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第三章 2「見つけた」 上

 ウラルの体もかなり回復し、隠れ家では総出で〈エルディタラ〉へ移るための準備を整えていた。おのおの荷物をまとめ、処分あるいは売りに出し、掃除をする。ウラルはシガルと一緒にロク鳥で一足先に、他はそれぞれ分散して〈エルディタラ〉へ向かう手はずになっていた。

 出発を間近に控えたある日のことだ、ナウトの行方がわからなくなったのは。

「なんでナウトを町に出したんだ! あいつは顔が割れてる、行かせるなって言ってたろ!」

「ナウトはこの町で生まれ育ってる。友達もたくさんいるし行きたくないって昨日の晩ずっとダダこねてたんだ。やっぱりこいつ子供だなと思ってたら、朝の買出しのとき、いきなり俺らの前に仁王立ちになってさ。自分も連れていってくれって。せめてお世話になった人に別れくらい言わせてくれって……。俺らびっくりしちまってよ。連れて行かないわけにいかないだろ、そんな風に言われちまったら」

 そして買出し組はナウトを町へ連れていき、最初はナウトと一緒にお礼参りをしていたのだが、路地裏でナウトが友達、つまりは昔のスリやかっぱらい仲間を集めて真摯に別れを惜しむ様子にいたたまれなくなり、待ち合わせをして別れたらしい。

 ナウトは待ち合わせ場所に来なかった。暗くなってきても戻らないので適当な子どもを捕まえて尋ねてみるも、「じゃあ待ち合わせがあるからって帰っちゃったよ」という答えしか返ってこなかったという。

「友達と別れてから、待ち合わせ場所までに拉致されたってことだな。ダダこねて友達の家に居座ってなきゃ」

「それはない。俺らが遠慮して席はずすくらいの気迫だったんだぞ」

「そもそもお前らがナウトと別れたから悪いんじゃないか」

「その場にお前がいてもそうしたさ。十二歳にしてあの気迫、只者じゃねぇぞあのボウズ。早く助けてやろうぜ。拉致されたとなれば相手は限られてくる。だろ?」

 フギンと買出し組の男、ふたりの話を聞いていたダイオが将軍の面持ちでうなずいた。

「六人、エヴァンスの屋敷に張り込め。屋敷内の人数、警備把握、そして可能ならばナウトの安否確認と場所を特定せよ。残りはここで待機。一昼夜後に見張りの二人と待機の二人を交代する。戻った二人は状況を報告せよ。張り込み時に何かあればすぐさま退避」

 よく揃った返事。すぐさま張り込みの六人が選ばれ、夜の街へ繰り出していった。ヒュガルト街を取り囲む城壁、その関門が夜は閉ざされているが問題ない。彼らは突破する方法をよく心得ている。

 ダイオはウラルとフギンに向き直った。

「状況から考えてエヴァンス周辺の人間による拉致と考えるのが妥当だろう。とすれば重要なのは相手の目的だ。どう思う」

 フギンはちらりとウラルを見、口を開いた。

「今までは何の動きもなかったんですよね? あのベンベル人どもは」

「なかったな。念のため顔の割れている者は買い出しにも行かせないようにしていたが」

「俺とウラルがエヴァンスの野郎と別れて二十日経ちます。ゴーランと脚をくじいた馬とでも十分ここまで来れる日数が経ちました。屋敷に戻って、俺やウラルとつながりのある人間を拉致するよう指示したんじゃないでしょうか」

 妥当な線だな、とダイオがうなずく。

「とすれば狙いはウラルとフギンの二人の居場所を知ること、ナウトは無事でいるだろう。よし、残った者は交代で眠れ。奇襲に備えよ」

 再び揃った返事。隠れ家の外で話を聞いていたアラーハも目を光らせている。

 ふっとダイオが目元を和ませた。

「これであのボウズ、友達の家にいるなどということになってみろ。百叩きにしてくれるわ」


     *


 隠れ家の男らは武器を帯び、窓からの侵入に備えて木戸がぴったり閉めきられた。ウラルは普段通り眠っていていいと言われたが、そんな状況で堂々と熟睡できるような精神をウラルは持ち合わせていない。

 そわそわしながら迎えた翌日。夕方、ソファーでうつらうつらしていたウラルは外からの怒号に飛び起きた。

「ダイオ将軍、報告いたします! ヒュガルト町から戻る獣道でエヴァンスの門番を発見、その場で捕らえて連れてきました」

 夜、張り込みに出て行き、報告に帰ってきた二人だった。

「捕虜はどこだ」

「玄関前で三人に見張らせています」

「すぐに行こう」

 ダイオが階段に向かう。とたん、階下からフギンの怒号が聞こえてきた。

「お前らなんで連れてきた! ゴーランがこいつのにおい追ってくるぞ!」

「なるほど、道理でやすやすと捕まったわけだ」

 ダイオが苦笑を漏らした。

「ついでに」

 階段を下りていく。

「フギンがこやつの前に出てしまっては、二人はまだ帰っていないとしらを切ることもできなくなったな。Iu hcea’na siea yo hea e wage chume, Tearuse. Siake yo hea e yoi nribero.(久しぶりだな、ティアルース。以前は世話になった)」

 流暢なベンベル語だ。後ろ手に縛られた灰色の目の男がダイオを見、ついでウラルを見て眩しそうに目を細めた。

「(こんなところに隠れていたのか)」

「(二、三点確認したいが、いいか)」

 ティアルースの肩が緊張する。

「(見返りは)」

「(お前の当面の命だな)」

「(礼拝の自由を与えてもらえないだろうか。祈る間だけでもロープをはずしてもらいたい。どこかの部屋に閉じこめても構わない)」

「(いいだろう。きれいな水も届けよう。ちなみに東は向こうだ)」

 ダイオが東を指差すと、ティアルースはほっとした顔になった。

「(ナウトは無事か)」

「(ここの場所を言わないものだから多少殴った。それから、ここの場所を口で説明するのは難しいから案内すると俺たちを森まで連れてきて、上手く逃げだした。逃げた後どうしたかは知らない)」

「(なるほど。それでお前はなぜこの隠れ家への獣道にいた?)」

「(手分けして子供を探そうということになって、俺たちは分かれた。いくら探しても見つからんから、ひとまず帰ろうと町に向かっていたら、いきなりそこの二人が飛び出してきた)」

「(なるほどな。ナウトを拉致しろと指示を出したのはエヴァンスか?)」

「(いや、拉致自体はわれわれ部下が独断でやったことだ)」

 ベンベル語を聞き取れる面々が怪訝そうな顔をする。

「(スー・エヴァンスが剣を汚さず帰ってこられた。だから微力ながらお力になろうと思ったのだ)」

 ――やはり、エヴァンスはヒュガルト町に帰ってきている。

「(『二、三点確認したい』と言っていたな? これで答えた質問は三つだ)」

 ダイオはうなずいた。

「そこの部屋に連れていけ。手のロープははずして構わない。ドアには鎖をかけて外から鍵をかけよ。ドアの前と窓の前、一人ずつ見張りに立て」

 ティアルースが連れて行くのを見送り、ダイオはため息をついた。

「これでエヴァンスがここまで来るのは時間の問題だな」

「ナウトは?」

「逃げ出したのに今まで帰ってこないのは妙だな。大回りで帰ってくるか、あるいは森に迷ったか。弱ったな、森で迷っていても人数を裂くわけにいかぬ」

 アラーハが「探してくる」とウラルに目配せし、森の中へ消えていった。



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