光弾だ。
『…カッ!』
「うわっ!」
…どうやら喰らったみたいですね。
「今がチャンス!」
光が収まった瞬間にもうカゲリちゃんは動いていた。
「ハチマキはもらうわよ!」
「…!そうはいかないッス!」
そんな事を言っても、目が見えない状況じゃ相手の攻撃を防ぐ手段は無いはずです。
この勝負はもう私たちの勝ちですね。
「とりゃ!」
「甘いッスよ!」
「ちっ…!よけられたか……………えぇっ!!?何で!?」
よけられた!?
確かに閃光弾の影響でしばらくは目が見えないはずなのに!?
「例え目が見えなくても、気配を読めばよけることくらい朝飯前ッスよ!」
…ただ者じゃない!?
これは本気でいかなきゃいけないみたいですね…!
「カゲリちゃん…!」
「うん…!」
「…本気になったみたいッスね。それじゃ、戦う前に一応名前を聞いておいてやるッス。」
「…私は緋乃 ヒカリです。」
「…私は緋乃 カゲリだよ。」
「見てわかると思いますけど、双子です。」
「しかも息がピッタリのね。」
「私たち2人が協力したら…」
「無敵なんだから!」
「…手強そうッスね。でも負けないッスよ!剣道部最強の男、赤樹 剣の一番弟子であるこの春日 千秋がお相手するッス!」
そう言うと、彼は背中に背負っていた竹刀を握って構えをとった。
辺りに沈黙が流れる…
「…ねぇ、ヒカリ?」
沈黙を破ったのはカゲリちゃんだった。
「何?」
「アカキって誰?」
「…さぁ?」
「覚えてないんスか!?確かあんたらって神堂と一緒にいた人たちッスよね!?ほら、前に神堂と兄貴が戦ってたじゃないッスか!」
「あぁ、あの人か。」
「確か部活をサボってた人ですよね?」
「…いや、まぁ……他に言い方があるんじゃないスか?」
「例えば?」
「そうッスね…例えば……」
「スキあり!!」
「のわっ!?ちょっと!今のは卑怯じゃないッスか!!」
…惜しい!
話に集中していた今がチャンスだったのに…
「勝負に卑怯も何も無いわよ!!」
「開き直るなッス!何も言い返せないじゃないッスか!」
…言い返せてるじゃないですか。
それに、それを言うなら二対一の時点で正々堂々とは言えませんしね。
「ヒカリ!さっさとコイツを倒しちゃお!」
「そうですね。」
「倒されるのはそっちの方ッスよ!」
そんな事を言ってられるのも今のうちだけですよ!
この日のために造り上げた新兵器…
その一人目のターゲットになってもらおうじゃありませんか!
「行け!一号、二号、三号!」
「な…!」
ふっふっふっ…私が出した発明品に驚いて、声も出ないみたいですね。
「…コレ一体どこから出したんスか?」
驚いてるのそっち!?
いや、確かに気になるかもしれませんけど…あえてスルーの方向でお願いします。
「それに、名前…適当すぎないッスか?」
…それもスルーで…
「そもそも何スかこのロボットは?」
それですよ!
私が聞きたかった言葉は!
「それでは、簡単にこのロボットについて説明したいと思います。」
「…親切ッスね。」
「まず、外見ですが…UFOキャッチャーにプロペラが付いたようなものです。」
「それは見ればわかるッスよ?」
「見る事ができない方もいるので念の為…です。」
「………?」
「で、機能なんですが…実はこのロボット、空を飛ぶことができるんですよ!」
「飛ばなかったらプロペラの意味が無いッスよね?」
「そしてこのロボットがする事は相手の持っているものを取ってくる事!今回の場合はハチマキですね。」
「見たまんまじゃないッスか。説明する意味があったんスか?」
「念の為。」
「………。」
うっ…!
何かすごく白い目で見られている気がします。
実際には帽子を深くかぶっているせいでその目を見る事ができないんですけど…
うぅ…そんな目で見ないで下さいよ〜(泣)
こうなったら…
「えぇい!行けぇ!あんた達の力を見せつけてあげて下さい!」
「…自分が造ったロボットに対してまで敬語ッスか?」
「うるさぁい!」
私が指示を出したロボットは真っ直ぐにターゲットへと飛んでいった。
でも…
『プスンッ…』
「…あれ?」
一号がいきなりプロペラの動きが鈍くなり、そのまま墜落…
『バキッ!』
「あれれ?」
二号はなぜか空中でバラバラになった…
『ブーン!』
三号はちゃんと飛んでいるけど…
「えぇっ!?」
なぜか私に向かって飛んできた。
「きゃぁぁ!助けて下さい〜!」
「……はぁ……とりあえず一人はこれで片付いちゃいそうッスね。さて、もう一人は…」
私が三号から逃げて走り回っている姿にため息を吐きながら、カゲリちゃんの方に向き直った。
「私は発明品なんかには頼らないわよ!正々堂々勝負よ!私が女だからって手を抜いちゃダメだからね!」
「望むところッス!相手が誰であろうと戦うからには本気で相手するッスよ!」
二人ともそれぞれの構えになって相手の方だけを見ている…
まさに真剣勝負だ…!
そんな中、私はまだ三号と鬼ごっこを続けている…(泣)
このままだと緊迫感が無くなっちゃいそうなので、私少しの間黙っときますね。
それじゃ、別視点でお願いしま〜す♪
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
静かに…無駄な動きなど一切なく向かい合っている二人…
互いの動きに注意しながらも、二人はまだ相手の攻めるスキを見つけれずにいた。
(相手は素手…こっちの方がリーチも威力もあるッスね…)
そうは言っても、迂闊に攻める事なんて出来ない。
もし攻撃を避けられて、懐に入られたり、竹刀を取られたりしたらその時点でかなり劣勢になってしまう。
そうなっては勝つ事は難しい…
(相手はあのアカキの弟子…どこまで強いか知らないけど、多分そこら辺の人よりは強いんだろうな…)
相手が普通の人だったなら、恐らくカゲリは何も考えずに攻めていただろう。
でも、今回は相手が相手だ。
スキを突かない限り、自分が痛手を受けてしまうだろう。
「…………。」
「…………。」
このまま二人とも動くに動けない状況が続…
「えぇい!黙ってるなんて私の性格に合わない!ここはとりあえず攻めるのみ!」
…かなかった。
カゲリはそのまま千秋の方へと走っていく。
だが、その行動は正しかったのかもしれない。
千秋からしてみれば、相手がいきなり叫んだかと思えばいきなりこっちに向かって走ってこられたのだ。
当然、一瞬とはいえ反応は鈍くなる。
「…え!?いや、ちょっ…!」
「喰らえぇ!」
『バキッ!』
「うっ!!」
カゲリの拳が千秋の腹部に当たり、少しだけ後ろに飛ばされた。
「…っ痛!相手を飛ばす程のパンチなんて…一体どんな鍛え方してるんスか…!」
「あんたが軽すぎるのよ。ま、今ので倒れなかったのは誉めてあげる。でも、もうマトモに動けないでしょ?」
腹を押さえながら、ようやく立っている状態の千秋の所にカゲリが近づいていく。
「無理しちゃダメだよ?痛いんでしょ?今終わりにしてあげるから、後はゆっくり休みなよ。………ん?」
千秋に近づいていくと、カゲリはある事に気づいた。
相変わらず帽子のせいで顔の半分は隠れているが、口が笑みの形になっているのだ。
「…何笑ってるの?」
「…いやぁ、あんたが面白い事を言ったからッスよ。」
「…?」
カゲリには何の事かわからなかった。
今の状況じゃ優勢なのは明らかに自分の方だ。
それなのにこの余裕…
苦し紛れか…
それとも時間稼ぎか…
「…まだ気づいてないんスか?もうあんたは負けてるんスよ?」
「…?何バカな事言ってんの?私はまだ一撃も喰らって……!」
そこでカゲリは気づいた。
今回は相手を倒す事では無く、相手のハチマキを取る事が勝利条件だったという事に。
「ま…まさか!」
慌てて頭のハチマキをチェックするが、そこにはもう何も無かった。
「残念ッスね。あんたはもう失格ッスよ。」
千秋の手には先程までカゲリの頭に巻かれていたハチマキがあった。
「そんなぁ!もう失格!?納得いかないよ!ねぇ、もう一回やろうよ!今度は頭にも気をつけるからさぁ?」
「…やる訳ないじゃないッスか。それに何回やっても無駄ッスよ?千秋は兄貴に認められる程の腕前なんスから!」
「うぅ〜…!覚えてろよぉ〜…!」
悔しそうに睨みつけるカゲリに背中を向けて、千秋は歩き出した。
行き先は………
「そうだ!忘れてたッス!」
「うわっ!?何!?」
いきなり戻って来た千秋にカゲリは驚いて二、三歩退いた。
「ここに兄貴来なかったッスか!?ここで兄貴と神堂が戦う予定だったんスけど…」
「知らないよ!私たちずっとここにいるけど、アカキっていう人は来てないよ!キョーヤなら…あっちに行ったけど?もしかしたらそっちにいるんじゃない?」
カゲリが指差したのは林。
実際には赤樹はまだグラウンドにいるのだが、ここにいるメンバーは誰もその事を知らない。
「そうッスね。教えてくれてありがとうッス!それじゃ、また会う機会があったらよろしくッス!」
「ふーんだ!アカキって人と一緒にキョーヤに倒されちゃえ!」
千秋の姿は林の中へと消えていった。
「………チアキ…かぁ…よし!アイツは私のライバル決定ね!次は負けないんだから!今回だって、普通の戦いだったら私が勝ってたのに!」
「…何言ってるんスか?千秋が本気を出せばあれくらい、簡単に避けれたッスよ。」
「なっ…!?」
再び千秋が現れて、カゲリは驚いたが、今度は退かなかった。
さすがに同じ事はしないようだ。
「な…何の用よ!?」
「いや、最後に一つツッコミを…と思って戻って来たんスよ。」
「…ツッコミ?」
「あんたら最初に『協力したら無敵』とか言ってたじゃないッスか?でも全然協力してなかったじゃないッスか?」
「…あ……。…い…今さらそんなツッコミしなくても…!」
「それじゃあ、今度こそサヨナラッス。」
「待てぇ!逃げるなぁ!聞けぇ!」
…どうやら今度こそ本当に行ったようで、林の方から返事は無かった。
これで校舎裏に残っているのは一人だけ…
「…あれ?そういえばヒカリは?どこ行っちゃったんだろ…?」
………どこ行ったんだろう?
【状況整理】
恭也&悠希&大地⇒林の中で休憩、作戦会議中
ヒカリ⇒三号に追いかけられ、多分今もどこかに移動中。
カゲリ⇒失格。
澪⇒現在地不明。
赤樹⇒ついに黒城発見…?
千秋⇒赤樹を探して林の中へ。
黒城&加賀⇒戦闘中。
二人とも残り弾数、残りわずか。
佐村⇒再度赤樹のスキをつき攻撃するが、返り討ちにあう。
それでもまた復活し、赤樹の後をつける。
???⇒林の中で何かの準備中。
【残り人数】
A組⇒29/41
B組⇒20/41
C組⇒20/41
D組⇒25/41
E組⇒27/41
さて、今回は緋乃姉妹と千秋が主役なんですがいかがだったでしょうか? 私としてはいつもとツッコミが違うからやりにくかったんですけど、楽しめて書けたのでそれでヨシって感じです。 次回の予定では、ボケもツッコミも少ないので大変になると思います。 でも、この作品を楽しんで読んでくれている人の為にも私は頑張ります! とりあえず今回はこの辺で。 感想等お待ちしてま〜す。