第十五章:沈みゆく巨獣と、鉄の咆哮
浮島は、もはやその形を保てずにいた。島を根底で支えてきた古代の浮力シリンダーが次々と内部圧壊を起こし、大気を切り裂くような高周波の金属音と、大地が引きちぎれる地鳴りが重奏となって響き渡る。空は赤黒く染まり、海は怒り狂った獣のように口を開けて、浮島の残骸を一つ、また一つと飲み込んでいく。
浸水が始まった下層エンジンルーム。スズカは首まで濁った海水に浸かりながら、泥水にまみれた右腕で巨大な起動レバーを握りしめていた。
「動け……動けよ、このクソ船! まだあいつらを乗せてねえんだ!」
ショートした制御盤から放たれる火花が、彼の血走った眼を青白く照らす。上層の隔壁ではアユが迫り来る浸水を防ぐために人力の溶接を続け、スズカは己の心臓を動力源にするかのような執念で、未完成の方舟『アーク・ノア』に命の火を灯していた。
一方、王城の回廊では、絶望に駆られた反乱軍が雪崩れ込んでいた。理性を失い、死の恐怖を女王への憎悪に変換した暴徒たち。その暴威を食い止めていたのは、翡翠の瞳を冷徹に輝かせたビクトルだった。
「……無作法な。女王の寝所に、その汚れた靴で踏み込もうというのですか」
華麗な剣技が閃くたび、暴徒の武器が砕け散る。一族の罪を背負い、震えていた「子供」の面影はどこにもない。彼はセリーヌを守る絶対の盾となり、最期の時まで貴族としての矜持を貫こうとしていた。




