第十六章:静寂の閨、最期の熱
脱出の刻限が迫る数時間前、王城の深奥に位置する女王の私室だけは、外の世界の喧騒が嘘のような静寂に包まれていた。ルークは、主を送り出す前の最後の儀式として、セリーヌの前に膝を突いた。
「セリーヌ様……最後に、私の我が儘を許していただけますか」
その声は、完璧な執事としての響きを捨て、一人の男としての震えを露わにしていた。セリーヌは何も言わず、彼の頬に手を添えた。許可など二人に不要だったのだと思い出させるためにセリーナは彼女の夫に接吻した。
ルークは彼女を抱き寄せ、再度その唇を塞いだ。スズカとの情事が剥き出しの「生の闘争」であり、ビクトルとのそれが「罪の共有」であったなら、ルークとの夜は、刻一刻と迫る「死」を分かち合うための静謐な祈りだった。
ルークの手のひらは、慈しむようにセリーヌの肌をなぞる。彼の指先が触れるたび、セリーヌの心臓は激しく波打ち、自分たちが今、生きていることを確かめ合った。
ルークは、己の全存在をセリーヌに注ぎ込むように、深く、重く、彼女を求めた。ルークの雄は途中で折れ曲がり挿入には時間を要したが、ルークは慇懃無礼なまでの執念でもってそれを女王の胎の中へと収めた。セリーヌもまた、その男根を慈しみ、膣で絞りあげて、追い上げようと必死に腰を使った。互いの吐息が荒々しい呼吸音へと変わっていく。全身全霊をかけてセリーヌを愛撫するルークの手は休むことをせずにその小ぶりな乳房を優しく揺さぶった。それだけでセリーヌは果てて、愛液を彼の太腿に散らす。
とうとう二人は不器用ながら繋がった。
「あなたが、奥にいる……ルーク」
「ええ。私もあなたを感じる。セリーヌ」
そこには位も差別もなく、ただの男と女がいるだけだった。
ルークが少しでも動けば体外へ出てしまう性器をゆっくりと膣奥へと打ち付け始める。セリーナは感極まり何度も全身を震わせた。激しい抜き差しも縋るようんば眼差しもなかった。ただそこには互いを求めあう孤独な獣が二匹、一つの塊になろうとあらがっているだけだった。
セリーヌはルークの背に爪を立て、消えゆく定めにある男の熱を、己の胎の奥底へと刻みつけた。届かないはずの腹の底にしっかりと楔が打ち込まれるのをセリーヌは感じていた。
「ルーク、瑠ルーク。お前は、私の何だったのだ……」
「貴女の影であり、剣であり……。そして、貴女を愛した一人の男です」
交わる吐息のなかで、二人の魂は融け合い、境界と輪郭を失った。ルークの愛撫は、まるで一文字ずつ遺言を綴るかのように丁寧で、悲しいほどに優しかった。絶頂の瞬間、セリーヌは感じていた。自分のなかに、何かが落ちたことを。それは、沈みゆくこの島から贈られた、最後の、そして最も尊い奇跡の種だった。




