第16話〜過去の約束
【音楽室前廊下】
「うぉりゃぁぁぁ!!」
「っ!?」
重い機械の体が吹っ飛んで、壁に叩きつけられる。…これでもう7回目だ。普通の人間が相手ならもう決着は着いていただろう。だが、今悠希が闘っている相手は普通の人間ではない。
「…ふん、前に比べるとかなり強くなっているようだが、まだまだだな。そんな攻撃じゃ俺は倒せないぞ。」
痛みも疲れも無い相手は何度殴り倒してもその度に起きあがってくる。
(…やっぱり私じゃ恭也には勝てないか……)
何度も相手を殴り倒している内に、ついに悠希にも限界がきた。まだまともな攻撃は受けていないが悠希は普通(?)の人間である。肉体にピークが来るのも当然だ。
「どうした?動きが鈍くなっているぞ?」
「くっ…!」
急に間合いを詰めた相手を右拳で殴りつけようとする。だが、その攻撃はあっさりと躱され、懐に入ることを許してしまった。
「これで終わりだ!!」
(…!ダメ、防御が間に合わない!!)
相手の強力な一撃が容赦なく悠希の腹部に打ち込まれる。そのまま体は宙に浮き、壁に叩きつけられる。
「…ぐっ!!げほっ!……げほっごほっ!!」
悠希はそのまま床に倒れ込み咳き込む。その間にも相手は少しずつ距離を縮めてくる。
…もう悠希に勝ち目は無かった。
「…お前と過ごした日々は楽しかったぜ。でも…残念ながら『お別れ』だ。」
(…あぁ、私…ここで死んじゃうの…?)
悠希の瞳に涙が滲む。
(まだやり残したことがたくさんあるんだけどなぁ…ごめんね、恭也…私『あの時の約束』守れそうにな…い……)
そこで悠希の意識は途絶えた。もう、相手は悠希の前に立っている。後はすぐにでもトドメをさせる。
…だが……
「……くっ!?」
彼にはどうしてもこれ以上彼女を攻撃することなど出来なかった。
それがなぜだか彼自身も気がついていない。
「……何故だ…?何故!?…ぐっ!?」
原因を探ろうとしている内に急に頭が痛くなるのを感じた。
同時にある情景も浮かび上がる…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『キョウ…もう気にしないで、あれは…事故なんだから…』
『そうだよ、恭也が気にすることはないよ。』
『…いや…俺のせいで…こんな事になってしまったんだ…。』
『キョウ…』
『俺は…もう二度と…こんな事は起こさない!!そして…お前らにも、二度とこんな思いはさせない!!』
『恭也…』
『約束する!!お前らは俺の大事な…友達なんだから…』
『…キョウが約束するなら私も約束する!!』
『…え?』
『そうじゃないと不公平でしょ?キョウだけにそんな約束なんかさせない!!』
『それなら私も約束する!!』
『お…お前ら…』
『だから…もう…一人で苦しまないで…?キョウ…』
『そうだよ!だって私たち…友だちでしょ?』
『………。』
『キョウが私たちにもうこんな思いをさせないと約束するなら、私は…キョウにもこんな思いはさせないと約束する!!』
『私も!!約束する!!』
『え〜、悠希ずるい〜!私の真似しないでよね!』
『へへ〜♪』
『……お前ら…』
『ん?』
『何?』
『……ありがとう…』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…何だ…?今の記憶は…?…『約…束』…?…何だ…それ…?そんな…もの…俺は…」
彼の記憶には全くない情景、本来引き継いでいないはずの記憶を何故か彼は持っていた。
記憶を機械の脳に移す際に偶然混ざってしまったのか…
恭也の中で一番大事な記憶…
あの日…三人で誓った『約束』
「俺は…!俺は…!!」
「なに混乱してやがるんだ?」
「!?」
いつの間にか彼の背後には彼と全く同じ姿をした男が立っていた。
そして彼が振り返る前にその男は彼の側頭部に拳を叩きつける。
彼の体は宙に浮き、窓ガラスを突き破って落ちていく。
「…悪いな、悠希。俺のために闘ってくれたんだな…」
恭也は悠希の体を抱きかかえて、近くの教室の中へと運んだ。
中にピアノがあることから音楽室だということがわかる。
「…恭…也…?本物…なの…?」
机を並べて簡単なベッドを作り、そこに悠希の体を乗せたところで悠希が目を覚ました。
まだ先程受けたダメージが残っているのか、悠希の顔はいつもより弱々しかった。
「…ごめんね…恭也。…私じゃアイツは倒せなかった。…あの時に約束したのに…私、約束守れなかったね…」
「…気にするな。」
今にも泣き出しそうな顔をしている悠希の頭を撫でながら恭也は言う。
「お前は十分よくやったよ。それにお前の約束は『俺にもう二度とあんな思いはさせない』だったろ?俺は今、あの時と同じ思いはしていない。お前が生きていてくれたんだからな…。だから…お前はちゃんと約束を守っているんだよ。…どっちかというと約束を破っているのは俺の方だ。」
「…恭也……」
「悠希…お前は少し休んでろ。後は俺がアイツを…『過去の俺』を倒すだけだ!!」
「…うん♪じゃ後は任せた…よ……」
それだけを告げると悠希は再び意識を失った。
《ガタッ》
「!?」
恭也が教室から出ようとした時、教室の奥の方から物音が聞こえた。
(誰か…いるのか?)
恭也は音のした方向、ピアノの方を見る…。
「…お前は!?」
いつの間にかピアノのそばにソイツはいた。
ソイツは恭也の方へと近づいてきて恭也の目を見つめる。
「…そうか、お前も悠希の分まで闘いたいんだな?」
「…………。」
ソイツは返事をしない代わりに首を上下に動かした。
「よし、それなら行くぞ!!アイツを倒しに!!」
恭也が歩きだすと、その後ろに黙ってついて歩く。実際の戦闘で役に立つかはわからないが、いないよりはマシだろう。
「…あ、そうだ!ちょっと待っていてくれ。」
恭也は再び悠希の所へと歩いていく。
「ほら、忘れ物だ。」
恭也は悠希の顔の近くにソレを置いた。
悠希が落とした小型イヤホンだ。
「…全く、何をどうしたらこんなもの落とすんだか、どうりでいくら呼びかけても返事が無いはずだ。それから…」
恭也はポケットの奥からもう一つ、何かを取り出した。
「こんな物まで落としやがって!…でも、まだ持ち歩いていたんだなお前……」
恭也が手にしているのはピアスだ。
小さいリングが続いていて、先にはクリスタルの形をした結晶がついている。
「…自分勝手で悪いが、コレは返してもらうな。」
昔、恭也が悠希にプレゼントとしてもらったが、照れくさくて嫌がっている内に川に落としてしまったピアス。
翌日、悠希が見つけて再び恭也に渡そうとしたのだが、その時の恭也はそれを拒否した。
「あの時は言えなかったが…プレゼントとしてコレを渡された時はすごく嬉しかった。照れくさくて結局もらわなかったが、今はお前の分まで頑張るという意味でもコレをつけさせてもらう。」
恭也は右の耳にそのピアスをつけると、もう片方のピアスは悠希の手に握らせた。
「今の俺には2つとも貰う権利なんて無い。いつか俺が今よりもマシなやつになった時に、そのもう片方は返してもらう。…聞いてないだろうが、あの時に言えなかったからな…ありがとう悠希。」
恭也は悠希に背を向けて教室の出口へと歩いていく。
「待たせたな、それじゃ行くぞ!」
「……………。」
外に落ちたくらいじゃアイツは壊れないだろう。そうなるとアイツは玄関口から中へ入ってくる。玄関ホールならそれなりの広さがあるからアイツと闘うにはちょうどいいだろう。
…待っていろ、今俺がテメェをぶちのめしてやる!!
【状況整理】
〈緋乃姉妹&小織&大地〉
現在地:校内北側(移動中)
大地の発信機を使って悠希と恭也の捜索中。
〈悠希〉
現在地:音楽室
ニセ恭也と闘い、負傷。今は気を失っている。
〈恭也& ? 〉
現在地:校内東側(移動中)
ニセ恭也を倒すために玄関ホールへと移動中。
〈ニセ恭也〉
現在地:屋外(移動中)
恭也に落とされて再び校内へと戻るために玄関へ移動中。
…最近何が書きたいのかわからなくなってきました。 とりあえずこのシリーズの残りはもうこんな流れで行っちゃいつつ、出来たらコメディを混ぜていきたいと思います(苦笑) いつもより短いですが今回はこの辺で