第37話〜それぞれの行動
【赤樹視点】
「…ったく、あのバカ教師が!」
開始と同時に爆薬なんか投げやがって…!
おかげで砂埃が舞って視界が悪くなっちまったじゃねぇか!
それに今ので神堂のヤツが脱落しちまったらどうするんだ!
「オイ、千秋!ちょっとあのクズ共の様子見てこ……」
…あん?
いつの間にかいなくなってやがる…
どこ行きやがったんだアイツ?
「赤樹!討ち取ったりぃ!」
「うぜぇ。」
「ぐはっ!?」
ふん!
砂埃に紛れて奇襲を狙ったつもりか?
バレバレなんだよ。
しかも…
「ふふ、流石は拙者が見込んだ男だ!だが、そんな攻撃で拙者を倒せると思うな!」
うぜぇんだよ。お前。
侍の格好したバカが。
年を考えろ。
「拙者をいつもと同じと思うな!今日こそお主を倒して、その根性を叩き直してやろう!」
「…うぜぇ。さっさと終わらせてやる。オイ、千あ………。」
…そうか。
今はアイツいないんだったな。
「はっはっはっ!お主が今武器を持ってないのは知っているぞ!いつも人に持たせていたのが災いしたな!」
「…いいからさっさと来いよ。」
「へ…?」
「お前みたいなクズには素手で十分だ。」
「…その言葉、後悔するな!」
侍バカは俺が武器を持ってないから油断しているのか、無防備に走ってきた。
そのままヤツは持っていた竹刀を俺の右肩の辺りに振ってくる。
「…俺を甘く見るな、クズが。」
一歩後ろに退くと、当然竹刀は地面へと叩きつけられた。
これでコイツは完全に無防備な状態になった。
「…あ。」
「くたばってろ。」
そのままヤツの頭に向かって脚を振り上げると、ちょうどヤツの顎につま先が当たった。
「がっ!?」
ヤツの体が大きく仰け反り、そのまま仰向けに倒れた。
…くだらねぇ。
弱すぎる。
「…まだまだぁ!」
…そのくせに無駄に体力はありやがる。
本当にめんどくせぇ…
普通は顎に攻撃をヒットさせたら脳にダメージが伝わるはずなんだが…
もしかしてコイツに脳は無いのか?
「黒城殿や加賀殿に勝つためにも、これくらいのダメージで倒れていてはダメなのだ!拙者が一番になるためにも!」
「…!」
……今…コイツ…何て言いやがった?
「…ぬ?どうした、赤樹?様子が変だぞ?」
「…お前の頭程じゃねぇよ。」
『黒城』だと…!?
あの男がこの学校にいるのか!?
「…悪いな、用事が出来た。今なら見逃してやるからどっか行きやがれ。」
「そうはいかん!拙者はお主を倒…」
「邪魔するなら消すぞ…今の俺は手加減なんか出来ない…」
「………!?」
ヤツは俺の言葉を聞いた後、俺に道を開けるように横に移動した。
その表情は完全に怯えていた。
俺はそんなのも無視して歩き出した。
この学校に『アイツ』がいるとは…
俺が長年探し続けていた…
最も憎むべき相手…!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【恭也視点】
「…とりあえずここまで来たら大丈夫なはずよ。」
俺たちは今、校舎裏に来ている。
学校の敷地内かつ校外だったらどこに行ってもいいらしいから、ここにいても問題ないだろう。
ここなら近くに林があるから、誰かが来てもすぐに隠れる事が出来るしな。
「ヒカリ!?大丈夫!?」
カゲリが気を失っているヒカリのそばに行く。
大地も少し気にかかるみたいだが、俺たちの所へと歩いてきた。
「…なぁ、これからどうするんだ?澪ちゃんとはぐれちゃったし、あの二人は…」
そうだ、今回はクラス対抗なんだからあの二人は敵なんだ。
…かと言ってこの状況で戦うわけにも行かないだろう。
「う〜ん…協力するのもいいけど、最終的には戦わなきゃいけない相手だしね…」
…悠希も悩んでるみたいだ。
後々、最大の敵になりかねないこの二人を見逃すわけには行かないが、今の状況はフェアじゃない。
「…いいよ。キョーヤ、ユーキ、ダイチ。今回は私たち敵同士なんだからさ。」
ヒカリの方を向いたまま、カゲリが静かに口を開いた。
「私たちの事は気にしないで、レイを探しに行きなよ。ヒカリは私が看てるから。」
…いや、俺たちはお前たちのハチマキを今取っとくべきかどうかを悩んでるんだが?
何気にその選択肢を選ばせないようにしてないか?
「ヒカリが回復したら…その時に戦おう。それまで他の人にハチマキ取られないように気をつけてね。」
待て待て待て、それは作戦か?
こんな事言われたら今この場でこの二人のハチマキを取るわけには行かなくなる。
「…どうする?」
「…はぁ、この状況じゃ仕方ないでしょ?この二人は見逃すしかないじゃない。」
「そうだよな…」
ずる賢いヤツめ…
…まぁ、後で戦う方が罪悪感も無くできるけどな。
……勝率は格段に下がっちゃうけど。
「問題はこの後どうするかね。澪を探しに行くか、それとも人数が減るまでどこかに隠れてるか…」
そんなのわざわざ聞かなくても決まってる事じゃないか?
「当然、澪を探しに行った方がいいだろ?」
「…あの戦場にもう一度戻るの?もしかしたらもう失格になってるかもしれないのに?」
戦場って…
あながち間違ってはいないかもしれないが…
「…それでも行くしかないだろ?澪は…大事な友達なんだからな。」
「…やっぱりね。恭也ならそう言うと思ったよ。」
そう言うと悠希は俺たちに背を向けて、どこかへと歩き出した。
「どこに行くんだ?戦じょ…グラウンドはそっちじゃないぞ?」
「澪を探すのは一人でも十分でしょ?だから任せたわよ。」
待てや!!
「ここは普通、話の流れ的にみんなで探しに行くだろ!?」
「みんなで探しに行って全滅しちゃったら元も子もないでしょ?」
理由をつけてるけど、お前は単純に危険地帯に行きたくないだけだろ!
「…オイ、恭也?今思ったんだけどさぁ…」
「何だよ?今は悠希と話してる最中だろ?空気読めよ。」
「いや、お前が赤樹に呼び出されたのってどこだったかなって思ってさ。」
「確か校舎裏だろ?それがどうし…」
校舎裏…?
俺たちの現在地は…?
…!!
「悠希!とりあえずまた移動だ!ここももうすぐ危険地帯になる!」
「えぇ!?他に安全な場所なんて…」
「この際、この林の中でいいだろ!」
「ここ結構広いし、さっき何人かここに入ってったよ?その人たちに狙われる可能性も…」
「赤樹と戦うよりマシだ!」
俺は急いで林の中へと入っていった。
「ちょっと恭也!?」
「待てよ!」
その後を悠希と大地が追いかけてくる。
緋乃姉妹はあそこにいても大丈夫だろう。
アイツは俺と戦う事以外は眼中に無いみたいだったしな…
他に何か目的があるなら俺と戦おうとはしなくなるんだろうけどな…
【inグラウンド】
「それ♪」
「無駄だ!」
グラウンドの中心の辺り、そこで戦っている二人。
女が投げた小瓶を男がチョークで破壊するという非現実的な事が行われていた。
二人の周りには数人の生徒が倒れている。
この二人の戦闘に巻き込まれたのか、服が少し焦げている生徒、白い粉が付いた部分を押さえて倒れ込んでいる生徒がいる。
まだハチマキを取られていないから失格にはなっていないが、もはや彼らは戦えないだろう。
「えい♪」
「…しつこいな。俺にそんなのは通用しねぇって。」
今度は二つ同時に投げられた小瓶を同じくチョークを二つ同時に投げて破壊する。
破壊する度に爆風が起こるが二人とも全く気にしていないみたいだ。
「ほい♪」
「…だから、しつこいって。」
今度は四つの小瓶が宙を舞う。
そしてまた四つのチョークがそれを破壊する。
「…あのなぁ、」
「とりゃ♪」
「ストップしろ!ストップ!!」
今度は六つになった小瓶を破壊してからついに男がキレた。
「何回やっても無駄だって言ってんだろ!さっさと奥の手を出せ!」
いつも戦っているからわかっている。
この二人は互いに奥の手を隠し持っている。
「あら?そんなに焦らなくてもいいでしょ?後でちゃんと倒してあげるからもう少し遊びましょうよ♪」
「…何を企んでる?」
いつもはもっと過激に攻めてくるはずの相手が、どう考えても時間を稼ごうとしている。
警戒をしない方がおかしいだろう。
「ふふふ、何も企んでないわよ♪ただ、私は自分のクラスの生徒を信頼してるだけ♪」
「…そういう事か。」
すぐに相手の目的はわかった。
この女は、一番厄介な存在であるはずの自分を足止めしているのだと。
その間に他のクラスのハチマキを取っていき、自分一人だけになった時に集団で攻めてくるのだろう。
相手の人数が多ければ確かに不利になる。
「…だが、そう簡単にはいかないだろ?俺のクラスにも厄介なのがいるし、他のクラスにも何人かいるはずだ。」
その言葉にまたクスクスと笑う。
「言ったでしょ?私は自分のクラスの生徒を信頼してるって。あなたのクラスは赤樹って言う子に任せてるし、他のクラスの子もうちの『切り札』が何とかしてくれるはずよ♪」
「『切り札』だと…?そんな名前のヤツいたか?」
「いや、名前じゃないから。」
「そいつはそこまで興味をひかせたいヤツなのか?」
「…それを言われたら困るなぁ。ぶっちゃけノリだったから。」
「だったらさっさとそいつの正体を教えろよ。気になる。」
「あら?気になるの?だったら教えてあげな〜い♪」
「なら別にいい。」
「え!?気になるんじゃなかったの!?」
「別に。ノリだ。」
「…………。」
二人の間に静かな風が吹き、沈黙が流れる。
会話が終わったからだけではない。
少しでも相手に集中する為だ。
さっきまで加賀が投げていた爆薬の爆風によって生じた砂埃が風に流され、互いの視界を悪くしている。
ここで隙を見せたら一気に決められてしまう…
それは二人に言えた事である。
黒城の攻撃はスピードがあるが、急所にでも当たらないと一撃で倒す事は出来ない。
加賀の攻撃はスピードは無いが、攻撃力や範囲は大きいから一撃で相手を戦闘不能にする事ができる。
視界が悪い中で、二人は互いに相手の手元に注目している。
砂埃が消えるまでは隙を見せられない。
しばらく膠着した状況が続く…
砂埃が消え去るまで…
【澪視点】
「………うぅ……ん………。」
目を開けると、そこには青空が広がっていた。
ここは…外…?
私何で外で寝てたんだろう…?
…………………?
……………。
………!
そうだ!
私、加賀先生の爆薬を受けて…
急いで体を見てみる。
……どうやらケガはしてないみたい。
それどころか…服が焦げてすらいない。
……おかしい…
もし爆薬が当たっていたなら絶対にこんな事にはならない。
…だとすると考えられるのは一つだけ。
誰かが…助けてくれた…?
でも誰が?
周りを見渡しても視界に入るのは草と木だけ。
やっぱり誰かがここまで運んで来てくれたとしか考えられない。
…ま、いいか。
周りに誰もいないって事は正体を知られたくないって事。
それをあれこれ詮索してしまったらその人の迷惑になってしまう。
幸いにも、まだハチマキは取られていないみたいだし…
私は立ち上がってリュックを背負い直す。
…この重量感とガサゴソとした物音が中身を盗まれてはいない事を示している。
そこから正面に向かって一歩を踏み出す。
現在地がわからないから適当に進むしかない。
とりあえず早くみんなを探さないとなぁ…
【???視点】
「よし!やっと追いつめたぞ!」
「覚悟しろ!」
前方には二人の男子…
「これでもう逃げ場は無いよ!」
「さっさと諦めて降参しなさい!」
左右には女子がそれぞれ一人ずつ…
そして後方は壁…
その壁によしかかってボクはこの4人の顔を見る。
「…キミたちC組でしょ?」
「…あぁ。」
「やっぱり?だったら興味無いから早くどこかに行ってくれない?ボクはこう見えても結構忙しいんだよ?」
「そういうわけにはいかないでしょ?」
周りを囲んでる人たちの距離が縮まってくる。
…めんどくさいなぁ。
「…ボクを狙った事、後悔しないでね?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…じゃあね。」
ボクはその場から立ち去る。
後方には呆然として立っている人が4人。
ボクの手にはハチマキが4つ。
…そして前方にはたくさんの草木。
ここがボクの目的地。
ここなら誰にも邪魔される事無く………
【状況整理】
恭也&悠希&大地⇒林の奥へと移動中。
途中、たまたま会った人を倒す。
ヒカリ&カゲリ⇒校舎裏で休憩中。
たまたま通りかかった人を倒す。
澪⇒現在地不明。
とりあえず移動中。
赤樹⇒黒城の捜索。
砂埃のせいで視界が悪いのでもう少し時間がかかりそう。
千秋⇒???
黒城&加賀⇒戦闘中。
現在は膠着状態。
佐村⇒赤樹の追跡。
???⇒林へ…
【残り人数】
A組⇒31/41
B組⇒23/41
C組⇒22/41
D組⇒26/41
E組⇒27/41