第31話〜ある日の放課後【バカコンビ+1】
「ねぇ、恭也…今日の放課後さ…ちょっといいかな…?」
「…え…?」
六時限目の授業が終わった後にいきなり悠希がそんな事を言ってきた。
今日の天気は雨。
そのため、悠希が入っている陸上部は今日は休みらしい。
…何て不真面目な部活なんだろう。
当然、俺の入っている発明部もかなり適当な部活だから部活をサボってもなんの問題もない。
せいぜいみんなに小言を言われるくらいだ。
「いいけど…何の用事なんだ?」
「…ちょっとここじゃ言えないかな。」
悠希はイグを肩に乗せて、カバンを持って教室を出て行った。
俺もカバンを持って悠希について行こうとした…そしてそこであることに気がついた。
「悠希!まだSHR終わってないって!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…で、俺に何の用があるんだ?」
放課後、人気のない廊下に俺と悠希はいる。
廊下は雨のせいで少し薄暗く、雨音以外の音は聞こえない。
こういう所はどこか寂しくなるから俺は好きじゃない。
早く用事を済ませて帰りたいな。
「…私、今までずっと我慢してたんだけど…もう我慢できないの…」
「悠希…?」
悠希の顔は真剣そのもので、まっすぐに俺の目を見つめていた。
その目には何か決意のようなものがある気がした…
「他の人も気になってるみたいだし…最近みんな頑張ってるみたいで…でも、私が一番最初に気になったんだから、他の人に負けるわけにはいかないの!」
悠希…
何の話かはわからないが、そこまで悠希が熱心になるとは…
「だから………」
そこで今まで俺の目をジッと見つめていた悠希の目が下に向けられた。
何か考えこんでいるように見えるその様子はいつもの悠希とは違った。
そして、ようやく決心がついたのか、再び俺の目を強く見つめると口を開いた。
「だから…お願い恭也!わ、私と………!」
「ストーーップ!!」
悠希の声は誰かの声のせいで途中で遮られた。
聞き覚えのある声…
この声は…
「ユーキ、抜け駆けはさせないんだから!」
声の主は近くの柱の陰から現れた。
見た目ではどちらか判断できないけど、今の話し方でわかった。
そう…カゲリだ。
いつもはヒカリと一緒に行動しているはずだから、一人なのは珍しい。
「…そう、カゲリも気になってたんだ。なら協力しない?」
「モチロン♪そのためにユーキを探してたんだから。」
???
さっきから何の話をしてるんだ?
全くわからない。
「なぁ、いい加減教えてくれよ。何の話をしてるんだ?」
「「『開かずの間』の話だよ♪」」
開かずの間…?
七不思議とかによくあるあれか?
「望壮高校23不思議の一つよ。」
多っ!?
ていうか23って…随分中途半端だなオイ。
「恭也にその謎を解明するために手伝って欲しかったんだ♪」
それで俺を呼び出したのか。
…それって絶対に解明しないといけないものなの?
「頑張ろうねキョーヤ♪何せこの謎を解けば他の不思議も解けてくるんだから!」
何で関連性があるんだよ!?
普通それぞれの不思議は独立してるものだろ!?
しかも普通は解明できないから不思議に選ばれるんじゃないのか!?
「「それじゃ、レッツゴー♪」」
俺が心の中でツッコミをいれてると、悠希とカゲリはノリノリで歩いていった。
俺もすぐに2人を追いかける。
…そこで俺にある疑問が浮かび上がった。
カゲリが部活をサボったらダメじゃないのか?…と。カゲリがいなかったら発明品って造れないはずだからな。
…いいのかな?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「着いたよキョーヤ♪ここが23不思議の一つ、開かずの間だよ。」
…ここが?
確かに普通の教室とは様子が違う。
何て言うか…威厳があるって言うのかな?
木製で両開きのそのドア(扉?)は、開かずの間と呼ばれるだけあって人の出入りは無いように見える。
…いや、確証は無いんだけどね。
そして、その扉の上にあるプレート。
そこにこの部屋の名前が書かれている。
…………。
『校長室』
「ちょっと待てコラ!!開かずの間って…思いっきり校長室じゃねぇか!?何でこんなのが不思議にノミネートされてるんだよ!?」
何が開かずの間だ!
普通にこんな所に入る生徒なんていないだろ!
「甘いわよ恭也!あんたはこの高校の校長を見たことがあるの?」
…言われてみれば、見たことが無いな。
確か入学式の時は教頭先生が話してたし…
「誰も姿を見たことが無い校長…その正体がこの部屋の中にあるかもしれないんだから!」
「ちなみにコーチョーの正体も23不思議の一つなんだよ。」
校長先生の正体が不思議の一つって…
とんでもない学校だなここは。
「…それはいいが、どうやって中に入るんだ?まさかドアを壊してまで入るわけにはいかないだろ?」
こいつらならやりかねないけどな。
でも、それなら俺を呼んだ意味がない。
「男の人ってやっぱり勇気があるよね?」
勇気…?
それがどう関係するんだ?
「私たち女の子には出来ないからさ♪だからキョーヤにやって欲しいんだ。」
…イヤな予感。
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「ガンバレ〜キョーヤ〜♪」
「下を見たらダメだからね!」
…現在の状況を説明します。
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悠希&カゲリ→校長室の隣の教室から俺の応援
俺→窓を伝わって校長室へ移動中
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「ふざけんじゃねぇ!!ここまでしなくてもいいだろ!」
ちなみに校長室は四階、何でそんな所にあるんだろうと疑問を感じるが恐怖心でそんな事はどうでもよくなってくる。
「だって私たちがやったらスカートの中覗かれるもん。」
それはそうなんだが…
他に方法は無いのか?
「絶対にイグを落とさないでね!」
そうそう、俺の頭の上にはイグが乗っかっている。
イグには小型カメラが付けられていて、それで校長室の中を撮影するらしい。
…ん?待てよ?
「撮影なら小型ヘリとかでもいいんじゃないのか?わざわざこんな危険な真似しなくても…」
「「……あ。」」
あ、じゃねぇよ!
やっぱりダメだこのバカコンビ!
っていうか俺も早く気づけよ!
「と、とにかく後少しなんだから早く行きなさいよ!」
この野郎…!
後で覚えてろよ!
俺は細い足場を渡りながら少しずつ校長室へと近づいていく。
雨のせいで足が滑りやすいが、用心しながら進めば大丈夫だ。
…多分。
絶対に真似すんなよ?
「よし、着い……って何だこれ!?」
「キョーヤ!?どうしたの!?」
俺が見た光景、それは…………
「カーテンが閉まってて中が見えない…」
「「ダメじゃん!!」」
それは俺のセリフだ!
ただの骨折り損じゃねぇか!
くそっ!
さっさと戻るか…
「…お前なにしてんのそこで?」
戻りかけた俺の頭上で声が聞こえた。
上は屋上のはず。
まさかこんな雨の日に屋上にいるやつがいるなんて…
俺が見上げてみると、そいつは傘を持ってタバコを吸っていた。
「あ〜あ、ちょっとタバコ吸いに屋上に来てみれば…めんどくせぇもの見ちまったな。」
黒城!?
何でこんな時に!?
最悪だ!
「そこは確か校長室だったよな?そんなに校長が気になるのか?だけど校長が固く口止めしてるからな。正体を探ろうとするやつは…めんどくせぇけどお仕置きしろって言われててな。そういうわけで覚悟しろ!」
ちょっと待てって!
ここでお前のチョークなんて喰らったら死んじまうって!
「キョーヤ!早くコッチへ!」
「せめてイグだけでもいいから!」
悠希、それは俺はどうなってもいいって事か?
「くたばれっ!!」
殺す気満々!?
まだ死にたくねぇよ!
こうなったら…
「喰らえ!!」
俺はとっさにイグを掴んで黒城に投げつけた。
「なっ…」
「あぁ!イグ!!」
イグを投げつけた事によって驚いた黒城はチョークを俺に当てる事は出来なかった。
…ちょっとかすったけどね。
そのままイグは…
「おわっ!!」
黒城の顔面に激突!
…やべ……!
後が怖いな…
「キョーヤ、早く!!」
黒城がまた攻撃を再開する前に俺は急いで教室の中へと入った。
「大丈夫キョーヤ!?」
「…はぁ、死ぬかと思った……」
もちろん冗談抜きで。
まったく…何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
俺は別に校長先生の事なんてどうでもいいんだよ。
…ん?
なんだろう…
急に寒気が…
「…ねぇ、恭也?」
背後からの悠希の声に思わず体がビクッとしてしまった。
振り返って見てみると…そこには鬼神がいた。
「何であの状況でイグを投げたのかなぁ?もし、イグが落ちちゃったらどうするつもりだったの?これはお仕置きが必要かな?」
…怖い!
悠希が怖すぎる!
もしかして俺…結局生きてられないのか!?
「ユーキ、抑えて!キョーヤだって必死だったんだから!」
「邪魔しないでよカゲリ!」
カゲリが悠希の説得をしている。
この説得が上手くいけば俺は助かるかもしれない!
頑張れカゲリ!
ガラッ
「…まだ逃げてなかったか。さて、覚悟は出来てるんだろうな?」
最悪だーー!!!
ドアを開けて入ってきたのはもちろん黒城!
左手にはイグが、右手にはチョークが握られていた。
…どっちみち俺は無傷じゃ済まないんだな…
俺…生きてられるかなぁ…?
先日、話番号を調整させてもらいました。 …もう31話だったんですね。 もし前の方がいいと思う方がいたら言ってください。場合によっては再び修正します。 …ところで最近登場人物が多いように感じてきたんですが、皆さまは大丈夫でしょうか? 私の予定としてはあと3人は追加したいんですよね。準レギュラーですけど…多いかな? でも流れによっては登場しない事もありますけどね。 とりあえず今回はこの辺で。 感想・評価お待ちしています。