第20話〜決着!いつもの日常へ…
【音楽室前】
〈カゲリ視点〉
「おらぁっ!」
「どりゃぁっ!」
…何か私視点から始まると大抵こんな感じで始まってない?
ま、そんなのはどうでもいいか。
「片腕の割になかなかやるな。」
「言ったろ。これくらいがちょうどいいハンデだってな。」
ニセキョーヤは右手を使えないかわりに今度は蹴り技を中心に闘っている。そして相手が自分の懐に入ってかたら左腕で殴りつけまた距離をとる…そんな感じだ。
「…それじゃそろそろ本気でいくか。」
そう言ってニセキョーヤはその場にしゃがみ込んだ。
…一体何をするつもりなんだろう?
「お前がどんな攻撃をしてくるかはわからんが…来るなら来いや!」
ダイチがニセキョーヤから少し遠ざかって身構えている。
多分ニセキョーヤが仕掛けてきた瞬間に返り討ちにするつもりなんだろう。
「…それじゃ行くぜ!」
ニセキョーヤは左手を床につけて徒競走のスタートの時のような体勢になった。
…もしかしてこのまま体当たりするつもり?
「かかってこい!」
ダイチはより一層強く身構える。
「…死ね!」
そう言った瞬間、ニセキョーヤは床を強く蹴りダイチの所へとすごいスピードで接近する。
そしてそのまま…
「…ってオイ!?」
ニセキョーヤはダイチの横を通り抜け走り去っていった。
…って逃げた!?
「いや、ちょっ…何逃げてんだテメェ!」
突然の行動に不意をつかれたダイチもすぐにニセキョーヤを追いかけ始めた。
…いや、私視点なのに私を置いていったらダメじゃない?
え?私視点終了?
そんなぁ〜…
「ニセキョーヤのバカ〜!すぐに逃げないでよね!」
私はニセキョーヤが逃げた方に叫んだ。
「そうか、アイツはあっちに逃げたのか。」
この声は…!
「後は俺たちに任せておけ!」
「…キョーヤ!」
「カゲリちゃん、大丈夫!?」
「……どこか怪我は無い…?」
ヒカリにレイもいる。
…それにユウキのペットの爬虫類も…
「あ、ちょっとキョーヤ!待って!」
私が止める間もなくキョーヤは廊下の奥へと走っていってしまった。
「追いかけなきゃ!」
「カゲリちゃん、無理しないで!」
「……休んでた方がいい…」
確かにそうかもしれない…だけど
「ヒカリ、今回のコレは私たちの責任なんだよ?だから私たちがアイツを完全に停止させなきゃいけない!」
「カゲリちゃん…」
「……でも偽物の神堂君の首には…」
「わかってる。だから…コレを使う。」
私はさっきダイチが取り返してくれたスイッチを見せる。
レイはわからないだろうけどヒカリは気づいたようだ。
「それなら確かに止められるかもしれない…でもコレは…!」
「危険は覚悟の上!ヒカリがどうしてもダメって言うなら私一人ででもアイツを止めてくる!」
そうでもしないと私たちのせいで怪我をしたみんなともう…友達になれない気がするから…
「…わかりました。カゲリちゃんがそこまで言うのなら行きましょう!確かに私たちのミスは私たちが何とかしないといけませんし。」
「ヒカリ…」
よし、そうと決まったら急がないと!
「よし、それじゃ行こ!ヒカリ!」
「澪さんは悠希さんを見ていてください!」
「……わかった…」
そして私たちはキョーヤたちが向かった方へと走り出した。
…みんなを傷つけたアイツはあたしたちが責任を持って…!
【廊下】
〈恭也視点〉
「「待てやコラ!!」」
「誰が待つか!!」
あの後俺はすぐにコイツらに追いつき、今大地と一緒にニセモノを追いかけている。
「その前になんでオリジナルの俺がいるんだよ!?動ける状態じゃないはずだろ!?」
「なぜならこの小説のジャンルがコメディだからだ!」
「…は?」
ま、それは冗談として
「本当は緋乃姉妹の発明品のおかげだよ。」
「…発明品?」
「あぁ、そうだ。この靴を履くと足の神経を刺激して一時的に足の痛みを軽減し、さらに筋力も上げてくれるらしい。」
…確か名前がメチャクチャダサかったけど。
それに欠点もあるらしいしな。
「…またその靴か。確かヒカリもそれを使って自滅したけどな。」
「何ぃ!?ヒカリちゃんが使った靴をお前も使っているのか!?脱げ!今すぐ脱げぇ!!」
「「ウザイ!今俺らが話している所だ!」」
大地が少し落ち込んだけどそんなのは無視しておこう。
「…オイ、クソロボット。」
「どうした?オリジナルの俺?」
その言い方は止めろ…っていうのは少し置いといて、今はそれよりも聞きたいことがある。
「どうしてまだ誰も殺していない?」
「………。」
俺がコイツを追いかけ始めた時にふと浮かんだ疑問。
本当に殺す気があるなら刃物なり鈍器なり用意して使えばいいだけの話だ。
…そこで俺は考えた。
もしかしてコイツは俺たちを『殺す気はないんじゃないか?』
だとすると一体なんの為にこうして逃走し、俺たちを攻撃しているんだろうか?
「…わからねぇよ。」
わからない…だと?
「なんだかわからないけどトドメを刺そうとすると体が動かなくなるんだよ。わけのわからない記憶まで頭に浮かび上がってくるしな。」
記憶…?
「どんな記憶だ…?」
「お前に話す必要は無い…だがお前ならこの記憶がなんなのかわかるか。仕方ねぇ、簡単に説明してやるよ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…コイツの話を聞いた後、俺は少し驚いた。
まさかあの時した約束の事までコイツの記憶に入っていたなんて…
でも完全に記憶の中に入っているわけではなく、一部分のみが記憶として残っている為コイツには何の記憶かわからないみたいだ。
「なぁオリジナルの俺、この記憶は一体何なんだ?」
「…お前は知らなくていい。それは俺たち三人だけの約束…大事な記憶なんだからな…」
そう…俺と悠希と『アイツ』の………
「お前らさっきから一体何の話を…」
「…悪いが今は聞かないでくれ。そしてできることならこの事は他言しないでほしい。」
「…今度何か奢ってくれよ?」
「わかった。」
流石に場の雰囲気から邪魔してはいけないと判断してくれたらしく、いつもはしつこい大地も今回はあっさり引き下がってくれた。
…高くつきそうだけどな。
「そうか…教えてくれないのか…なら無理やり言わせるしかないか。」
急にニセモノは立ち止まり、こっちの方に振り向きながら左腕で殴りかかってきた。
「うわっ!」
「危ねっ!」
俺たちはそれぞれ左右に避け、ニセモノから少し距離をとる。
…かと言ってあまり離れすぎる訳にはいかない。また逃げられたら面倒だしな。
「よく考えたら俺は逃げる必要性は無いんだ。どうせお前らは俺のスイッチを押すことなんか出来ないんだからな。だとしたら体力が無限にあり痛みも感じない俺が負けるはずがねぇ!」
この野郎…!
首にゴキを付けてるだけのくせしやがって!
…でも確かに触りたくないしな……
「はぁ…はぁ…やっと追いついた〜…」
「…疲れ…ました。」
そこに緋乃姉妹が現れた。コイツらついてきてたのか…
「お前ら、危ないから下がってろ。」
「「イヤ(です)!!」」
…おい。
「こうなったのは私たちのせいなんだから私たちがアイツを仕留めるのが筋でしょ!」
「ですから私たちが闘いますからお二人は下がっていてください!」
…コイツら…
「恭也…どうする…?」
…こうなったら止められるわけないだろ…
「わかった。無理はするなよ?」
「うん!」
「わかりました!」
俺と大地は下がり緋乃姉妹がニセモノの方へと歩み寄っていく。
「まずはお前らか?ま、どのみち全員ぶっ倒すけどな!」
「「私たちをナメないで(下さい)!!」
ニセモノが緋乃姉妹へと突っ込んできた瞬間に二人は二手に分かれニセモノを囲むような形になった。
「なるほど…息の合った双子ならではの戦法だな。だが片方を潰せば問題は無い!」
アイツの言うとおりだ。カゲリはともかくヒカリはあまり運動神経がないそうだから狙われたらひとたまりもない。
「まずはヒカリからだ!…ってあれ?」
ん?どうしたんだ?
「…どっちがヒカリでどっちカゲリだ?」
そうか!
アイツらは見た目が同じだから喋りさえしなけりゃ見分けることが出来ないんだ!
「くそっ!こっちか!?」
痺れを切らしてニセモノが片方に攻撃をしてきた。
「…確かに私はヒカリの方ですが私に攻撃したのはハズレですね。」
「え?」
「食らえぇ!!『小型パンチャー』!!」
「な…!?」
どこから出したのかヒカリが小さい箱のような物を出すとそこからびっくり箱のようにボクシンググローブが出てきた。普通のびっくり箱と違うのはそのスピードだ。あのスピードなら相当の威力があるはずだ。まともに食らったニセモノは後ろへと吹き飛ばされた。そして吹き飛ばされた方向にいたカゲリに掴まれた。
「行くよヒカリ!」
「OK!」
カゲリがヒカリに合図を出した瞬間、ヒカリは即座に行動に移る。
…で何で窓を開けてんの?
もしかして…
「オリャァァッ!!!」
外に投げたぁーーー!?
「バカッ!そんなことしたらまた逃げられるぞ!?」
多少の損壊はするだろうが、完全に壊れるとまではいかない。
このままだとまたどこかに逃げ隠れられるのは明らかだ。
「大丈夫です!それより危ないので伏せていて下さい!」
ヒカリが窓から離れて伏せだした。
何だかよくわからないがここは指示に従った方がよさそうだ。
俺と大地もすぐにその場に伏せた。
「これでトドメよ!」
カゲリはポケットからハート模様の小さいスイッチのような物を出すとそのスイッチを押した。
ビーーッ!ビーーッ!
途端にそのスイッチから警告音が鳴り響いた。
「食らえぇ!!」
そしてそれを外に放り投げるとすぐにカゲリも窓から離れて伏せた。
「お前一体何を投げた!?まさか爆弾か!?」
「爆弾じゃないよ。そんな危ないもの作るわけないじゃん。あれは爆発するんじゃなくて放電する放電装置だよ。」
それも充分危ないわ!
カッ!
急に外が明るくなったような感じがした。
恐らく放電装置が作動したのだろう。
窓から身を乗り出して見てみると下には体から煙を出してピクリとも動かないニセモノがいた。
「ふぅ…」
俺はその場に座り込んで溜め息をついた。
これで…やっと終わったのか……
「ちょっと!今の光は何!?またアイツが何かしたの!?」
遠くから悠希の声が聞こえてきた。
どうやらアイツも無事みたいだ。
良かっ…た……
「ちょっとキョーヤ!?」
「恭也さん!?」
「オイ!恭也!?」
俺の意識はそこで途絶えた。
あんなボロボロの体で動いたのが悪かったのか、もう体力の限界に達していた。
【翌日】
俺はいつもの時間に登校しいつもの教室のいつもの席に座る。
昨日あんな事があったためなんだかこの行動がものすごく懐かしく感じる。
…登校途中に悠希から聞いたのだが、昨日俺が気絶した後、俺の家を知っている大地が俺を送ってくれ、緋乃姉妹は壊れたロボットの回収、小織さんは図書室から本を何冊か盗んできた(オイ)ということらしい。
当然校内の壊れた箇所は直しようがないのでそのまま放置していたようだ。
普通ならこんな事になっていたら騒ぎになっても良さそうなのに先生方はみんな無関心だ。
…本当にどうなっているんだろうこの学校は?
「キョーヤいる!?」
突然教室のドアを勢いよく開けてカゲリがやって来た。
そして俺を見つけるなり…
「キョーヤー!」
俺にダイブしてきた。
…ってオイ!
「ぐわっ!?」
俺は避けきれずにカゲリに押し倒されてしまった。
「怪我大丈夫!?ゴメンね私たちのせいであんな目に会わせちゃって!」
どうでもいいから早く避けてくれ!
周りの視線が痛い!
「ちょっとカゲリちゃん!?何やってるんですか!?早く離れないと恭也さんが窒素しちゃうじゃないですか!?ほら、顔も赤くなってますし!」
…顔が赤いのは恥ずかしいからだけどな。
ヒカリはカゲリを俺から引き剥がすと俺に頭を下げた。
「昨夜は本当にご迷惑をおかけしました!どうか許して下さい!」
「いや、そんなに真面目に謝ることでもないから別にいいよ!元はと言えば俺の記憶のせいでもあるんだし!」
「…それじゃ…許して…くれるの?」
「あぁ、当然だろ?」
「ありがとう!キョーヤ!!」
だからいちいち飛びつくなって!
「コラ、カゲリちゃん!ダメですって!…ごめんなさい恭也さん。多分カゲリちゃんは本当に嬉しいんだと思います。」
嬉しければすぐに抱きつくのかコイツは?
「…実は私たち、昔にも同じことがあったんです。」
え…?
「その時に何人かに大怪我をさせてしまって…それがきっかけに私たちはその学校では迫害されてきました…ですから、今度もまたそんな事になるんじゃないかとずっと不安だったみたいなんです…」
そうか…過去にそんな事があったのか…
「バカだな…俺たちがお前らを仲間外れにするわけないだろ?だって俺たちは友情って絆で結ばれているんだからな。」
「恭也さん…」
「キョーヤ…」
「「クサいセリフ(ですね)…」」
「うるせぇ!」
…やれやれ、また今日も騒がしい1日が始まるのかな?
風に吹かれてピアスが揺れる。
片耳だけのピアス。
あの日の…
約束の日の後にプレゼントされたピアス。
まだ二つとももらうわけにもいかないけど、
一つくらいならもう付けていてもいいよな?
あの日の事を…
あの日の約束を忘れないように…
やっと終わった〜 長かった〜 いや〜実はこのシリーズもっと早く終わる予定だったんですよね。 それがここまで長くなるとは… 最後は少し呆気ない感じで終わっちゃってしまいましたけどね(笑) また機会があったらこんな感じのストーリーを書いてみたいと思います。 ここまで『緋乃姉妹の発明品』を見てくださった皆さん、ありがとうございました! 次からはまた普通にやって行きますのでよかったら応援していて下さい。 それでは今回はこの辺で。