第127話〜放課後、屋上にて(後編)
【放課後:屋上】
「………。」
「…急に呼び出してごめんなさい。迷惑だったかな…?でも…もう限界なの…。私があなたに対して抱いてきたこの想い…もう抑えつけておくことなんてできない…。」
「…俺を実験体にしたいという想いなら一生抑えつけといてくれませんか?」
「…あら?よくわかったわね?」
…だって夢で見た通りだもん。
日頃の行いからも察しがつくし…
「わかってて1人で来るなんて…なかなか度胸あるのね?」
…いや、俺も1人で来たくなかったんだけどさぁ…
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【悠希】
『部活があるからパス。…え?部活が終わった後?疲れてるからイヤよ。アンタなら多分逃げきれるからがんばりなさい。』
【スイレン】
『いやいやいや!ボクじゃムリだよ!ボクは逃げるの専門なんだから!だから他の人をあたって!』
【千秋】
『…どうしてもッスか?でも店長と約束してるから…悪いけど約束を優先させてもらうッス。』
【赤樹】
『…自分の身くらい自分で守れ。』
【以下省略…】
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…こんな感じなんだもん。
ダメもとで赤樹にも頼んだけど無駄だったし…
部活が終わる時間まで待ってもやっぱり悠希は来てくれないし…
緋乃姉妹も加賀に狙われてるから巻き込むわけにいかないし…
澪はそういうタイプじゃないし…
大地は論外だし…
…あ、囮くらいには使えたかも…?
「それじゃあ、さっそく…」
「いやです!」
《ダッ!!》
「あっ!?こら…!?まだ話の途中…!?」
どうせすぐに捕まえる気なんだろ!?
夢の時は身構えてたけど、別に逃げたっていいんだ!
これで夢の通りにはならん!!
俺はまた平和な日常に戻れるんだ…!
「…でも、逃げようったってそうはいかないわよ?」
《ガチャガチャ…!!》
「…!?」
あ、あれ…!?
ドアが開かない…!?
そんなバカな…!?
「アナタが逃げるのは予想の内よ♪だから私のかわいいペットに協力してもらったわ♪」
「ペット…?」
「忘れたの?ほら、アナタたちにも捕まえるのを手伝ってもらったじゃない?」
…………?
………!?
もしかしてマウス(×5)のこと!?
(第69話)
「あの子たちに内側からカギをかけてもらったわ♪あの子たちって意外と優秀よね♪」
マウスってそこまで賢い動物だっけ!?
一体どんな教育したんだよ!?
「くそ…!それならドアを蹴破ってでも逃げてやる…!」
「あらあら?やめなさいよ。そんなことしたら私のかわいいマウスちゃんたちが巻き添えになっちゃうじゃない。」
罪悪感は残るだろうけど、アンタの実験体にされるよりはマシだ!!
「でぇーいっ!!」
《ガンッ!!》
くっ…!
さすがに一発じゃ無理か…!?
「ならもう一発…!!」
「…やめなさいって言ってるのが聞こえないのかしら…?」
「…!?」
い、いつの間に背後に…!?
ていうか…怒ってらっしゃる…?
「なるべく無傷で捕まえようと思ってたんだけど…これは軽くお仕置きが必要かしら?」
「ひぃっ!?あ、あの…!ご、ごめんなさ…!!」
「謝ってもムダよ♪」
ぎゃーーーーっ!!?
【残虐なシーンのため、しばらくお待ちください…】
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「…う、うぅ…」
「…ふぅ、スッキリしたわ♪」
ま、まさかマウスに対してここまで愛情があったとは…!
その愛情の1%でもいいから俺に分けてほしかった…
「…さて、ここまで痛めつけたらもう動けないでしょ?」
「…くっ…!」
「…無理はしない方がいいわよ?もうマトモに動ける体じゃないんだから。」
無理をしなかったら実験体にされるんだろ…!?
それなら最後まで足掻いてやる…!!
「…くっ…!このっ…!」
《ぐぐ…っ!!》
「…まだ起き上がれるのね。…仕方ないわ。トドメをさしてあげる。」
…え?トドメ…?
ま、待って!
あと一時間待って!!
俺が元気になるまで待って!!
今アンタの攻撃受けたらマジで危ないから!!
《…ゴソゴソ…》
「…やっぱり最後は派手にいかないとね♪ドカーンといっちゃいましょ♪」
爆薬来ちゃった!?
ボロボロの人間に対してソレ使うの!?
マジで殺す気か!?
「さぁ…覚悟しなさい♪」
「…っ!!」
くっ…ここまでか…!?
『そこまでだっ!!』
「「!?」」
な、何だ…!?
《…バッ!》
「とうっ!!」
《スタッ…!》
な、何だコイツ…!?
俺の方に背中を向けてるからよくわかんないけど…
…ネコミミ…?
さらにマント…?
ついでにジャージ…?
しかも顔にはお面のようなモノまで…?
…不審者?
「…どちら様?」
「…弱者を救うため、世界の果てからやってきた正義の味方…その名も…!!」
「ノラネコ仮面っ!!」
ノラネコかよっ!?
何やってんだお前!?
「ノラネコ!?お前、何で…!?」
「違う!私は『ノラネコ』ではなく『ノラネコ仮面』だ!!」
黙れっ!!
お面つけてればわかんないとでも思ったのか!!
今はお前のノリについてく余裕は無いんだよ!!
…てか、そのネコのお面どこで拾ってきた!?
「何でお前がこんな所に…!?」
「私は正義の味方なのだ!!困っている人がいたらすぐにわかる!!」
…ダメだ。
完全になりきってる…
「…銀髪君の知り合い?」
「…えぇ、まぁ…」
「違う!私はこの少年とは何の関係もない!」
…あぁ、はいはい…
わかったから少し黙ってろ。
「ドアから入ってきた様子は無かったんだけど…。アナタは一体どうやってここ(屋上)に来たのかしら?」
「普通に壁をよじ登ってきたのだ。」
いや、それ普通じゃねぇから!?
「なかなか変わった人ね…。アナタみたいな人、面白くて好きよ♪」
「それなら私と友達になろうではないか。そして友達のよしみでこの少年を見逃してくれないか?」
「悪いけどそれはダメ。ずっと狙ってきた獲物だもの…。そう簡単には諦められないわ。」
「…そうか。それは残念だ…。」
「…えぇ、残念ね。」
「…………。」
「…………。」
…え?
何この空気…?
もしかして本気で…!?
「少年!危ないから下がっていろ!!」
「…!あ、あぁ…!!」
「アナタがどこまでやれるか…お手並み拝見ね♪」
《…ヒュッ!》
…!?
いきなり爆薬攻撃!?
…マズい!!
ノラネコは加賀が爆薬を使うことを知らないから…!!
「ノラネコ避けろ!!そのフラスコの中は…!」
「…少年よ、安心しろ。あのフラスコの中の薬品のことくらい知っている。」
…え?
《…フワッ…》
「衝撃によって爆発するのならば、衝撃を与えぬように優しく受け止めればいいだけの話だ。」
いや、それけっこう難しくない!?
山なりに投げられるならともかく、今のはほぼ直線的だったよ!?
てか、理屈はわかっても怖くてできないから!!
「…あらあら?何でそのフラスコの中身を知っているのかしら?」
「私に知らないことは無いのだ。もちろん、貴様のこともよく知っているぞ?」
「私のこと…?」
「うむ。名前、加賀久遠。年齢、23歳。趣味、実験。特技、薬品の調合。」
「…銀髪君が教えたのかしら?」
「いや、俺は何も…」
「他にも生年月日や血液型、スリーサイズまで知っているぞ?」
「ちょっ…!?な、何でそんなことまで知っているのよ!?」
俺も加賀先生の生年月日とかまでは知らないんだけど…
何でコイツはそんなことまで知ってるんだ…?
「そんな情報、誰にも教えていないはず…」
「スリーサイズなど、見ればすぐにわかるではないか。」
そんなスキルを持ってるのはお前だけだ!!
…大地も持ってそうだけど。
「…じゃあ生年月日は?それは見た目じゃわからないわよね?」
「だから私に知らないことは無いと言っているではないか。」
「…もしかして私の知り合い?それならとりあえず顔を見たらアナタの正体もわかるかしら?」
「む…、それは困る。正義の味方は正体を知られるわけにはいかないのだ。」
…自称正義の味方さん、とりあえずケガ人を安全な所まで避難させてくれませんか?
まだマトモに動けないし、屋上のカギはかかったままだから逃げられないし…
このままここにいるの怖いんだけど…
「それならそのお面を無理やり剥ぎ取るしかないわね…」
「…やめろと言っても聞かないだろうな。よかろう、かかってくるがいい!!」
おーい、だから避難を……
「一気に行くわよ!!えいっ!!とりゃっ!!はぁっ!!」
《…ヒュッ!!ヒュッ!!ヒュッ!!》
「なんの!!ふんっ!!たっ!!はっ!!」
《…サッ!!サッ!!サッ!!》
《…ズドォーーーンッ!!!!!》
「ぬわぁーーっ!!?」
あ、危ねぇっ!!?
外れた爆薬が俺の近くに落ちたじゃねぇか!!
下手したら俺に当たってるって!!
「待て待て待てっ!?ストーップ!!このままだと俺が死んじゃう!!」
「…む?なんだ、少年。まだいたのか?早く避難しないとダメではないか。」
えっ!?
自己避難!?
「いや、体ボロボロで動けなくて…それにドアにカギも…」
「しゃべれるなら大丈夫だろう?ドアがダメなら壁を伝って逃げろ。」
無茶言うなっ!!
「大丈夫よ♪バラバラにならない限りは私が治してあげるから♪」
全然大丈夫じゃねぇよっ!!
「…ふむ。避ければ少年が危ない。かと言って避けないわけにもいかない…。これは困った状況だな。」
「悩む必要はないわ。だって…もう終わりなんだから…♪」
「…?終わり?何を言って……………っ!?」
《…ガクッ!》
「ノラネコ!?」
なんだ!?
ノラネコが急に膝をついた…!?
何かされたのか…!?
「ふふふ…♪これでもう動けないでしょ?」
「き、貴様…!!」
「ノラネコ!?どうした!?大丈夫か!?」
「あら…?銀髪君には効いてないのかしら?…あぁ、さっきの爆風のせいね。いいわ、教えてあげる♪簡単な話よ。こっそりしびれ薬を撒いた、ただそれだけの話♪もちろん私は無効化する薬を服用してるわ♪」
しびれ薬!?
まさか爆薬だけじゃなくてそんなモノまで使ってくるなんて…!?
「…さて、さすがに動けないわよね?銀髪君もマトモに動けないみたいだし…このままアナタを放置して銀髪君を連れて行ってもいいんだけど…やっぱりアナタのことも気になるのよね…。とりあえずアナタの顔を見せてもらおうかしら?」
「ま、待て!!それはやめろ!!正体がバレてしまっては私はもう正義の味方ではいられなくなってしまう!!」
お前はまだそんなことを言ってんのか!!
今はそれどころじゃないだろ!!
「…必死ね。でも銀髪君はすでにアナタの正体を知っているみたいよ?…それとも…もしかして私に正体を知られるのがマズいのかしら…?」
「…!!そ、そんなことは…!!」
「あら?そんなことないの?それなら銀髪君に見えないようにお面を外したら問題ないわね♪」
「そ、そういう話では…!!」
「それじゃあ…いくわよ…♪」
「ま、待て…っ!!やめ…っ!!」
《…バッ!!》
…ついにノラネコのお面が取られた…
未だにしびれている体で必死に顔を隠そうとしているけど、もう遅いだろう…
「あらあら♪意外とかわいい顔してるじゃない♪もっとよく見せてくれない?」
「や、やめろ…!」
「…ん〜?やっぱりアナタ…私の知り合い?見覚えがあるような無いような…」
「思い出せぬのならそのままでいい!!」
「ん〜…その顔…口調…どこかで……………………………………………………………え…!?…ち、ちょっと待って…!?…も、もしかしてアナタ…!?…いや、でもそんなはずは……!?」
「………っ!少年!私を置いてさっさとこの場を去れ!!」
いや、そんなこと言われても体ボロボロで動けないんだって……
ていうか、仮に動けてもお前を見捨てるわけにはいかないだろっ!
だから俺はここに残ってる!!
…本音?
このままここにいたらノラネコの素性を知れそうだから。
「ま、まさかと思うけど…アナタ…もしかして………………『オウカ』……さん…!?」
「………。」
『オウカ』…
ノラネコと初めて会った時に聞いた名前…
やっぱり加賀先生はノラネコについて知ってるのか…?
…ん?
ちょっと待った!?
今、『さん』付けしてたよな!?
あの加賀先生が『さん』付け…!?
ど、どういうことだ!?
「…やっぱり顔を見られてはバレるようだな。…もう少し自由を満喫したかったのだが…仕方ないか…」
「や、やっぱり…オウカさん!?な、何でアナタがここに!?いや、それより…何でアナタが銀髪君を助けるんですか!?」
「その少年は私の飼い主だからだ。」
「か…!?ぎ、銀髪君!!どういうこと!?」
知らん!!
ソイツが勝手にそう言ってるだけだ!!
実際はただの居候だ!!
「アナタ!!この人が誰なのか知ってるの!?この人はね…!!」
「…待て加賀。こうなった以上、少年には私から説明しよう…」
「ノラネコ…?」
「少年…今まで正体を隠していて悪かった…実は私は……」
え…!?
ち、ちょっと待ってくれ!
そんなあっさり正体を明かされても…!
まだ心の準備が…!
「実は私は少年の母だったのだ!!」
「ウソつけっ!!」
そんなバレバレのウソついてんじゃねぇよ!!
母親の顔と名前くらい覚えてるわ!!
「ふむ、まぁ冗談はさておき……」
「…この状況で冗談を言えるのもスゴいな…」
「まずは名前だな。私の名はオウカ…《皇 凰華》(すめらぎ おうか)だ。」
皇…凰華…
それがノラネコの本当の名前…?
「…そして………」
「私はこの望壮高校の『校長』だ。」
…は?
今回の話は少し展開を急ぎすぎたような気がしますね…
今回の話を書くのは正直迷いました。
正体を明かす前じゃないと書けない話があるのに、正体を明かさないと書けない話もあるということでしばらく悩みました…
前者は書く時期が限られていますが、書いていてもあまり楽しくなく、また読み返してみてもつまらない話ばかり…
それなら(頭の中で思い描いている内は)楽しく書けるであろう後者の話を書いた方がいいのではないかという結論に達し、今回の話を書くことにしました。(面白いかどうかは別ですが…)
もしかしたら番外編ということで正体を明かす前の話を書くかもしれません。
その時はできるだけ面白く書けるように頑張りたいと思います。
それでは今回はこの辺で。
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