第十一章:黄金の隠蔽
一方、王城の書庫室。
ビクトルは、実父であるシャルール侯爵の秘密金庫から強奪した「極秘文書」を広げていた。古びた羊皮紙には、王家の刻印と共に、およそ美しき貴族の生活には似つかわしくない、冷酷な演算結果が並んでいた。
「信じられない。父上、貴女たちは最初から……」
ビクトルの翡翠の瞳が、驚愕と嫌悪で激しく揺れる。
文書には、歴代の王家と上層貴族が数十年前から共有していた「生存シミュレーション」が記されていた。
――島の総浮力は、限界点を超過している。
――維持管理に必要な全リソースを投入しても、崩壊を止めることは叶わない。
――沈没までの猶予、およそ三千六百余日。
それは、セリーヌが女王に即位するずっと前から、この世界の支配者たちが共有していた「沈没の日付」だった。彼らが交易を絶ち、人口減少を放置し、下層民を切り捨ててきたのは、単なる無能や傲慢からではなかった。最後の日まで、自分たち特権階級だけが贅を尽くし、静かに死を迎えるための「時間稼ぎ」だったのである。ビクトルは急いで延さん気に数字を叩きこむ。いつだ?いつ、この島は沈む?
「百日……。私たちの愛も、野心もも。すべてはこの百日という砂時計の中の出来事だったのか」
ビクトルは、あまりの衝撃に膝を折った。実父たちが、自分さえも「何も知らぬまま死ぬための駒」として見ていた事実に、彼の高貴な矜持が粉々に砕け散っていった。




