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終章 「行方不明」

 シガルとナウトが帰ってきたのは夕暮れ時になってからだった。

「なんといったらいいか」

 ついでに買ってきてくれたサンドイッチの包装をときながら、シガルがぐっと眉をひそめた。

「ダイオ将軍が生きておられるか、否か以前の問題でした」

「もったいぶらずに早く言えよ」

 フギンがせっつくと、シガルは「では」と口を開いた。

「単刀直入に言わせていただきます。エヴァンス邸は、もぬけの殻でした」

 ウラルは目をしばたいた。もぬけの殻?

「門扉は固く閉ざされ、門番もいません。馬やゴーランがいる気配もなく、全ての窓にはぴったりとカーテンがしめられていました。半日張りこみましたが、人が出入りする気配はまったくありません。栗毛の奥方だけはおられるようですが」

 普段のエヴァンス邸には、秘書のシャルトルがひっきりなしに自分の家とエヴァンスの家を行き来している。エヴァンスが留守にしろ門番はいるはずだし、人が出入りする気配がまったくないというのはさすがにおかしい。

「栗毛のシャルトルってやつは?」

「いないようです。とりあえず敷地まわりを一周してみましたが、ダイオ将軍の墓らしいものも見あたりませんでした」

「夜逃げか?」

「まさしく、そんな感じです」

 さすがにフギンもあっけにとられたようだ。自分の分のサンドイッチも口に含んだまではいいが、噛むのを忘れている。

「ウラル、俺が様子を見に行っても文句ないよな?」

「エヴァンスがいないなら、復讐もなにもそれ以前の問題よね」

「よし、今から行く」

「僕も行くっ!」

 急いでサンドイッチの残りを食べ、フギンとナウトはエヴァンス邸に向かったが、結果は変わらなかったようだ。

「庭まで忍びこんでみたけど、明かりもなにもついてなかった。厩舎行ってみたけど、馬もいない」

 エヴァンスが夜逃げとは。ウラル側が逃げるのならわかるが、なぜエヴァンスが。

「どうする? フギン」

 フギンが苦々しげにウラルを見やった。

「やつがいないんじゃ、どうしようもないさ。さすがにご婦人を拷問するなんて言ったら、お前が怒るだろうし」

「当たり前でしょ。私、森に帰りたい。アラーハが待ってる」

「ダイオ、どうすんだよ」

「行方がわからないのに、どうするの?」

「それもそうだけどさ」

 フギンが不服そうに鼻を鳴らす。

「せめてウラルさんの傷がいえるまでは、じっとしていたほうがいいと思いますがね」

 シガルが口をはさんだ。ナウトはぴったりシガルのそばにくっついて、行儀よくちょこんと座ったままだ。

「ダイオ将軍は私とナウトで探しましょう。お世話になった方ですし、私としても黙っておくわけにいきません。何か手がかりをつかんだら、お知らせしますので」

「ウラル姉ちゃん見つけたの、誰だと思ってるの?」

 シガルとナウト、ふたりの声に後押しされ、やっとフギンがうなずいた。

「よかった!」

 フギンを抱きしめる。とたん、衝撃で後頭部がズキリと痛んだ。うめき声をあげてしまう。

「おいおい、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」

 ウラルはほほえんだ。フギンもつられたように、ほほえみを返してくれる。

「じゃあ、帰りましょ。森へ」

 フギンの目が名残惜しそうに揺れた。



第二部完結 第二部‐第三部間章へつづく

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