最後のカードは、めくられない-間宮響子-
その古びた西洋風建築の家は、地元では「占いの館」と呼ばれていた。
廃館になってから数十年以上が経ち、アルミサイディングの茶色い外壁は剥がれ、白い窓枠は黄ばみ、窓ガラスは黒く濁っている。
だが噂だけは今もなお生きていた。
「当たる」
「帰ってこない者がいる」
「最後のカードを見るな」
放課後、肝試しのノリで集まった四人の女子高生は、その噂を笑い飛ばした。
「ねえ、これから皆でその占いの館へ行ってみようよ」
星川舞がそう言うと、新川若菜、出雲崎莉奈、柏葉麻里の四人は黄昏が落ちた校舎を去った。
陽が沈み、星が瞬いている。静寂が闇とともに辺りを支配している。その中に占いの館は異質なまでに存在感を示していた。
居間に入ると、中央に木製のアンティークな細工を施されている古びたテーブルがあり、埃をかぶった箱が置かれていた。
箱の中には、異様なほど保存状態の良い年代物のタロットカードが収められていた。
「占いやろうよ。やり方、スマホで調べれば出てくるし」
星川舞がそう言い、誰も止めなかった。
カードを混ぜ、引く。画面越しに読み上げられる意味。
その瞬間、間宮響子は遠く離れた自宅で、はっきりと“封印が解ける音”を聞いた。
——めくる音。
その夜から、彼女たちの身の回りに異変は始まった。
最初の犠牲者は、よく笑う星川舞だった。
部屋の天井から、女の髪が垂れてきたという。
次は新川若菜か犠牲となった。自宅の風呂場。鏡の中に、背後から立つ形相な女。
四人の女子高生たちは逃げても、眠っても、目を閉じても、女は“占うように”彼女たちを見つめていた。
やがて恐怖は絶望へと変わる。星川舞はネットで調べてお祓いをしてもらうために、震えながら間宮響子のもとを訪れた。
響子は、彼女たちを見るなり一瞬にして顔色を変えた。
「……あなたたち、“引いた”わね。最後のカードを」
翌日――
廃館へ戻った夜、居間は異様に整っていた。
テーブルの上にはタロットが並び、そして立っていた。
長い黒髪、ねじれた笑み。
女は囁く。
「次は、あなたの番」
響子は一歩も引かなかった。
震える手でカードを集めた。そして女の“名前”を呼び、最後の一枚を伏せる。
——封印は、成功した。
翌朝、女子高生たちは解放された。
悪夢も、影も消えた。
だが、響子は一人この忌まわしい箱を見つめていた。
タロットは確かに戻っている。だが、枚数が一枚多い。
そのカードには、あの女ではなく――
目を閉じた間宮響子自身が描かれていた。
響子は、それを決してめくらない。
占いとは、未来を見る行為ではない。
未来に“見られる”行為なのだから。
そして今日もどこかで、誰かが軽い気持ちでカードを引いている。
――(完)――




