第116話〜カゲリとお勉強
【休み時間:教室】
「…恭也さん、ちょっといいですか?」
「ん?あぁ、ヒカリか。いいよ。どうした?」
ちょうどヒマすぎて寝そうになってたところだからな。
悠希は部活の先輩に用事があるとかでいなくなっちゃったし…
澪はずっと本読んでるし…
大地は悠希によって保健室に送られたし…
話し相手になってくれるならちょうどいい。
「実はカゲリちゃんのことで困ったことがありまして……」
「カゲリのことで…?なんだ?またケンカしたのか?」
ケンカするのはいいんだけど、カゲリが家出しないようにしてくれよ?
アイツ、俺のところに来るんだから。
「ケンカ…というわけじゃないんですけど、反抗期というか…。私がいくら勉強しなさいと言っても、カゲリちゃんがまったく言うことを聞いてくれないんです。」
「…それっていつも通りなんじゃない?アイツ、テスト前以外は勉強しないじゃん。」
「…それもそうなんですけど…でもこのままじゃいけないと思いませんか?」
俺としてはこのままでもいいと思うよ?
バカなのもアイツの個性だし。
アイツがいる限り、テストの成績で勝負した時に俺が最下位になることは無いもん。
…あっ!
じ、冗談だからなっ!?
俺はそんなズルいこと考えてないからな!?
「…まぁ、ヒカリの言うことはもっともだけど…。アイツがヤダって言ってるならどうしようもないだろ。」
「…そこで恭也さんにお願いがあるんです。」
…お願い?
「カゲリちゃんに聞いてみたところ、恭也さんが教えてくれるなら勉強するって言うんですよ。そこでなんですけど…私の代わりに恭也さんがカゲリちゃんに勉強教えてあげてくれませんか?」
…はぁっ!?
俺が勉強を教える!?
「ち、ちょっと待て!!俺はカゲリに勉強を教えられるほど頭よくないぞ!?」
「恭也さんはカゲリちゃんより成績いいんですから大丈夫ですよ。」
「で、でも…!」
「お願いします!他に任せられる人はいないんです!」
ちょ…!?
あ、頭下げられたら断れなくなるって…!
「ヒ、ヒカリ!そ、そこまでしなくても…!と、とりあえず顔を上げてくれ!」
「…では引き受けてくれるんですか?」
「…あ〜、わかったよ!引き受ける!引き受けるから!」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
…引き受けなかったらずっとあのままになりそうだからな…
仕方ないよ…
「それでは私はさっそくカゲリちゃんに知らせてきますね。今日の部活の時間に部室の隣の教室に来てください。」
…普通、妹のために部活サボリの許可出すか?
まぁ、特にやることない部活だからいいんだけど…
「わかった。あまりうまく教えれないかもしれないけど…できるだけのことはするよ。」
「はい。それではお願いしますね。」
…正直あまり乗り気じゃないんだけどな。
まぁ、引き受けたからにはしっかりやるさ。
前に一度宿題を教えてやったことがあるからなんとかなるだろ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【放課後】
「…というわけで、今日は俺がお前に勉強を教えることになった。」
「よろしくお願いしま〜す♪」
…逃げるかと思ったらそうでもないんだな。
カゲリは勉強嫌いのはずなのに…
なんで俺が教えるってなるとマジメになるんだ…?
…まぁ、俺としてはマジメでいてくれたらそれでいいんだけど…
「…さて、まずは苦手教科からやるとするか。…お前、何が一番苦手なんだ?」
「体育苦手〜♪というわけで体力作りのために遊ぼっ♪」
ふざけんなっ!!
どう考えても得意科目だろ!!
しかも勉強関係ねぇじゃねぇか!!
前言撤回!!
コイツ、全然マジメじゃねぇ!!
「マジメに答えろ!!」
「だって、最近キョーヤ遊んでくれないんだもん…」
「いや、十分遊んでるだろ!?今日の昼休みだって……!」
「足りないもん。」
お前は一体どんだけ遊べば気が済むんだよ!?
ここは学校なんだから遊びより勉強に集中しろよ!!
「キョーヤだって勉強より遊んでた方が楽しいでしょ?」
「確かにそうだけど…お前に勉強させないと俺がヒカリに怒られるんだよ!」
「勉強ヤダっ!!」
「お前なぁ…!俺が教えるなら勉強するって言ってたんじゃなかったのかよ!!」
「あれはキョーヤと2人で遊ぶためのウソ♪」
…この問題児め…!
「…わかった。勉強が終わったら遊んでやるよ。」
「遊んでから勉強した〜い♪」
「勉強が先だっ!」
「…うぅ〜、仕方ないな〜…」
…これは思ったより苦戦するかも…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【国語】
「まずは文章読解の問題を……」
「キョーヤ、この漢字読めないんだけど?」
「…やっぱり漢字の読み書きの練習からやろう。」
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【数学】
「まず、この問題はこの公式を使って……」
「これってどんな公式だっけ?」
「…うん、まずは公式を覚えることから始めようか。」
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【英語】
「…読める?」
「読めない♪」
「…これも単語の練習からだな。」
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【化学】
「…これはできるだろ?」
「できないよ。科学ならできるんだけどね♪」
「…おしいな。」
============
〜その他省略〜
============
【結論…】
「結局全部基礎からやんなくちゃダメなんじゃねぇか!!」
いや、わかっちゃいたけどさ!
でも信じたかったんだよ!
いくら何でもそこまでバカじゃないって…!
「そ、そんなことないもん!に、日本史は少しできるもん!」
「…794年にあった出来事は?」
「え…?あ…!ヒ、ヒント!」
「…『鳴くよウグイス…』?」
「…『ホーホケキョ』?」
もうお前のことは信じねぇ!!
「…これは俺一人じゃ手に負えないかもな…」
「じゃ諦めて遊ぼーよ♪」
お前が普段から遊ばないで勉強してたらこんなに苦労しないんだよ!!
いつまでもそんな風に遊んでたら、この前みたいに宿題出た時に困るんだぞ!!
…………。
…あれ?
そういえば……
「…カゲリ、この問題は前に俺が宿題教えた時の問題と同じ問題なんだけど…できるか?」
「ん〜…ムリ。」
「何で!?お前、あの時は自力で解けてたじゃん!?」
「あの時は教えてもらってすぐだもん。勉強なんて3日経てば忘れちゃうよ。」
…ヒカリ、もう諦めてもいい?
コイツ、例え今必死に教えてもすぐに忘れるみたい…
それなら俺の努力意味ないだろ…?
《…コンコン》
…ん?
ノック…?
《…ガラッ》
「…失礼するッスよ。神堂がここにいるって聞いて来たんスけど…あ、本当にいたッスね。」
「チアキ…?」
誰かと思ったら千秋か……
…あれ?
お前、部活は?
またサボリ?
「どうした千秋?俺に何か用か?」
「大した用事じゃないんスけどね。コレあげるッス。」
そう言って手渡してくれたのは小さな袋…
「…何だコレ?」
「いやぁ、昨日クッキー作ったんスけどつい作りすぎちゃって…。兄貴は食べないみたいだから神堂にあげるッス。」
「お、それはどうも。ありがたくもらっておくよ。」
てかお前、お菓子作りって趣味あったのかよ…
やっぱり女の子なんだなぁ…
「チアキのクッキー?私も食べていい?」
「もちろんいいッスよ。できれば感想を聞かせてもらえると嬉しいッスね。」
「わ〜い♪」
「…お前、千秋のことライバル視してたんじゃなかったのか?」
「え…あっ!?い、一時休戦!!」
…何だそれ?
ライバルってそんなんでいいのか?
「…ところで神堂たちはここで何してたんスか?邪魔になるなら千秋はいなくなるッスけど…」
「いや、邪魔にはならないよ。コイツに勉強教えてただけだから。」
「へぇ、神堂って面倒見がいいッスね。」
面倒見がいいというより、頼まれたら断れないだけなんだよね…
本当なら勉強に関する内容は断りたかったんだけどな…
今からでも誰かに交代したい気分だよ…
…ん?
待てよ…?
「…そういえばお前、俺たちより頭良かったよな?」
「ま、まぁ…確か神堂たちよりは上だったはずッスけど…。それがどうかしたんスか?」
…ちょうどいいヤツがいたじゃん♪
「お前どうせ部活サボリなんだろ?せっかくだからカゲリに勉強教えるの手伝わないか?」
「ち、千秋がッスか!?そんなのイヤに決まってるじゃないッスか!」
「私もライバルに教えてもらうのはちょっとなぁ…」
…ライバルの作ったクッキーを食べるのはアリなのにか?
「いいか、カゲリ。時には協力してお互いの実力を高め合っていくのもライバルなんだぞ?」
「そ、そう?…そう言われてみたらそういう考え方も…」
「…この子に勉強を教えることで千秋のどんな実力が高まるって言うんスか?」
…ツッコミとか?
「まぁまぁ、たまにはいいじゃないか。お前、いつも赤樹と一緒にいるから仲良くできないんだから。せっかくだからもっと仲良くしてやってくれよ。」
「…それはそうかもしれないッスけど…」
「そういえば今日はアカキいないの?」
「兄貴ならさっきまで一緒に屋上で修業してたんスけど……途中でスイレンが乱入してきたから帰っちゃったッス。」
あのバカまた赤樹をからかいに行ったのかよ!?
何やってんだか…
…でもそのおかげで千秋が一人でここに来たんだから、俺としてはよかったけど。
「それなら気兼ねなく勉強教えれるな?それじゃ後は頼んだぞ。」
「いやいやいや!?何言ってんスか!?」
「えっ!?キョーヤは教えてくれないの!?」
もうすでに出来るだけのことはやったよ。
あと俺にできることと言えば、カゲリが遊ぼうとした時に止めるのを手伝うことくらいだ。
「キョーヤが教えてくれなくちゃヤダ〜!」
「俺より千秋の方が教えるのうまいって。」
「何を根拠にそんなこと言ってるんスか!?」
「『頭いい=教えるのもうまい』だろ?」
「勝手な方程式作るなッス!!だいたい、千秋は標準ッス!!」
「俺たちは標準以下だっ!!」
「逆ギレ!?」
事実なんだからしょうがないだろ!!
いくら頑張っても成績が伸びない…!
そんな俺たちの気持ちがお前には理解できないのか!?
…はっ!
話が脱線してる…!?
「…コホン。と、とにかく!俺よりお前の方が教えるのうまいだろうから教えてやってくれよ。少しだけでいいから。なぁ、いいだろ?」
「…じゃあ少しだけッスよ?」
「おお!やってくれるのか!サンキュ!」
教えてくれる時間なんて少しで十分。
…後は千秋が勉強を教えてる最中にコッソリ逃げ出すだけ…!
卑怯とかズルいなんて意見は一切無視!!
ヒカリには悪いけど、俺にはこれ以上カゲリに勉強を教えるなんてできない…
だっていくら教えても全然理解してくれないもん…
今後、カゲリの勉強は千秋みたいにもっと頭のいいヤツに任せてくれ…
「…キョーヤって私のことキライなの?」
「…へ?」
カ、カゲリ…?
ど、どうした急に…?
「私がマジメに勉強しないから他の人に押し付けようとしてるの…?それなら…それなら私、もっと頑張るから!!」
「い、いや…そういうわけじゃ…!」
「だから私のこと見捨てないで!!」
「だ、だから…その…見捨てるとかそういう話じゃなくて…!」
そ、そんなこと言われたら罪悪感が…!
途中で逃げ出せなくなるじゃないか…!
「…やっぱり神堂が教えた方がいいんじゃないッスか?」
「そ、そうみたいだけど…。でも俺の教え方じゃ限界があって……」
「…それじゃあ、2人で教えるッスか?」
い、いや…でも……
…あ〜…
……………。
…やっぱりそれしかない…?
本当は逃げたかったんだけど…まぁ、負担は減るから…
…………。
…仕方ない、今回は妥協するか…
このままだとカゲリが泣いちゃいそうだし…
「…わかったよ、カゲリ。ちゃんと俺も一緒に教えるから。」
「…ホント?」
「本当だって。そのかわり、ちゃんとマジメに勉強しろよ?」
「…うん♪」
…俺ってやっぱり甘いのかなぁ…
イヤなことはイヤって言えないタイプだよなぁ……
…まぁ、そこまでイヤってわけじゃないから別にいいんだけどさ…
「それじゃあ、交代しながら教えるか。今まで俺が教えてたから最初は千秋が教えてやってくれ。教科は任せるから。」
「わかったッス。まずは…そうッスねぇ…千秋は数学が得意だから数学からでいいッスか?」
「うん♪よろしくお願いしま〜す♪」
…最初からこれくらいやる気あってくれたらよかったんだけどなぁ…
…それにしても、なんでカゲリは俺にこだわるんだろう…?
頼られるのは嬉しいんだけど、今回はもともと勉強を口実に俺を呼びだしただけだよな…
最初、勉強をやらないで遊ぼうとしていたのが何よりの証拠…
ということは、俺と遊ぶために俺を呼んだんだろ?
遊ぶならスイレンの方が話も合うから面白いと思うのに…
どうして俺なんだ…?
…………。
…もしかしてカゲリって……
…まさか…なぁ…
…そんなわけない…よな……?
…うん、ありえないよ……
…………。
…やっぱり深く考えるのはやめよう。
どうせ俺にはカゲリが何を考えてるかなんてわからないんだから。
とりあえず今は頼りにされている、それがハッキリしていれば十分だ。
…よしっ!
せっかく頼りにされてるんだから、頑張って勉強教えなくちゃな!
俺にも少しやる気が出てきたぞ…!
さぁ、張り切っていくか!!
「…ここはこの公式を使うよりもこうやって解いた方がやりやすいッスよ。」
「あ、ホントだ!すご〜い!キョーヤよりわかりやすい♪」
…やっぱり俺帰ってもいい?