第122話〜わらしべ長者
【恭也のアパート】
「…あれ?なんだこれ?」
学校に行くための準備中、弁当をカバンに入れようとしたらテーブルの上に弁当の他に小さい袋が…
もちろん俺はこんなのに心当たりはない。
最近、朝食や弁当を作るのはノラネコに任せてるからな。
おかげで朝はギリギリまで寝ることが…
…な、なんてな。
そ、そんなこと考えたりしないよ。
あははは……
「…ノラネコ?これは何だ?」
「む…?あぁ、それはオニギリだ。」
「オニギリ?」
「そうだ。ちょっと米を炊きすぎてしまってな。もったいないから作ってみたのだ。」
そういうことか…。
「せっかくだから持っていってはどうだ?」
「そうだな。昼前にお腹が空いたら食べることにするか。」
「うむ。ぜひそうしてくれ。」
「ありがとな。…さて、そろそろ学校に行くかな?」
「それでは今日も1日頑張ってくれ。」
「おう。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【通学路】
「ふぁ〜…」
あ〜、今日もいい天気だな…
日差しもいい感じ、風も強すぎない…
…歩いてても眠くなってしまう。
「…歩いてる最中に寝たりしてな。」
…まぁ、実際はそんなことあるわけないけど。
でも、それくらい今日の天気は……
《…グニッ》
…グニッ?
何だ…?
「…うっ…うぅ……」
「!?」
ひ、人!?
な、なんでこんなとこに人が倒れてんだ!?
ま、まさか本当に歩きながら寝…ってんなわけないだろ!!
…ん?
コイツ…
「う〜…い、痛い…眠い……」
「ス、スイレン…?」
「…そ、その声は恭也?」
やっぱりお前か!?
なんでお前がこんなとこで倒れてんだ!?
「…もしかしてあまりにも天気がいいから寝てんのか?」
「そんなわけないよ…今は猛烈に眠いけど…」
…やっぱり違うか。
でもこのまま放置してたら本当に寝ちゃいそうだな…
「ほら、起きろ。寝るなら学校で寝ろ。」
《…グ〜》
「だから寝るなって……」
「…今のお腹の音なんだけど…」
「…は?」
「…お腹がすいて動けない…」
もしかして倒れてた原因それ!?
空腹で倒れてるやつなんて初めて見た…!
「な、何か食べる物を…」
「そ、そんなこと言われても…」
弁当をあげちゃったら俺の昼飯が無くなるし…
でもこのまま放置するわけには…
…あ、そういえば。
《ゴソゴソ…》
「…ほら、これやるよ。」
「…何これ?」
「オニギリだ。ノラネコが作ってくれた。」
いつもだったらこんなのは無かったからな。
運が良かったな。
「…ちなみに具は?」
「いや、そこまでは知らないけど…」
「…ツナマヨがいいな。」
わがまま言ってないでさっさと食え!!
============
「…ボク復活っ!!」
…オニギリ一個でそこまで元気になれんの?
そんなにテンションあげてるとすぐに燃料切れになるぞ?
「いや〜、キミのおかげで助かったよ♪」
「どういたしまして。元気になったんだからさっさと学校に行くぞ。」
「あ、ちょっと待ってよ。」
「何だよ?早くしないと遅刻するぞ?」
「えっと確かこの辺に……」
《ゴソゴソ…》
「…あったあった♪はい、お礼♪」
お礼…?
別にそんなのいいのに……
…ありがたくもらっておくけど。
「…で、何だこれ?」
「見てわからない?指輪だよ。」
「…宝石ついてるけど本物なのか?」
「まっさか〜。ただのオモチャだよ。さっき道に落ちてたから拾ったんだ♪キレイでしょ?」
拾ったモノをお礼にすんな!!
…確かにキレイだけどさ。
でも俺がこんなの持ってても……
「…うっ!?」
《バタッ!!》
「ス、スイレン!?どうした!?」
「ま、またお腹が…」
もう知らん!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【学校】
「…というわけで、この指輪やるよ。」
「…はぁ?」
…まぁ、いきなりこんなこと言われても困るだろうな。
教室に着いてそうそう愚痴りだしたと思ったら、いきなりそういう話だもん。
…あ、ちなみにスイレンはちゃんと教室まで運んどいたよ。
さすがにそこまで非道じゃないからね。
「スイレンからもらったのはいいけどさ、俺が持っててもどうしようもないだろ?悠希だって一応女の子なんだからこういうキレイなの好きなんじゃないか?」
「…『一応』?」
「い、いや!深い意味はない!!」
「それに、私は別にそういうの好きじゃないわよ。」
…だろうね。
性格からなんとなく察しはついてたよ。
「仕方ない、それなら他の人にでも…」
「…あ!ち、ちょっと待ちなさい!」
…ん?
「どうした?」
「あ…、えっと…!」
…?
「…そ、その指輪…ア、アンタがどうしても私にプレゼントしたいって言うならもらってあげなくもないわよ…!?」
「…でも好きじゃないんだろ?」
「す、好きでもないけど嫌いでもないのよ!」
…もしかして本当は欲しいのか?
「…じゃあせっかくだから悠希にあげるか。」
「い、言っておくけど仕方なくもらってあげるんだからね!?」
「わかってるよ。…にしてはずいぶんと嬉しそうな顔してるな?」
「う、嬉しそうになんかしてないわよ!!」
…その割には顔が真っ赤なんだけど?
いい加減にしないと殴られそうだから指摘しないけど。
「ま、まぁせっかくプレゼントしてくれたんだから、私からも何かあげるわ!」
「え?いや、別に何もいらないんだけど…」
「いいから受け取りなさいよ!えーと、確かこの辺に…」
…なんだか『わらしべ長者』みたくなってきたな。
次は一体何をもらうんだろう…?
物語の通りならだんだん価値が上がってくはずなんだけど…
《…ドサッ》
「よし、これで全部ね。」
「…悠希?なんだこれは?」
「見てわからない?問題集よ。それも全教科分。」
指輪から一気にランクダウン!?
ふざけんな!!
これはただの嫌がらせだろ!!
「親が勝手に買ってきたんだけど、私使う気ないからあげるわ。」
いらないからって人にやるな!!
少しは使わないと親が泣くぞ!?
「…悪いけど、これは……」
「…アンタ、まさか私からのプレゼントが受け取れないって言うの?」
「あ、ありがたくいただきます!!」
「それでいいのよ。」
…後で親にちくってやる!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【C組教室】
「…というわけで、引き取ってくれない?」
「えっ!?ど、どういうわけで私が問題集を引き取らなくちゃいけないんですか!?」
だって俺もこんなのいらないもん。
それなら必要そうな人にあげた方がいいだろ?
「ヒカリならこういうの欲しがるかなぁって思って。」
「私はそんなの使わなくても大丈夫ですから、恭也さんがご自分で勉強した方が……」
「カゲリに勉強させる時に使えそうだと思わないか?」
「……使えますね。」
…やっぱりな。
ヒカリはカゲリに勉強させたがってるからこういうの欲しがると思ったよ。
「それではコピーさせていただいたらすぐ返しますね。」
「えっ!?い、いや返さなくていいぞ!?俺には必要ないものだから!!」
「何を言っているんですか。恭也さんも勉強しなくちゃダメですよ?」
「い、いや…その…も、もうコピーしたやつ持ってるから大丈夫だよ!だから気にしないでくれ!」
「…本当ですか?」
「ほ、本当だよ!あはは…!」
…もちろんウソです。
ごめん、ヒカリ…
でも俺は普段から勉強なんかしたくないんだ…
…だからテスト前になったら教えてくれ!
「…それならお言葉に甘えてもらっておきますね。ありがとうございます。…お礼と言ってはなんですが、コレをどうぞ。」
…いらないモノあげただけだからお礼はいらないんだけど。
逆に俺がお礼したいくらい…
「…ウサギのストラップ?見たことないけど、ずいぶんかわいらしいキャラクターだな?」
「そうですか?実はそれ、私たちのオリジナルなんですよ♪」
「…え?」
「私がデザインしてカゲリちゃんが作ったんです。なかなかいい出来だと思いませんか?」
なかなかどころか、かなりいい出来なんだけど……
お前ら、変な発明品なんかより、こういうの作ってた方がいいんじゃないか?
「ちなみに他にもいろいろな種類がありますよ。」
「へぇ、本当だ…」
…イグみたいなのもいるなぁ。
これ欲しがるの悠希だけじゃないか…?
「もし欲しいキャラクターがいたら交換しますけど…?」
「…いや、俺はこのウサギのストラップでいいよ。」
「そうですか。やっぱりウサギさんは人気ですね。」
…もしかしていろいろな人に配ってんのか?
だとしたら澪も持ってそうだな…
…後で聞いてみるか。
「…それじゃ、そろそろ教室に戻るか…」
「また新しいストラップが欲しくなったら来てくださいね♪まだまだたくさんありますから♪」
《ごちゃぁ〜…》
おぉう!?
マジでたくさんある!!
…主にイグ(っぽいやつ)ばかりだけど。
やっぱり人気ないんだな…
「あ、あぁ…欲しくなったらまた来るよ。じゃあな。」
「はい、それでは。」
…発明品と組み合わせて、変な機能つけたりしないことを祈ろう…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【教室】
「……欲しい…」
「へ…?」
いや…あの…?
澪さん…?
俺は『澪ってヒカリからこういうストラップもらったりしてる?』って聞いたんだよ?
それは答えになってないんじゃないかな?
「…もしかして持ってないのか?」
「……(コクっ)…」
「へぇ…意外だな。澪ならてっきり持ってるかと思ってたのに…」
「……ウサギさんは人気ありすぎてなかなか手に入らない…」
…つまり他のキャラクターは持ってるんだな?
「……ちょうだい…」
「いや、でもせっかくもらったものなんだから……」
「……じゃあ、私の宝物と交換…」
…澪の宝物?
…それはけっこう気になるな…
「…ちなみにどんなものなんだ?」
「……ヒミツ…」
「教えてくれないとあげないぞ?」
「……それならそれでいい…ずっと待ってたらそのうち手に入る…」
…教えてくれる気はないか…
知りたければ交換…
どうせかわいいものとかコスプレ系のなんかだとは思うんだけど…
…………。
でもやっぱり気になるなぁ……
「…よしわかった。交換しようじゃないか。」
「……ありがとう…じゃ、これ…」
《ゴソゴソ…》
さぁ、澪の宝物って一体…!?
いいモノであることを期待するぞ…!
「……はい…」
「…?これは…写真か…?」
これが澪の宝物…?
一体何が写って…?
……………。
「…って、これに写ってるのカレンじゃねぇか!!」
「……最近見れないからレアでしょ…?」
確かにレアだけど、こんなのいらないから!
てか、こんなの宝物にすんな!!
「何っ!?カレンちゃんの写真だとっ!?」
「……ほら、大地君も反応した…」
カレンって未だに人気あんの!?
よく見たら大地以外にもこっち見てるやつがいるし…
「…あー、じゃあ大地、お前にこの写真やるよ。」
「…な、何!?ほ、本当か!?」
だって俺がこんなの持っててもしょうがないもん。
「……せっかくあげたのに…」
…澪には悪いけど、こんなのいらん。
交換する以外に使い道がない。
「恭也…、お前がこんなにいいやつだったなんて思わなかったよ…」
…こんなことでいい人扱いされるの?
てか、俺はもとからいい人だよ。
「とりあえず、感動してるヒマがあったら早く何かよこせ。」
「あれ!?ただでくれるんじゃないの!?」
「そんなわけないだろ。」
「…やっぱりいいヤツじゃなかった。」
何を言う。
十倍で要求するよりはマシだろ。
「ほら、早くくれないと休み時間が終わっちゃうだろ?お前からもらったモノを誰かと交換しに行かなくちゃいけないんだから急いでくれよ。」
「えっ!?交換すること前提!?」
当たり前だろ。
どうせマトモなモノくれるわけないんだから。
大地だし。
「こうなったら誰にもあげたくなくなるようなとっておきのモノをプレゼントしてやる…!!」
…そんなこと言われても期待できないのはなんでだろう?
やっぱり大地だから?
「えっと…確かこの辺に…」
《ゴソゴソ…》
「…あった!これでどうだ!!」
…本?
意外と分厚いな…
内容によるけど、これはいい交換道具になるかな?
「えっと…タイトルは……」
……………。
「…『恋愛の極意』?なんだよこれ?」
「見ての通りだ!その本はめちゃくちゃ貴重なんだぞ!なんと、世界に一冊しかない!」
「…作者は?」
「俺♪」
よし、とりあえずこの本で殴らせろ。
そのためにこんなに分厚いんだろ?
「どうだ!こんな貴重な本はなかなか交換に出せな……」
「澪、いるか?ただでいいぞ。」
「あっさり!?しかも交換ですらない!?」
「……ゴミはいらない…」
「さらにゴミ扱い!?」
「澪もいらないか…。ならクラスのみんなに聞くか。」
「そこまでする!?そんなにいらない!?」
「この本欲しい人手を挙げて〜」
《…し〜ん…》
「…やっぱり誰も欲しがらないか。」
「…ちょっと泣いてくる。」
…あ、いなくなった。
まぁ別にいいか。
…それよりこの本をどうするか考えないと…
《…ドドドドド…》
…ん?
「…キョーヤ〜!!」
「なっ!?カゲ…!?」
《ドスッ!!》
「ごふっ!?」
だ、だから急に飛びついてくるのはやめろっていつも言ってるだろ!!
モロに鳩尾に入ったじゃねぇか!!
「……なんだか騒がしくなってきた…私、あっち行ってるね…」
ちょっと待って!?
逃げないで!
何かあったときのために近くにいてくれ!
「キョーヤのバカ!キョーヤのせいで大変なことになっちゃったんだから!!」
《ポカッ!》
「いてっ!」
え!?なに!?
なんでいきなり怒られてんの!?
「カ、カゲリ!とりあえず落ち着け!何があったんだ!?」
別にカゲリを怒らせるようなことは何もしてないはずなのに…
「キョーヤのせいで宿題出されたのっ!!」
それ、俺と関係ないよね!?
「それは俺じゃなくて先生だろ!!文句なら先生に……!」
「先生じゃなくてヒカリからだもん!!キョーヤが問題集くれたからって言ってたもん!!だからキョーヤが悪いの!!」
そういうことか!!
ヒカリのやつ、余計なことを…
てかいきなり宿題出すなよ!!
「いや、あれはヒカリが欲しがってたからあげただけで…」
「うそだ!友だちからの証言もあるもん!キョーヤがうまく言いくるめてたって!」
…あ、バレてる。
どうしよう…
…………。
「…そ、そうだ!お詫びにこれやるよ!だから許してくれ!」
「…本?もしかしてまた問題集…!?」
「違う違う!ただの恋愛に関する本だから!ほらこれ、『恋愛の極意』って書いてるだろ!?」
「…本当だ。」
…作者は教えないでおくことにしよう。
世の中には知らない方がいいこともあるのさ…
「…これ読んだらちゃんとした恋愛できるようになる?」
「なるなる!」
…多分…
……きっと…
………もしかしたら…
「…それならこれで許してあげる♪」
「えっ!?マジで!?いいの!?」
「うん♪」
…カゲリみたいに純粋なのが相手だと罪悪感が……
なんだか騙してるような気分…
…いや、実際騙してるんだけどさ。
「それじゃ私は教室に戻るね♪」
「あ、あぁ…」
…返品及び苦情は大地によろしく。
============
…結局、ここで交換は終了か。
最終的にはなんの得にもならなかったな…
…というか、ほとんどいらないモノだったな。
(特に大地の)
手元に残らなかっただけマシか…
やっぱり本当の『わらしべ長者』みたいにはならないか…
世の中そんなに甘くないよな〜…
ヒカリからストラップもらった時点でやめとけばよかった…
…………。
…後でまたもらいに行こうかな?
「……カレンちゃんの写真をオークション形式で売ったら結構稼げたと思うんだけど…」
そういうのはもっと早く言ってくれ!!
更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
ご迷惑をおかけしてしまったので謝罪しておきます。
今回の話、『わらしべ長者』をもとに考えてみました。
あのメンバーだと、やっぱりマトモなモノと交換できるわけないですよね。
最後にカゲリから別の問題集をもらって終わるというオチも考えたのですが、流れ的に交換ではなくお詫びという感じになってしまったので断念しました。
…多少強引でも書いた方が良かったかもしれませんね。
とりあえず今回はこの辺で。
これからもこの小説をよろしくお願いします!