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第26話〜想い

 


人は長い一生の中で愛する人を見つける


その人と一緒にいるだけで幸せになる…そんな感覚に包まれる


…だが


その人に恋をするのは自分一人とは限らない


その事実を知った時…


一体どのような行動を取ればいいのだろう…










「ふふ♪」


「…ずいぶんご機嫌だね?そんなに恭也さんに言うこと聞いてもらえるのが嬉しいの?」


帰ってきてからずっと…いや、恭也さんに抱きついてからずっとカゲリちゃんは笑顔のままだ。


「いや〜、そりゃ嬉しいよ♪テストで赤点が無かったのも嬉しかったけど、それ以上に嬉しいもん♪」


…そうですか。 

やっぱりカゲリちゃんは…


「…?どうしたの、ヒカリ?」 


「……カゲリちゃん。一つだけ聞きたいことがあるの。」


「えっ?何、急に?」


あまり聞いてはいけない気がするけど…


「…前々から思ってたんだけど…カゲリちゃんは…」


そこまで言って言葉に詰まる。

…本当に聞いてもいいんだろうか?

これが原因でカゲリちゃんと仲が悪くなる事もありえる。


でも…

その内聞かなきゃいけない事だ。 

それなら今聞いた方が……


「カゲリちゃんは…………



……恭也さんの事が好きなんですか?」


「え!?な、何!?何でいきなりそんな…!」


カゲリちゃんの顔が一気に赤くなってあたふたし始めた。

やっぱりカゲリちゃんは…恭也さんのことが…


「…いや、やっぱり何でもない。ゴメンね。忘れてちょうだい。」


それだけ言い残して私は部屋から出ていった。

そのまま玄関に向かい、外に出る。 

日が暮れている時間だから少し薄暗いけど…そんなのはどうでもよかった。







誰もいない公園…

昔よく二人で遊んだ事を思い出す。

昔から何かつらい事があったらここに来る。 

この時間帯は人が滅多にいなく、静かで…もし泣きたくなったら人目も気にせずに泣くことができるから…



…何であんな事聞いちゃったんだろう?

わかってはいたが、それがハッキリとしてしまえば思った以上に心が痛んだ。 

ブランコを漕ぎながら先程の自分の行動を後悔する。


…やっぱり私は心が弱い。

自分で決めた事なのにそれを後悔してどうするんだろう?


目頭が熱くなる。

涙が滲んでくる。

ふと頬に触れてみると涙が流れていた。

気がついたら私は泣いていた。

たった一人で…




「おいおい、どうした?何でこんな所で泣いてるんだ?」


…!!


いつの間にか隣のブランコに誰かがいた。 

薄暗い上に涙で滲んでしまってその顔はわからない。


「ほら、これで涙を拭きな。せっかくのカワイイ顔が台無しになっちまう。女の子は笑顔が一番なんだから。」 


その人がハンカチを渡してくれた。

…聞き覚えのある声

確かこの声は…


「カゲリの姿が見えないけど…もしかしてケンカでもしたのか?」


私は首を横に振るだけで何も言わない。

いや、言えない。

思ったように声が出ないということもあるが、それ以上に…


「ま、あまり深くは追求しないけどさ…つらい事があるなら誰かに相談に乗ってもらった方がいいぞ?誰にも言えないような事なら…そうだなぁ…気の済むまで泣いたらいい。泣くのを我慢したらその分つらくなるからな。俺もつらい事があったらそうしている。」


その言葉を聞いた瞬間、私の心が震えたような気がした。

きっとこの人も過去につらい事があったんだろう。

だからこそ他の人がつらい時にその人の事を心の底から心配してあげれる。


「……うっ……うぅ…………」


気がついたら再び涙が流れていた。

 

渡されたハンカチを目に当てる。


「………。」


ふと背中に温もりを感じた。


「…そう。泣いたら全てを忘れる…ってことは無いけど、心は落ち着く。とりあえず悩み事なんか今は忘れた方がいい。落ち着いてから冷静に考え直せばそれでいいんだ。」


…暖かい。

背中から伝わる温もりだけじゃない。

不器用だけど、心に届く言葉…

今まで私の周りにはこんな言葉をかけてくれる人はいなかった。 




     ・

     ・

     ・

     ・

     ・



「…落ち着いたか?」


こくっと私は頷く。

あれからどのくらい経っただろうか…

辺りは完全に暗くなっていた。

…彼に言われた通り、泣いたら何かスッキリしたような気がする。

ここで背中から温もりが消えた。


「その…悪いな。女の子が泣いてる時どうしたらいいかよく分からなくて…」


「…いや…正直嬉しかった…です。」


普段感じる事のない温もり…

出来ることならもっと感じていたい…


「…あ〜…もし俺で良かったら相談に乗るけど?」 


「…いや、もう大丈夫です。」


私はブランコから立ち上がって彼の方に向き直る。

普段はマトモとは言い難い行動をとっているけどこういう時は相手の事を心の底から気づかってくれる。


それが彼、大地さんの本当姿だと思う。


彼のいつもの行動ももしかしたら女性を元気づけるためにやっているのかもしれない。


「そうか?ならいいんだけど…無理はするなよ?」


「大丈夫ですって。大地さんのおかげで元気が出ましたから。」


私は彼に心配をかけないように笑顔で答えた。


すると彼も笑顔になった。


「うん。やっぱり女の子は笑ってるのが一番だ。今のお前は恐らく世界一可愛いぞ?」


彼の笑顔とその言葉を聞くと、私は思わず赤面してしまって彼の顔を見る事が出来なくなり、下を向いてしまった。


「ん?どうした?」


彼の声が近くに聞こえる。

顔をあげると彼が目の前にいた。

その時、公園の中に強い風が吹いた。

その風でブランコが揺れる。

そして…私の心も…


「大地…さん…」


「ヒカリ…?」






「どりゃあぁぁぁーーーー!!!」


「ごはぁっ!!?」


「えぇっ!?」 


突然大きな声が聞こえたと思った瞬間、私の目の前にいたはずの大地さんが私の視界から消え、その代わりに別な人物がそこにいた。


「この変態男め!!ヒカリに変な事してないでしょうね!?」


「カゲリちゃん!?何でこんな所に!?」


カゲリの視線は草むらから出てる片足に向いていた。

多分、まだ大地に対して警戒をしているのだろう。


「ヒカリがいきなりあんな事聞いた後に居なくなるんだもん!心配して追ってきたに決まってるでしょ!」


…そうか。

そうだよね。あんな風に居なくなられたら心配になっちゃうよね。


「ゴメンね。カゲリちゃん…」


「許さない!」


…やっぱり怒ってるんだ。 


「私にだけあんな質問しておいて自分は逃げるだなんて許せる訳ないでしょ!?」


えぇ!?そっち!?

それに逃げた訳じゃないし!?


「…で結局ヒカリはどうなの?恭也の事…」


今ここで答えるの!?

…………。


「いや、私は別に恭也さんの事は…」


「本当に!?」


カゲリちゃんの顔が近くなる。

…目が怖い。


「本当だって。だからそんな目で見ないでよ。怖いから。」


「ならいいんだけど♪さ、早く帰ろう?」


…なんて単純なんだろう。

でもこのアッサリした性格がカゲリちゃんのいい所でもあるんだけど。


あっそうだ!


「ゴメン、カゲリちゃん。先に帰っててくれない?私ちょっと用事があったんだ。」


「わかった♪」


うわぁ超ゴキゲン♪

普段からこんな状態だったらいいのにな。

いや、それはちょっと気持ち悪いか…


カゲリちゃんが帰ったのを見た後、私は大地さんのいる草むらへと向かった。


「…大地さん?大丈夫ですか?」


「……多分。」


ほっ…

よかった。 


「スイマセン、何か私のせいでいろいろ迷惑かけてしまって…」


「気にしなくていいよ。俺が勝手にやった事なんだから。」


そして立ち上がって服についた葉っぱを払っていく。


「ま、よかったじゃないか。」


「…?」


その言葉の意味が分からなくて頭に?マークを浮かべていると、表情からわかったのか、ははっと少し笑って教えてくれた。


「ヒカリのことを心配してくれるいい妹が居て…ってことだよ。」


………そうだ。

カゲリちゃんはいつだって私の事を心配してくれる。


………。



「…大地さん。今日は本当にありがとうございました。…ただ最後に一つだけ、私の話を聞いてくれませんか?」


彼は最初きょとんとしていたが、すぐにいつもの顔に戻って、いいよと言ってくれた。


「…実は私に好きな人が出来たんです。今までそういう事が無かったから…その事ですごく悩みました。でも、カゲリちゃんもその人の事が好きだという事がわかって…つらくなって…どうしたらいいのかわからなくなって…」


「それでここに来たってことか。」


私は頷いた。 


「…でも、もう大丈夫です。大地さんのおかげで。」


彼はなぜ自分のおかげなのかわからないと言いたそうな困惑した顔をしていた。

でも、実際にはそんな事は言わずに再び表情を戻した。


「俺はあまり大した事はしてないけど…ま、女の子の役に立てたなら光栄だよ。それもとびきりかわいい女の子のね♪」


彼が笑い私も微笑む。

少しの間公園の中には私たちの笑い声が響いていた。









【翌日】 


…今日は朝から雨。

昨日の夜は晴れていたのに…

朝からこんな天気だと気が滅入るなぁ…




 

「おっはよー☆キョーヤ♪」

「おはようございます。恭也さん。」


「おはよう…」


ん?

何だか今日は恭也さん、元気が無いみたい。

何かあったのかな?


「オハヨー、ヒカリにカゲリ♪廊下の貼り紙見た?」


そういえば廊下に人だかりが出来ていたような…恭也さんが元気無いのもそれが関係してるのかな?

でも何の貼り紙なんだろう…?


「いや、まだ見てないですけど…どんな貼り紙なんですか?」


「今回のテストの順位だよ♪」


うそっ!?

もう結果が出たんですか!?


「今大地と澪も見に行ってるよ。恭也は…今かなりショック受けてるみたいだからそっとしておいた方がいいよ。」


それで元気が無かったんだ。


「ヒカリ、早く見に行こう!」

「うん!」






うわっ!

人が多すぎて全然見えない。


「カゲリちゃん、どうする?」


「ま、これを使うしかないか。」


そう言ってポケットから出したのは双眼鏡。

…何でそんなもの持ち歩いてるんだろう? 


「え〜…と…あっ!私の名前発見!…うーん…まぁ、あの点数ならこの順位かな?」


「…私には教えてくれないんだ?」


「そのうちわかる事でしょ?楽しみは後に取って置かないと♪」


いや、それはそうだけど!私の場合、他の二人に勝ってるかどうか重要なんだから!


「……ヒカリさん…」


声のした方を見てみると澪さんが人だかりの端の方で手招きしていた。


「あ、澪さん。もう結果見たんですか?どうでした?」


「…………。」


…?

澪さんは無言で携帯の画面を私に見せた。


「……これ今回の順位…よかったら見ていいよ…」


その画面には一位から十位までの名前が書いてある紙が映っていた。


…あっ!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


第三位 ………

第四位 大空 大地

第五位 ………


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


大地さんが四位か…

これで残りは私か澪さんか…

あっ、他の人って可能性もあるのか。


「クソ〜!あそこの漢字を間違ってなかったら〜!」


聞き覚えのある声が聞こえて、その方向を見てみると大地さんが四つん這いになって落ち込んでいた。

でもこんな人だかりの中で四つん這いになってると… 


「いてっ!ちょっ…!踏むなって!」


あ〜あ、やっぱり踏まれた。

…何か可哀想…

おっと、そうだ私の順位は…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


第一位 緋乃 ヒカリ

第二位 小織 澪

第三位 ………


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


えっ…!

自分の見た画面を信じれずに目をこすってからもう一度画面を見てみたが画面はさっきと同じままだった。

私が…一位?


「……次は負けないから…」


澪さんは放心状態の私の手から携帯を取ると教室に戻っていった。


「ちょっとヒカリ、聞いてよ〜♪ってあれ?ヒカリ…?何で固まってるの?オーイ?HR始まるよ〜?」


カゲリちゃんの声も耳に入らずに私は少しの間固まっていた。









【放課後】


私たちは昨日カゲリちゃんたちの結果を見た時みたいに教室に残っていた。

もう結果はわかっているから今回は私とカゲリちゃんが恭也さんに何をお願いするか、それと大地さんの罰ゲームを決めるために。


「じゃあまずはカゲリ、約束だからな。何でも言ってくれ。」


未だに元気のない恭也さんが言う。

…そういえば恭也さんって何位くらいだったんだろう? 


「恭也、まだ落ち込んでるの?まぁ、数日前まで自分より頭が悪かった人たちに抜かれたんだから仕方ないよね♪」


「うるせぇ!俺はお前らと違って赤点は一つも取ってないんだぞ!ただ総合点では負けてただけだ!」


「結果で負けてんならダメじゃん。」


「…くっ!」


…それで恭也さんは落ち込んでいたのか。

恭也さんって意外に頭悪かったんだ…


「『能ある鷹は爪を隠す』って言うけどまさか『脳のないバカも爪を隠す』とは…!」


「「それってどういう意味?」」


「すいません!何でもありません!」


二人に睨まれると、恭也さんはすぐに土下座した。

やっぱりこの二人には頭が上がらないみたい。


「……いいから話進めようよ…」


ここで澪さんがフォローを入れた。

大地さんは…まだ落ち込んでいた。

罰ゲームやだって何回も繰り返し呟きながら。「じゃあね、今度の日曜日に遊園地に連れて行って♪もちろん費用は全部キョーヤね♪」


カゲリちゃんが言った瞬間、悠希さんと澪さんがカゲリちゃんを睨んだ…ような気がする。

二人とも一瞬すぎてよくわからなかったけど。


「…なんか高くつきそうだな。…じゃあヒカリは?」


私…

私は…

…………


「それじゃ…お願いって訳じゃないんですけど………罰ゲームを無しにしてくれます?」 


「……えっ…!?」×5


…予想通りの反応だった。

昨日までの私ならこんなことなんか言わないでカゲリちゃんみたいにどこかに連れて行ってもらうようにお願いしていたことだろう。

でも…

昨夜から不思議なことに恭也さんの事を想っても前程にドキドキすることはなくなった。

その代わり…

あの人の…

あの時の笑顔が…

頭に焼き付いて離れなくなっていた…


「まぁ、ヒカリがそれでいいって言うならいいが…本当にそれでいいのか?」


私は頷いた。 

きっと後悔はしない。


「じゃ大地の罰ゲームは無しで。」


「えっマジで!?やった!ありがとうな、ヒカリ!」 


「いや、礼を言われることでは…」


そう言いつつも内心はすごく嬉しい。

彼の笑顔を見ると顔が赤くなっちゃうから見ないように顔を背ける。


「……いつの間に二人はそんな関係になったの…?」


澪さんが小声で私に聞いてきた。

当然私はすぐに否定した。…けど澪さんは意味深に微笑を浮かべて離れていった。

……絶対勘違いされてる!


「とりあえず今日はこれで解散だな。」


恭也さんがそう告げると、みんな帰る準備を始めてしまった。

私も早く準備しないと置いていかれてしまうから、とりあえず誤解は後で解くことにした。


「あ!ちょうど雨が止んだみたいだよ!よかった〜、私、傘持ってきてないから♪イグもビショビショにならなくて済んだ〜♪」


窓を見てみると確かに雨は止んでいた。

でもこの曇り空じゃいつまた降り出してもおかしくない。


「また降り出さない内に早く帰ろうか。」


恭也さんの言葉にそれぞれが同意してみんな教室から出て行った。




「…ヒカリ」


教室を出るときに私は大地さんに呼び止められた。


「…よかったら今度俺たちもどこかに出かけないか?ほら、今日のお礼もあるしさ!」


顔を真っ赤にしてそう言った。

その様子が何だかおかしくて少し笑ってしまったけど、私は首を縦に振り了承の意思を見せた。


「おーい、早くしないと置いてくぞ?」


廊下から聞こえてきた恭也さんの声に私たちは慌てて教室から出て行った。




ちらっと窓の外を見てみると、雲がさっきより少なく見えた。

きっともう雨は降らないだろう。


ほら、雲の隙間から大空にヒカリが差し込んできた…

読んでくださってありがとうございます。   それと更新遅れてスミマセンでした!     しばらくは更新が遅くなり続ける可能性が非常に高くなってしまいましたので、今度から遅くなっても多目に見て…ってこれっていつも言ってるからやっぱりいいかな?            …さて、今回の話ではヒカリと大地がメインです。          前から大地と誰かを結びつけようとしていて、今回ついに決行しました。…と言ってもまだ二人は付き合うわけではありませんので、この先どうなるかはわかりません。            まぁ、とりあえず今回はこの辺で。      感想・評価等お待ちしています!

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