第12話〜図書室にて
【校内北側(図書室)】
(恭也&澪)
〈恭也視点〉
…俺達が図書室に入ってもう十分は経っただろうか……
「小織さん、もうそろそろ…」
「もう少し待って!」
その言葉何回目だと思ってんだよ!?
もう十回は超えてるぞ!?
…何?俺もしつこすぎるって?
仕方ないだろ!?状況が状況なんだから!!
早くアイツを探しに行かなきゃいけないのに…
「小織さ…」
「ちょっと待って!」
まだかよ!?
しかも返事速ぇよ!!
普段『…』ばっかり使ってるくせに、本読んでるときは何でそんなに性格変わってんだよ!?
…仕方ない、小織さんが本を読み終わるのを待ってる間にここの簡単な紹介をしておこうか。
俺も今回初めてこの学校の図書室に入ったが、ここまで広かったとは思わなかったくらいに広かった。
普通の図書館並みの…いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
そこに馬鹿でかい本棚が大量に並んでいて、その中にはまた数え切れないくらいの本が置いてある。
…集めてるヤツは何を考えてこんなに本を集めてるんだろう?
多分何も考えてないんだろうな。
だって普通に絵本やマンガも文庫本に混じって置いてあるんだぞ?
ただ単に何でもいいから集めましたって感じだな。
「……神堂君…読み終わったよ……」
ようやくか…
そこまで熱中するなら今読まずに今度暇な時に読みに来ればよかったのに。
「……それで…その…」
ん?
「……本…高すぎて届かないから…」
あぁ、元の場所に戻してくれないかってか?
いや、それはいいけどさぁ…一つツッコミさせてもらおうか、
それじゃその本どうやって取ったの!?
…何てことは結局言えないから
「あぁ、俺がやってやるよ。」
って言うしかないんだけどね。
「…で、どの棚のどの辺?」
「……あの棚の一番上の段…右から三番目くらい……」
小織さんが指し示したのはいくつもの棚が並んでいる中の真ん中あたりの列にある横に長いタイプの棚だった。
…一番上か……
背伸びしてギリギリ届くくらいかな…?
まぁ、このくらいなら台は使わなくても良さそうだけどさ、
マジでどうやってこの本取ったんだ!?
小織さんの身長だと背伸びしても上から二段目が限界じゃないか!?
「……届きそう…?」
「…なんとかな。」
俺は背伸びをして本を元の位置に戻そうとした。
「と…ところで小織さん?」
「……何…?」
「この本ってどうやって取ったの?」
別に聞く必要はないと思っていた。
俺の周りのやつらは意外と変なやつらが多いから…だからいつもならそんなことを心の中で疑問に思っても決して直接本人に聞いたりはしない。
…だけど……今回は聞いておかなければならない、そんな気がする。
この疑問を心に浮かべた時から、何かが心の奥で引っかかっているような…そんな感覚がずっと続いている。
何なんだろう、この感覚は…?
「……それは…私がその本を取ろうとしてた時…なぜか勝手に落ちてきて…」
勝手に落ちてきた…?
そんなことあるわけが………
…!?
何だこの感覚…?
何かが…俺に警戒を呼びかけてるような…
「……神堂…君…?」
自然と汗が頬を伝う。
(いやな予感がする…)
本を棚に戻すこともなく、背伸びをやめて小織さんの方に向き直った。
(早く…この場から離れないと…!!)
「小織さ……!!」
俺が小織さんに呼びかけようとしたその瞬間、俺は見た…
…小織さんの後ろの棚、その棚にある本の隙間から…いつも鏡で見ている俺の目を……
そして…少しずつ…その棚は傾いてくる…
少しずつ…少しずつ…
…俺達の方へと!!
「小織さん!!危ないっ!!」
「……え…?」
小織さんはまだ本棚が倒れてきていることに気がついていないようだ…
くっ…!
間に合わない!!
「くそぉっ!!」
【校内西側】
〈カゲリ視点〉
「…?」
何だろう、今の音…?
何かが落ちたような音…それに誰かの声も聞こえたような…
…もしかして……
いや、そんなことは…
何だろう…
何でこんなに不安になるんだろう…
…!!
そうだ、無線を使えば…!!
「こちらカゲリ!!誰でもいいから返事して!!」
『………………』
…誰からも…返事が……無い…!?
「そんな…」
体の力が抜けていく。
頭の中で必死に否定しても、悪い考えが離れない…
「ヒカリ…早く目を覚ましてよ…」
ヒカリの体を軽く揺さぶる。
そんなので目が覚めるとは思わない。
それでも、何かせずにはいられなかった。
「ヒカリ…ヒカリってば!!」
いつの間にか私の目から涙が流れていた。
「ヒカリ…」
…私は無力だ。
例え運動神経が良くても誰も救えない。
「…私…一体どうしたらいいの!?ねぇ、教えてよヒカリ!!」
私一人じゃ誰も救えない。
だから…お願い…
「目を覚ましてよ…ヒカリ…」
【校内東側】
〈悠希視点〉
「キャア!!」
何!?今の音!?
もしかして…
イグの身に何か…!?
ん?今どこかからツッコミがきたような…
ま、気にしなくていいか♪
…それより、早く音のした方へ行かないとイグが!!
「イグーーーーー!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜
………
悠希が去ったその後に何かが落ちていた。
それは『小型のイヤホン』そして、もう一つ………
〜〜〜〜〜〜〜〜
【校内北側(図書室)】
本棚が倒れてきた事によって、その棚に納められていた数多くの本が床に散らばっている。
「…おいおい、そこはおとなしく潰されとけよな。」
本棚を押し倒した張本人はその倒れかけている本棚に向かって話しかける。
「う、うるせぇ!!潰されてたまるか!!」
その倒れかけている棚を支えている人物が返答する。
本棚が重いのか、声は少し震えていた。
「無理するなって。」
「ぐぅっ!!」
見ている男が本棚に足をかける。
支えている男にしては相当キツいはずだ。
「そ…その足を…どけろ!!」
「や・だ♪」
男の足にまた体重がかかる。
「ぐぁぁっ!!」
「そんなに支えるのがキツかったら避ければいいだけの話しじゃねぇか?」
確かにそれは可能だ。
手を離してほんの二、三歩後退するだけだ。
「…テメェ、わかってて言ってんだろ…!?」
彼一人ならそんな事はとっくにやっている。
だが今は状況が違うのだ。
「あぁ、小織さんか?」
そう、今恭也の足下には小織さんが倒れている。本棚が倒れてきた時に落ちてきた本に頭をぶつけたのか、気を失っているようだ。
「そんなの無視しておけばいいだろ?どうせみんな俺に殺されるんだからな。」
「…やっぱり…お前は俺と完全に違うじゃねぇか…!!……ぐっ!?」
「いや、俺はお前の性格を元に造られたんだ。だから俺もお前も同じなんだよ。」
本棚にかけている足に徐々に力が入ってくる。
「思い出せよ、昔はお前も似たようなものだっただろ?」
「…今は…違う…!!」
「同じさ。人間、そう簡単に変わることは出来ないんだ。」
「……やめろ…それ以上…」
出来ることなら耳をふさぎたい。
もうこれ以上コイツの話しを聞きたくない。
そんな衝動に駆られても今の状態ではそんなことは出来ない。
「言ったろ?俺もお前も同じだって。これはお前が心の奥底で思っていたこと…違うか?」
「違う!!俺はそんなこと…!!」
「…ふぅ、これ以上話しても無駄なようだ。」
さっきまでよりかなり体重をかけられる。
元々が機械の体だけあって相当の重さが恭也に襲いかかる。
「………っ!!」
もう恭也には言葉を発する余裕は無い。
もしこの場に恭也が一人だけなら間違いなく支えるのを放棄して逃げるだろう。
だが、今は小織さんがいる。
このまま支えきれなくなったら彼女は間違いなく潰されてしまう。
そうなったら怪我は免れない。
せめて彼女が安全な場所に避難してくれれば何の問題もないが、彼女は気絶していて目覚める様子はない。
「まだ頑張るのか?別に小織さんを見捨てて逃げればいいだけの話しじゃないか?俺ならそうするな。」
「…………ぅ…!」
「ああ?何言ってるか聞こえねぇぞ?」
「…俺は……」
恭也には残された力はほとんど残っていない。
支えている棚も徐々に下に下がっていく。
それでも…恭也は叫んだ…
「俺はお前とは違うっ!!いい加減に俺の前から消えろっ!!」
「…………そうか、わかったよ。確かに俺とお前は違うようだ。」
「………!?」
(何だ、いきなり!?)
明らかにさっきまでとは違う言葉に恭也は戸惑う。
自分の思考とは違う言動にいまいち行動が読みにくい。
「もういい。お前はもう『死ね』。」
「……なっ!?」
恭也がその言葉を理解する前に機械の体は完全に床から離れた。
「……………っ!?」
《ズズゥーーン…》
一際大きな音が響き渡り、また夜の学校には静寂が訪れた…
読んでくださってありがとうございます。 最近作者もビックリなくらい更新スピードが上がってますが、またいつ前みたいなペースになるかわかりません。 …さて、このシリーズもその6まで続いたわけですが、当初の予定では前・中・後編で構成していました。 ですが、実際に書いてみると意外に長くなったのでこういう形式にしてみました。 いらない会話が多いっていうのが作者の悪いクセのようです。 作者自身このシリーズはコメディを混ぜるのが難しいので早く終わらせたいとは思ってます。 …まぁ、いつになるかわかりませんが…… それでは今回はこの辺で