第110話〜お弁当のおかず、何が好き?
【休み時間】
「なぁ、神堂。」
「…お?どうしたクラスメートA?」
「その呼び名やめてくれない!?」
もうお前の名前は『クラスメートA』で固定してるんだよ。
嫌なら他のあだ名でも募集したら?
「…で、何の用だ?」
「教室の外でお前を呼んでる子がいるぞ。」
…ん?
俺を呼んでる子…?
「どこの誰?」
「知らないよ。ただ、かわいい子だったぞ?」
「何っ!?かわいい子だと!?」
…大地、お前は反応しなくてもいい。
「…はて?俺の知り合いならわざわざ呼び出したりなんかしないで直接訪ねてくるのに…。」
「まさか…!俺に直接話をする勇気が持てず、恭也を通じて…!」
「悠希、そこのバカを黙らせておいてくれ。」
「わかったわ。」
「ギャァァァァァァァっっ!!?」
…さて、これで静かになったな。
「まぁ、あまり待たせちゃダメだな。それじゃ行ってくるか…」
「…恭也、相手がかわいい子だからって好きになっちゃダメよ?」
そこの変態と一緒にするな!
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【廊下】
……………。
「…あ、神堂…。ち、ちょっと話したいことがあって…」
…誰?
会えばわかると思ってたけど、会ってもわからん……
…黒髪のショートカット、顔は…うつむいてるからよくわからないな。
身長も低めだから余計わからん…
とりあえず、目を合わせて話そうよ?
「き、聞いてる…?」
「え…。あ、あぁ!聞いてるよ!」
「と、とりあえず…他の人には聞かれたくないから…屋上までついて来てくれる…?」
「う、うん…」
他の人に聞かれたくない話…
そして、恥ずかしそうなあの仕草…
こ、これはもしかして…!?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【屋上】
「…弁当の好み?」
「う、うん…」
他の人に聞かれたくない話って言うから何を聞かれるかと思ったら…
別に大したことない話じゃないか。
とりあえず好きな弁当のおかずでも言えばいいのか?
「そうだなぁ…とりあえず、玉子焼きは欠かせないだろ?それから…」
「ち、違う…!神堂の好みを聞いてるわけじゃない…!」
「…へ?」
俺の話じゃないの?
「じゃあ、誰の好みを知りたいんだ?」
「え、えっと…そのぉ……」
「…あ、兄貴の…好みを……」
お前千秋か!!?
全然わかんなかった!!
帽子を脱いで制服着替えただけでこんなに違うのか!?
いや、一番の違いは話し方か!?
「し、神堂…?」
「…すまん。お前が千秋だってことに気づかなかった…」
「や、やっぱり…わかってなかったんだ…」
「だって外見も全然違うし、話し方だって違うだろ!絶対気づかないって!」
「だ、だって…!や、やっぱりバレたら恥ずかしいから…!この格好をしている時は話し方に気をつけて…!」
ややこしいんだよ!!
どっちかに統一しろ!!
「てか、弁当の好みなんて自分で直接赤樹に聞けよ。」
「そ、そんな事したらすぐにバレるって…!」
普段のお前と今のお前の違いを見たら、そう簡単にバレないと思うけどな…
「俺が赤樹にそんなことを聞いたら不信に思われるだろ。その上で赤樹がもらってる弁当の中身が聞いた通りになったら、俺と弁当の子が知り合いだってバレるじゃないか。」
「そ、それもそうだけど…」
…それ以前に、赤樹が俺に弁当の好みを教えてくれるとは思えないけどな。
「そもそも、何でそんな事を聞こうと?」
「や、やっぱり…お弁当にはその人の好物を入れてあげたいから…」
…お前本当に千秋か?
いつもの男っぽそうな様子はどこにいった?
今のお前はかわいすぎるぞ?
「…すまん。やっぱりいつもの話し方にしてくれないか?今のお前と話してると調子が狂う…」
「…え?ま、まぁ…ここなら誰もいないから大丈夫…ッスよね?」
よし、これで俺も一安心だ。
…外見の違和感はガマンしておこう。
「まったく、話し方だけで調子を狂わされてどうするんスか?」
…あれ?
態度まで変わるなんて聞いてないよ?
さっきまでみたいにうつむき気味のままでいいんだぞ?
「いや、態度まで変えなくてもいいんだぞ?」
「これがいつもの話し方じゃないッスか。」
「そ、そうだけど…」
「千秋としてはこっちの方が違和感あるんスけどね。でも、男らしくなるためにはこれくらいはしないとッス。」
…いやいや、自分の服装を見ろ。
女子の制服でそんなことを言っても…
それ以前にお前の目的は何だ?
赤樹好みの弁当を作ることじゃなかったのか?
どっちかというと女の子らしいじゃないか。
「…お前は男らしくなりたいのか?それとも女の子らしくなりたいのか?」
「男らしくなりたいに決まってるじゃないッスか。」
「…今回のお前の目的は?」
「兄貴の弁当を…………………はっ!!」
…どうやら気づいたみたいだな。
「…お前さぁ、別に無理して男らしくならなくてもいいんじゃないのか?」
てか、お前は女の子らしい方がいいと思うぞ?
あ…いや…、あくまで客観的に見た場合の意見だけど…
別にさっきの千秋がかわいいなんて思ってないからな?
「い、いや…!兄貴にふさわしい人になるためには強くならなくちゃ…!あんな女々しい千秋なんかじゃいけないんスよ!で、でもお弁当は……!」
別に強くなる必要は無いと思うんだけどな…
「…お前、本当に赤樹のこと好きなんだな。」
「な、ななな…!?な、何を言ってるんスか!?」
正直、アイツのどこがそんなにいいのかわかんないけどな…
「お前、赤樹のどこが好きなんだ?」
「お、教える必要は無いッス…!どうせ神堂には兄貴の良さはわかんないだろうッスから…」
何を言う?
俺にも赤樹の良さはわかるかもしれないじゃないか。
…わかりたくないけどね。
「話したくないならいいや。あまり興味も無かったし。…で、赤樹への弁当の話なんだが…」
「お?何かいい作戦でも考えたんスか?」
「まぁな。いくつか方法はある。まず、毎回おかずを変えて赤樹の好物を探っていく方法。時間はかかるけど、いつも近くにいるお前なら探れるだろ?」
「…でもそれって結構難しくないッスか?」
…確かに。
いつも一定のペースで黙々と食べてそうだもんな…
判断するのは難しいかも……
「次に…手紙だ。」
「手紙…ッスか?」
「『お弁当のおかずのリクエストはありますか?』みたいな手紙を弁当と一緒に渡す作戦だ。もちろん筆跡は変えてな。…返事を書くタイプには見えないから成功する確率は低いけどな。」
「う〜ん…。今度、ダメもとで試してみるッスか…」
…この作戦が成功したら俺の中でのアイツのイメージが変わるけどな。
「そして最後に……まぁ、これは最悪の手段だからオススメはしないが……」
「…?何スか?」
「それはだな……」
「それは……?」
「…スイレンに教えてもらう。」
「却下ッス!!」
…だよな。
アイツが絡むと面倒なことになるからな。
「スイレンに聞いたらヤバいことになるじゃないッスか!!」
「だから最悪の手段って言ったろ?とりあえず落ち着け。あまり騒ぐと他の人が様子見にくるぞ?そんな格好でいつものしゃべり方をしているのを見られたらマズいだろ?」
「あ…!た、確かにマズいッスね…!」
まぁ、普通の人が屋上に来るなんて昼休みしかないだろうけどな。
今の時間にここに来るのは人に聞かれたくない話をするヤツらか、授業をサボる不良しかいないって。
だから安心して……
…………。
…不良?
「…なぁ?赤樹っていつもどのくらいの頻度で授業をサボってる?」
「…へ?気分によるッスけど、数学の授業は結構サボってるッスね。……あ、確か次の授業も確か数学だったッスね…」
このバカっ!!
なんつータイミングと場所で相談してんだよ!?
赤樹がここに来たら終わりだろうが!!
「おいっ!この話の続きはまた今度だ!ほら、急いで教室に戻るぞ!」
「ど、どうしたんスか急に?」
「このままここにいたら赤樹が来るかもしれないだろ!」
まったく…!
このまま相談してたらマズいことになるところだった…!
「…俺がどうしたって?」
「「……!!?」」
で、出たーっ!?
しかも屋上だから隠れる場所がない!?
「あ…あ、あ、あ…赤樹っ!?」
「…どうした?俺がこんな所にいちゃマズい事でもあんのか?」
「い、いや…!まさかこんな時間に屋上に来るなんて思わなかったから…!ほ、ほら!もうすぐ授業が始まる時間じゃないか!?」
「…つまんねぇ授業をサボって何が悪い?俺としてはお前がここにいる方が意外だけどな。」
授業をサボるのは悪いことだろ!?
頭が良ければサボってもいいって言うのか!?
このやろう!
うらやましすぎるぞ!!
…あ、つい本音が…
…って、そんな事よりこの状況をなんとかしないと!
「…ところで、お前の陰に隠れてるそいつは誰だ?」
「「…!!」」
こ、このままじゃバレる…!?
い、いや…!
まだあきらめちゃダメだ…!
赤樹はまだ弁当を持ってくる子と千秋が同一人物だとは気づいてない!
声さえ聞かれなければなんとかなるはず…!!
なんとかしてごまかさないと…!!
「どこかで見たような…?」
「ぬわっ!?いつの間に近くに!?」
「あ?普通に歩いてきただけだろ。考え事なんかしてるから気づかないんだよ。さっきまでコイツと俺の事で何か話してたんだろ?何を話していたのか聞かせろ。」
それを答えたらアウトです!!
こ、こうなったら適当にでまかせを…!
それでこの場をしのぐしかない…!
「じ、実は……」
「わ、私はただ…!し、神堂に相談してただけで…!」
「わっ!?バカ!お前…今出てきたら…!」
マ、マズい…!
声を聞かれた…!!
バレる…!?
「…弁当の女?」
…あれ?
いや、確かに弁当の女だけど…
千秋だって…バレてない…?
「なんだ?お前、コイツと知り合いだったのか?」
「あ、あぁ…!ま、まぁな!」
「そうか…。いつも弁当ありがとうな。」
「え…?あ…は、はい!」
…なるほど、緊張のあまり声がいつもより高くなってるからわからないのか。
助かった…
「あ…!そ、そうだ!赤樹、お前お弁当のおかずのリクエストあるか?コイツが聞きたがっててさ!」
「…あ?お弁当のおかず?そんなのいつも通りでいい。」
「…赤樹、この子の気持ちを考えてやれよ。」
「…あ、赤樹さん…」
「…ちっ。お前の手作りなら何でもいいよ。どれもおいしいからな。手を抜きさえしなければそれでいい。…わかったか?」
「…は、はいっ!」
うわぁ、すっごくいい笑顔…
赤樹に『おいしい』って言われたのがよっぽど嬉しかったんだろうな…
「…ところで、お前の名前は?」
「「…!!」」
まずいッ!!
「…あ!も、もうすぐ授業が始まっちゃうじゃないか!俺たち、もう教室に戻らなくちゃ!」
「う、うんうん!そ、そうだよね!あ、赤樹さん!バ、バイバイ!」
「…?あぁ、じゃあな。」
…よし!
逃亡成功!!
…それにしても危なかったぁ…!
============
「…ふう、なんとかごまかせたな。さらに弁当の件も聞き出せたし、ラッキーだったよ。」
「そ、そうッスね。…千秋のためにここまでしてくれてありがとうッス。」
…俺がやったことって赤樹に質問しただけなんだけどね。
「…お礼にコレ、あげるッス。」
「…ん?ガム?」
「今持ってるのがそれだけだから…とりあえず今はそれで勘弁してほしいッス。」
いや、別にお礼なんかいらないんだけど…
…でもせっかくだからもらっておくか。
「ありがとうな。」
「こちらこそッス。もしまた困った事があったら相談にのってほしいんスけど…」
「あぁ、いつでも相談にのるよ。」
「ありがとうッス!それじゃ、千秋は着替えなくちゃいけないから…」
…あ、またいつもの格好に戻るのか。
別にそのままでもいいのに……
…あ、いや、なんでもない!!
「それじゃ、バイバイッス。」
「…あぁ、またな。」
…アイツの恋愛がうまくいけばいいな…
…赤樹が相手だからそう簡単にはいかないだろうけど…
…さてと、俺もチャイムがなる前に教室に戻らないと。
弁当の話を聞いてたらお腹すいてきたし…
そうだなぁ…
もうすぐお昼だし、今日は早弁でもしようかな…?
…うん、そうしよう。
そうと決まったら早く教室に戻らないと……
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【教室】
「…あ、恭也。ごちそうさま。」
「俺の弁当ぉーーーーっっ!!?」
…今日の俺の昼飯、ガムだけに決定しました…
今ごろ気がついたんですが、小説の空白部分(行間)を作るには限界があったんですね。
最後の方、本当はもっと空白部分を広くしてタメを作りたかったんですが、できないみたいですね…
なので、少し変な感じがするかもしれませんが、そこのところは勘弁しておいてください。
…さて、今回の内容に関してなんですが…
ようやく千秋にも女の子らしい部分が出てきました。
…でも、なんだかカレンと話し方が近いような…?
もう少し話し方に気をつけた方がいいかもしれませんね…
…それでは、長くなってしまいましたが、今回はこの辺で。
感想・意見・要望・質問・助言・メッセージなど、お待ちしています!!