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煙草

作者: 空乃日向

 浅い眠りから覚め、隣の彼女が寝ているのを目で確認し、起こさないようにゆっくりと腕だけを隣のサイドテーブルへと伸ばす。愛しい彼女に視線を落としながら、手に慣れた感触を感じ、それらを取る。覚醒してきた意識で、片手で彼女の栗色のストレートの髪を掬ったり撫でたりして軽く遊んでから身体を起こし、ベッドサイドに背を凭れさせ、百円ライターで取り出した煙草に火をつけた。

 箱とライターをサイドテーブルへと投げ、息を吐き出す。そんな何年も経たために既に慣れてしまった動作が些細な至福。

 ふぅっと目を細めたとき、横からパッと白く細い腕が伸びてきて、口に銜えた煙草が攫われた。

「煙草変えたんだ。何? メンソール……」

 いつのまにか起きていたらしい彼女――久美はシーツを素肌に纏うと、火がついているそれに口をつけ、ふぅっと浅い息を吐き、嫌そうな顔でそう呟いた。

 その姿のまま、俺の方へ向かってきたかと思うと、真っ白で滑らかな肌を見せつけられドキリとする俺に構いもせずに、俺の奥にあるサイドテーブルに手を伸ばした。

「えっ」

 そして、俺の声も聞かぬまま、まだまだ吸えるだろう煙草を灰皿へと押し付けた。灰皿には役目を全うできずに押しつぶされてしまった可哀そうな俺のタバコちゃんが……。

「えぇ……久美ぃ、何してんの」

「私、メンソール嫌い」

 きつく睨みつけるようにしながら告げてくる久美に苦笑を漏らす。

「いやいや、吸うの俺でしょ」

「そうだよ。でも、その篤とキスするのは私だよ」

 真っ赤な唇を尖らせて言う久美にドキリとさせられる。

 そんな科白を、自分の類まれな容姿を自覚したうえで簡単に口にするんだから始末に置けない。

 どうしよっかなぁと頭をガシガシかく俺に久美は自分用の枕を腕に抱きしめ、続けた。

「それに、メンソールは不能にするんだって」

――ん?

「……誘ってる?」

「なんでっ!?」

 目を丸めた顔を上げた久美の頭を挟むように、両手をベッドヘッドに置く。

「だって、俺が不能になっちゃ困るから吸わないでって言ってんじゃないの? 久美ちゃんは」

 ニンマリと口元を釣り上げ、「ん?」と首を傾げて見せたら、久美の腕に抱えられていた枕が「馬鹿!!」という罵声と共に顔に向かって飛んできた。

「痛た……」

 枕といえども、近距離での攻撃に予想外にダメージを受け、もろに当たった頬をさすりながら久美を向けば、何と彼女は猫のように警戒した顔を真っ赤にさせていた。

(ぶっは!! 可愛い)

「……わたしは、別に篤が不能になってもいいんだからね」

 真っ赤な顔で可愛くないことを言う久美が面白くなくて、なんて言ってやろうかと返す言葉を考えていると、久美が言葉を続けた。

「でも!! 篤が不能になったら、他の女の人は嫌がるよ」

「……久美、それ俺が他の人と付き合う話をしてんの? 何? 別れ話を切り出してるわけ?」

 予想もしてなかった言葉が嫌な展開を持ち込んで来そうで、思わず愛しの彼女とのピロートークは甘いひと時から一転し、冷たい問いただすような口調になってしまう。

「違うよ。他の女の人は嫌がるから……でも私は平気だから。だから、そのときは私が篤を夫に迎えてあげるんだからって話だもの!!」


(ん……?)

 パチパチと瞬き、久美を凝視してしまえば、そこにはフーッと今も威嚇する猫のように、しかしどことなく不安げな顔でこっちを見る相変わらず美人で可愛い彼女の姿。纏うシーツを支える両手はどことなく震えているのだから……愛おしさがこみ上げるほかない。

 バッと少し離れた位置に居た久美に布団も巻き込む勢いで抱きついた。

「きゃっ」

 可愛らしい悲鳴にも今は構ってやれない。逆に久美を抱き込む腕に力がこもるだけだ。

「あー、もう久美、馬鹿。やっぱ誘ってんでしょ!?」

「だから、違うって。なんでそうなるのよーっ!?」

 腕の中でバタバタもがきながら叫ぶ久美に吹き出す。

「だって、久美ちゃんはツンデレさんでまわりくどく言うから分かりにくいけど、つまりはメンソールをやめたらご褒美に結婚していいよってことでしょ? あー、もうマジ可愛い!!

メンソールはやめるからさ、さっ、久美ちゃん早速ご褒美くださいな?」

 回していた腕を解き、おねだりするように掌を合わせて久美に差し出せば、久美の顔が驚きからどんどんとその頬に朱色を走らせていった。

「……馬鹿ぁぁ!!」

 真っ赤な顔で俺が寝るときに使ってた枕を後ろ手に掴み、思いっきり投げつけてきて久美。その攻撃の衝撃で後ろにひっくり返った間に素早く部屋を逃げだしていった久美。シーツを引きずりながらリビングへと脱兎のごとく逃げ出す久美の後ろ姿に笑い声が漏れる。

 目の端にサイドテーブルに置かれた煙草が目に付いた。いつもなら勝手に手が伸びてるところだけど……とりあえずは我慢か。

「明日にでも、前のやつ買いに行きますか」

 小さな声は予想外に響く。リビングの壁に背を預けていた久美にまでその声は届き、久美は綺麗な顔に美しい満面の笑みを浮かべた。 Fin

 最後まで読んでくださった読者の方に心より感謝いたします。


 タバコにまつわるお話が書きたい!!

→メンソールって確か不能になるらしい!?


 という発想から生まれた一話限りの短編でございます。

 自分としては書きたかったものをかけたので自己満足です……(笑)


 皆様にも少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しい限りです。

それでは、ありがとうございました。

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