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第三章 5「たすけて」 上

 セラが、ダガーが。ジンが、戦場に散った〈スヴェル〉のみんなが。聞こえるかどうかのかすかな声でウラルを呼んでいる。

 目の前が真っ赤に染まり、見たこともない風景が広がった。

 ここへ、おいで。

 これに応えたら火神の予言が真実になる。ウラルは胸元のペンダントを手のひらに乗せ、ただその呼び声に耳を澄ませた。

 風神が呼んでいる。呼ばれている。

 ウラルは睫を伏せた――別れは済ませた。今はただ、怖い。


     *


 目の前が紅い。

 子供の悲鳴が聞こえる。

 まばたきをしない瞳が転がっている。

 積み上げられていた死体を潰す。

 顔を潰す。

 濁った目が見えないように。

 悲鳴が聞こえる。

 風がうなる。


     **


 聖女様!

 今日治療してくださったオラグ、あいつ俺の弟分なんです。本当に命を救ってくださってありがとうございました。

 王都奪還の戦いにも来てくださるんですよね?

 聖女様のお力があれば百人力です。ベンベルの豚野郎どもから早く俺たちの王都を取り返しましょう!


     ***


 オラグが目を覚ましたら言っておいて。

 巻き込んでごめんなさい、って。


     ****


 ウラル姉ちゃん。

 そんな力があるならどうしてセラ姉ちゃんを助けてくれなかったの?


     ****


 風神、どうか戻ってきて。

 こんなことはあなたも望んでいない。


     *****


 目の前が紅い。

 子供の悲鳴が聞こえる。

 まばたきをしない瞳が転がっている。

 積み上げられていた死体を潰す。

 顔を潰す。

 濁った目が見えないように。

 悲鳴が聞こえる。

 風がうなる。


     ******


 これは今日起きることだ。

 今から起きることだ。

 呼ばれている。

 行かなければ。


     *******


 季節は晩夏、寒いといえる時期ではない。

 けれどウラルは凍えていた。

 喪服の肩にマントをかけた。死んだ男の黒いマント。

 ウラルは導かれるまま足を進める。

 聖女様、どちらへ。

 どちらへ行かれるんですか。

 武器を運ぶ者にも、軍馬の世話をする者にも。

 誰にも、何も答えずに。

 行かなければ。

 行かなければ。

 行かなければ。


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