欲望
男の前に悪魔が現れて、こう言った。
「あなたの欲望の全てを叶えてあげましょう。
その代わり、死んだ後、魂を頂きます」
男は悪魔と契約した。
悪魔は言った。
「あなたのために、この『通り』を作りました。
ほら、ありとあらゆる食、性、酒、演、遊。全ての快楽がここにあります。
どれもこれも、あなたを満足させるでしょう」
男はきらびやかな店が並ぶ、自分のための通りに喜び、
毎日いて、楽しんだ。
どんな富豪も経験したことのない快楽の数々に酔い痴れた。
悪魔はほくそ笑んだ。
『この調子だと、数カ月後には身体を壊し、それでも快楽には抗えず、
早々に死を迎えるだろう。
直ぐに魂を手に入れる事が出来る』
しかし、悪魔は一つ決定的なことを見逃していた。
数カ月後、悪魔は通りを訪れ、男の様子を見た。
男は通りの前で佇み、ぼーっと何か考えているようだった。
そして、通りとは別の道へ歩いて行こうとした。
悪魔は驚き、男を引き止め、尋ねた。
「どうしたのです?
どこへ行こうというのです?
全ての快楽はこの通りにあるんですよ」
「分かってるよ」
「じゃあなぜ」
男は、ちょっと考えて、言った。
「飽きた」
あっけに取られている悪魔を置いて、
男は別の道へ行き、
そこで見つけたラーメン屋の
清潔でも不潔でもない店内で
美味くも不味くもないラーメンを、
とても美味しそうに食べた。
悪魔は思い知らされた。
人間の底知れぬ強欲さを。




